言葉を交わした
わからなかったけれど、一ヶ月も経てば、そんなことはどうでも良くなった。汐ちゃんに会えるだけで、よかった。
七色の光を放つ、きらきらの鱗に包まれた汐ちゃんの尾鰭も、見慣れればただ綺麗なだけの飾りに過ぎなくなっていった。
人魚になっても、汐ちゃんは汐ちゃんだった。得体の知れない存在になって、なんだか見違えるくらい綺麗になったのに、汐ちゃんは相変わらず馬鹿だった。
でも、やっぱり優しかった。
「汐ちゃんさ、もっとマシな嘘つけなかったの」
私は尋ねた。軽く、汐ちゃんに怒りを覚え始めていたから。
「あはは。あたし死んじゃったことになってるんだよね? なんか笑える〜」
なのに当の本人は、あっけらかんとした態度で笑い飛ばした。
やっぱり彼女にとっては、その程度のことなのだ。私たちのクラスは、一連の出来事と彼女に、振り回されっぱなしだというのに。
「わ、笑い事じゃないんだよ!? 水野さんなんて、毎日授業中にいきなり泣き出しちゃって大変なんだよ」
「えー、
「何でよ!」
「だってあの子、別にあたしのこと、そんなに好きじゃなかったでしょ。注目されたいだけだって〜」
汐ちゃんは結構、平気な顔をして、こういうことをずばっと言う人だった。でも、変なところだけ賢かったから、こういうのは全部、私にしか言わなかったんだと思う。
「そ、そんなの別にどうでもいいの! 例に出しただけ!
それより、みんな私のこと、冷たいとか、怖いとか、好き勝手言ってくれちゃって。まあ言いたいことはわかるんだけど、でもさぁ」
溜め込んでいた不満を、全部汐ちゃんにぶつけようと思う。受け入れてくれるって、分かってるから。私はきっと、安心して話せる。私にとってのそういう子は、汐ちゃんしかいないのだ。
すっと息を吸ってから、海の向こう、水平線の方に向かって叫ぶ。
「泣ける訳ないじゃん!!!
汐ちゃん生きてるし、ましてや人魚になってたなんて、誰が信じてくれるわけ!?」
「だったら、みんなここに連れてくればいいじゃん」
汐ちゃんはたまに、意地悪だ。分かってて、こういうことを言ってくる。
私が絶対にそんなことしないって、知ってる筈なのに。私に言って欲しい事があるなら、ちゃんとそうやって、言ってくれたっていいのに。
空を見上げて海を想う 飴好 るりか @Lapis_39ra
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