第35話 地竜の洞窟 後(雷鳴)
俺たちはアルゲン山脈の上空を延々と飛んでいた。
風景は美しいが、冬の足音が迫ってきており、山の方ともなると既に雪が積もり始めている。アイシクル州は冬の訪問は早く、退去は遅い。
俺以外は眠気はどうしようもないので、時々山の中に下りて野営している。
そんな事を何回か繰り返して6日。目的地が見えてきた………あれ?
「おかしいですね、この辺りに洞窟の入口があるのですが」
「………地竜が暴れて崩れたか?」
「イエス、ヴェル。『説明書』に「完全に埋まった入り口」て出てる」
「雷鳴~他の入口とか無いの?」
「さすがにそれを探すなら下りなきゃな」
俺の言葉をきっかけに、元入り口のあった谷へ降下する俺たち。
「とりあえず崩落してきた岩だらけだから「サラマンダー」は出せないな」
「この辺一帯が崩れたのでしょうね」
「この辺、モンスターが多いから、俺が夜間に別の入口を探すのは無理だな………」
「大人しく平らな場所を探して野営しましょうか」
「疫病は大丈夫かなあ」
「………焦っていい結果が出るならそうするが、今回は違う」
「うう………はい」
という訳で、野営となった。テントを立てるのは―――普段は「サラマンダー」があったので―――かなり久しぶりだ。
食事は弁当。まあ美味しいからよし。
「明日朝から、別の入口か掘り返せそう所を探しに行こう。全員で」
「効率は悪いですが、モンスターに対処するとなると、それしかないでしょうね」
「それもあるけど『説明書』が使える俺が一緒でないと見つからないだろ、入口」
「そうだね、俺たち山に詳しいわけじゃなあいもんね」
「………ああ、固まっていた方がよさそうだ」
その晩は不寝番を夜通しする俺を残して、眠りに落ちていった。
違う入口なんか本当に見つかるのかね―――
♦♦♦
朝食を食べてから、入口探しに出かける俺たち。
『説明書』を頼りに―――とは言っても「時間をかけて彫ったらつながる地面」だの「空気がドラゴンの洞窟に通っている小さな穴」などまで表示されるので、見つけるのは困難を極めた―――進む俺たち。
そのうち「ザアアアア」と、川か何かのある所まで来てしまった。
「うん?そこにも説明書があるな」
「ここー?」
ミシェルが草をかき分けて川の中に入る。その瞬間襲う悪寒。
「馬鹿!行くな!」
俺はミシェルを引っ張り戻そうと手を掴んだが―――遅かった。
つるりんっ。
恐ろしく滑る川底に足を取られて2人で転倒、そのまま激流は細い洞窟に俺たちを押し流した。そして予想通りすぐ追加が来た。
「2人共!きゃあっ?」「フリウ!うおっ?」
追加で2名様ご案内だ。俺の襟首をつかんだのがフリウで、フリウの足を掴んだのがヴェル。これだから天使は………と苦笑してしまう。
水流ジェットコースターの始まりであった。
「『中級:水属性魔法:ウォーターブリージング』×4!」
水没する危険を感じたらしく、フリウが水中呼吸の魔法を放つ。
もう冷静になったとは、さすがというべきか、なら引っかかるなというべきか。
周囲は硫黄臭のするヌルヌルの粘液で覆われており、体をぶつけて怪我する心配はなさそうだ。どこまで続いているのかはよく分からないし、どっちに行っているのかもさっぱりだ。ひたすらグネグネと続いているのである。
だが何事にも終わりがある。
終点が見えてきたが―――いけない。このまま終点に辿り着いてはいけない。
俺がミシェルを後ろに下げると『啓示』が頭に下りてくる。意識のあるままだ。
俺はその啓示の言わんとすることをすぐに理解し、行動に移した。
「『教え:血の魔術:凍龍』―――っ!!」
そこはすり鉢状の広い空間だった。
俺の術は、すり鉢の終着点で水ごと得物を飲み下していた怪物の「口」から「尻」までを凍りつかせた。
そいつは、ナマコとミミズを掛け合わせ、口にはやすりの様な牙を無数に生やした、巨大な怪物だった。
すり鉢の底で犠牲者を待っていたのだ。
みんなすり鉢の底に行きたくないので、翼で飛びながらの会話になった。
それだけ広い空間なのである。
「とどめまでは刺さなくてもよいでしょう。普通人間は引っかからないでしょうし」
俺は正直こんなもんに生きていてほしくは無かったが、しぶしぶ同意する。
「雷鳴、きっと普段の獲物は魚だよ」
「分かってる」
「………なら、先の話をしよう。氷は、溶ける」
そうだった。と俺は周囲を見回す。先に行けそうな洞窟はないか?
みんなで調べた結果、先がありそうな洞窟が3つ見つかった。
「雷鳴『説明書』で調べてくれませんか?」
「分かった『教え:観測:説明書』………お、ドラゴンの洞窟と接した洞窟がある」「それなら適切な所で『上級:無属性魔法:霊体化』ですり抜けてドラゴンの洞窟に移れれば何とかなるかもしれませんね………」
「それが可能かは『説明書』には書いてない。けど、すり抜けるポイントを『説明書』で調べながら進めばいいんじゃないかな」
「そうしましょう。とりあえず、この洞窟を少し進んだところで休憩しましょうね」
しばらく進み、怪物はもう追ってこれないだろうというところまできて、俺たちは一息ついた。ジェットコースターの終点の気分である。
今居るのも天然の洞窟だが、さっきと違って鍾乳石のある、静かな洞窟だ。
ここで俺たちはそれぞれ体と服に『キュア』した。でろでろだったからだ。
「ああ、気持ち悪かった。何だったんだろうねあの流れは………」
「怪物に直で落ちていったって事は、あいつの粘液かなんかだったんだろうさ」
「うえぇ~」
ミシェルと話しながら『キュア』を終えて、改めて洞窟を見る。
「なあ、これって、洞窟ではあるけど、地底湖なんじゃ?」
「そのようですね。全員に『ウォーターブリージング』をかけましょう」
「会話はみんな『念話』で統一しよう」
「了解です」「わかった!」「ああ」
「雷鳴。『説明書』を忘れないで下さいね」
「わかってる」
俺たちは地底湖の澄んだ湖面に潜っていく。
湖の中はとても綺麗で―――俺たちは結局何も話さなかった。
まあ、説明書のマークが見えなかったからというのもあるが。
陸に上がる。
「『生活魔法:ウォーム(暖め&乾燥)』×4」
フリウが即座に服を乾燥させてくれた。ありがたい。
さすがは現在進行形の「いい嫁さん」である。
フリウをそう褒めると、紅い顔でヴェルの後ろに隠れてしまった。
「ははは、悪い悪い………ってあれ?フリウの後ろにマークが」
「え!?」
あわててヴェルごと退くフリウ。ヴェルを持ち運んでやるなよ。
『隣の洞窟と接しているポイント』確かに『説明書』にはそう書いてある。
みんなに告げると、フリウが『上級:無属性魔法:霊体化』をかけてくれた。
さてどんなところに出るやら………。
出た所は広い洞窟で、崩落の跡がちらほら見受けられた。
震動は洞窟の先から聞こえてくる………。
まだ地竜の気配はしないが、それも近いんじゃないかと思えた。
霊体化を解かずに―――気配を消して進むには丁度良かった―――進んで行くと、やがて、4つの洞窟が交わる、広大な場所に出た。
そこに、ドラゴンは立っていた。
ドラゴンの視線を受けつつ、フリウがてきぱきと指示を出す。
「策がない。即興になりましたね。頭は私が相手します。ミシェルは足を封じて下さい。ヴェル、胴体。雷鳴―――あなたにしかできません、逆鱗を探して攻撃を」
俺は唇を笑みの形に歪める。
そういう頼み方をするとは傲慢の悪魔の神経をよく分かっている。
「引き受けた。任せろ」
フリウが頭を引き受けて、しっかり引き付けてくれたので他は大分マシになった。
ただ一つ忘れていたのは、ミシェルの担当の足。あれって尻尾も入るんだ。
視覚からの一撃でミシェルが瀕死になったのには物凄く焦った。
フリウが手いっぱいだったんで、手の空いてた(空いてちゃダメなんだが)俺が回復させて、ヴェルと配置換えをさせた。
ヴェルなら「物理攻撃無効」だから大丈夫だろう。
配置換えは正しかった。
ヴェルは足を止め、下腹部を殴る事で巨体を動かさないという役目を負った。
尻尾に弾き飛ばされるものの、ノーダメージで起き上がって来たのだ。
ミシェルは普通貫けない竜燐を「超怪力」で何度も切り裂いて見せた。
フリウは、頭に弾幕を張って行動不能にしつつ、ブレスを全部見当はずれの方向に着弾させた。あとは俺が逆鱗を探すだけだ。
『教え:観測:説明書』『教え:視覚変化:拡大』
血の麦を2粒飲んで………2つの精度を最大に………ミツケタ!
俺は地竜の喉の鱗の一つに、亜空間収納から出したクレイモアをめり込ませる。
「『教え:剛力10』!」
そのまま脳までいければいい―――
地竜の頭がバグンと閉じ頭へと剣がめり込む。
「GYO………GUEEEEE………」
全員の攻撃が頭頂部に集結した。俺は柄を支え続ける。
やがて、剣は脳天を貫いて―――地竜は死んだ。
ピロリロピロリロ………
レベルアップの音に、全員が顔を見合わせる。俺はカードを見た。
レベル………100!
俺たちは顔を見合わせ、誰からともなく頷き合う。
「鉱石………採取しませんと?」
「俺たちが来た方は除いて………3方向………」
ミシェルが言いかけて黙った。
そりゃそうだろう。地竜の背後にあった奴以外ブレスで崩れてるんだから。
岩石のブレスだったからなあ!
ちなみに後ろはしばらく行ったら行き止まりで鉱石とかなく―――
俺たちは『中級:地属性魔法:トンネル(一時的に地面にトンネルを掘る術)』を連打しながら鉱石を探し回る羽目になった。
後で冒険者ギルドから工事の人を出して貰わないと、次の使用ができんわこれ。
何とか鉱石を彫り出しても、帰り道でまた迷う羽目になるのだが。
それもいい思い出………かな?
次回、エンディング―――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます