何かを与えたかった女子④
夢斬りがもう一度口を開く。
「そして、あなたが『生きていてよかった』と言うことは、大きなものを与えることになります」
彼女が顔を上げる。
「与える……?」
「はい、必ず」
彼女が生きていることは他の健康な人よりも確率の低い奇跡だ。だから、生きているだけで偉いと言うのは紛れもなく真実。生きているだけで、親にしてみれば十分与えられているのだ。それでも彼女は、もっと与えたい。与えることから来る幸福を味わいたい。彼女は確かに、何かを与えられる。
じっと考え込む彼女に夢斬りは言った。
「私はあなたを救えましたか?」
彼女はまた思いを巡らす。そして、小さく頷いた。微笑んで顔を上げる。痩けた頬も、皮だけの首も変わらない。それなのに顔色がどこかよくなって見えた。その顔は夢斬りによく似ている。
「……そうだね」
何もなく冷たかった夢に暖かい陽が射す。夢斬りの刀に光が反射する。
「それでは、今度は私が救われる番ですね」
「え?」
「私の役目はもう果たされたのです。ですから私を、休ませてください」
「待って、消えるってこと?」
「いつかまた、夢に現れます。でももう夢を斬るのはこれで最後です。大丈夫、あなたは私がいなくても誰かを救うことができます」
苦しむことなんてありません。静かにそう言って刀を抜く。夢斬りは彼女の目を見て笑った。
「私を産んでくれて、ありがとう」
彼女が息を呑む。そして笑った。目を細めた瞬間、涙が流れる。
「私を救ってくれて、ありがとう」
刀が彼女の夢を斬る。
銀色の夢が、そこに散った。
夢斬り 木花京月 @konohana_keigetsu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます