五
薄れゆく意識の中で、女は息子を見ていた。
目に映るのは、鎧胴に直垂、烏帽子を備え、二人の家来を連れ、御所の庭に立つ武士――。
――嗚呼。女は溜息を吐く。
――立派になった。
女には分かっていた。これこそが、さだめ――人を呪わば穴二つ。清盛の死を祈願した、その代償は大きかった。そして、この異形のなりでの役割があった。息子を出世させる唯一無二の手段――天子の命を救う手柄を立てさせること。この醜い身体を贄として――。
それが天の計らいであったか。慈悲なき情けであったか。
深々と息を吐く。魂は既に彼岸に漂い出している。目は朧にしかものを映さない。だが、息子と視線が交差していることだけは、何故だかわかった。息子は異形の傍に跪いて、その目を覗き込んでいるのだと分かった。
その目を、ずっと見続けていたかった。しかし一度流れ出た命は止まらない。瞳に映る息子の輪郭がすうぅと消えていって、闇が永遠の忘却を運んできた。
(了)
鵺の母 @RITSUHIBI
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます