第26話 出張編 前(フリューエル)
2月半ば、王都旧市街の空地到着―――
「ここか?本当に空き地だな」
「塀があるだけ視界が遮られてマシだろう」
雷鳴とヴェルがそんな事を言いながら「サラマンダー」をだだっ広い空き地の真ん中に駐車します。
彼らの言う通り、四方は塀。
教会の敷地だっただけあって、高い塀で助かります。
まあ、駐車したところで結局「サラマンダー」に仮住まいするのですけどね。
寒いので(2月!)外で食事をする気にもなれませんし。
それに私にはやることがあります。
テレパシーで堕天使を探すのです。
私のテレパシーの有効範囲は惑星ひとつを覆うほど。
でも、遠くの者の「声」はよく聞こえません。
ですが王都の内部程度なら、時間をかければ、個々の判別が可能なほどはっきり「聞こえ」ます。それを皆に説明して、情報収集することにしました。
盗賊ギルドを利用するという案もあったのですが、前回堕天使に情報が漏れていた節がありましたので、今回の情報収集は私が担当する事にしました。
ベッドの上で横になり、集中を始めます。
「フリウ、昼と夜の食事は俺が用意するから、無理のない範囲でな」
私は目を閉じたまま
「ありがとう」
と言って深い集中に入っていきました。
♦♦♦
………暗闇に揺蕩っている私に、思念の奔流が流れ込んできます。
要・不要を識別しながら―――非集中時では、私に呼びかけている声でもない限りこれができないのですよね―――目的の場所の思念へと飛んでいきます。
大統領の自宅にその人物はいました。
大統領の娘(の体に入った堕天使ヘイゼ)の思念を捕えたのです。
思念というのは普通に聞いても分かり辛いので読み取ったものを翻訳すると―――
「明日大統領を娘(の姿の自分)の部屋に呼んで、体を奪う。それにお姉さまが入る」
「憑りついた器の知識は読めるから、それを活用して民衆を集めて生贄にする。軍はエヴィル(姉)が操っているから問題はなにもない」
というものでした。急がないといけません。
ちなみに、もちろん他の雑念も色々ありましたが、それは省いて抽出しています。
「3人共、急ぎのお知らせです」
ベットから飛び降りながら声をかけます。
「かくかくしかじかで………今日中にはヘイゼを確保しなければ。エヴィルも危険です。リスクを冒してでも大統領の器を手に入れようとしたら………」
「まあ、落ち着け。ヘイゼは忍び込んででもなんでも、カプセル銃で確保するさ。
エヴィルが大統領に憑依した場合でも、集会をする前に倒せばいいだけの話だろ?」
「そうですね、すみません。相手の思念が邪悪だったのでつい、焦りました」
「「蛇」の思念らしきものは無かったか?」
「いえ………でも思考が誘導されているもの―――悪魔によってでですが―――特有の不自然な思考をしていました。蛇の痕跡かもしれません」
「成る程………じゃ、とりあえず潜入組は俺とフリウだね」
「そうですね、ぞろぞろ行っても仕方ないですし」
「はい………技能不足ですみません」「………おいおい覚える………」
居残り組の2人が申し訳なさそうな顔をしますが、こればっかりは適性ですし。
どうしようもないと思います。
「では雷鳴『インビジビリティ(透明化)』の術をかけて、空からの接近でいいでしょうか?公宮はタマネギの断面状の街の真ん中ですし」
「いちいち普通に壁を潜り抜けてたらすげぇ時間かかると思うし仕方ないな。じゃあ出発は夜で。それまでは王都の美味しい店をはしごしようぜ」
「どれだけ食べる気ですか………」
そう言いつつ、私も笑顔になっていました。
♦♦♦
王都というだけあって、とても賑わっていますね。
人の体温で、そこ一画だけ雪が解けています。
ああ、もちろん除雪のあともありましたが。ちなみに除雪機は魔道具でした。
さすが王都と言ったところですね。
「おーい、みんな。この店にしようぜ。『勘』が旨そうだと言ってる。それにみんなで鍋を囲んだ事ってないんじゃないか?」
「おいしそうだね………」「俺は、構わん」
「わたしも構いませんよ。何の鍋です?」
「コカトリスのトリ鍋」
「モンスターじゃないですか!?」
「その方が気兼ねなく食えていいだろ?」
「それはそうですけど………もういいです、それで」
しかし雷鳴、こんな事にも『勘』って働くんですね。
「雷鳴、コカトリスってどんなの?」
「簡単に言うと尻尾が蛇の、ごっつでかい鶏。石化の邪視を飛ばしてくる強敵」
「………食べて平気なの?」
「お店で出てる奴なんだぞ、食えるだろう」
「まあ、私達の丈夫さなら大丈夫だと思います」
若干フォローになっていないフォローを飛ばす私。
「まあ、ふつうの動物を食べるより罪悪感は無いのだからいいでしょう?」
「俺は魔界で普通に狩って食べてたから今更かな………」
「戦魔領は基本サバイバルですもんね」
わいわいと話していたら大きな鍋が出てきました。
………特大の
みんなで覗き込んで………最初に箸を入れたのはヴェルでした。
「うむ、プリプリで美味い。これは料理人の腕だな」
その言葉に全員が箸を進めて―――しばし感想を言い合いながら鍋をつつきます。
「俺、大きい鶏って言われて、大雑把な味を想像してましたけど違うんですね」
「うん、むね肉の辺りも美味しいもんなぁ」
「汁まで美味いな」
「頑張って、レシピを再現してみたいところですね………」
店を出た頃にはもう夕方。
拠点―――というか「サラマンダー」―――に帰らなければ。
途中、雷鳴が何故か服屋に入って行きましたが、持っている物を見て納得。
全身、黒装束にできる衣類の組み合わせです。
ごまかすためにでしょうが、普通の服も同じぐらい買い込んでいました。
「後でリメイクして遊ぶ為に、わざとシンプルな奴を選んだ。ミシェル、持っとけ」
………そんな事まで考えて買ったのですか。
♦♦♦
深夜。
黒装束(防寒仕様)の上に『
留守番組はもちろん、起きて私達を待つことになりました。
「………雷鳴、あの建物です。どうやら自室に戻っているようですね」
「好都合だ、行くぞ」
私たちはその部屋の窓辺にふわりと舞いおります。
すると、中にいた人物―――姿は可憐な令嬢―――が首を180度回転させてこちらを見てきました。ちょっとしたホラーですね。
「フリウ、今思ったんだけど、冒険者ギルドやこの国の首脳部に説明する必要があるから対話できないカプセルじゃなくて、封印の本に封印しよう」
「わかりました。と、すると弱らせないと、封印できないですね。出来るだけ早く無力化しましょう!」
5分も経ってなかったでしょうが、緊迫した戦闘がありました。
なにせ、ヘイゼは、人の体の可動部を無視した動きをしてくるのです。
魂も、まるでアンデッドのようで………気持ち悪いですね。
同じアンデッドの雷鳴には全く感じた事がなかったのですが。
2人で連携し、腰骨を砕いた事でようやく相手の動きが止まりました。
『ルーンロープ』で捕獲し、完全に動きを封じた上で、封印。
その時―――扉にノック音が。
私たちは再度『透明化』をかけ、雷鳴は『
おかけで見つかりませんでしたが、大統領の息女が誘拐されたと蜂の巣をつついたような騒ぎになってしまいました。
大勢が押しかけてくる前に、慌てて官邸から脱出する私と雷鳴。
ですが―――
「雷鳴、気付いてますか?」
「うん、アンデッドの気配が追いかけて来るな」
「はい、どこか空地にでも誘導しましょうか」
「そうだな、人間巻き込むわけにもいかないし」
気配は素直についてきました。空地に着地します。
相手もややあって姿を現します。がっちりとした鎧を着こんだ骸骨です。
「ヘイゼ、様。どこやった、カエセ」
「支配の術で操られているのですね。今浄化して差し上げます」
「ちょ、まっ、フリウ!俺が離れてからにしてくれ!」
「あ」
「あ、じゃないよ!」
こほん、雷鳴が離れてから私は『
おそらく支配が弱まった事で出た本音。
何故ならサラというのは大統領の娘さんの名前だからです。
「大丈夫、必ず魂を取り返し、器も作って帰してあげますから―――」
「ホントウニ………?」
「誓います」
この方は、誓いの強制力などご存じないでしょう。
それでも納得して下さいました
光が溢れて―――彼(思念で読み取りました)はただの骨に帰りました。
拾い集めて、丁重に亜空間収納に収納します。
もろもろの事が終わった後、きちんと埋葬するためです。
そうして私と雷鳴は「サラマンダー」に帰りつきました。
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