3 異変
「森の神よ、森の子の魂を貴方の許へと送ります。彼女に安らかな眠りを与え給え」
私はシティエルフの娘を泉の畔に聖水と薬花とともに埋葬し、森の神の加護を得るまじないを唱えた。これでこの娘は不死者とならずに眠り続けるだろう。
「ムムー!」
トポの呼び掛ける声。 同時に私は背筋にぞわりと悪寒を感じ、 振り返った。
「………馬鹿な」
先ほど、 ウノの死体とともに放っておいたはずの剣─刀身に刻まれていた銘からヌル・アハトと呼ぼう。そのヌル・アハトが私の目前で地面に突き刺さっているではないか。一体誰が。いや、私とトポ以外に生きている者は死にかけのレイ・ブランカだけだった。だが、虫の息の彼がわざわざ私の背後まで剣を運んでくるなどとは考えにくい。
「剣だけが、 独りでにここまで来たというのか?」
しかも、地面に突き刺さる音も聞こえなかったのだ。
「どういう仕掛けかは知らんが、そこで彼女の墓標代わりに突き刺さっていろ」
私はヌル・アハトの横を素通りして帰路へ着いた。
翌朝、私は目を覚ました。かつてはエルフの集落だった此処も今や私の住む小屋を残すばかりだ。身支度をして出入り口のドアを開けた私の視界に、またもあいつが飛び込んで来た。
「しつこい剣だな」
我が家の前の地面に、またも突き刺さっているヌル・アハト。家の中に入って来なかっただけ行儀はよろしいようだ。
「ムーーー!」
すると、私の元にトポが血相を変えて飛んできた。
「どうした、トポ?……なんだと!?」
トポが飛んできた方向を見ると、灰色の煙が立ち上っているではないか。 トポが言うには何者かが森に火を放ったらしい。
「急ぐぞ、トポ!」
私は弓と矢を担ぎ、走る。森を荒らす者を狩る……それが私の使命なのだから。
魔剣ヌル・アハト たかはた睦 @takahata62
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。魔剣ヌル・アハトの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます