王都出張編
第25話 白と黒、出張(雷鳴)
雪男と堕天使を掃討(堕天使は封印カプセルの中)した俺たちは、またレベルが上がっていた。全員62レベルだ。
それはさておき、帰りの「サラマンダー」の中で、尋問タイムが発生する。
質問は俺、質問に対して相手が思い浮かべた事を読み取るのは、勿論フリウ。
と言うかフリウの超能力でないと、カプセルの中身の思考が読み取れないのだ。
超能力者―――しかもフリウとためを張るテレパシストなんてそうそういない。
他の2人は、運転しながら聞いておいてもらう事にする。
後で質問することがないか聞くので、運転中でも聞いておいてもらうのだ。
質問&思考読み取りした結果をまとめるとこうだ。
こいつの名前はマル。姉にエヴィルとヘイザがいる。
前にアルファが言っていたベーゼと言う名はヘイザの愛称らしい。
遠方の冒険都市リッケルトの属するアナンザ王国での計画の進捗が思わしくないため(計画を進めさせていた人間サイズに変化したネフィリム、ベータがミスをしたらしい)自分たちの存在が知れていないこのフィアメッタ合衆国に来た。
この星で堕天使が活動できているのは、この星の住人であり姉婿でもあるクラウンが、自分の影響下にある組織を使って「悪魔召喚」しこの星の住人の、魂の抜けた体に受肉させているからである。
奪った体の魂は「封印の針」というアイテムに封印し、エヴィルが管理している。
刺した相手の魂を奪う封印具の一種だ。
天使と悪魔には効かない。
が人に転生している俺たちには効く可能性がある。危険だ。
目的はクラウンにこの星を支配させること。
クラウンはすでに魔王の遺骸と残った力をを取り込んでいて、魔王の残した呪いを取り込むことで、さらなる力を得るのだとか。
最後には星神の力を取りこむ事で、星の支配すらできるのではないかと推測しているそうだ。そのクラウンの力で、天界魔界から逃れようとしているのだ。
その一環で、呪いに汚染された雪男達を全て集めるのと同時に、クラウンに人間の生贄を捧げようとして、雪男襲撃事件を起こしたという。
国だの星だのの支配を口にする割には、みみっちいな。
まあそれはおいといて、取り合えず最後まで尋問しよう。
今回の侵入は順調で、もうすぐ大統領(女性)にエヴィルが憑依する算段ができる。
具体的に言うとヘイザが大統領の娘に成り代わっており、後は人払いができれば………という状況のようだ。かなり危ない。
クラウンが大統領になれば、隣国ボナンザ連合との戦争を起こすつもりだという。
戦火を世界中に広げ、世界中を混乱に陥れたら、星の神殿を破壊する。
そうすればスターマインドの意思を無視し、異世界から軍勢を用いる事ができる。
周囲をどうやって黙らせるつもりなのかと問えば、時間はかかるが(1年ぐらい)エヴィルの操術で、側近は全て操るとの事。
やっぱりこいつら、やる事が甘い。そういう時は、周囲を一瞬で黙らせないと。
このへんで、思考を読み取るのが難しくなってきたとフリウが言った。
思考を読みとられているのを察し、雑念で思考を乱しているのだと思う、と。
「あと読み取れたのは、私達の正体には気付いていない事と、この「マル」の肉体が人間の貴族の女性のもので、魂はエヴィルが持っているという事でしょうか。
封印から肉体が出せない以上、魂に合わせて
「それは任せるけど………エヴィルを封印する時は気を付けないと、封印具を身に着けたままで封印してしまったらまずいな………」
「それは怖いですね………手だてがありますか?」
「後で
「今の場所から引っ越す訳じゃないですよねー?」
恐る恐ると言った感じで俺とフリウの会話に割って入ってくるミシェル。
「みんなここ気に入ってるもんな」
「そうですね、大丈夫ですよミシェル。あくまでも拠点はここにしましょう。
私達の育った星神信仰の教会のつてをたどり、王都に居場所を確保しましょう。
コイントスの街の教会から連絡をつけて貰えばいいでしょう。
神殿は元冒険者ギルドのメンバーばかりですから、
おそらく冒険者ギルドの宿を一時拠点にする事になるでしょうけど」
「臨時とはいえまたこいつらのせいで移動すると思うと、なんか嫌だけどな」
「………まったくだ」
ヴェルまでぼやいた。
「ところでみんな、忘れててよく見てないと思うんだけど、このカプセルの中に「破壊の蛇」の「
「「「えっ?」」」
全員慌てて、カプセルを凝視する。蛇の話は出てからだいぶ経ってるし、カプセルにぎゅうずめの「破壊の蛇」を視認するのは難しいから仕方ないけど。
「敵の親玉、他にもエヴィルやヘイザにも憑いてるかもしれないから気を付けて。それこそ封印カプセルの出番かもしれない」
「すみません雷鳴、油断していました」
「気を引き締め直すよ、ごめん」「………そうだな、悪かった」
「とりあえず、蛇よけの扇子をすぐ出せる所に持っておきます」
「うん、そうだな。カプセル銃は今まで通り必要になるまで俺が持ってる。
それとヴェルは運転。前見て。ミシェル、ちゃんとナビゲートしろ。
道から外れたんじゃないか?今の衝撃は」
「うわわ、街道の柵を超えちゃったあ」「む………すぐ戻る」
♦♦♦
コイントスの街の神殿にて。
フリウは神殿に事情を話して、俺たちが育った神殿へ通話させてもらっている。
ミシェルとヴェルは、冒険者ギルドへ報告に行った。
俺は俺で、1人で(付き添いの神官つきだが)星神の祭壇に来ていた。
「星神グロリアよ………我が義母レイズエルと話す事を乞い願います………」
10分ほど祈りを捧げていただろうか。
こんなこともあろうかと星神の聖典を暗記してて良かった。祈りが通じたのだ。
祭壇の上に
「そっちの状況は把握してるわ、なかなか厄介ね」
「うん。把握してるなら持ち物を対象外にして封印するやり方が無いのか教えて」
「単純よ。撃つ時に「これこれは対象外!」と強く念じて打てばいいの。人質を取られた時用につけた機能なんだけどね」
「ああ………あいつらすぐ人質とるよね………」
「銃とカプセルは一旦無限収納庫に入れる許可をするから、登録してみんなに配って良いわ。使い方はよく指導してね。まあ、「蛇」は言葉に出したことは全部感知するから、もし宿主と同化してたら普通に人質は取らないでしょうね。もしくは同化してなくても宿主の思考を動かすぐらいの事はしてくると思う」
「からめ手で来るかも、ってこと?」
「まあ、普通には取ってこないでしょうね」
「あんまりいい予感はしないなあ」
「馬鹿ね、雷鳴。「蛇」相手でいい予感なんてする訳ないのよ」
「はい………そうでした」
しおたれつつ、忘れる前に姉ちゃんにカプセルの中身の尋問?の仕方を伝える。
「テレパシーか。なるほどね、まだ使っていない脳の容量を使って習得しましょう」
「え!まだ容量あるの!?」
「私の脳は複数だから、まだまだ平気よ。テレパシストとしての力も才能だけならある。開花させてないだけでね」
「………俺もそのうち増えそうだなあ」
「その時は増設手術してあげる」
「ははは………」
じゃあね、と手を振る姉ちゃんと別れる。
神殿の広間に戻るとするか。
♦♦♦
少し待つと、ミシェルとヴェルがやってきた。
「雷鳴、報告は済ませたよ。受付ルールーさん曰く、正直他の星のことなんて聞いた事も見た事も無いから、ギルド教会につてがあるなら直接交渉していいって」
「
「戻りました」
会話をしているとフリウが戻ってきた。
「どうなった?現地のギルドにツナギは取れそうか?」
「大丈夫です。宿泊できる土地まで手配してもらいました。教会の持っている土地で、今は使われてない塀だけある更地だそうです。周囲にはなにもないそうで」
「良かったです。誓いは立てさせましたが、周囲にどんな迷惑が及ぶか分かったもんじゃないですからね」
「ミシェルの言う通りの事を危惧して、私も不便な場所を選んで貰いました。
「サラマンダー」で行って、そのまま「サラマンダー」で仮住まいをしたらいいで
しょう。王都までは「サラマンダー」で30日ぐらいのようです。
天候のせいでどれぐらい遅れるか分かった物ではないですけどね」
「そうだな。メンテナンス用品とかも拠点に残してるし、
必要なものを拠点に取りに帰って、それから出発しようか」
「そうですね、それでいいですか、ミシェル、ヴェル?」
「もちろんです」「………いいんじゃないか」
♦♦♦
拠点に帰ってきた。
俺はガレージの中の物を軒並み「亜空間収納」に放りこんでいく。
ミシェルは毛糸や衣類、日用品を持って行くと言っている。
俺も日用品の類は持って行くかな。
ヴェルは本当に必要最低限の物しか持って行かないつもりのようだ。
フリウもいろいろ揃えている割には、出張となると持って行くものが少ない。
結局、帰って来て2時間後には、王都アヴァランシュへ向けて出発となったが、忘れてはいけないのは食料である。
俺たちは拠点の前の「サラマンダー」前で「ごはん屋」を呼び出す事にした。
「ごはん屋、カムヒア!」
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~
食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
いまいちどこから聞こえてくるのか分からない上に、囁き声程度だった声がどんどん近づいてくる。上空を振り仰げば「しゃー」と自分で擬音をつけながら、虚空をスキーで滑って来る「ごはん屋」の姿が。
何やっとんじゃ、あいつは。
「到着!致しましたぞぉ!毎度ご注文ありがとうございますぅ!」
「今回は派手な演出だな」
「えへへぇ、人里離れておりましたので」
こいつ、いつもは少しは遠慮してたのか?
「まあいい、今回は弁当を20日分、材料を20日分見繕ってくれ」
「ははぁ~、心して選ばせていただきますです、はい」
「フリウもそれでいいだろ?」
「はい、ずっとお弁当と言うのもどうかと思いますからね」
「朝飯を弁当にしよう。少なくとも夜は二人で作ろう」
「ありがとうございます、そうしましょう」
「あ、ごはん屋、肉は疑似肉にしてくれよ、美味い奴を頼むぞ」
「ごはん屋」は袋に上半身を突っ込んだまま答えた。
「かしこまりまして~ございますぅ~」
「ごはん屋」は大き目の袋の口を絞って、ごちらに差し出してきた。
「自信作でございますぞ!どうぞお納めください」
「ん、ご苦労さん。今回はこれをやる」
「これは………黄金の杖?2本もですか。しかし年代物ですな」
「エジプトの、出土してないファラオの墓にあるものを貰ってきたやつだよ」
「おぉ!それは貴重!有難く受け取らせていただきますぞ!」
「今回は要求が多かったからサービスだ」
「喜びの舞を………」
「せんでいい」
「しょぼーん、ですぞぉ………」
ごはん屋はしおたれて帰って行った。
俺たちは「サラマンダー」に乗って、一路王都へ走るのだった―――
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