第24話 堕天使と雪男 後(フリューエル)

 私達一行は、冒険者ギルドに急ぎ到着しました。

 依頼受領受付のミーミーさんの所に、全員で向かいます。

「チームサラマンダーです。カードに連絡がありましたが、緊急ですか?」

「よく来たニャア。緊急なのニャア。今年は寒さが厳しくて、雪男が各地で見られてるんニャけど、おかしい連中がいるのニャア。いくつかある北の方の村ニャんだけど、村が一つ全滅させられたみたいなのニャ」


「それは………急がなくては」

「連絡が来たのは昨日ニャから、まだ無事だとは思うんニャけど、急いで向かって貰えないかニャ?大丈夫ニャ?」

「大丈夫です、構いませんよね、みなさん」

「いいよ」「大丈夫です」「………急がないとな」


「ニャー。助かるニャ。普通は単独の雪男が、群れているから気を付けて行ってらっしゃいなのニャー。頑張ってニャ!」

「有難うございます」

「場所はこの地図の(と赤ペンで印をつけて)ここなのニャ。全滅した村の様子を見ていた人もいるそうニャから、まずは話を聞いてからとりかかるといいニャ」

「はい、わかりました」


 私達はギルドの裏に回ります。ごはん屋さんを呼ぶのです。

 雷鳴が召喚のための石を取り出しました。

 この石、天界勢力でも使えるならいくつか欲しいですね、聞いてみましょう。


 雷鳴が目立たない程度に声を上げます。

「ごはん屋!カムヒア!」

「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~

 食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」


 鼻歌は近くにある木のこずえから聞こえてきます。

 ガサガサと言う音。木の葉の中からにゅっとごはん屋さんが顔を出しました。

「ごはん屋、参りましたぞ!とうっ」

 華麗に着地。普通のリザードマンにはできない芸当ですね。


 彼は揉み手をしながら

「して、今回はどれぐらいご用意しましょう?」

 雷鳴が地図から距離を割り出している間に聞いてみましょう。

「ごはん屋さん、あなたは私たち天使の任務中などの呼び出しにも応じてくれるのでしょうか?お金はどうしましょう?」


「ほ?お呼びとあれば誰であろうと、このごはん屋、報酬のある限り参上!

 する次第ですぞ!どーんとお任せください。

 報酬は―――天界には貨幣はありませんな。

 物質創造ではないものに限りますが、お支払いは宝石などで結構ですぞぉ!」


「任務内容は漏らさないでいただけるのでしょうか?」

「そこはそれ、誓いの言葉を交わすにやぶさかではありませんぞ?もちろん代金を増額していただけるなら、ですがなぁ」

「それは有難いです。でしたら召喚の石を10個ほどいただけませんか?」

「毎度!」

 

 あっさりと召喚の石をくれました。

 天界配達便を通じて天界に持って行ってもらいましょう、もちろん説明書付きで。


「ごはん屋、吹雪も考えると往復6日だ。滞在は3日見積りで合計9日な」

「108食ですな、了解ですぞ!」

 ごはん屋さんは、いつものごとく袋をごそごそとやり、お弁当を魔法の小袋に詰め込み、雷鳴に渡しています。スピーディーですね。


「今回は『黄金のクルミ』というマジックアイテムだ。詳しいことは説明書に書いてあるから、ちゃんと読めよ。もちろん魔力を持った金として売買もできる」

 彼は説明書を読み、レアものだったのでしょうか?飛び跳ねています。

「これまた、ありがとうございます!喜びの舞を―――」

「いらん」

「しょぼーん、ですぞ………」


「では退散いたします。またのお呼びをお待ちしておりますぞー!」

 彼はしゃしゃしゃっと、残像を残しつつ木に登り―――気配がなくなりました。

「金魔と食魔のあいのこって、あんなに運動能力あったっけ………?」

 雷鳴の言葉が全員の気持ちを物語っていますね。


♦♦♦


 道中は、雪男のせいなのか何なのか、ひどい吹雪でした。

 一番慣れている雷鳴が「サラマンダー」を運転していたのですが、何度もコースアウトしかけたのです。視界がききません。


 別の問題もありました。―――ねずみです。

 エンジンルームに入り込んでいた―――暖かいですからね―――らしく。

 計器がおかしくなったりしていたのですが、エンストした時雷鳴がエンジンルームを覗いて発覚しました。白い雪ねずみですね。


 殺す事はできません。ですので取り合えず封印の書に入っていてもらいます。

 春になったら森に放しましょう。

 簡単な修理で出発できたのは、行幸と言えるでしょう。


♦♦♦


 途中、雪に埋まった2つの村を見かけました。

「あれが襲われた村でしょうか?だとしたら雪男は南から順に襲っていることになりますね。ちょっとおかしいのではないでしょうか?」

「こっちが南だもんな。山から下りてきたんじゃないって事か」


「雪男がわざわざ南下してから、追い詰める形で襲ってるって事だよね」

「一応知能のある種族だからないとは言い切れんが………」

「不自然だな」

「同感」「目撃者の話を聞くしかないですね」「………あぁ」


 しばらくしてから、きちんと雪下ろししてあり、明かりの灯った村を発見。

 全員「サラマンダー」を降り、雷鳴が亜空間収納に「サラマンダー」を入れます。

 手近な家の扉を叩き

「すみません!冒険者ギルドから派遣された、チームサラマンダーといいます!」

 初老の男性が顔を出してくれます。


「すみません、どこで状況を聞いたらいいでしょうか?」

「取り合えず村長の所に行ってみて下さい、あっちの突き当りです」

 男性は落ち着きがなく、何かに―――雪男でしょうが―――怯えているようです。

「わかりました、早期決着を目指しますので」

「お願いしますよ!」


 男性の指さす方に行ってみると、唯一の2階建ての建物が見えてきました。

 戸を叩き、先ほどと同じ口上を述べます。

 出てきたのは20代前半とおぼしき若い男性でした。

「取り合えずお入りください!」

 家の中に案内されます。暖炉が燃え、とても暖かいダイニングです。


 全員が座る事が出来るスペースがあったので、勧められるままに座ります。

「村長さんは、あなたなのでしょうか?」

「はい。父が2年前に他界しまして、若いですが僕が村長です。あ、現場を見ていた村の狩人を連れてきますので、お待ちください。メリル、お茶を!」

「はい、兄さん。お茶とお茶菓子を準備しています!」


 村長さんはフットワーク軽く外に出てゆき、入れ替わりに素朴な感じの女性がお茶とお茶菓子を持って来てくれました。

「来てくださってありがとうございます。見てはおらず伝聞ですが、実際友人が死んでいて………正直怖いのです」

「お任せください、必ず仇を討ちますから」

「ありがとうございます」


 村長さんが、自分と同年代ぐらいの男性を連れて帰って来ました。

「目撃者で、村の狩人をしている、幼馴染のショーンです」

「早速で申し訳ないのですが、状況をお聞かせ願えますか?」

「はい、あれは12日前―――」


 それは彼が南の森に狩りに行った帰りだったそうです。

 南の村であるリットとチェントから、ただ事ではない悲鳴がいくつも聞こえてきたので、走って駆けつけてみると、雪男が女性を絞め殺している場面に遭遇しました。

 雪男は少なくとも10体がおり、村人を虐殺してまわっていたそうです。

 普通の雪男にはない、黒いオーラを纏っており強そうに見えたとか。


 1体ならともかく、その数では殺されてしまうと、茂みに隠れて息を殺していると、村の中間地帯にいつの間にできたのか分からない洞窟のようなものが出現しており、その中に雪男たちは消えていったそうです。

 恐怖をおして入口を偵察してみると、雪男は12体だったそうです。


「それぐらいしか分かりませんでしたが………何とかなるでしょうか?」

「最大限努力します。すみませんが、この紙に地図をお願いします」

「はい」


「みんな、暗くならないうちに偵察に。出来れば今日突入しましょう」

「雪男は炎系の魔法がよく効くんだったか?」

「そのはずです、全員習得済みですね」

「よし、じゃあ魔法の絨毯で出発しよう。吹雪いてて視界が悪いからはぐれるなよ」

「「「了解」」」


 私たちは急いでバールト村を出ます。

 ラクシア村で買った魔法の絨毯(一人乗り)に各自乗って行くこととなりました。

 スノーモービルではないのは、音を消す為です。


「………あれじゃないか?ほら、あの吹雪の吹き溜まり………っと、わっぷ、風向きがこっちに来た………あれ?この気配ニオイは………」

「………瘴気ですね。堕天使のものと特徴が一致します。それに、あの雪男たちの心を読みましたが『忠誠を』と『殺す』で占められています」

「ええ!じゃああいつら、堕天使に操られているという事ですか!?」

「しっ、ミシェル、声が大きいです。その可能性が大ですね。取り合えず見張りを片付けて、奥を探ってみましょう。一撃死の魔法を使えますか、雷鳴?」


「ああ『教え』に丁度いいのがある」

「では1匹づつ担当という事で」

「了解『教え:血の魔術:サイレントキル』………成功」

「『最上級:無属性魔法:デス』………こちらも成功」

 雪男たちは無言で雪に倒れました。吹雪がその体を覆っていきます。


 私たちは中を伺います。雷鳴が『教え:観測:縮小国家』を使います。

 中は恐らく魔法で作られたのでしょう、直線の通路に、奥に大きな広間。

「堕天使のいる部屋はどこだ?」

 広間の奥が点滅します。今居るのですね。


「広間の奥に隠し通路のようなものがある。正面から突っ込んだら逃げられるな」

「隠し通路の出口は………あっちのようですね。出口で誰か待機して足止めしましょう。それと、できれば封印銃か本で封印したいですね。そうしたらテレパシーで尋問できますから嘘はつけません」

「俺が待機する。封印はカプセル銃の方が楽だな。封印を解かなくていいのなら、だけど………交渉材料にするなら完全に無力化して本だ」

「カプセルでいいでしょう。殺さないだけ温情です」

「わかった。1対1で負ける気はしないから、雪男を殲滅してから来てくれ」

「わかりました。ではミシェルにヴェル、突入しますよ」

「じゃあ後でな」


 私たちは洞窟に突入しました。

 操られているだけかと思いきや、魔王の呪い―――黒いオーラに包まれた雪男たちです。手加減する気は無くなりました。

 出てきた雪男は全部倒し、とどめを刺します。

 ヴェルとミシェルに残敵掃討を任せ、私は隠し通路に急ぎました。


 隠し通路はさほど複雑でもありませんでした。

 即席で作りましたという感じですし、何より堕天使の気配が尾を引いているので、迷う要素がありません。出口ではすでに雷鳴と堕天使の攻防が始まっていました。

 しかし、前もそうでしたが、外部の者を寄せ付けないこの星のシステムをどうやって誤魔化したのでしょう。封印したらそれも聞き出さなければ。


 私は隠し通路に半分隠れたまま、不意打ちの一撃を準備します。

 無詠唱で極限まで威力を高めた『火属性:上級魔法:呑み込む火柱』を放ちます。

 ………堕天使が空中から落下―――の途中で、雷鳴がカプセル銃を撃ちました。

「フリウー!封印成功だ!」

 雷鳴がカプセルをキャッチし、こちらに向かって手を振っています。


「フリウ、残敵は掃討したぞ」「1~2匹だったので、すぐ片付きました!」

 私と同じように道を辿ってきたらしく、ヴェルとミシェルがやってきました。

「2人共、お疲れ様です。雷鳴!他にいないかどうか周辺を見回りましょう。

 おそらく『下級:無属性魔法:センス・エネミー』で見回れば

 視界がきかなくても大丈夫でしょう」


「「「了解!」」」

 見回りをしましたがあの雪男達は集団で動いていたのか、残敵はいませんでした。

 村人が殺されて廃村になった場所も見回りましたが、酷いですね。

 みんなで話し合って、見舞金を出す事にしました。埋葬も大変でしょう。

 全ては春になるでしょうが………


♦♦♦


 村に帰って来て村長さんに、報告を済ませました。

 全滅した村の惨状も伝え、見舞金を金貨500枚渡します。受け取って貰えました。

 さらに雷鳴が、売れるものがあるなら高額で買い取ると言い出します。

「価値があるか分かりませんが、祖父の形見で古貨幣のコレクションがあります」

 見せて貰った雷鳴が、これなら金貨300枚出すといいます。


(雷鳴、本当にそんなに高い物なのですか?)

(この星ではそこまで珍しくないだろうけど、他の星なら別だよ)

 なるほど。


「春になったら辛い作業かもしれませんが………頑張ってください」

「なにかあったら、チームサラマンダーを頼ってくれ」

「何から何まで、ありがとうございます。見舞金を貰ってしまいましたが報酬は?」

「「「「いりません」」」」

「本当にありがとうございます!」


 雪の降る中でしたが、村人総出で見送ってくれました。

 家に帰ったら、堕天使の尋問ですね。

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