第34話 地竜の洞窟 前(フリューエル)

 10月も終わりに差し掛かりました。ちらほら雪が降っています。

 クラーケン騒動の後は大した敵に遭遇せず、私たちのレベルはクラーケンで94、その後95に上がってそこで止まっています。


 雷鳴は「サラマンダー」の足回りを冬仕様にするタイミングで悩んでいます。

 もうちょっと先でいいのではと言っているのですけどね。

 まあ、まだもうちょっとは趣味に没頭すると言っていました。

 魔界でどんな車を運転するつもりなのか、見てみたくもあります。


 今日の差し入れは豆のスープです。朝食とかぶってしまうのは悪いですね。

 でも雷鳴が味見すると言ってくれているのでまあ良いかと思っています。


 まだ雪は積もっていないので、ガレージまではすぐ………おや?

 ガレージの表で雷鳴が七輪を使って何か焼いていますね。

「おはよう、雷鳴。何を焼いているんですか?」

「おはよう、フリウ。キノコの丸焼きだ。サッパリと塩でいただく。………食う?」

「私だけがご相伴にあずかっていいんでしょうか?」

「午後からキノコ狩りに行けばいいだろ?」

「そういうことなら………いただきます」


 白い大きなキノコを、雷鳴は切り分けて渡してくれました。美味しいです。

「毒かどうかは俺の能力『教え:観測:説明書』で分かるから心配すんな」

「ああ………聞き覚えがありますねえ、その教え」

「前回(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)使ったからな」


 キノコを食べて、私は朝ごはんを急がなくては、と思い出します。

「雷鳴、ゆっくり来てください」

「そんな急がなくてもまだ部屋から出てきたぐらいだろうに」

「パンが焦げてしまうからですよ!」


 私はそう言い置いて、家の中に入ります。

 ヴェルとミシェルは確かにまだ起き抜けでした。座椅子でくてっとしています。

 パンは―――無事でした。

 これがないと、今日の朝ごはんはないも同然ですから、良かったです。

 たっぷりクルミとレーズンを使ったパンなのです。


 今日の朝食は、クルミとレーズンのパン山盛りに、豆のスープ。

 たっぷりの温野菜、フルーツヨーグルトです。

 ヴェルの食欲に合わせて作ると、どうしても多くなりますね。

 雷鳴もガレージを片付けて朝食の輪へ入りました。


 ………これも、レベルを考えたらもう少しなのですよね。

 雷鳴は優しく見えますが、私たち天使に合わせてくれているだけ。

 100レベルになり、星の神殿を解放するミッションを達成したら彼は魔界へ、私たちは天界へ帰ります。正直寂しいですね。

 ………なんて感傷的になっても仕方ないですよね。

 今まで通り頑張りましょう。


♦♦♦


 昼ご飯は、シンプルにステーキでした。

 市でいいお肉(雷鳴が言うのだから相当です)が出ていたので、高かったけど買っちゃった―――だそうです。お昼ご飯にするのが勿体ないですよ。

 思わず雷鳴に「夕食どうしましょう」と聞いてしまいました。雷鳴の返事は

「キノコを採りに行くし、キノコバーベキューにしてしばえば?」でした。

 そうしてしまいましょう!

 

 食後、みんなが一息ついたところで、さあ、キノコ狩りです。

「森の、太い木がたくさんあるあたりに、群生地を見つけたんだ」


 白い色の、木の幹につくキノコが「アイシクルダケ」朝食べたキノコですね。

 ばりばりと、木から剥がして採取します。

 今回の収穫のほとんどがこれになりそうですね、みんなでカゴに入れていきます。


 他には「アカイダケ」赤いカサに黄色い斑点と、色は毒キノコを主張していますが………。なんと雷鳴によると無毒なのだそうです。

「ええ?おとぎ話の魔法のキノコみたいだよ?ホント?ホントに大丈夫?」

「疑問は俺の『説明書』に言ってくれ。反応はないけどな」


 そして「ヤリダケ」は槍のような穂先?の付いたキノコです。穂先の色は茶色。

 槍の持ち手に当たる茎も白いので、無害に見えないこともありません。

 実際、食べられるそうです。

「煮ても焼いても旨いそうだぞ?」

「ならバーベキューと一緒に屋外で鍋もいいでしょうか」

「いいんじゃないか?もう雪だ。降りだす前に野外料理をやってしまおう」


 あとは「ジンメンダケ」確かに傘の模様は人面に見えない事もありませんね。

 これは真っ白なキノコでした。………ちょっと毒じゃないかと思いました。

「おい、雷鳴。食ったら呪われるんじゃないか、これ」

「元悪魔の癖に何言ってるんだよ。食えるって出てるから大丈夫だよ」

 その他のキノコ―――やけにカラフルなものが多いです―――も無駄にならない程度に採って、キノコ狩りは無事に終了しました。

 拠点に戻りましょう。


「じゃあ、バーベキューと鍋を準備しますね」

 私は野外調理用の道具を亜空間収納から取り出します。

「雷鳴、薪と炭の準備。ミシェル、屋外用の椅子を出してください。ヴェル、キノコを洗って来てください。私は器具の設置をします」

 指示の通りに全員が動きます。

 

 真っ先に戻ってきたのは雷鳴でした。なので一緒に器具を準備して貰います。

 バーベキュー台に炭を入れ、木の枠組みに吊るした鍋の下に薪を詰みます。


 ミシェルが戻って来ました。

「倉庫、滅多に使わないから、すっごくホコリが………『キュア』してきたよー」

 そう言って、木製の椅子をぽんぽん、と設置していきます。


 時間がかかっていましたが、ヴェルも帰って来ました。

「おい、どこまで洗うのか分からんから、コレで済ませたけどいいか?」

「大きな物が(葉や木くず、虫とか)落ちてれば良かったのですよ?まあいいです。こちらの調理台に持って来て下さいね」

「分かった」

 

 さあ、キノコ祭りの開催です。基本は煮る焼く。

 調味料は各自で好きな物を使用。いろいろ持ち出してきました。

 拠点からお酒と、ベーコンの塊も持ち出して焼き、キノコと一緒に頂きました。

 呑んで、騒いで、楽しい時間。

 ほぼバーベキューと鍋が終わり、みんな満足げな顔で談笑していたら。


 ピロリロピロリロ ピロリロピロリロ ピロリロピロリロ


 運命の音色をチームカードが奏で始めました―――。


 ギルドのシンボルをタッチ。通信に出ます。

「はい、依頼の提示でしょうか?」

「ハイニャ。依頼受領受付のミーミーからどうしてもお願いがあるニャー」

「提示ではなくお願いですか?何でしょう」

「今、コイントスの街で質の悪い疫病が流行り始めてるのを知ってるかニャ?」

「いえ、知りませんでした。治癒師ヒーラーとしての腕ならありますが?」

「普通の医療や魔法じゃ全然効果が無いのニャ!体の一部が生きたまま腐り始めるっていう難病でニャ。特効薬を使うしかないのニャー!」

「それではその特効薬とやらを?」

「うん、そうなのニャ。特効薬の作り方はフィアメッタ合衆国にも伝わってるから、主材料の鉱物を採って来て欲しいんニャけど………」

「はい、けど?」

「その鉱物のある洞窟の、鉱石のあるエリアの手前にドラゴンが住み着いちゃったそうなのニャ!」

「………何ドラゴンですか?」

「地竜だろうということだニャ。おそらく成体だそうでニャ。だから他に頼る冒険者がいないのニャ~」

 雷鳴がカードに向かって言います。

「地竜はいい。けど洞窟だって?ダンジョンはほぼ新人ノービスだぞ?」

 それ、ここで言う事でしょうか。本当の事ですけど。

「えーと、天然洞窟で新人向けニャ~」

「それでもまだ不安だけど」

「仕方ありませんよ、雷鳴。………私たち以外に行ける人がいないんですね?」

「そうなのニャ~。このままだと疫病で死人が出るニャ。すでに体の1部を失った人は出てるのニャ」

「行きましょう皆さん。いいですね?」

「仕方ないなぁ」「洞窟が不安だけど行くしかないよね」「構わん」

「ありがとうニャ!」


「成体のドラゴンか………今回でレベルはカンストするかもな」

 惑星グロリアの竜は知能は獣並ですが、強さは折り紙付き。

 そして地竜なので、巣くった場所が厄介です。

 雷鳴の予想も外れてはいないと思います。

「そうなったら、最終決戦に向けて動かないとですね」

「もっと一緒にいたいけど、雷鳴は天界には来てくれないよね」

「ああ。俺はどうやっても悪魔だ」

「………気持ちは分かる。だが今は一緒に来てくれ」

「ヴェル。言われなくても今、お前たちは仲間だ。一緒に行くさ」


 雷鳴は着替えて、ガレージへ「サラマンダー」を動かしに行きました。

 私たちも「亜空間収納」の中身をチェックしたら着替えましょう。


 「サラマンダー」に乗車します。今回の運転手は持ち回りでヴェルですね。

 雷鳴は寝転んで本を読み始めます。どうも集中できてないようですが。

 ミシェルは何やら大急ぎで編み物を始めました。

 赤い毛糸、という事は雷鳴のでしょうか。ははぁ。

 ミシェルを見習って私は人形作りを始めます。

 手のひらに乗る程度の火トカゲ―――「サラマンダー」です。全員分要りますね。


♦♦♦


 夜に出たので朝方、冒険者ギルドに着きました。

 まだ誰も来ていないですが、受付は開いてますね。ミーミーさんに声をかけます。

「「依頼受領」に来ました、チームサラマンダーです」

「ニャ!寝ずに待ってたニャ!えーと、ドラゴンが住み着いた洞窟の場所は地図で言うとここニャ。街道からは離れてる、この山の中にゃ」

「結構、遠いのですね」

「アルゲン山脈の中腹だからニャー」

「俺らの足(翼)でも片道6日はかかるな………本当に山奥だ」

「ニャー。疫病の罹患者が増える前に………は無理だろうけど、なるべく早い帰還を待ってるニャ。第一陣がドラゴンを発見して先に進めなかったのが痛いニャー」

「どんな鉱石を採取してきたらいいのですか?」

「これと同じものを、このバッグいっぱいに採取して来てニャ!」

 私はサンプルと頑丈なバッグを受け取り、受付を辞します。

「頑張ってニャ~!」


 私たちはいつものようにで冒険者ギルドの裏手に出ます。

「今回は「魔法の絨毯」に乗っての行軍になりそうですね。翼では疲労が蓄積して肝心な時に疲れてるかもしれませんから」

「そうだな。各自一人乗りだし狭いけど………さて」


「ごはん屋、カムヒア!」


「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~

 食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」


 「ごはん屋」さんは巨大な枯葉に捕まってひらひらと舞い落ちてきました。

 どこにこんな大きな葉があるんでしょう………あ、雷鳴が粉砕しました。

「変な証拠を残すなよ!」

「おお、これは失礼しました、公爵様」

「まあいい、今回は往復12日分と予備2日分で頼む」

「了解しましたぞぉ!ごそごそごそ………と」

 いつもの流れですね。


「はいっ、いつものやつvですぞ、あ・な・たv」

 雷鳴は無言で「ごはん屋」さんのボディにキックをお見舞いしました。

「お前はオスだろうが!」

 メスならリザードマンでもいいのですか?雷鳴?

「ちょっとしたお茶目でございますぅ~うう………」

「ちょっとしてない。報酬から引くぞ」

「それだけはお許しを~」


「はあ………全く。まだ人目に触れてない遺跡の、黄金のクリスをくれてやる」

「ははぁ~」

「………最後かもしれないからな」

「ほ?」

「何でもない。帰って良いぞ」

「………それでは帰還いたしますです」

 「ごはん屋」さんはつむじ風で枯葉と共に舞い上がって行きました。


 最後かもしれない、ですか。

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