フィアメッタ合衆国編2

第28話 アイシクルワームの進撃 前(フリューエル)

雪は解け、水ぬるむ春。とはいかないのがこの地方の特色でしょうか。

今は3月半ばですが、吹雪かなくなっただけで、雪は降るし地面はカチコチです。


 王都から拠点に帰ってきた私たちは―――クラウンの事は気にかかるにしても―――平常運転に戻っていました。

 雷鳴は帰るなり車庫で「サラマンダー」のメンテナンスを始め、ついでにとネズミ 捕りを多数仕掛けていましたね。


 彼以外の3人が天使な以上、生け捕り必須。

 なので「春まで飼うのか」と嫌そうにしていました。

 冬の屋外に放りだせば死にます。

 天使としてダメですから、必然そういう事になりますね。

 

 ドブネズミでなく、ユキネズミだったので大丈夫かもしれませんが………。

 でもダメかもしれませんし、推測で凍死させるのはやはり天使としてダメです。

 仕方がないから雪が解けたら遠くに放しに行く………と悪魔ヴァンパイアである雷鳴は10匹以上はいるユキネズミを前にため息をついています。

 それが天使と生活するということです、すみません。


 この光景が例によって朝、飲み物をもってガレージに行き『生活魔法:除雪』して中に入った時の光景です。ちなみに飲み物は暖めたココアです。

 雷鳴は私達と生活サイクルを共にしたいと『定命回帰』をずっと使ってくれていますから、こういうものも渡せていいですね。


「ネズミの餌も持って来るようにしましょうか?確か種子や穀物でしたか」

 雷鳴はココアを受け取りながら

「ああ………頼むわ。いくらドブネズミじゃないからってネズミに餌やりはな」

 そこまで言うほどでしょうか?

「編み物とかはいいんですか?あと、猫を飼っていたと聞きましたが?」


「あー、その辺は趣味だから考えない方向で。ネズミの餌やりは俺自身も嫌だし。猫はペットとして確立されてる種族だからいいんだよ」

「はぁ、そんなものですかね。それより朝食ですよ、家に上がってらっしゃい」

「お、了解」


♦♦♦


 朝食はスタンダードなものです。「いつもの」という奴ですね。

 ここの星に来て、それが言える時間が経過したと思うと感慨深くもありますね。

 ちなみにメニューは双子の卵焼きに、厚切りのベーコン(疑似肉)、コンソメスープ、自家製のパン(モチモチした白パン)です。


 ミシェルと雷鳴はどの座椅子のカバーをどっちが編むか話していますね。

「毛糸で編むのは来年の秋にして、今は普通にカバーを作ったらどうです?もう1ヶ月もしないうちに雪も止むでしょうし?」

 そう言われて気付いたらしく、布とミシンの話に移行していきます。

「ミシンはこのあいだ送ってもらったものが。布は市に買いに行けばいいですよね」


「確かにそうだな、今日市に行って、冒険者ギルドにも寄るか」

「依頼はチームのカードに入るとはいえ、全部網羅されてるわけではないでしょうし、誰かが困ってそうな依頼なら受けるにやぶさかではありませんね」

「フリウって結構理屈っぽいよね………」

「バカ、あれは冷静と言うんだ」

「自覚ありますから………ヴェル、フォローしてくれなくていいです………」


 と、とりあえず午後の予定は決まりましたね。

 雷鳴の作る昼食を食べてから、動き始めると言ったところでしょうか。


♦♦♦


 相談を続けるミシェルと雷鳴を置いて、私とヴェルは戦闘訓練です。

 『アライヴ(死ぬ一歩手前で蘇生してくれる)』をかけて本気モードです。

 ヴェルは「10の贈り物」を昇天の際に受け取っており、悪魔時代とは10倍の能力差があります。堕天の際にもこれがあるから堕天使は厄介なのですけどね。

 まあそれに関しては、お互いさまというところでしょうか。


 昇天前のヴェルの実力は私より格下でしたが、昇天後は格上になっています。

 ですが動きが荒い。まだ能力を使いこなせていませんね。

 力は脅威、動きも俊敏ですが、先を読み先手先手を打つ私には当たりません。

 唯一範囲魔法が脅威ですが………好みの問題かあまり使ってきませんね。


 ちなみに前(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)と違い、ヴェルと私は自分本来の武具を使っています。

 ヴェルはゆったりとした白いズボンに上半身裸、武器はなし。素手です。

 わたしは、巨大な白い中華包丁のような大剣と、白と青を基調にした紋様の入った全身鎧。それと体を覆い隠すほど大きなカイトシールドです。


 長引きましたが―――15分―――勝負はつきました。私の勝ち、です。

 ヴェルが勝ったことは今までありません。

 単純に能力が10倍になればいいというものではないのです。


 え?ミシェルと雷鳴の装備ですか?

 ミシェルは鎖鎧チェインメイル胸甲ブレストプレート、幅広の長剣ブロードソード丸盾ラウンドシールドです。

 雷鳴は防具普段の恰好のままですが―――ケープやマントに変化する黒い上着で防御は足りているのだそうです―――青龍刀をメインに多彩な刃物を使いこなします。

 打撃系の武器はあまり好みではない、そうです。


 ちなみに試合では、雷鳴が最強です。

 辛うじて私が3分持つかどうか。どういう鍛え方をしたらああなるのか―――。

 元々超高能力者の家系のようですけど、鍛えないとああはなりません。

 本人は「姉ちゃんの要求に耐えれるようにしただけ」と言ってますがね。


 よって私達の力量は「雷鳴」>「フリューエル」>「ヴェル」>「ミシェル」

 となります


♦♦♦


 お昼ご飯ですね。

 ヴェルは肉の食べれる昼食を楽しみにしています。

「少し妬きますね」といったら、お前の料理はまた別枠だと力説します。

「さて?本当ですか?」

「本当に決まってるだろう、誓ってもいい」

「そこまで言うなら信じましょう」

 もとより疑っていませんでしたが………可愛いですね。


 今日のメニューは生ハムのチーズ和えを前菜に、豚肉(天然)の生姜焼きと千切りダイコンのサラダ、ジャガイモのポタージュ、白米でした。

 悪魔の作った昼食でもこんなに美味しいのだから困ったものです。

 あ、ヴェルの分の生姜焼きは厚切りでした。


「どこでこんな料理を学んだのです?」

「えーとな、姉ちゃんレイズエルの家で、家政婦やってた人から教えて貰った。困ったように「仕方ない坊ちゃま」と言うのが可愛い人でな………」

「種族は?」

「妖怪カラクリ族………妖怪化したアンドロイドだよ。女の人」

「なるほど………」


 ごはんを味わいながら雷鳴と会話をします。

 妖怪が魔界に居を定めるのはさほど珍しい事ではありません。

 魔界は来る者拒まず―――天使を除く―――ですからね。

 しかし、そのアンドロイド嬢はかなりのすご腕ですね。


 朝食を食べ終わって、コイントスまで行く手段を協議します。

「吹雪が止んでるから、「ウイング(ヘリ)」でいいんじゃないのかなぁ」

「でもまだ雪が降ってるし、帰りを考えるとサラマンダーで良いんじゃないのか?」

「ウイングはコイントスまでで、亜空間収納にサラマンダーを収納しておけばいいんじゃないですか?依頼ですぐに出かけないとも限らないですし」

「ああ、それだ」

 こういう時、本当にヴェルは口を挟みませんね。


♦♦♦


 半日を費やし、コイントスに来ました。

 まずは市です。座椅子カバーとして、それぞれが気にいった布を選ぶのです。

 

 私は生成色のキャンバス地の布を選びました。黄色と言えないこともありません。

 雷鳴はやはり柔らかい綿の赤い布、ミシェルも色違いの緑色。

 ヴェルは柔らかい布はあまり好みではないらしく、青い麻布を選びました。


 それから減った食材を補充して―――。

 やっと私たちは冒険者ギルドに辿り着きました。


 冒険者ギルドは何故か大勢の冒険者が集まっています。

 事情を聞こうと適当な人に声をかけようとしていたら、依頼受領受付のミーミーさんから呼び止められました。

「ちょーど連絡しようと思ってたのニャ!今回の依頼、メインとして参加してくれないかニャ?アイシクルワームが大量に町に向かって来てるのニャ!」


 落ち着いてもらって、依頼の整理をしましょう。

 アイシクルワームとは?

 アースワームの一種らしく、とはいえ土を食べるアースワームとは違い、好んで氷土をたべるのだそうです。大きさはちょっとした家並み。

 有機物(動物や人間)も食べ、その巨体も相まってかなりの強敵だそうです。

 しかも今回は統率個体が出現したらしく、他の個体の10倍の大きさを誇ります。


「みんなでサポートするから統率個体をお願いしたいのニャー。レベル64(王都のゴタゴタで上がった)なんて今は他にいないのニャー!そうそう、統率個体は「魔王の怨念」持ちだニャー!」

 それを聞いたら断るなんてできませんね。他の3人を見渡します。

 無言で頷く3人。決まりですね。


「協力してくれるニャ?良かったニャー。先鋒と中間を他の冒険者で何とかするから、先方のど真ん中にいる統率個体を潰してニャ!場所はコイントスの南、氷海とコイントスの間だニャ!交易路があるからなお厄介なんだけど、進撃速度は遅いから明後日の朝出発なのニャ!8時集合ニャ!」


「ならいったん帰るか「ウイング(ヘリ)」で偵察してから帰ろう」

「そうですね、いきなり見てびっくりしないようにしませんと」


 偵察に行った私たちの目に映ったのは、勢いよく進撃してくるアイシクルワームの10数体の群れでした。これは………先鋒を受け持つ他の冒険者は大変ですね。

 そして中央の統率個体は、体の先端の大口で、凍土を削り喰らい進んでいるのですが………それだけなら他の個体と同じなのですが、大きさが桁違いです。


「戦術を立てる必要がありそうですね」

「そうだな、口部分は俺が引き付けて、できればダメージを与える。頭の下―――首か?にはフリウ。線攻撃が長いから、できれば頭を切り落としてくれ」

「では私の反対側の首にはヴェルを。打撃で組織を破壊してください」

「ミシェルは悪いが他の冒険者の応援を頼む。だが尻尾が出てきたら破壊してくれ」

「わかった」「が、がんばる」


こうして俺たちは、一旦帰路についたのだった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る