ママ

🍀「え... あれ、もしかして...!」




 過酷で孤独な旅の最中、懐かしい人に会った。今回はその時のお話をします。




 これまで、私一人で気の遠くなるような時を旅してきた。辛い事や悲しい事もたくさんあったけど、全ては私の大切な人達の為。そのためならば自分自身の手を汚すことも厭わず、必要ならば誰かの尊い命をも容赦なく切り捨ててきた。

 私の心は壊れてしまいそうだった。...もう壊れてしまっているのかもしれない。私の選択のせいで命を失った人達の顔を見ても、近頃は何も感じなくなっているのだから。




 その日はとある人に伝えなければならないことがあり、に足を運んでいた。直接その場所に飛んでもよかったんだけど、つい懐かしくて辺りを散策しつつ向かうことにした。どうやら、私の心は完全に壊れてしまったわけではないらしい。


🍀「この道、懐かしいな... またあの頃に戻りたい、なんて...」

 虫が良すぎるよね... 今まで多くの人を救ってきたけど、同時に多くの人を犠牲にしてきたのだから。




 存分に感傷に浸り、目的地へ急ごうとしたその時だった。幼い頃からよく見知った人が、向こうから歩いて来た。

 間違いない、あれは...


🍀「...ママ」






 私の髪と似た綺麗な茶髪に整った顔立ち。私がどれだけ悪に堕ちようとも、ママなら抱きしめて優しい言葉をかけてくれるだろう。

 会いたい。会って話がしたい。そう考えるより先に歩き始めていた。「話をしたら、私の『旅を続ける覚悟』が揺らいでしまうのではないか」と一瞬躊躇ったが、どうも自制が効かなかった。ママの姿を目にしてから、私の心の奥底で「会いたい」という感情がはち切れんばかりに膨らんで抑えられなくなってしまった。


 向こうは私がいることに気が付いていない。ママの隣にいるに気づかれる訳にもいかないので、こっそり合図を送る。

 ...お願い、気づいて。




「...!」

 やった! 合図が通じた! ママは隣の女の子に待っているよう伝え、私のほうへ走って来た。


「貴方、もしかして...」

🍀「...ママ! 私だよ!」

 懐かしい声に心が躍る。随分と年月が経っているにもかかわらず、ママはすぐに私だって気づいてくれた! 私は年甲斐もなくママの胸に飛び込んだ。


🍀「ずっと、会いたかった... 会いたかったよぉ...」

「...嬉しいわ。こんなに綺麗に、立派に育ってくれて...」

 久しく流していなかった大粒の涙が両目から止め処なく零れ落ちる。声を上げて泣いたのは、幼い頃に迷子になった時以来だ。




 それから私は、これまでの旅で起こったことを話した。本当は一から十まで話したかったけど、ママをあまり長く引き留めておけなかったから仕方ない。


「...ずっと一人で、頑張ってきたのね。寂しかったね」

 ママは私を抱きしめたまま、私の頭を優しく撫ででくれた。そのあまりに懐かしい感触に、私は再び泣き崩れてしまった。






🍀「...それじゃあ、元気でね! ママ!」

 いつまでも此処には居られない。口惜しいが、私はママにお別れを言った。

「...あまり無理しちゃ駄目よ。辛くなったら、信頼できる人に甘えたっていいんだからね」

🍀「分かった。それと最後に一つだけ...











...逃げて」






 ママに会えて良かった。「話をしたら、私の『旅を続ける覚悟』が揺らいでしまうのではないか」なんて、とんでもない。もう一度、胸を張ってママにただいまを言うために、因縁に決着をつける覚悟ができた。

🍀「しかし、今日はいっぱい泣いちゃったな...」

 次なる目的を果たすため、私は懐かしい町から走り去った。

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