すぐにしゅきしゅきしちゃう天然ビッチ男の子
ねこありす
妹と幼なじみ
「おはよう、湊」
「おはよーちなちゃん」
朝起きて、部屋を出た僕が挨拶を交わしたのは妹のちなちゃん。
「お母さんが朝ご飯用意してくれているから、早く降りるわよ」
「うん。ちなちゃんおはよーのちゅーは?」
「なっ、なに言ってるのっ? 兄妹でキスなんてしないから! 寝惚けてないで早く行くよっ」
顔を赤くして怒ったちなちゃんは、そう言って僕の手を引いて下に降りる。
僕はちなちゃんの返答を聞いて残念に思う。
昔は毎日のようにちゅーしてたのに、しかもちなちゃんの方から「お兄ちゃんちゅーしよっ」って言ってくれていた。だけど中学生くらいになってから、ちなちゃんは変わってしまった。口調も変わって、僕のことを呼び捨てで呼ぶ様になり、くっつくことも減ってちゅーもしてくれなくなった。でも今みたいに手は繋いでくれる。
思春期ってやつだろうか、それとも反抗期かな?
「お母さんおはよ」
「あら二人とも起きてきたわね、ご飯できてるから、顔洗ってきなさい」
そう言うお母さんに僕は駆け寄って、ほっぺにちゅーをする。
「ちゅ。お母さんおはよ」
「ふふっおはよう湊、ちゅっ」
お母さんの方からも、背の低い僕のために屈みながらちゅーを返してくれる。優しく微笑んだお母さんは、僕の周りの友達のお母さん達よりとても若く見える。家族三人でいると三姉妹に見間違えられることもある。
うちは母子家庭で、お父さんはちなちゃんが産まれてすぐに亡くなってしまった。それから女手一つで辛い顔など全く見せずに僕たちを育て愛してくれ、仕事もバリバリなパーフェクトお母さんなのだ。そんなお母さんに似ている僕の容姿は僕の唯一の自慢だ。
「親子でなにイチャイチャしてんのよっ、ほら湊! 行くわよ!」
ちなちゃんは少し怒ったように僕の手を引っ張りながら洗面所まで連れて行く。
「あらあら、ちなちゃんも素直になればいいのに〜」
そんな僕たちを見てお母さんが何か言っていたけど、よく聞き取れなかった。
「いい? 湊、普通は家族でもキスなんてしないのよ」
洗面所に着いてすぐにちなちゃんが真剣な表情をして僕を諭してくる。
「どうして? お母さんは毎日してくれるし、ちなちゃんも昔はしてくれてたのに」
「そ、それは子どもだったし・・・・・・それに、そういうのは好きな人とだけするものなのよ」
「だったらいいでしょ? 僕、ちなちゃんもお母さんもすきだよ」
「だ、だからそういうことじゃなくてっ、本当に好きな人・・・・・・結婚したいなって思う人ってこと!」
「ならやっぱり僕まちがってないよ。ちゅー」
そう言ってちなちゃんの唇にちゅーした。
心がぽかっとする。
「んむっ!? な、な、な、なんでっ話聞いてた!?」
ちなちゃんの顔が頭から赤い絵の具をかけられたかと思うくらい瞬時に真っ赤に染まった。
ちなちゃんの顔、りんごより赤いかも・・・・・・なんて思いながら、僕はちなちゃんをせーろんでろんぱしてあげることにした。
「? だってちなちゃんのことすきだし、結婚したいよ? ちなちゃんは僕のことすきじゃない? きらい?」
「あばばば、か、かわぃぃ。わ、わたしもす、すきだけど、で、でも今みたいに相手の意思を確認しないでしたらダメだよ! わ、わたしだからいいけどっわたしだけなら・・・・・・」
「ならなにも問題ないね! 明日からもしてもいい?」
「はぅ。しょ、しょうがないからしてあげるっそこまで言うんだったらしょうがないよね。うん・・・・・・」
やった! また昔みたいに戻れるかも。僕にかかれば思春期だろうと反抗期だろうとちょちょいのちょいなのだ。なぜなら僕はお兄ちゃんだから!
完璧なお兄ちゃんをこなして、顔や手を洗ってから、リビングに戻り食卓に着く。
「んふふー」
「あら湊、なんだかずいぶんご機嫌ね?ちなちゃんとなにかあった?」
「・・・・・・」
ちなちゃんが無言で僕を見ながら、必死に目で何かを訴えかけてくる。
あ! おそらく仲直りの、いや喧嘩していた訳じゃないから、昔みたいになかよしに戻る報告をお兄ちゃんに任せているんだ!
「あのね、ちなちゃんがまた昔みたいに毎日ちゅーしてくれるって。それが嬉しくて」
僕が自信たっぷりにお母さんに報告すると、ちなちゃんの顔色が青白くなってる。赤くなったり青くなったり、ちなちゃんはまるで信号みたいだ。
「まぁ! まぁまぁまぁ! よかったわね〜」
お母さんがまるで僕が高校に受かった時のように、両手を合わせてとても喜んでいる。
「ち、ち、違うからっ! みなとがどうしてもって言うから仕方なくで別にわたしがしたいとかじゃなくてみなとがわたしのことす、すきとか、け、結婚したいとか言ってくるし・・・・・・」
「でもお母さんちょっと妬いちゃうわ〜お母さんとももっと仲良しになろう? 久しぶりに今晩いっしょに寝よっか?」
ちなちゃんがなにかを捲し立てているけど、そんなちなちゃんを放ってお母さんが僕ともっとなかよしになるための提案をしてくる。特に断る理由もないし、いつも僕たちのために頑張ってくれている、お母さんの提案を蹴るなんてことはとてもじゃないけどできないので、快く引き受ける。
「もちろんいいよー」
「ちょっと! お母さんなに言ってるの!湊も断りなさいよー!」
そんなこんなで騒がしい朝の食卓を終えて、歯磨きをや身嗜みを整えて僕とちなちゃんは登校する。
「じゃあ行ってきまーす!」
「いってきまーす」
「はーい、気をつけて行ってらっしゃーい」
お母さんの出勤はいつも僕たちより遅い、多分重役出勤とかいうやつだと思う。
「みーくん!」
家を出てすぐに僕を呼ぶ声が聞こえた。
「みーくんもちなちゃんもおはよ!」
「美奈ちゃんおはよー」
「美奈さん、おはようございます」
彼女は僕の家の向かいに住んでいる美奈ちゃん、僕より一つ年上だけど、家がすぐそばなので、子どもの頃からいっしょで、いわゆる幼馴染というやつだ。昔からずっといっしょだし、見た目も童顔で綺麗っていうよりかわいい感じだから、僕は美奈ちゃんって呼んでいる。
美奈ちゃんは僕の名前が似ていてややこしい時があるから、昔から僕のことをみーくんって呼んでいる。
「あれ? みーくん今日はなんだか機嫌良さそうだね?」
「んふふー、なぜなら・・・・・・」
「湊! 私今日日直だった!急ぐわよっ」
「わわわっ」
ちなちゃんは僕が理由を喋ろうとした瞬間、僕の手を引っ張って走りはじめた。美奈ちゃんが突然のことに驚いて一瞬固まったけど、置いていかれないように慌てて追いかけてくる。
「ま、まってよ〜」
そのままちなちゃんに引っ張られたまま、中学校と高校の別れ道まで走らされてしまった。幸い家から別れ道までそこまで距離がないとはいえ、体力のない僕にはきつすぎる。
そしてちなちゃんは僕の両肩に手を置いて、真面目な顔をした。
「ぜぇぜぇ、い、いい? 湊、美奈さんに余計なことは一切言っちゃダメよ? 分かったら返事して」
「・・・・・・コクコク」
僕は息が切れて喋ることも儘ならなかったのと、ちなちゃんの迫力に押されて頷くことでなんとか返事をする。
「よし。じゃあ行くわね。美奈さん、今日も湊のことよろしくお願いします」
「はぁはぁはぁ。うん、任せて」
遅れてたどり着いた美奈ちゃんに僕を託して、ちなちゃんは慌てていたのが嘘のように颯爽と歩いていった。
「ふぅ、久々にこんなに全力で走っちゃったよー、みーくん大丈夫?」
「うん、なんとかおちついた」
僕が返事をすると同時に美奈ちゃんはピタッと僕の横に寄ってきて、ぎゅっと手を繋いでくれる。
美奈ちゃんはこの別れ道で、ちなちゃんと別れた後に必ず僕の手を握る。僕も美奈ちゃんと手を繋ぐと、心がぽかぽかして暖かくなるので、優しく握り返す。
すると美奈ちゃんは嬉しそうに僕の顔を覗き込みながら問いかけてくる。
「えへへーそれで、どうしてみーくんは今日ご機嫌なの?」
「ふふふ、それはね、僕が今朝完璧なお兄ちゃんをしたからだよっ」
「ふふっそうなんだーみーくん立派なお兄ちゃんだもんねっどんなことしたの?」
「ちなちゃんの反抗期を終わらせたんだよ」「えっ! それはすごいねっえらいねーどうやったのー?」
「んふふ、ちなちゃんとちゅーしたんだ、それでそれで、また昔みたいに毎日ちゅーしてくれるって!」
「————」
「あ」
美奈ちゃんの手練手管で全て喋ってしまった。昔から美奈ちゃんには隠し事ができないのだ、いつも気付いたら褒められて調子に乗って、全て喋らされるのだ。
でも別にいいよね、ちゅーすることは悪いことじゃないし、ちなちゃんも反抗期が少し恥ずかしかっただけだと思う。反抗期なんて誰にでもあるし気にしなくていいのに。
そして僕が言い訳みたいな考え事をやめて、美奈ちゃんの顔を窺うと、無の表情をしていた。
心なしか僕の手を握る力も増している。
「美奈ちゃん?」
「はっ! そ、そうなんだー? でも急にどうして? おっきくなってからはしてなかったんでしょ? それに兄妹でちゅーするのはおねーちゃん変だと思うなーっ」
美奈ちゃんがいつものおっとりした喋り方じゃなく、とても早口だ。
まったく・・・・・・美奈ちゃんにもせーろんぱんちしちゃうぞ。
「美奈ちゃんはわかってないなーほんとにすきな人や結婚したいと思う人にならしてもいいんだよー」
「むむっそれはそうだけどっ兄妹は結婚できないんだよ!」
「したいって思える人なんだから、できるできないは関係ないでしょっ!」
「!」
ちなちゃんとは結婚できないと言われて、なんだかむっとして怒ってしまった。美奈ちゃんは悲しそうな表情になってしまった。
こんなの八つ当たりだ、謝らないと。
「美奈ちゃん、怒ってごめんなさい」
「ううん。私も酷いこと言ってごめんね・・・・・・」
「ね、みーくん」
なんだか美奈ちゃんは酷く緊張した様子だ。
「?」
「わ、わたしはどうなのかな?」
「みーくんのほんとに好きな人、結婚したい人の枠に入っているかな? 私とちゅーしたいって思える?」
そういえば昔、小さい頃に美奈ちゃんにちゅーしたいと言ったことがある。
そしたら美奈ちゃんは僕にこう言った。
「女の子にとってふぁーすときすは、むーどがあってろまんてぃっくじゃないとダメなんだよ、だから簡単にはできないの」
たしかこのときの美奈ちゃんはとてもお姉さんぶっていた気がする。そして未だにムードもロマンティックもいまいち理解できていない僕は、それ以来美奈ちゃんには言わないようにしていたんだ。
「美奈ちゃんのことはすきだよ。結婚したいとも思えるしだいすきだよ」
「! みーくんっ嬉しいっ」
美奈ちゃんの強張っていた表情がパッと明るくなった。だけど僕の続けた言葉にまた強張ってしまう。
「でも僕ムードもロマンティックもよく理解できていないから・・・・・・」
「そ、それ・・・・・・お、覚えてたんだ・・・・・・子どもの頃の私のばかばかばかっ」
美奈ちゃんが何か呟きながら、自分の頭をポカポカ叩いている。
「そ、それはあのときの私はおかしかったんだよっムードとかロマンティックなんてそんなものいらないいらない!」
「え、えーいらないの?」
「そうだよっだからこっちきて!」
そう言った美奈ちゃんが僕を連れてきたのは、ちょうど通りがかった公園にある木の陰だった。
「んっ」
「?」
美奈ちゃんが僕の正面に立って、屈んで口を少し突き出している。
なるほど。すぐに意味を理解した僕は、少し背伸びをして美奈ちゃんの唇に自分の唇を軽く触れ合わせた。
「ちゅ」
「んふっ」
したくても我慢してきた美奈ちゃんとちゅーできて間違いなく幸せだ。
「ふふふ、んふふ、にゅふふ」
美奈ちゃんが壊れちゃった。でもそろそろ急がないと遅刻してしまう。
「美奈ちゃんそろそろいこ?遅刻しちゃうよ」
「まって」
「わぁっ」
公園から出ようと振り向こうとしたら、美奈ちゃんに腕を引っ張られ、気付いたら美奈ちゃんの腕の中にいた。
わー美奈ちゃん暖かい、いいにおい、お胸ふかふか。ぼーっとしそうな意識を振り払い、どうしたの? って聞こうとしたら、また唇が塞がれた。
「んちゅ、ちゅっ、ちゅぅ、ちゅぱ、ちゅぷ、ぇろれろ」
「んむ・・・・・・み、みなち、んちゅ・・・・・・むちゅ、ひゃっ」
な、なめられたっ! 僕の知ってるちゅーじゃない・・・・・・ぜんぜんとめてくれない、くちのなかにもなにかはいってくる・・・・・・いろいろびっくりしちゃうけど、とってもきもちいい。
少し苦しくなってきた・・・・・・でもぎゅっと抱きしめられていて離れることもできない。
なんだか意識が遠くなっていく。
おねぇちゃんってすごい。
結局僕たちが公園を出たのはあれから二十分くらい経ってからだった。
完全に遅刻だ。
「にゅふふーみーくぅん、んふふふふ」
「・・・・・・・・・・・・」
美奈ちゃんがとろけた表情をしている、とろけてそのまま溶けてなくなっちゃいそうなくらいとろけてる。僕もまださっきの余韻から覚めていない。
口の中に僕の知らない甘い味と香りがする。もしかしたら僕の方が人には見せられない顔をしているかも。
「みーくん、すとっぷ」
学校が目前というところで、美奈ちゃんに止められる。
「みなひゃん、どぉしたの?」
上手く喋れない。口が自分の物じゃないみたいだ。
「みーくん。そんなとろけた表情で学校に入ってはいけません。野獣の檻の中に食べて食べてーって入っていくようなものです」
さっきまでのとろけた様子が嘘のように、真剣に注意してくる美奈ちゃんだけど、その美奈ちゃんの目もまだ潤んでる。
いや、だれのせいだと思ってるのっそして僕はいったいどんな表情をしているんだろう。
「だから少し火照りを冷ましてから行こうねー?」
「ふぁい」
「わたしとのちゅーどうだった? 初めてだったけど、上手にできてたかな?」
「ふぁい、しゅごかった」
「ふふっみーくんはかわいいねー、明日から毎日ちゅーしようねー?」
いやむりです。毎日遅刻しちゃうし、口がおかしくなっちゃう。
なんとか軽いちゅーにしてもらおうと交渉しないと。
でも美奈ちゃんとちゅーできたのはうれしい。ちなちゃんともまたなかよしに戻れそうだし、美奈ちゃんともなかよしになれたから、まだ始まったばかりだけど、今日はとってもしあわせな一日だ。
—————————————————————
あとがき
如何だったでしょか?
絡ませたい女の子が尽きないので連載にしようかと悩みましたが、反響にもよりますがマイペースに短編でシリーズにしようかと考えております。
すぐにしゅきしゅきしちゃう天然ビッチ男の子 ねこありす @nekoalice
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます