7『2』1
都合が悪い存在
「...クソ、クソ...!」
さっきの戦いで意識を失っていた僕が目を覚ましたのは、相棒の腕の中だった。隣から相棒の悔しそうな声が聞こえる。悔しいのは僕も同じだ。途中までは優勢だったのに、まさかあんな事になるなんて...
相棒は今、僕を抱えてあの人のもとへ向かっている。相棒も頭に傷を負っているのに、何てこと無い様子でどこかも分からない道を走っているんだ。
「ごめん... 僕が、調子に乗ったせいだ...」
考えるより先に、僕はそう漏らしていた。
「いいや違う、俺が加勢に気づかなかったからだ。クソ、何てザマだ...!」
さっきより一層悔しそうな声だ。きっと相棒は今、悔しさと肉体的な疲れに顔をしかめているんだろうな。でも、それを確認する術は、もう僕には残されていない。
僕はさっきの戦いで、両目をやられた。
意識の有無にかかわらず、今後僕の視界は常に闇一色なんだろう。もう何も見ることができない。凄く悲しいのに、涙を流すことすら僕には許されない。
「その目、治る可能性もまだあるかもしれないからな、気を強く持て!」
相棒はそう励ましてくれたが、それが気休めにしかならないことは、お互いに分かっている。それほどに僕の傷は取り返しのつかないものだったんだ。
相棒には迷惑をかけてしまった。あの人は心配してくれるかな。そんな取り留めもないことが次々と脳内に浮かび、消えていく。
「ねえ、僕自分で走れるからさ、そろそろ降ろしてくれないかな」
「は? お前、今何も見えてないんだろ」
「うん、だから手繋いでよ。そしたら僕も一緒に走れる」
「...分かったよ」
相棒は渋々僕を降ろし、手を繋いでくれた。
もうまともに戦えないかもしれないけど、もし目が治ったらまた、相棒と一緒に戦いたいな...
「ねえ、そこのあなた」
突然、知らない女の子に声をかけられた。僕も相棒も、手を繋いだままその場で立ち止まる。
「...誰だお前?」
前が見えないせいで、状況が全く分からない。僕に代わって相棒が女の子に答えるが、口ぶりからして相棒も知らない人みたいだ。
「あなたじゃなくて、そっちの子に用があるんだけど...」
「...僕?」
彼女の目的は、どうやら僕らしい。
「そう。単刀直入に言うけど、あなたにはここで死んでもらう」
「...は、お前何言って―――――」
「邪魔しないで」
困惑する相棒の言葉は彼女に遮られ、直後何かが弾けるような音が聞こえた。彼女が何をしたのか、視界を失った僕には分からない。分かったのは繋いでいる相棒の手から突然力が抜けたような感覚と、生温かい液体を浴びせられたことだけだった。
「...え?」
「うああああああああああっ!!」
相棒の悲痛な叫び声で、僕は理解した。この女は敵で、相棒は腕を落とされたということを。
「終わったらくっつけてあげるから、そこで大人しくしててね。私にはもう、猶予が残されてないから」
女のものであろう足音が、僕のすぐ傍で消えた。今の僕には、何の抵抗もできない。嫌だ、死にたくない...
「...あ...」
「...待てや...コラ...!」
女が僕に触れたその時、相棒の声が聞こえた。自分の血が地面に零れ落ちる音にすらかき消されそうなほど微かな、でも力強い口調だ。
「ソイツは...殺させねえ...! どうしてもってんなら...まずは俺から―――――」
女が冷たくため息をついたそのとき、また何かが弾けるような音がまた響く。さっきとは違って、遮られた相棒の声はもう、聞こえてくることはなかった。
「...ああ...」
「あなたはこの先、彼らにとって大きな障害になる。私が干渉できる範囲はかなり限られてるけど、都合が悪い存在は排除しないと...」
「おい、相棒に何した...!」
「...本当は殺さずに済んだかもしれない。でも、あなたの事を観察して確信した。あなたは、生きてちゃいけない存在だ...!」
「がっ...!」
女の言葉に怒気が籠ると同時、僕の腹に衝撃が伝った。突然のことに僕は受け身を取れず後ろに倒れ、痛みに悶える。
「何で... 何でだよ...! 何で相棒を...!」
「あなたはこれまで...! 無抵抗な相手を必要以上に痛めつけたり...! 見せつけるように他人の命を奪ってきた...! それも1度や2度じゃない...! 何度も何度もね...!」
倒れ込んだ僕に浴びせられるのは、圧倒的な暴力の応酬だった。僕にできることは、それを自分の身体で受け止め続けることだけだ。
女は僕の髪を乱雑に掴み、僕を持ち上げた。
「あなたの相棒さんも、それを傍観してたから同罪。あなたの行為に不快感を覚えてたみたいだし、何度かあなたを諫めてたから見逃そうと思ってたけど、私の邪魔をしたから殺した」
...ふざけるな。
「...何だよそれ、それがどうしたんだよ...!」
「ねえ、どうしてあんなことができるの? それもあんな楽しそうに」
「...楽しいからだよ」
「何?」
「楽しいからに決まってるだろ!? 弱いヤツを虐めるのは、僕が強いから許されることなんだ!」
言ってやった...
「...そう」
女は僕を憐れむような声色でそう呟き、僕を地面に叩きつけた。
「私には全く分からない。まさに今、あなたがこれまでやってきた「弱い者虐め」を身をもって体験してるけど、全然楽しくなんかないよ」
「弱い者虐め」...? 僕が、弱い...? バカにするな...! 何も視えていない僕を一方的に痛めつけて、それで僕より強いだと!? 視界さえあれば僕はお前みたいな奴に負けるはずない! 僕をコケにしやがって...! 絶対に許さない! 殺―――――
🍀クローバー・オブザーバー ~零番目の短編集~ 真白坊主 @mashirobouzu
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