正体

 この手記物語は、私が記憶を繋ぎ止めるために書き連ねていたものだ。

 能力を使うたび、私からかけがえのない思い出が少しずつ剥がれ落ちていくので、忘れたくないことはここに書き留めることにした。


 16歳になった数日後、私はある能力が発現していることに気が付いた。その能力は「時間移動」。

 その上、移動域は何十万年。父や祖母も数時間ほどであれば時間移動ができるらしいが、私のはその比ではなかった。




「少し話がある。夕飯後、俺の部屋に来てくれ」

 あの時の父は、普段とは違って少し怖い顔をしていた気がする。


「これは、俺が中学生の頃、から渡された手帳だ」

 そう言って父は私に手帳を見せた。その手帳はかなり使い古されているようで、表紙はぼろぼろ、ページの端はくしゃくしゃだった。




🍀「えっ... これってまさか...」

「そう、その”まさか”だ。の姿は忘れもしない。今の🍀と瓜二つだったんだ」

 父が持っている古い手帳。私は今初めて見た。そのはずなのに...

🍀「それ、誕生日に友達がくれた、私の日記...」


 つまり、私が父にこれを預けたことになる。でもどうしてそんな事を...

「この中には、🍀の旅路が記録されていたんだ。まあ「旅」と言っても、「時間旅行」という意味だが」

 その時だった。


「...!?」

 古い手帳が、父の手から忽然と消えた。

🍀「消えた...?」

「なるほど... か...」

🍀「修正...?」


「ああ。今、🍀の手元に、新品の手帳があるだろ? たった今消えたものと同じものだ。ただ、全く同じものが同時に2つ存在することはあり得ない。だから本来ここに在るはずがない「未来」の手帳が消えた。俺はこの現象を勝手に「修正」と呼んでいる」


「そして「修正」は、俺達にも適用される。数時間程度の時間移動であれば、意識がその時点での自分自身に移るから何事も無いが、年単位の移動ではそうはいかない。つまり、過去、もしくは未来の自分と接触すれば、おそらく俺達は消えてしまうだろう。だから肝に銘じておけ。あの手帳にはそう書かれていた」

🍀「話は分かったけど、どうして私にそんな話を...」




「🍀、近いうちお前は世界を救うために時を越える。現にお前が5歳くらいの頃、🍀は俺の前に2度現れている。「皆が傷つくのを見たくない」。そう言っていたな...」




 自分の部屋に戻ってから、私は暫く考え込んだ。

🍀(私が世界を救う...? そんな責任重大なこと、絶対にごめん...)

 その日は悶々として、中々寝付けなかった。






―――――

(ハァッ... ハァッ... ...どうしてこんな事に!? どうして...! ...私、失敗しちゃった...)

(私はもうダメ...! お願い、その力を使って! 6つの歴史の分岐点、観測者となって影から皆を救ってあげて...!)

―――――

🍀「...!!??」

 翌朝、私は跳ね起きた。酷い夢を見たからか、全身汗だくで呼吸も荒い。その上前日の疲れが全く取れていないかのように身体が重かった。




「🍀、大丈夫? 随分と顔色が悪いみたいだけど...」

🍀「...ううん! 全然平気だよ」

 母には心配されたが、私は隠し通した。頭の中で一向に鳴り止まない、鬼気迫るの声のことを...


 いや、これはの声だ。ということは、私は世界を救う選択をせざるを得ないのだろう。であれば覚悟を決めよう。




🍀「行ってきます。パパ、ママ」

 次に帰って来られるのは、一体いつになるかな?











 四葉クローバー―――『観測者オブザーバー』の独白

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