第23話 堕天使と雪男 前(雷鳴)

12月も末だ。


 俺は相変わらず24時間起きているのだが、こないだガレージに閉じ込められた。

 雪が吹き込んで困るので、ドアを閉め切って作業していたら、夢中になって結構時 間が経っていたらしく、大雪が積もってドアが開かなくなったのだ。

 ただ、閉じ込められていた事に気付いたのは、フリウが扉を叩いたからである。


「雷鳴!いますか!?背丈より高く雪が積もっていますよ!『テレポート』で出て来て下さい、除雪できる量を超えています!」

 慌ててテレポートで外に出てみたら、物凄いもっさりと雪が積もっていた。

 屋根にも思い切り積もっていたので、その日の朝はガレージを諦め、屋根の雪下ろしをした。ガレージが余計埋まったので何とかしようと思い―――


 結局『生活魔法:除雪』を開発した。

 これは全員が覚えた。おかげで交代で除雪できるようになったのである。


 ちなみに最近の改造は、超強力なワイパーを「サラマンダー」につけた事だ。

 吹雪の中をコイントスまで走る(滑る)のに必要だったのだ。

 困ったのはネズミ。最近住み着いたらしく、おかげでしょっちゅう断線する。

 おかげで出かける前には必ずテスト走行する羽目になっている。

 猫でも飼うか………?


♦♦♦


 朝、「サラマンダー」の整備点検を終えた頃『生活魔法:除雪』と声がした。

 ドアが開いて入って来たのは勿論フリウだ。という事はもう5時ぐらいか。

 いつものごとく、湯気の立つコーヒーを手渡してくれる。

「いつもサンキューな」

 ヴェルも本当にいい嫁を貰ったもんだな。


 フリウと一緒に家に入り、俺は亜空間収納をチェックする。

 今使っているこの亜空間収納は、配下の魔女たちに開放してある。

 おかげで、この惑星に居ても貢物が届くのだ。

 そろそろ来る頃合いなのだが。ああ、届いてる届いてる。


 亜空間収納に入っていた貢物は―――羊肉(処理済み)、ムートン、羊毛。

 カシミヤ山羊の毛糸と、普通の山羊の肉と乳。

 アンゴラうさぎの毛糸、チンチララビットの毛皮、レッキスラビットの肉と毛皮。

 それとアルパカの毛糸。これがいつものラインナップ。

 まめで可愛い魔女たちだ、面倒見て良かったな。

 

 手紙を亜空間収納内に置いておく事で、こちらから物資も請求した。

 ちゃんと読んだようで、新しいミシン2台がある。

 ちなみにミシンを欲しいと言ったのはフリウだが、俺も使うので2台だ。

 大量の布も送ってきたので、取り出して居間に積む。


 新しいのはニワトリとガチョウ(グース)の羽毛。

 使い道は―――ダウンジャケットとか羽根布団でも作るかな?

 フリウが使うかもしれない。


 それと、「ローザ・ベルジーネ」の広大な薔薇園を有効活用しようとしているのだろう、養蜂を始めたようだ。かなり広い薔薇園だからな。

 薔薇100%の蜂蜜と、ローヤルゼリー、エディブルフラワー(薔薇)まである。

 はちみつは巣蜜もあった。美味しそうだ。


「フリウー。ミシェル―。色々届いたぞー」

 2人は居間に積み上がる貢物の山を見て目を丸くしている。

「フリウ、ローヤルゼリーはフリウが飲むといいよ。美肌に良いから。

 あとローズ100%の蜂蜜があるから、何か作ってくれ。

 エディブルフラワーも食べるだろう?というかどれでも好きな物を使うといい。

 どうせ半年に1回は送って来るから」


「本当に色々送ってくれるのですね。私達までいただいて、本当にいいのですか?」

「もちろん。俺一人じゃ使いきれない」

「お返しは何がいいですか?」「俺も何かお返ししたいな」

「そうか?若い女の子ばっかりだから、ショートケーキとか喜ぶと思うぞ」

「一緒に作りましょうか、ミシェル?」「ハイ先輩。手伝います」

「材料にはこれを混ぜるといい」


 俺は「食べられる黄金」の粉末を2つ分取り出した。

「これを混ぜて焼くと、食べても減らない黄金のお菓子ができるんだ。俺たちにはクッキーでも作ってくれるか?」

「では、蜂蜜クッキーも作りましょうか。あと全員のダウンジャケットも作ります」

「楽しみにしてるよ」


「では、朝ごはんは巣蜜を乗せたパンケーキと、薔薇のサラダで」

「たまには甘い朝食もいいな。頼む」

 そうこうしているうちに、ヴェルが起きて来た。

「なんだ、この山は………」

 おっと、片付けた方がいいな。壁際に移動させよう。


「悪い悪い、魔女たちからの貢物なんだ」

「………肉はともかく、毛皮だの毛糸だのを要求するのはお前ぐらいだ」

「いいじゃないか、魔界のものとはちょっと違うし」

「魔界でもそんなこと(編み物)をやってるのか?」

「魔界にいるときも、季節的にまだ寒いからやってるな。レース編みもする。

 毛糸は主に奥さんたちに好評だ。妊娠中はみんな編み物してた」

「………俺には理解できん話だ」

「フリウが編み物裁縫できるじゃないか?」

「俺自身は絶対やらない」

「はいはい」


 朝食ができたようだ、甘い香りがする。フリウがパンケーキを運んで来た。

「大皿にパンケーキを盛っておいたので、好きなだけ重ねて下さい。

 巣蜜と蜂蜜、バターはこちらのお皿から好きなだけどうぞ。

 あ、パンケーキ自体は甘くないですよ。

 ヴェルはバターだけで食べてもいいかもしれませんね」

「そうさせてもらう。甘いのは苦手だ」

「「「いただきます」」」


 朝食後、ミシェルが後ろに手を回して近寄ってきた。

「えへへー。雷鳴ー」

「どうした?」

「じゃーん、セーターが完成しました!教えてくれてありがとう!」

 真っ赤なセーターが背中から出てきた。

「マジか、これ俺の?スゲェ嬉しい。着てみていいか?」

「もちろんだよ!」


「着心地いいな。上手く編めてる」

 一生の思い出になりそうだ。本当に嬉しい。

「次は何がいいかな?」

 それなら、と俺はミシェルに、ルームシューズの作り方を教えた。

 足元が冷えているとフリウが言っていたからだ。

「お前とヴェルの分は俺がやるから、フリウと俺のを頼む」

「了解ー!」

 ミシェルは上機嫌で毛糸(羊)を手に取り『染色ダイ』で黄と赤に染めている。


 俺も、まずはヴェルのを作るべく、足のサイズを測りに行く。

「ヴェル、前が開いてるのと、閉じてるのならどっちが良い?」

「閉じてる奴だな、ところで雷鳴。お前金属の刻印はできるか?」

「彫刻が一番の趣味だから、その流れでかじった事はあるけど、どうした?」

「………全員のドックタグを作りたい」

「それならドックタグには刻印機があるから簡単だ。昼食後に使い方を教えてやる」

「ああ、頼む」

 珍しいこともあったもんだ。嵐が来るんじゃないか?


 そのせいかどうか分からないが、昼前にもの凄く吹雪いた。

「どうする、フリウ。これじゃ冒険者ギルドに行けないぞ」

「大丈夫ですよ。チームの証明書カードがあるでしょう?」

「身分証明書だろう?ただのカードじゃないのか?」

「はい。依頼完了受付のルールーさんによると、通信機能があるそうなのです。

 これを通じて、そのパーティがやりそうな依頼が来たら

 連絡してくれるらしいです。条件は伝えておきました」


「どういう条件?」

「人間が人数問わず困っている、敵が人間ではない、できれば高レベルの依頼、緊急性のある依頼、ダンジョンには不慣れでもなんとかなる………と言う感じです。通信が来たらカードから呼び出し音がするそうですよ」

「高性能だな。前の冒険者ギルドにはなかった」

「そうですね、この地域の方が文明が進んでいます」


「なら心配しなくてもいいな………昼飯でも考えるか」

 今日は寒いよな………温まるものがいいか。サムゲタンでどうだろう。

 亜空間冷蔵庫をのぞいてみたら、鶏肉は沢山あったので決定だ。


「昼飯だぞー」

 言いながら大きな土鍋をテーブルに置く俺。

「「「いただきます」」」

 美味しいし温まる、と昼食は好評だった。


 昼食後、冒険者ギルドの身分証明書をテーブルに設置した。

 音が鳴るなら、どこの部屋にいても大丈夫だろうが、念のためにヴェルがドックタグを作るのに付き合うのはリビングでやる。

「やったことはあるのか?」

「見た事はあるが、やった事は無いな」

「簡単だ、この機械で刻印するだけ。無地のプレートは『物質創造』で。この説明書のサイズの奴を作ってくれ」


「ふむ………こんなものか?錆びないようミスリル銀にしてみたが」

「サイズ通りだな。それでいい。何を刻む?」

「名前、チーム名、血液型、種族、生年月日、性別、連絡先………そんな所だろう、身に着ける用と保管用の2つを作る」

「了解。この機械は………という感じで使う」


 製作は、フリウとミシェルに質問に行ったりしつつも、スピーディーに終わった。

 早速全員に渡し、肌身離さず持つことにする。

 これはこれでいい記念品になりそうだ。


 結局この日は冒険者ギルドからの呼び出しは来なかった。

 夜は、一応俺が身分証を持っておく。どうせ寝ないしな。

 車関係は点検ぐらいしかやる事がなかったので、夜の間ルームシューズを編む。

 次の日は吹雪が止んでいい天気だったが、またもや1Fが埋まっている。

 みんなが起きてくるまで、仕方ないので『除雪』して回る。


 朝食を軽く済ませた後、フリウと俺の「市に食材を買いに行きたい、ギルドにも行かないと」と言う意見が通り「サラマンダー」に乗ってコイントスの街に向かう。

 映画ではないが、いつも通りミシェルがDVDを発掘してきた。

 「名車再生」という番組(実在)で、クラシックカーのレストア、改造をテーマにした番組で、かなり長い間シーズンが続いているものだ。

 当然といおうか、俺のコレクションである。


「いつも雷鳴がやってるのって、好きじゃないとできない感じなんだね」

「うん、そうだな。俺は小さい頃から好きだったんだ」

「天界の地面は雲だから、普及のしようがないんだよね」

 主に俺とミシェルが喋りながら「サラマンダー」は街に到着した。

 ちなみに今回の運転手はフリウだった。


 市で買い物し、貢物の肉類をさばいて「貰って」からギルドへ向かう途中。

 突然ポケットに入れっぱなしだった身分証が、ピロリロピロリロいいだした。

「フリウ、これどうやって出たらいいんだ」

「ギルドのマークを押してください!」

 言われた通りにする。


「あ、もしもし。チームサラマンダーですか?」

「そうですけど、今街に来てるんで御用ならすぐ行きますけど」

「あ、そうですか?じゃあ依頼受領受付のミーミーの所までお願いします」

「わかりました」

 俺たちは急ぎ冒険者ギルドに向かうのだった。

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