第32話 魃(雷鳴)

6月半ば。俺たちのレベルは72だ。感謝ポイント込みだな。


いい季節だ。

俺はいつもより早く起きてきたフリウと山菜取りをしていた。

結構取れたんじゃないか、フリウ?え?ヴェルが大食いだから足りない?

ごもっとも。肉でもそうじゃなくても、あいつは大食いだ。

もう少し採取していくことにするか。


帰った頃にはみんなが起きだしてくる頃合いだった。

フリウは山菜は夜の天ぷら用ですからと「冷蔵庫(亜空間収納なので劣化しない)」に山菜を入れ。食事の準備のためにキッチンに入った。

寝ぼけ眼のミシェルが甚平を着て出てくる。

俺が縫ってやったんだが、すっかり馴染んだようだな。


「ミシェル、フリウに作ってやるか?」

「え、いいよヴェルにする。フリウのに粗があるとすぐわかっちゃうもの」

「………ヴェルによりそうから同じじゃ?。まあわかった。フリウのは俺が縫う」

「うん、頼むよ。今日コイントスに行くなら生地を買おう」

「そうだな」


そう言っていたら朝食を持ったフリウが出てきた。

分厚いチーズを厚みのあるパンに乗せてある。それとコーンスープ、ポテトサラダの大盛りである。ヴェルがほとんどを食べるため、見た目よりボリュームはない。


のんびりした朝の空気、いいもんだな。


ピロリロピロリロ

んなっ!?

チーム・サラマンダーのカードのギルドマークを押して、しぶしぶ返事する。

「なにか?」


「ああ、おじゃまだったかぴょん?そこまで急がないからかけなおすぴょん?」

 フリウを見る。首を横に振っている………フリウならそうだよな。

「いや、聞くよ」

「じゃあ、ここからは依頼受領受付のミーミーから聞くぴょん!」


「はーい。チーム・サラマンダーのみんな!ばつが出たのニャ」

「「「「魃って?」」」」

「あらら………。簡単に言うと日照り神だニャ!詳しく聞く?」

「お願いします」


「魃っていうのは異国の神の娘で、天界の争いの際、父親に呼ばれたんだけど、力を使い果たしてしまって天に帰る事ができず。いるだけで旱魃を引き起こす人に害をなしてしまう存在になった元女神様だニャ!今は女神様なんてもんじゃなく、一本足で手も一本の毛むくじゃらの姿だニャ!少なくとも理性はないみたいニャ。確か君達、冷気攻撃もできるニャア?」


「ええ、できますが………可哀想ですね」

「同情して失敗しちゃダメニャ!」

「分かってる。ところで黒いオーラは?」

「それニャ!魔王のオーラがあるってニャ!だから話は通じないと思ったのニャ!」

「それは………是非もなし、ですね」


「みんな「サラマンダー」の足回りはもう普通の奴に履き替えさせてるから、「サラマンダー」で向かうぞ。昼飯は「サラマンダー」の中でな。運転手は俺以外で頼む」

「それなら運転に強いのは私ですかねえ、久しぶりですし」

「フリウなら安心だな、頼んだ」


 ちなみにミシェルの奴はフリウ提供の「シンデレラ(ディ〇ニー製)」をかけやがった。腹が立ったので「原作:シンデレラ」を渡してやった。

 キッチンから見えたがかなり怖がっていたな。

 フリウに呆れた顔をされたが、俺の気は済んだ。

 デ〇ズニー性のお話は能天気すぎて、悪魔の勘に触るのだ。


 さてさて昼食だ。ひき肉とにらのキムチ炒めに、ナスといんげんのそぼろ煮。

 一応肉中心だがヴェルは嬉しくなさそうな顔をしている。

「悪いって「サラマンダー」の冷蔵庫の中身の問題だよ」

「むう………仕方ないか」

 ヴェルも黙ったし、昼食だ。他の2人からは好評だった。


 昼食が終わる頃―――運転は俺がフリウに替わった―――コイントスに到着する。

 先に市に行きたかったが、他の3人は違うだろうな。ふう、先にギルドか。


 ギルドに着いて依頼受領受付のミーミーさんの所に行く。

「あ、皆早くて助かるのニャー!魃はかーなーりー強いから気をつけてニャー?」

 真面目な顔で俺たちは頷く。

「今、どういう状況なんですか?」


「うん、なんかね、畑の真ん中にどーんって陣取っちゃっててニャ、熱波で近寄る事もできないし、作物はもう駄目になっちゃってるし、このまま居座られてら廃村の危機なのニャ。刻一刻と不毛の大地に近寄ってるニャア」

「大変じゃないですか!すぐ行きませんと」

「すぐ行ってもらって何とか………って感じだから任せたのニャア!」

「「「「了解」」」」


 俺達は冒険者ギルドの裏手に回る。毎度おなじみ「ごはん屋」の呼び出しである。

 呼び出し機―――石を手に「ごはん屋、カムヒア!」と呼ぶのだ。

 ごはん屋は宙から落下傘で降ってきた。ううん、スタンダード。


「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~

 食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」


「公爵様!今回は初心に帰ってみましたぞ!」

「いつもこれなら怒鳴らずにすむんだけどな」

「して、今回の御用の向きは………(揉み手揉み手)」

「往復で6日移動、滞在はまあ3日かな?」

「108食ですかな?」

「いや、半分は自炊用の材料にしてくれ」

「承りましたぞぉ!」


大袋に体を突っ込みお尻フリフリ(嬉しくない)しながら、手際よく客用の亜空間収納袋に、食材と弁当を突っ込んでいく「ごはん屋」

この手際と食材のバリエーションだけには感心する。

ほどなくして―――


「できましたぞぉ!」

 と俺に袋を渡してくる「ごはん屋」

「ごくろう。お代はこれだ」

 俺はピンク色の宝石を「ごはん屋に」渡す。

「夢魔の宝の一つでな。その宝石の中には古今東西の「夢」が集められて湧いてくるんだ。夢喰いなんかはとびつくだろうな」

「おお、また貴重なものを………喜びの舞を!」

「踊らんでよろしい」

このやり取りも定型文になってきたな。


「しょぼーん(´・ω・`)ですぞぉ………」

「はよ帰れ」

 邪険にしているわけではない、こいつはこーゆーキャラなのだ。

「それではみなさん、しーゆーあげいん!!」

 その場に竜巻が巻き起こったと思うと「ごはん屋」のすがたはもうなかった。

 相変わらず訳の分からんやつである。


♦♦♦


 「サラマンダー」で南西に向かう途中。

 ミシェルが今度は「白雪姫」をDVDデッキに入れていたため、こっそりフリウに「本当は怖い~」を渡しておいた。フリウは苦笑していたが。

 その後のミシェルの「いやー!」という悲鳴は推して知るべし。

 というか童話は大抵怖いんだけどね。


「原作は知っていたが、天界向けだとあんなに甘いのか」

「いや、あれ両方とも人界向け。色んな趣味の奴がいるよな」

「………何考えてるのか分からんな」

 というヴェルと俺の会話もあった。


 さて、魃が見える(空に浮かんでいるのだ)所まで来たが………暑い!

 小さな太陽でも空に浮いているかのようである。

 だが今すぐどうこうする事はできない。ウリア村の村長に合わないとな。

 全員汗だくで、夏物を引っ張り出して着こんだところで、村に着いた。


♦♦♦


「村長さん………状況はよく分かりました」

「でしょうな。アレのおかげで今年の収穫は絶望的なのです。一応冬に栽培できるものもありましたから、困窮するというほどでないのが救いです………」

「冬に栽培できるものって?」

「魔法植物で高く売れるウリアハーブ「夜」と「朝」です」


「どんな効果があるんだ?」

「強い鎮静効果があるのが「夜」で睡眠薬などの材料に最適です。「朝」は極めて気分が明るくなります。取扱注意です」

「ふーん、討伐が終わったら高値で買い取るけど、どう?」

「今回の損害補填もありますから、高値なら歓迎です!」


「まあそれはおいといて………あれが来たことに心当たりは?」

「あれは神のいっしゅだとかで、それなら前年、本当にこっちにも余裕がなかったんですが、隣村が人手不足だっていうのの手伝いをしなかったせいかもしれません………でも謝って供物をささげてもあれは退いてくれなかったんです」


 それを聞いて俺たちは内輪で会話する。

(まあ、魔王のオーラを纏っているぐらいですから、正気じゃないんでしょうね)

(魔王のオーラだけけすとかできないんでしょうかね)

(カプセル銃で”オーラだけ”指定してみるか?)

(あっそれやってみましょう)

(はがれても変わらないなら、その時は討伐だな)


「ごほんっ、とりあえず、正攻法で当たってみる事にしますので」

「はい、わかりました」


♦♦♦


「凄い熱気ですね。皆さん『ウォータースクリーン』は厚めに張って行きましょう」

「「「了解」」」


 ウォータースクリーンが沸騰したので、近づくのをやめた。

 結局俺の『特殊能力:太陽遮断(熱気も遮断する)』に全員を入れて近づく。

 間近で見た魃は、本当に神の娘なのかと疑うぐらい醜かった。

 毛むくじゃらの体、太い1本だけの足で1本しかない腕を振り回して。

 俺たちに雷を落としてきたのだ。


 当然避けるし『太陽遮断』は雷もある程度弾く。

「フリウ—!捉えるにしても弱らせないと無理だ!俺は結界の制御してるから他のみんな頼む!」

「わかりました………」


 氷系の魔法が魃に雨あられと降り注ぐ。魃は形容しがたい悲鳴を上げた。

 ………よしっ「黒いオーラ」を目標にしてカプセル銃を―――動かない!?

『指定対象は、個体名「魃」の一部です』

 カプセル銃が喋った!とりあえず、俺はみんなにそれを伝達する。


「なら―――倒すしかありませんね。永遠の封印よりはマシでしょう」

「わかりました、かわいそうだけど」「仕方がないな、異論ない」

3人が本格的に氷属性の魔法を使う―――魃はかなり善戦した。


 マグマで出来た岩の槍は『太陽遮断』を貫き、個人で対物結界を張っていた俺たちにもダメージを与えた。その奇怪な雄たけびは、ミシェルとヴェルに「沈黙」の状態異常を与え、俺とフリウが慌てて解除する一幕もあった。

 何より酷いのはやはり熱量だ『太陽遮断』を通り抜けるそれにはかなり苦戦した。

 だがそこまでだ。


 魃は氷属性の攻撃が当たるたび悲鳴を上げて、小さくなり―――やがて崩れて消えてしまった。魃が何人いるのか知らないが、少なくとも黒いオーラに侵された魃は1体だと信じたいところだ。


「他の魃なら救いはあったのでしょうか」

「さあな。取り合えず苦戦した見返りはあったみたいだぞ」

 俺たちのカードにはレベル74、という文字が光っていた。

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