第29話 アイシクルワームの進撃 後(雷鳴)

 対アイシクルワーム戦を明後日に控えて、1度俺たちは拠点に戻ることにした。

 理由?コイントスの宿が冒険者で一杯になっていたからだ。

 「サラマンダー」に泊まるにしても、置いとくのが邪魔になるしな。

 明日の夜にコイントスに出発すれば十分だろう。


 さて、帰ってきたらもう夜だ。

「フリウ、晩御飯作るの手伝おうか?」

「ありがたいですね、お願いします今日はエビマヨと、もやしとほうれん草のオイスター炒めと、トマトの中華スープです」

「OK、副菜とスープは任された」「お願いします」


 夕食ができた。

「ミシェル、後で座椅子の採寸をしような」

「うん、みんなバラバラの座椅子に座ってるからキッチリ測らないとね」

 そんな事を言いつつ、エビマヨを齧る。プリプリした身の食感がよかった。

 もちろんフリウの味付けも美味しい。


 副菜とスープもおおむね好評。

「雷鳴に任せると、思った通りの物が出来上がるので有難いですね」

「まぁ料理は趣味で教わったし………人界の食料でここまで作れるフリウの方が凄いんじゃないか?天使は野菜と果物しか食えないんだから」

「料理の本を見ながらですから………そんな大したことはないですよ」

 十分凄いと思うんだがなあ。


 夕食が終わって、くつろいだ時間が訪れた。

 俺とミシェルは座椅子カバーを作るべく採寸―――とりあえず試しなので俺のから―――にいそしむ。ミシェルも立派な手芸男子になったもんだ。

 その後、ミシンの使い方を教えて、今日はお開きとなった。


 次の日は、夜まで好きな事をして過ごした(食事の用意はあったが)

 俺の座椅子カバーが完成した事だけ記しておく。

 ミシェルはやっぱりこの手の事に適性があるな。いい出来だ。


♦♦♦


 「ウイング」で町まで向かう。夜明けまでには到着する予定だ。

「そう言えばヴェル、お前前回の仕事(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)では、ナックルを使ってたよな。何で今素手なんだ?」

「前回レイズエル………様に貰ったのは、悪魔の俺に適合するものだったからな。天界では使えない。それで「10の贈り物」のおかげで筋力も10倍になったのはいいんだが、筋力に耐えれるナックルがなくてな………素手になった」


「ああー。じゃあ姉ちゃんに頼んでみよう『姉ちゃんそういう訳でヴェルが無手になったらしいから、何かあげてくれない?』」

 そう言うと、ヴェルの手元がきらめき、何かが膝の上に乗る。

 青い水晶のようなもので出来たナックルが1組だった。


「これは………「世界一固い鉱物」ですね「ヴァルキリーの剣山」ともいいます。ふつう、加工はできず、そのままの形で利用するしかないはずですが………」

「姉ちゃんなら加工できるって以前聞いたことがある。そもそもが封印のカプセルはこれの成分を参考にして作ってるって言ってたな」


 ヴェルはナックルに思い切り力をかけてみているが、びくともしない。

「良いな、気に入った。外見も天使らしいしな」

「レイズエル様ってこっちをリアルタイムで見てるのかな?」

「全世界を、だな。姉ちゃんは全世界をリアルタイムで把握してるはずだよ」

「脳は大丈夫なの?」

「極限強化脳なのに加えて、4つ脳があるってさ。どこに、かは知らないけどね」

「うわあ………」


 姉ちゃんの話題に花咲かせているうちに「ウイング」はヘカトンケイレス商会の屋上に着陸した。ここは除雪されているようで何より。


 もうすぐ夜明けだ。俺たちは冒険者ギルド前に並ぶ冒険者たちの元へ行く。

 総合受付の兎人のシアさんが冒険者たちをレベル順―――外側に低レベル中央に行くほど高レベル―――に並び替えていた。

 近付いていくと「きたですね、中央の前にならんでピョン」と言われた。


 依頼完了受付の狐人、ルールーさんが状況説明をする。

「アイシクルワームは3時間ほど後には南部穀倉地帯に入る!皆さんにはそれを手前で食い止め殲滅して貰いたい!既に避難は完了している、遠慮なく暴れて下さい!」


 依頼受領受付の長毛猫人、ミーミーさんが冒険者ギルドの旗を持って

「途中までは魔法陣で送り届けるニャ、現地でまた陣形を組みなおしてニャ!」

 と大型魔法陣へ皆を誘導する。俺たちは最後だ。

「みんなには4人の顔を周知しておいたから、最前線はお願いなのニャア!」

「「「「了解」」」」


 魔法陣の先では、もう遠目にアイシクルワームが迫っていた。

「全員に飛行魔法と加速魔法を付与しますので、私達について飛んで下さい」

 フリウがそうと言うと、おう、と冒険者たちがフリウの魔力の豊富さに驚きながらも気合の声を上げる。

 激突はもうすぐだ。


♦♦♦


 もうすぐアイシクルワームが間合いに入る、というところでフリウが叫んだ。

「3人共、こいつらを先に行かせないために結界を!食い止めますよ!」

「「「了解!」」」

 『念話』でイメージを共有して、網のような形の結界を張る。20m四方の結界だ。


 どおん、とアイシクルワームが結界に体当たりする衝撃。

 よし、進撃は一時的にせよ止まったな。

「開戦!」

 俺の叫びに、冒険者たちが思い思いの攻撃でアイシクルワームを攻撃していく。


 俺たちは統率個体の撃破だ。

 フリウが特徴的な大剣を振りぬくが「ガリガリガリ」と言う音がして、装甲に食い込んだものの弾かれる。ヴェルも装甲の分厚さに、ナックルが通らないようだ。

 ミシェルは胴体の切れ目に刃を差し込んでいるが、まだ効いた様子はない。

 

 一番危険な俺の「口」だが『ファイアーボール』を叩き込んでみた。

 そうしたら口内が輝いて『アイスストーム』を吐き出してきやがった。

 とっさに口を塞ぐように結界を張る俺。

 アイシクルワームはブレスを詰まらせて苦しそうにのたうち回ったが「ガリガリガリ」とそれすら食べて、何事もなかったかのように復活して来やがった。


 

 だが、ファイアーボールはダメージにはなったようだ。全員に通達する。

 するとミシェルが「胴体にひびが入ったからそこを攻撃する」と返してきた。

 それには冒険者側の魔法使いが奮起した。

 ダメージの入らなかったアイシクルワームにダメージが入るようになってきたな。


 俺は「口」を引き付けつつヴェルとフリウの担当場所に炎熱攻撃の援護をする。

 何度か「口」に噛まれたが、俺は自己再生するので問題ない。

 気を付けていたので、破損個所が食われる、なんてこともなかったしな。

 

 バキ、と言う音と共にミシェルが胴体の外殻を破壊した。

 さすが「超怪力」持ちである。紫色の体液が飛び散った。

 ただ、ミシェルが外殻を破壊できたのは、頭をこっちが引き受けているからなので、ミシェルをこっちに呼んで同じ結果が出せるかと言うとNOだ。

 このまま頑張るしかない。


 フリウが外殻を一直線に切り裂いた。何度も同じ場所をなぞる正確さの勝利だ。

「GYAAAAAAAONNNNNNN!!」

 首元は急所だったのか、統率個体が痛みに猛り狂って滅茶苦茶に暴れる。

 これは………

「みんな仕方ない、退避!」


 他の冒険者も、とばっちりが来るので一時退避していた。

「それぞれ担当の個体の、ダメージを受けてる場所があればそこへ―――ファイアーボールか火炎系魔法、斉射」

 目の前に炎の花が咲く。


 俺たちは統率個体の喉元と胴体を狙って斉射だ。

「『神聖魔法;神聖火炎セイクリッド・フレイム』!!」3連!

「『教え:血の魔術:呪いの業炎(広範囲化)』!!」


 アイシクルワームたちがもがき苦しむ。何体かは口に入ったらしく小規模ながら『アイスストーム』を繰り出してきたが、フリウが貼った結界に阻まれた。

 さあ、再度接近戦だ。


 何度か接近戦→遠距離炎熱攻撃→接近戦を繰り返して、アイシクルワームの軍勢にも陰りが見えてきた。次の接近戦で終わりにしたい。

 冒険者側にも死者が出た―――丸呑みにされたので、蘇生はできそうにない。

 統率個体の頭を、もう少しでヴェルが割れそうなのだ、奮起してもらうほかない。


 俺は「口」に雷撃魔法―――お返しが来なくて一番効きがよかった―――を叩き込みながらできるだけ引き付けるが、さっきからフリウとヴェルを振り落とそうとする動きが活発になってきた。

 そんな時―――


「届いたぞ!」

 ヴェルの叫び声が聞こえ、ぐちゃ、と言う音が響いた。続いて

「心臓を捉えました」

 とフリウ。慎重に戦っていると思ったらそういう事か。


 黒いオーラのせいだろうか?脳を砕かれてもなお暴れまわった統率個体は、心臓を貫かれる事でようやく動きを止めたのだった。

 こっちに来てから一番手こずった相手と言えるだろう。

 あとは通常個体の殲滅に協力するのみだな。

 俺たちはそれぞれ飛行して、他の冒険者のフォローに回った。


♦♦♦


 死屍累々のありさまだったが、生き残った者には回復魔法をかけていく。

 食われた者も、ワームがすり潰していなければ蘇生が可能だったのだが………

 無事だったものはいなかった。


 あちこちで「ピロリロピロリロ」とレベルアップを告げる音がする。

 勿論俺たちのカードからも。

 一気に64→70に上がっている。道理で力が戻った感覚がする訳だ。

 100レベルに達したら元と同じように力が振るえるだろう。楽しみだ。

 治療中の冒険者に見られないようこっそりと笑みを浮かべるのだった。


 死んだ者も遺体を―――ひき肉だったが―――回収し、冒険者ギルドで合同葬儀が執り行われた。街の郊外に、小さな石碑を目印に埋葬される。

 俺は葬式と言うのは慣れない。魔界にその習慣がないからだ。

 だがフリウのアドバイスで、とにかく真面目な顔を維持する事にした。


 これが尾を引いて、しばらくうちの雰囲気が葬式だったのには参った。

 いつもの雰囲気に戻るまで、2、3日かかったのだった。

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