第31話 悪霊退散 後(フリューエル)

ごはん屋さんを呼び出します。

雷鳴が「ごはん屋、カムヒア!」と言うと―――


空から巨大な花のつぼみが降って来て、どさりと着地します。つぼみの中からは

「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~

 食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」

と聞こえてきますね。やがて花は開花して―――

「うふん」

 ピンクの衣装の「ごはん屋」さんが。男性にそれはちょっと………


「お前ね、ごはん屋の癖に食欲減退させてどうするんだよ!?」

「なんと!これでも精一杯おしゃれしたのですぞ!?」

「せんでいい!まったく………バールト村までだ。覚えてるか?」

「もちろんでございます!今用意しますからな!」


 「ごはん屋」さんはピンクのスカートをフリフリ袋に上半身を突っ込んでいます。

 まあ、リザードマン?ですし。人間の男がやるよりは見苦しくないのではと………

 しかし雷鳴が珍しく青筋を浮かべてプルプルしているのですが………

 

「はい、出来上がりでございますぞぉ!」

 いつもの袋を雷鳴が受け取りました。報酬は―――?

「ご苦労。魔法の種を100粒渡しておく。黄金の―――勿論魔力を持った花が咲く」

「毎度毎度貴重なものをありがとうございます!!ヒャッホーゥ」

 その場でステップを踏み出す「ごはん屋」さん。


「馬鹿野郎!その恰好で踊るな、さっさと帰るか着替えろ!」

「お色気シーンをお望みですかな?」

 あ、雷鳴が「ごはん屋」さんを本気蹴りしましたね。

 「ごはん屋」さんは「ひゅおー」と自分で言いながら空に消えて行きました。

 いつの間にか背負い袋も消えています。相変わらず、どうなってるんでしょうね。


「雷鳴、これでいいんです?」

「商品と対価は好感したからもういい!見たくもないもん見せやがって!」

「まあまあ、「サラマンダー」の運転は私たちが先に担当しますから、機嫌を直して中でゆっくりしててください。片道3日弱ですからね」

「そうだな………気力が萎えたから頼むよ」


 ミシェルが「沈黙が不気味だから」とコメディ映画を探して来たようです。

 「マウス・ハント」という映画で、古い家を売ろうとする主人公たちに、そこに住み着いていたネズミが「出て行け」攻勢を仕掛けるコメディだそうです。

 最終的にはハッピーエンドなので、気兼ねなく見れる映画ですね。

 雷鳴もみんなと笑い合って、要らない記憶が解けて消えたらいいですね。


♦♦♦


 もうすぐバールト村に辿り着きます。

 その途中で見たリット村とチェント村では、埋葬作業が行われていますが、人員は少なく、遅々として進んでいないようでした。

 村人全員の墓穴は掘れないので、大きな穴を掘っての合同葬儀のようですが、人がいないので進んでいません。早くバールト村で状況を聞く必要がありそうです。


 バールト村に到着です。心なしか静かですね。

 子供や若者が表に出て来てないようで、それで静かなのです。

 私たちは村の入口に「サラマンダー」を止め、村長さんの家に急ぎます。


 ノックして出てきたのは、村長さんの妹さん、メリルさんでした。

 村長さんはチェント村で指揮を取っているそうで、間もなく帰るそうです。

 私たちは、取り合えずメリルさんに状況を聞くことにしました。


 話は、大筋でギルドで聞いた話と一緒でした。

 違うのは、かなり多くの村人が病を発症しているという事。

 そのせいで―――霊魂の望みも埋葬でしょうに―――埋葬が進まないのだとか。

 取りつかれた者が現場で暴れたりして作業を妨げたりもするそうです。


 そこまで話したところで村長さん―――モーンさんというそうです―――が返って来ました。実に疲れた表情です。


「あ、みなさんはもしかして―――」

「はい、チーム・サラマンダーの者です。事情は聞いていますよ」

「実にありがたいです。憑りつかれた者たちを何とかできますか!?」

「はい、手分けして浄化していきたいと思いますが、私たちの取る方法で大丈夫かどうかテストさせていただきたいのですが?」


「重症の病の者を見てみて下さい。案内します」

 モーンさんの案内で、村の家々の一つにお邪魔します。

 ご家族の見守る中、この家の大黒柱だという中年男性を診ます。

 うん、気合を入れて魂を見たら確かに陰りが見えますが、ここは―――


「雷鳴、水鏡を」

「はいよ」


 雷鳴は水のこぼれない、大きな水鏡を出してきて男性に向けます。

 水鏡にははっきりと霊魂の姿が映し出されました。

 頭の一部がかけた、血まみれの赤ん坊の姿です。

 その霊魂の居るあたりに向けて―――『神聖魔法:聖浄化結界ホーリーピュアサークル

 水鏡から霊魂の姿は綺麗さっぱり消え、中年男性の容態も落ち着きました。

 家族の方から歓声が上がり、村長のモーンさんの顔も明るくなります。


「雷鳴、この水鏡って1つだけですか?」

「いんにゃ、5枚ほどあるけど」

「じゃあ私とヴェルとミシェルは憑き物落としですね」

「俺は?」

「元凶を探してください(にっこり)」


 そんなわけで、雷鳴と私たちは別行動です。

 というか全員で別行動です。

 ヴェルとミシェルは、埋葬現場で憑りつかれるリット村とチェント村の人たちの方に行ってもらい、バールト村の治療は私が担当します。


~語り手:雷鳴~


 フリウに元凶を探せと言われて放り出されてしまったでござる。

 いや別に放り出されたわけじゃないか………馬鹿なこと言ってないで働こう。

 でもどうやって元凶を見つけるかな?

 とりあえず『定命回帰』を解いて、ヴァンパイアの状態になっておく。

 負のエネルギーを感知しやすくするためである。


 すると、空気がピリピリしているようなのが感じられた。

 俺が居るところだけじゃなくて、この辺り一帯、全部だ。

 俺はこの空気の中心―――もしくは発生源―――を探してぶらりと歩き始めた。


 たどり着いたのは以前、雪男をフリウ達が駆逐した洞窟だ。

 それぞれの村に均等に近いから、ここが元凶だというのは言われてみれば納得だ。

 ただ、ここって結構広いんだよな。

 フリウ達は3人で、しかも雪男がいる所しか行ってないけど。


 仕方なく俺は『教え:観測:地図表示』を使う。

 みるみるうちに洞窟がマッピングされていくが、やっぱ結構広い………

 視覚をアンデッド対応にして、気配の濃い場所に向かうしかないか………


 うん、気配が結構拡散してるせいで、ダンジョンに1人で潜ってる気分だ。

 いい気分な訳はない。そうだ、念話で誰かに―――

 いや、ダメだな。全員が仕事中だし………


 そんな感じで一人で愚痴ってみたりしつつ、ピリピリした気配の濃い方へ。

 だんだん近づいてみて分かったんだが、これ、神聖魔法が使えないと詰まないか?

 俺は弱い霊魂は睨んだだけで逃げるが、倒す手段がない。

 暗黒魔法を使っていいなら話は別だが、絶対に怒られるよな。


 本当に見て来るだけになりそうだけど、とりあえず向かうか―――


 目的地に近寄って行くと、霊魂が出現し始めた。

 姿から見るに雪男に殺された村の住人だろう。

 村人は2つ合わせて300人はいたそうだから、向こうにいない霊魂がこっちにいても不思議ではないな。とりあえず霊魂は俺が睨んだら逃げて行った。


 そうして辿り着いた洞窟―――というより迷路じゃねえかこれ―――に設けられている部屋の一つ。扉が薄く開いているそこにソレはいた。

 無数の霊魂が融合した禍々しい固まり―――ダークソウルのなりそこない、ダークキマイア。巨人の霊はいないな。倒したのが天使勢だから、浄化されてたようだ。


 他の場所や古い墓場からも、魔王のオーラによって寄り集まったのだろう、禍々しい姿だ。俺だってお付き合いしたくない代物。

 ―――そいつと、どうやってか目が合ってしまった。

 状態異常の邪視に、思わず邪眼で対抗する俺。

 こんなことに王家の血である証の邪眼を使わされたのは業腹だ。


 戦闘を仕掛けたいと思う気持ちを抑え込み、俺は帰還したのだった。


♦♦♦


~語り手:フリューエル~


丸1日かけて、治癒が終わりました。

ヴェルとミシェルも、疲れた顔で返って来ましたね。

雷鳴が帰って来ない中、宿がないので「サラマンダー」のなかでご飯を食べて寝ようかという時、やっと雷鳴が帰って来ました。


「ただいまー。雪男の居た洞窟の中央付近にダークキマイアが出来上がってた」

「「「ダークキマイア?」」」

「ダークソウルは知ってるだろ?持ち主の望むがままにアンデットを作り出す宝玉」

「知っていますが………?」


「ダークキマイアはそれのなりそこない―――もしくは前段階。多数の死者が出た事で形成されようとしてるんだ。もっとも今回の場合魔王のオーラが呼び水になったんじゃあないかと俺は思う」


「それを浄化すれば、バールト村の異変は終わるでしょうか?」

「ダークソウルを基準にして考えるなら、すっぱり終わるはずだけど」

「なるほど………では明日、もう今日ですけど………はそれを浄化に行きましょう」

「破壊したら不浄をまき散らすからな………俺は援護に徹するよ」

「分かりました、道案内だけお願いします」


♦♦♦


 次の日、村長さんに事情を話し、私たちは雪男の洞窟へ再度足を踏み入れました。

 あの時とは明らかに空気が違います。生者の気配がないからでしょう。

 雷鳴の案内で進んで行くごとに空気が重くなってくる気がします。

 そして私たちはソレを見ました。


 出鱈目につなぎ合わされた人間の顔で出来た、浮遊するボールと言えば伝わるでしょうか?これでもかと瘴気をまき散らし、血を滴らせています。

 ぎょろぎょろと動く目は状態異常を振りまいているようですが、事前に雷鳴から聞いていたので耐性UPの呪文で弾けています。


 不気味さで言えば以前のあれ(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)に及びません。

 ですので、この痛ましい者はただ浄化の対象です―――


「雷鳴!壁の役目をお願いします。天使2人!3連積層魔法陣でいきますよ!」

「「「了解!」」」


 雷鳴が結界を張って持ちこたえる事しばし―――


「「「『神聖魔法:三連浄化破邪光トリニティピュアバスター』」」」


 GYAAAAAAAAAAAW!!!


 鼓膜が痺れるような声?と共にダークキマイアは消滅しました。

 力を込めすぎたようで、洞窟内が一気に神聖な雰囲気に満たされます。

 雷鳴が居心地悪そうですね。


 その後、村を全部回って、影響がすべて取り払われていることを確認。

 どうしようもなかったとはいえ、今後こういう事が無いようにすべきでしょうね。

 でも今回はもう大丈夫でしょう。村長さんであるモーンさんの手にゆだねます。

 

 すっきりして私たちはコイントスへ帰還するのでした。

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