第30話 悪霊退散 前(フリューエル)
5月半ば。私達のレベルは70です。
早朝。寝間着のまま窓の外に乗り出して爽やかな空気を吸い込みます。
ちょうど日の出。いいですねえ。
植物も雪をかぶらなくなり、地上が緑で満ちています。
ですがまだ雪は残っています。来月になれば溶けるでしょうか。
普段着(雷鳴が編んでくれた黄色いセーターです)に着替えて、台所へ。
雷鳴はまた車庫のようなので、温かいものを持って行ってあげましょう。
習慣になってきたことです。この任務が終わったら寂しいでしょうね。
とはいっても時間をかけてOKというこの任務、もう少し楽しめたらいいですね。
私は即席の―――インスタントはこの星にないので、単に凍らせておいていただけです―――クラムチャウダーを火魔法で温めると外に出ました。
車庫は、やっと『生活魔法:除雪』を必要としなくなりました。
ゴンゴン、とシャッターをノックします。
急に開けると溶接作業とかをしていた場合、危ないかもしれないのです。
シャッターはすぐに開きました。
「おはようフリウ。毎朝ありがとう」
私は雷鳴の専用マグカップに入れたクラムチャウダーを差し出します。
受け取った雷鳴は
「もうそろそろ、ユキネズミを離れた森に放しに行こうと思ってるんだけど」
と言い出しました。確かにそろそろ良さそうです。
「そのあと、ガレージに入って来る隙間の無いように仕上げるよ」
「雷鳴、青筋が浮いていますよ。そんなに面倒でしたか?」
「車をいじるやつなら、誰でも嫌がるだろうよ」
「なら朝食を食べたら、一緒に放しに行きましょうか?」
「どうせミシェルもついてくるだろうから、ヴェルも誘って外でランチだ」
「ではそのように―――。ちなみに朝食はフレンチトーストです」
「おお、美味そうだな」
起きてきたミシェルとヴェルにおはようと挨拶して、朝食です。
2人はまだパジャマですが、取り合えず問題ありません。
「ハチミツとメープルシロップはたくさんありますから、どんどん食べて下さいね」
テーブルの中央に山盛りのフレンチトーストを置く私。
返事を待たずに自分も食べ始めます。うん、いい出来ですね。
「「「いただきます」」」
もぐもぐもぐ………
「うん、フリウ。腕を上げたな、美味しいよ」
「疑似卵が開発されたらしいし、天界でも作れますね!教えてください先輩!」
「甘いものは苦手だが………まあ、たまにならいいかもしれん」
ふふふ、ヴェルでもOKでしたか。頑張った甲斐があるというものです。
その後、雷鳴からネズミ放流ついでのピクニックの話が出て―――
私たちは野外で昼食に同意したのでした。
ちなみに以前話に出ていましたが、私たちのそれぞれの座椅子は、雷鳴とミシェル製のカバーがかかっており、より居心地よくなりました。
雷鳴曰く、ヘタレかかっていたウレタンも追加したとの事。道理で。
今度は、簡単な服を縫おうかと言っています。楽しみですね。
♦♦♦
昼前に、私たちは近くの平原に出発しました。
まだまだ雪が多いですが、小動物の姿も見受けられます。
これならユキネズミを放しても大丈夫でしょう。
「もう来るなよー」
そんな事を言いながら、1匹1匹離れた場所に放してあげる雷鳴。
たまに悪魔の顔を覗かせますけど、基本優しいのですよね、この悪魔は。
お昼ご飯はハンバーガーでした。
「雷鳴、大きくて一口でかじれないんですけど?」
「そーゆーハンバーガーとして作ったからな。工夫して味わってくれ」
「顔面がハンバーガーに埋まるー」
「ちょっとずつ齧れよ………ミシェル」
味は美味しい(パテが肉!という感じでした)のですが、苦戦を強いられました。
ヴェルは問題なく食べれてるようで本当に不思議です。
「アハハ!今度はもうちょっと抑えるから」
笑いながら言うのは止めて下さい、雷鳴。
顔を洗いたいので帰る前に小川に寄ります。決定事項です。
ですが私たちは小川で嫌なものを見る事になります―――
帰り道にほど近い小川、私は覗き込んで自分を映し―――ギョッとしました。
目と鼻と口から血を流して、苦悶に歪んだ表情の人物が背後に映ったからです。
他の面々もだったようで、覗き込んではギョッとしています。
私は一応対話を求める事にしました。
「あなたはどなたです?何故私の後ろに立つのですか」
(ほう………ほうり………ほうりだして………いった)
「一体どこの方でしょう?覚えがないのですが―――」
幽体(多分)は私の答えにに怒ったようです。
キィィーという金切り声と共に現世に具現化しました。
「ウラ、ウラ、恨んでやる!!」
そして私に何か呪文をかけようとしたようですが、私は咄嗟にレジスト。
術はかかりませんでした。
ですがその姿は問題です。黒いオーラで包まれていました。
その頃になると他の面々の背後でも次々と具現化が起こりました。
そのすべてが凄惨な殺され方をしたのであろう形相です。そして黒いオーラも。
他はかろうじて男女の区別がつく程度。
人種は―――この辺りの民のようですね。
しかし、それ以上は話しかけても「恨んでやる」としか言わないのでどうしようもありません。成仏させてあげるしかないでしょう。
「『神聖魔法:
天使が使う神聖魔法は強力無比です。黒いオーラを叩き飛ばしました。
霧散するように浄化される亡者。せめて安らかになりますように………
ヴェルとミシェルの所もこれと似たような感じでしたが雷鳴は違いました。
『定命回帰』を解除し、ヴァンパイアの邪視で亡者を金縛りにした雷鳴は亡者を尋問したようなのです。最終的には浄化を私に任せてくれましたが―――
「雷鳴、今度からそれは止めてあげて下さいね」
「はいはい、どうせどこから来たか吐いただけだったしな」
「え?聞き出せたのですか?どこです?」
「チェントって言ってたぞ」
「それは確か以前、依頼で行った、雪男に全滅させられた村ですね」
「そうそう。あの時は雪と氷に閉ざされてて埋葬とか無理だった奴」
「今頃埋葬が進められているのではないかと思うのですが」
「その前に祟ったみたいだな」
ピロリロピロリロ
いきなり懐から音が鳴り始めて………ってギルドの身分証じゃないですか!
慌ててカードのギルドの紋章を押し、返事をしてみます。
「はい、こちらサラマンダー」
「総合受付のシアですぴょん。現在取り掛かっている依頼がないなら受けて欲しい依頼があるのでぴょん」
「取り掛かっている依頼は無いのですが、先に聞きたいことが。いいですか?」
この時点で私たちは川辺で車座になり、真ん中にカードを設置しています。
「いいぴょん!何ぴょん?」
「以前依頼をこなしたバールト村の雪男の件なんですが―――何か後を引いていたりしませんか?例えばリットとチェントの犠牲者が祟るとか」
「タイムリーだぴょんね………実は依頼はそれなのぴょん!依頼受領受付のミーミーの方が詳しいから今代わるぴょん!」
「皆さんいつもお世話になってるニャア。ミーミーだニャア。犠牲者が祟るってどこからの情報ニャア?バールト村はうちにしか情報を回してないニャア」
「いえ、私たちも「ほうりだした」と祟られてしまいまして。気にはなっていたので、時期を見て行った方が良かったでしょうか」
「どっちみち村の人も埋葬したのに祟られてるから無駄だったと思うのニャ」
「あの地に魔王のオーラが降って来たから、放置されてた霊が埋葬の前に暴走したんじゃないかっていうのが、ギルドの見解だニャー」
「で、実際の被害はどんなもん?ミーミーさん。俺らは川を除いたら背後に憑いてて、対話を試みたら実体化して襲われたんだけど?」
「あにゃー。そんな直接被害があったのかニャ」
「うん。今そいつらの顔思い出しても絞殺されたか殴り殺されたご面相だったから、そこの村の被害者で間違いないとは思うんだけど」
「そう言う被害は出てないニャー。亡霊を見てが病にとりつかれたり、憑き物がついたように他人に喧嘩を売って回るとかで、特に病の方は危ない人が出て来てるそうニャ。チーム・サラマンダーにはもしかして元々霊感の高い人が多いニャ?」
「「「「あ―――」」」」
「………そうなんニャね。なら特殊ケースじゃないかニャア」
「で、依頼の話に戻るけど、チーム・サラマンダーに医療の心得は無いかニャ―?聞くまでもなさそうだけど亡霊への対処はできるかニャ―?」
「どちらも、全員が得意としております」
「ホントかニャ!色んな意味で連絡してもらって正解だったのニャ!受けてくれるニャ!?なら準備をしてギルドに来てニャー!大急ぎニャ!」
「すぐに向かいます。いいですか皆さん?」
「あーまあいいよ」「もちろん行きます!」「否やは無い」
「じゃあ待ってるニャ!通話終了!」
「後始末だな。魔王のオーラのせいだろうけど、しょーがない」
「気にはなっていたのですが………安らかな眠りにつくはずの人々に悪影響を与えるとは魔王のオーラ、許すまじです」
「依頼の時は気になってたけど忘れてたよ………お詫びのためにも行かないと」
「魔王だか何だか知らんが、さっさと払ってしまおう」
「その前に。みなさん鏡の前に立っても「亡霊」は見えませんでしたよね?」
「………いわれてみればそうだな」「俺もだな」「俺もです」
「なら川で見えたという事は、水鏡とかあれば見えるんじゃないかと思うんですが」
「それなら俺が持ってる。常に水が張られてて、縦にしてもこぼれない奴」
「相変わらず何でも持っている人ですね………ではそれを持って行きましょう」
「了解」
私たちはピクニックの片付けを済ませ、手早く準備を済ませます。
その後「ウイング(ヘリ)」に乗って、ヘカトンケイレス商会の屋上へ。
「ウイング」を雷鳴が亜空間に片付けたら、冒険者ギルドへ。
依頼受領受付のミーミーさんの所に急ぎます。
「待ってたのニャ!僻地から飛んで来たにしては早いのニャー。とりあえず、説明は全部通信でしちゃったけど、まだ聞きたいことがあるかニャ?」
「よそから来た人が祟られる事はありますか?行商人とか」
「いんニャ。それは聞かないニャ。多かれ少なかれ関係がある人のみニャー」
「なるほど………一応無差別ではないんですね。わかりました、それだけです」
「じゃあ健闘を祈るニャ!」
「有難うございます」
こうして私たちは、ギルドの裏手で「サラマンダー」を出し、ごはん屋さんを呼ぶことになりました。
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