失恋

@paper000

第1話

きっとそれは恋だった。

「そろそろ光の中を歩くことを考えなよ」

夜道のなか、となりを歩く彼女はぽつりとつぶやく。そんな真人間のようなことを言われても困る話だ。人口の悪魔を象って、それを自分の中に取り入れたまま笑ってるのが今の僕だ。光になんか憧れて裏切られるのはもうたくさんだし、今までそんな僕を君は見てきた。だからこそ、そばに置いているというのに。

「もう無理さ。十分傷つけられてきたよ。もう君以外に心なんて開くつもりは」

「私がついてるから」

僕の言葉を遮るように彼女は言う。だからそういうんじゃない。つまり、ぼくは、眩しい君の、たった一つの影になりたいだけで、思わず本心が漏れ出す。そう、本心、事実だ。僕の根源。これが全てだ。だから、どうか、光を照らさないで欲しかった。僕が君の何者でもなくなってしまう様な気がして、矮小な自我がそれを何よりも恐れていた。

だけど、「ほら、笑いなよ。」

僕が自分から笑顔を作るのができないのを知っておきながら、彼女は眩しく笑って僕にそう言った。あれ、ああやっぱり、最初っから勘違いだったのだ。僕が君に収まる場所なんてなかった。君も不完全だと思っていたのに、まさしくそこに立っているのは、1人の、確実な人間だった。歳を食っただけの腐った子供は、ろくでなしのぼくは、それを見てひどく心を痛めた。なぜ僕は人間になれないのかと。だから、もう。

言葉を飲み込み、大切な何かを無くした気がした。

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