第22話 ラクシアのゴーレム 後(フリューエル)

 やはりこの辺りはまだ、雪が降っていませんね。

 目的のラクシア村(下)に到着しました。村の前に「サラマンダー」を止めます。

 ここからは歩きですね。ああ、目立ったのか村人おじさんがやって来ました。


「あんたたち、冒険者かね?」

「はい。チームサラマンダーです。お尋ねしますが村長さん宅はどこでしょうか?」

「こっちだで、ついてくるだよ」

 

 4人でおじさんの後をついていきます。

「失礼ですがあなたは?」

「村の遺跡発掘人で、ハンスっちゅうだよ。よろしく頼んます」

 私達も自己紹介するうち、結構大きな村長さん宅に到着しました。


「村長!冒険者の方が来てくれただよ!」

 村長さんらしき老人が出てきました。真っ白な髭の穏やかそうな方です。

「冒険者ギルドから来ました、チームサラマンダーです」

「おお、ようやく来てくださったか。実物を見てもらうのが一番早いと思うで、ハンスに案内してもらって見に行ってくだされ」

「わかりました。ハンスさん、よろしくお願いいたします」


「わかっただ。じゃあ皆さん、少しあるんであのトラックの荷台に乗ってくだされ」

 車があるあたり、この村は裕福なのでしょう。

 みんなで空の荷台に座ります。

 走り出しましたが道が悪すぎで、投げ出されそうで怖いですね。

 ヴェルが私の腰を引き寄せます。分かってくれたのですか?

 見つめ合っていると雷鳴に咳払いされました。そう、仕事中です、すみません。

 雷鳴とミシェルは荷台のへりにしがみついていますね。


 ああ、見えてきました。金色のゴーレムです。………金色?

「ハンスさん!ゴーレムの素材は何ですか!?」

「オリハルコンだ!表面だけだろうけども!作動停止したら高く売れる素材が剝げるんだがなあ!今は厄介だで!」


 私たちは思わず顔を見合わせます。

「………出てきた遺跡を探ればコマンドワードとかないかな?」

「オリハルコンは魔法にも強いから、厄介だよね」

「あれ?ハンスさん!さっき素材をはぐと仰いましたがどうやるおつもりで?」

「ああ、簡単だーよ!ラクシア水晶はオリハルコンより硬いでな!」

「「「「ええ!?」」」」


 トラックはゴーレムから距離をとって停止しました。

「あ、でもラクシア水晶は固すぎて、原石のまま使うから武器には向かないべ」

「メイスとして枠だけ作って使うとかできるか?」

「できるけんども、ラクシア水晶は尖ってるか、でかい塊かになるから、持ち上げられない可能性の方が高いと思うだよ?」


「うちのパーティなら大丈夫だと思いますが………」

「無理やり押すより、コマンドワードがあった方がいいな」

「そうですね。ハンスさん、ゴーレムが出てきた遺跡はどこか分かりますか?」

「ゴーレムを迂回して案内するだ」

「お願いします」


 案内された先は大きな洞窟でした。

 洞窟と言うよりトンネルに近いですね。やはりと言うか、どう見ても人工物です。

「装備は亜空間収納にありますし、今から探索しましょうか?」

「いいんじゃないか?」「俺は構わん」「行きましょう!」

「ハンスさん、そういうことですので、村に帰っていてください。私達は飛べますので、自力で帰れますからご心配なく」

「わかっただ、気ぃつけてなぁ!」


 荷台から下りてハンスさんを見送ります。


 さて、洞窟ですが………一本道ですね。本当にトンネルのようです。

 しばらく行くと、左右に扉が並んでいる区画を発見しました。

 が、ちょっと問題が。

 その前にゴーレムがいて、明らかにこちらに反応しているのです。

 しかも一列縦隊で沢山。


 先頭はアイアンゴーレムです………これは魔法で何とかするしかないですね。

 ですが間抜けな事が発生しました。

 雷鳴が『アイアンスピア』と言う魔法でアイアンゴーレムに大穴をあけたのですが、何と中身はロックゴーレムだったのです。表面だけアイアン。


「何でメッキなんだよ!ここ作った奴は財政難だったのか!?」

「オリハルコンゴーレムも表面だけだろうって言われてたよね」

「もしかしてこの辺りの遺跡のデフォルトなのでしょうか?」

「………呆れるしかないな」


 その後出てきたのは「金メッキ」「銀メッキ」「銅メッキ」「製銅メッキ」

 「ロックゴーレムだと思ったらサンドゴーレム」

 極めつけは「ロックゴーレムだと思ったら中身は腐った肉(アンフレッシュゴーレム)!」という有様です。何故ロックゴーレムのメッキをかぶせるんでしょうか?

 全員頭から腐汁をかぶって『キュア!』の声が揃いました。嬉しくないです。


 全部倒し終わった頃には、みんな気力が萎えていました。

「金や銀の回収は、村の方にお願いしましょう………」

「「「賛成」」」


 さあ、気を取り直して扉の探索ですね。

 最初こそ全員で一つ一つ調べていましたが、狭いのとやたら沢山扉があるのとで、途中からは手分けする感じになりました。どこまで続いているんでしょうこの洞窟?

 結局全員がなにがしかの情報を持ち帰りました。


「全部型番で書かれてる上に、コマンドワードもちょっとづつ違うんだが」

「俺はそれらしきイラストと一緒に、複数のコマンドワードが………」

「………絵と一緒にコマンドワードがあるが、どれがどれかわからん」

「この先にも扉が続いているという情報と鍵が手に入りました………」


「残りの扉を見ない訳にもいかないですね。情報を絞り込める可能性がありますし」

「空しい期待な気がするが、見ないわけにはいかないか………」

 結果。情報が増えただけでした。

「村に帰って検討しましょうか………絞り込みは無理な気もしますが」

「そうだな………」「嫌になってきました」「俺もだ」


♦♦♦


 私たちは宿を紹介されて(無料です)大部屋に集まりました。

 全員が唸りながら情報を整理しますが、何とか絞り込んで13個。


「もうこれはアレだな、戦いながら順番に言っていく」

「………鈍器も作るか?」

「要りそうだよねえ」

「明日の朝ハンスさんにかけ合おうか………」

「一番鈍器に向いてない私が読み上げ係という事で………」

「「「了解」」」


 朝、ハンスさんに相談すると、閉めているラクシア水晶の店を開けてくれました。

 カット出来ないなりに加工しているそうで、まるでオーラクォーツのようです。

 加工も磨きもしていないラクシア水晶は、結晶の仕方以外水晶とそっくりです。

 ナイフのように鋭利なものと、一抱えはある巨大な固まりです。

 雷鳴がワイヤーと鉄の棒を取り出して試作します(何でも持っていますね)


 出来上がったのは巨大モーニングスター。

 「超怪力」を持っているヴェルなら扱えそうです。

 もう一つ雷鳴が作ったのは、鋭利なものを束ねてつるはしのようにしたもの。

 これは2人でも何とかなったので、2人はこれでいくそうです。

 私は読み上げ係です。

 アタリがなかったら?瓦礫にするしかありませんね。その時は魔法で援護します。


 それらの素材をハンスさんに借りて、オリハルコン(多分メッキ)ゴーレム戦です。


♦♦♦


 ゴーレム戦、開始です。

 

 ヴェルが巨大な固まりを脳天に振り下ろすと、やはりというか、オリハルコンが少し剥げました。地金は鉄のようです。

 ゴーレムの攻撃は避けました。鈍重にも程があります。

 私は3つコマンドワードを言いました、ハズレ。


 地金が見えた頭を雷鳴とミシェルが穿ちます。

 ………ええと、鉄も剥げて金色と銀色の層が出てきました。訳が分かりません。

 ゴーレムは「ガガガ」と音を立てていますね。

 コマンドワードを5つ言いました。ハズレ。


 入れ替わりにヴェルがやはり頭部へ。

 多分皆もどこまでタマネギなのか確かめたいのでしょう。

 ………腐肉の層までありました。これ以上は止めた方がいいでしょう。

 ゴーレムは一応手を振り回していますが、飛んでいるこちらに届いていません。

 コマンドワードの残りを言いました―――ハズレ。


「今のでコマンドワード候補は終わりです!」

「瓦礫決定!腕に行く」「俺は足から行きます」「………胴体だな」

 雷鳴が腕をもぎ取ってしまうと、後は作業でした。

 私は雷鳴やミシェルがはいだ後に『アイアンスピア』ですね。

 5分とかからずオリハルコンゴーレム(メッキ)は壊れました。


 レベルアップを告げる音楽が響きます。こんなのでも経験値は高かったのですか。

 61レベルになりました。


♦♦♦


 報告と報酬受領のために、ハンスさんにも声をかけ村長さん宅へ。

 報告すると、ちょっと呆気にとられていましたが

「いやありがたい。儂らではラクシア水晶で倒すなどとても。加工はできますがな」

 そう言って依頼書に終了のサインをしてくれました。


「報酬ですが、水晶と魔道具で………」

「私は魔道具で」

「俺もです」

「水晶にもう少し小さいのがあれば貰う」

「俺は研究してみたいから、貰うのとは別に買い取りたいね」


 村長さんはうんうんと頷いて、ハンスさんに丸投げしました。

「この方々の要望通りにしてあげてくれ」

「わかりましただ」


「まずは水晶だべな。小さめの塊は珍しい、どうしても直径1mにはなるだべが?」

「1mか。いいだろう、それを貰う。雷鳴、加工は任せた」

「はいよ。帰りの車の中でやるわ」


「そっちの兄ちゃんは購入希望だべか?1個は無料だべさ」

「じゃ、無料分でこの剣みたいなやつの………これがバランスいいかな」

「わかっただ。で、どれを買うべや?」

「この尖ったのを10本と、できるだけでかいのを5つぐらい」

「大きいのはいくらでも転がってるべ。5つなら金貨10枚だべよ」

「刃物みたいなやつは?」

「こっちは用途があるで、10本なら金貨500枚だな」

「いいよ」


 場所を移って魔道具店へ。ここには責任者のご婦人がいます。

 色々見て回りました、バラエティー豊かな品揃えです。

 でも私は、シンプルにこれが良いですね。

「この魔石………加工して大容量の魔晶石にしてありますね、これがいいです」

「あいよぉ、これだぁね。目が肥えとるねぇ」

「ありがとうございます」


「あの………みんな、この民芸品の魔道具見てくれないかな」

「どれ………魔法の絨毯?この村で作っているんですか?」

「そうだぁよ。村のもんの手作りだけど、安定した飛行で便利だべさ」

「ふーん、コレクションに加えてもいいな」

「買う意味はあるのか、ミシェル」

「スノーモービルでも駄目な時でも使えるじゃないか」

「………なるほど」

「言えてるね、貰って損はなさそうだ。お姉さん(おばちゃん)黄色と青と赤、緑で」


「模様はどうするね?」

「俺はこの黒いラインが入ってるやつ」

「俺はこの黄緑の模様が入ってるやつがいいです!」

「俺は水色とのストライプにする」

「では私もストライプにします」


 これで報酬の受領完了ですね。

「それでは、私達はギルドに戻って報告しますね」

「また何かあったら受けてくれべな」

「その時は必ず」


 こうして私たちは帰還の道を辿りました。

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