第27話 出張編 後(雷鳴)

 ヘイゼを本に捕獲して帰ってきた。

 ミシェルとヴェルミリオンも待っていたので、そのまま冒険者協会に行く。

 話は通してあるので、尋問に立ち会い、証人になって貰うためだ。

 呼ばれてきたらしく、王都のギルドのマスターも来ていた。ありがたい。


 尋問は、カプセルに封印した時とやる事はあまり変わらない。

 尋問して嘘か本当か分からない答えを得るよりも、質問の答えを思わず思い浮かべた思念から読み取るテレパシーを使う方が、よっぽど精度が高い。

 なので尋問にはカプセルに封じた時と同じ方法を使う。


 ただ、フリウのテレパシー説明し、その説明が真実だと証明する、実効力のある(天使や悪魔の使う物ではないが)誓約書を書く手間はあったが。


 尋問役は変わらず俺。

 きゃいきゃいと内心と違う(テレパシーで一発だ)返事があったが、それは完無視して、フリウのテレパシーで得られた情報は以下のものだ。

 

 エヴィルは自分がいなくなったら、大統領が一人になったところを見計らって、強引に体を奪うだろう。

 魂を吸い出してからではないので大統領の魂とのせめぎあいはあるだろうが………

 大統領の魂を掌握したら、もともと仲の悪い隣国との戦争を起こすだろう。

 クラウンのために生贄が必要なのだ。

 もうすでに、王宮の近衛兵や使用人の一部は、生命をクラウンに捧げさせてアンデッドにしてある。他の生者も徐々にそうしていくつもりだ。

 魂はアンデット化したもの以外、全て「封印の針」に入れエヴィルが持っている。

 エヴィルはいつもは、大統領公邸の地下の隠し部屋にいる。

 アンデッド化の儀式もそこで行う。今もいるはずだ。

 クラウンの居場所は自分は知らない。エヴィルはどうか分からない。

 エヴィルの外見はこんな感じだ―――


 などなど………


「つまり俺たちのやる事は、何かな?」

 俺は教会の幹部とギルドのマスターを見渡す。ギルドマスターが口を開いた。

「大統領に面会して許可を取るから、公邸に来てその悪霊(堕天使をそう理解したらしい)を払ってくれ」

 それじゃ間に合わないと思うんだが。

 多分エヴィルは大統領が帰って来て一人になり次第牙をむくと思う。


 他の仲間を見ても、俺と同意見のようだ。

「悪いが、事後承諾になっても、今から動く。後でフォローしてくれ」

「おい、勝手な真似は―――」

 言いかけたギルドマスターを教会の支部長が宥める

星神グロリア様の選んだ勇者たちです、任せましょう」

「しかし―――」


「ギルドマスター。俺たちは大統領が憑かれる前に、エヴィルを捕獲したいだけだ」

「大統領の危険は少ない方がいいと思いますよ?」

「まあ、体を作り直す羽目になってもいいというのなら俺たちは構わんのだがな」

「ヴェル、そんな。肉体があるうちに倒してあげましょうよ………!」 

ヴェルやミシェルまで主張する。


 ギルドマスターはしばし唸ったが

「………大統領を助けてあげてくれ。いい女性なんだ」

 と言った。

 俺は親指を立てて了承した。


 教会支部長さんからは、エヴィルを封印したら―――本での封印がお望みだそうだ―――一度協会支部に帰って来てくれと言われた。

 大統領が帰って来るのは明日だから、直で説明には行けないわな。


♦♦♦


 そのまま行動開始。大統領公邸にとんぼ返りだ。

 もちろん、今回はヴェルとミシェルも一緒だが。

 公邸が一望できる場所にまず陣取ってフリウに聞いてみる。

「フリウ、地下の隠し部屋のエヴィルの気配は分かるか」


「はい………先導しますので、道行きで出会った人達は眠らせて下さい。アンデットだった場合は浄化の奇跡を与えて下さい」

「「「了解」」」


 俺はフリウのすぐ後ろにつく。浄化の奇跡に巻き込まれるのはごめんだからだ。

 そのかわり『スリープミスト』の効く相手は俺が引き受ける。

 

 エヴィルのいる隠し部屋までは、最短の場所から侵入したにもかかわらず結構な距離があった。加えて、アンデッドも多い。

 俺は浄化の光のせいで目がくらみそうだ。だが一般人もいる。

「『スリープミスト』!」

「「浄化の光よ………!」」

 

 かなりの距離を走り、たどり着いたのは隠し部屋になっていた地下通路。

 本来は、この国フィアメッタ合衆国の前身であるフィーア帝国の王族のために用意された脱出用通路なのだろう。

 公邸はフィーア帝国の宮殿をそのまま使っているのだ。

 扉を開けると、ダンジョンの様な雰囲気が俺たちを包んだ―――


 探索する事しばし。

 呪文を唱える声が少し先の部屋から聞こえてくる。

 先手必勝だ、俺はみんなに目配せし、その部屋に滑り込んだ。

 そこには聞いていたのと同じ特徴の、エヴィルと思しき女が祭壇に向かっている。

 背後には寝かされた人間―――使用人や騎士―――が6人ほど。

 そして、茶色い毛皮の大きな猫。


 大きな猫から即死攻撃が飛んできた。アンデッドを作るのに使われているのだろうが―――俺はもともとヴァンパイアしにんである。効くわけがない。

「気を付けろ!即死攻撃してくるモンスターがいる!」

「見る限りアダンダラですね。男性にしか即死攻撃は効かないはず。私が相手をしますので、他のみんなは抵抗してくださいね。かかっても『蘇生』しますけども」

 フリウがそう言うので、後続の2人と一緒にエヴィルに向かう。


 戦闘はかなり長い事続いた。

 向こうは「姉妹と巨人たちの仇」と全力攻撃なのだが、こっちは弱らせないといけない。フリウが早々にアダンダラを倒し、部屋の死体達―――今の段階なら蘇生魔法が施せるそうだ―――に結界を張って参戦してくれたのは有難い限りだった。


 エヴィル、悪魔(堕天使も悪魔だ)としてはかなり強い部類である。

 極寒の吹雪や灼熱の熱波を呼ぶ呪文で、かなり健闘したといえよう。

 だが、所詮は後衛なようだ。それで俺たちを阻むことができるだろうか?

 答えはNOだ!


 封印するためにかなり殴ったのは、フェミニストの俺としてはちょっと気の毒に思ったが、ちょっと痛めつけただけで封印できたヘイゼとは違ったのだ。

「クラウン!」

 最後の叫びと共に、エヴィルは本に封印された。

 そして部屋の死体達には『死者蘇生』が施されたのだった。


♦♦♦


 俺たちはそのまま隠し通路を抜けて、街に帰る事にした。

 でないと大統領公邸は大騒ぎだろうからだ。

 俺の『観測』の『教え』により、分岐路はあっさりと判明した事だし。

 ちなみに出た先は町の外の山の斜面だった。


 冒険者協会支部に帰ると、慌ただしく人が動き、すぐに会議室が解放された。

 というより俺たちが帰って来るのを待ちわびていたようだ。

 

 すぐにエヴィルの尋問が行われた。

 形式はヘイゼの時と同じ………いや、今回はギルドマスターが尋問すると言ったのだが、天使悪魔の理を知らない者が尋問するのは難しいとやんわり断った。

 その代わり、後で質問させろと言われたが、フリウがいいなら俺は構わない。


 尋問結果―――


 クラウンとは夫婦だ。子もなした。

 この国を乗っ取ろうとしていた経緯はヘイゼの言っていた通り。

 クラウンは人間だから、まだ力が足りないと本人が言うので、生贄を捧げて強化してやっていた。そのための手足として魔王の残した怨念は役に立つと言われている。

 なので、積極的に取り込んで支配し、クラウンの元に送っていた。

 クラウンは用心深く居場所は自分も知らない。接触はいつも向こうから。

 汚染されたモンスターを送り届ける術では他の生命体は送れない。

 もう少しで隣国との戦争が実現しそうだったのに。


 ―――といった感じだ


 その他の質問は大した返事は得られなかったので、フリウが時機を見て口を挟む。

「エヴィルは人の魂を所持しています。私達(天使3人)なら生前と同じ「器」を用意してあげられるので、封印の書からそれだけ抜き出させて貰えませんか」


「本当にそれだけの意図か?」

 ギルドマスターが睨むが、フリウは

「また契約書にサインしても大丈夫ですよ?しますか?」

 と平然と応じた。疑われる事には慣れている、という感じだった。

 ミシェルとヴェルも苦笑している。


「………いや、しなくていい。わかった」

 他の面子に否やは無いようであった。


 本に手をかざし、フリウは目的物を引っぱり出す。

 エヴィルが忌々しそうにしているが、無視だ。

 フリウの手には10本ほどの編み針の様な金属製の針が握られたのだった。

「空き部屋をお借りしますね。ヴェル、ミシェル仕事ですよ」

 3時間ほどで針の中の魂は器を得た―――もちろん大統領の娘もだ。


 ギルドマスターの要望に応じて―――何かあったら俺たちに連絡が来るが―――封印の書は冒険者ギルドならびに協会にお任せする事になった。


♦♦♦


 体(器)を取り戻した人々は冒険者ギルドが経緯を聞き取った上、故郷に返してくれるというので、俺たちは「サラマンダー」に帰ってきた。


「どうしましょうね、これから」

「後始末や大統領への説明はやってくれるんですよね」

「ならホームに帰ろうぜ」

「王都ギルドマスターの爺さん、今後は俺たちに魔王の怨念のついたモンスターを積極的に回すように手配したと言ってたな」

「望む所だな」

「早くホームへ帰りましょうか!」


「その前に!思い出にまたモンスター料理でも食いに行かないか?」

「いいですね」「肉か。なら断る必要はないな」「面白そうだ!」


 この王都に来て初めてで最後になる店。コカトリス料理を食った店だな。

 前回は確認しなかったが店の名前は「マジカルフラミンゴ」といってモンスター料理専門店だ。ここなら天使たちも細かい事を気にせず肉が食べれる。


 チョイスは俺に任されたので、クラーケン足の串焼きをメインに一角ウサギのステーキ、スライムのスープを注文する。

 予想はしていたがクラーケンの足の串焼きは、4人で食べても大ボリュームであった。でもぎゅっと塩味が染みてて美味しい。

 フリウが栗鼠みたいになっていたのも可愛くて微笑ましかった。


 一角ウサギのステーキはさっぱりして美味しい。

 ウサギ肉らしくほぼ赤身だけなのだが固くはなかった。

「え、普通のウサギ肉に似ているのですか。何だか申し訳なくなりますね」

「一角ウサギはモンスターなんだから、忘れて食べようよ」

「コイントス向こうの拠点の近くにもウサギはよくいるな」

「獲るなよ」

「今はもう獲れん。堕天する一歩だろうが」

「丸くなったよねえ、ヴェル(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)」

「あそこでは食べ物自体がなかったがな」


 最後はスライムのスープである。

「何かトロンとしてて………ちゅるると水込めてしまうような」

「あったかいのに、なんかひんやりしてるよね………」

「味は薄味だが、肉料理のあとだと悪くないな」

「たぶん、この国の立地的にアイススライムを使ってるからじゃないかな?」

「あーなるほど」「核が冷えてるんですかね」「酔い冷ましには良いな」


 その後も酒宴は盛り上がり―――

 酔わない俺が「サラマンダー」を運転して帰路につく羽目になったのだった。

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