第21話 ラクシアのゴーレム 前(雷鳴)
11月半ば。
最北端のへき地である拠点には、もうかなり雪が積もっている。
俺、雷鳴はみんなが寝ている間に「サラマンダー」を雪仕様に改造していた。
前部をスキー板にし、後輪はキャタピラ。操縦はバイクのような感じに変更した。
要は、スノーモービルと同じだ。
違うのは重量と、キャタピラの大きさ、強度ぐらいだろう。
改造するのは1ヶ月かかったが、このいつ吹雪くか分からない状態でヘリは飛ばせないし、まさかスノーモービルで町まで行く訳にもいくまい。
消去法で「サラマンダー」の改造だった。
今はテスト運転を済ませて、ちゃんと機能する事を確認して来た所だ。
屋根の雪下ろしの準備でもしようかと思っていたら、拠点からフリウが出てきた。
もうそんな時間か。
ちなみにフリウが出てくるのは5時だが、もう着替え終わっている。
着ているのは俺が編んだ、メリノ羊の黄色と白のマーブル模様のセーターだ。
「お疲れ様です「サラマンダー」はお着換えが終わったようですね」
そう言って暖かいコーヒーの入ったマグカップを渡してくれる。
これもいつもの習慣になってるな。
魔界に帰ったら、きっとこの天使たちが恋しくなるんだろうな。
「うん、試し運転も終わった。おそるおそるヘリを飛ばさなくてもよくなったよ」
「良かったです!では雷鳴も中に入りますか?」
「うん、編み物に戻って朝食を待つよ」
ちなみにヴェルの青いセーターは完成済みで、今はミシェルの緑のセーターがが出来上がる手前だ。フリウには凄い手際だと感心された。俺は早編みなのだ。
中に入ると、暖炉に当たる。常に『定命回帰』していると、寒くていけない。
編み物を開始して1時間ほどすると、他の2人が起きてくる物音がした。
「おはよう、雷鳴。俺もマフラー(鍋敷きは完成した)の続き編もう………」
ちなみにミシェルが編んでるのはカシミヤヤギの毛糸だ。
俺を主人と仰ぐ(魔帝陛下優先だが)魔女が献上してくるものを毛糸にした物だ。
普通は毛糸にはしないものだが魔法で作り、任せてみたのである。順調なようだ。
「ぉはよう………」
ぼそりとした挨拶の後、俺の横に座るのはヴェル。
こいつは家庭的な事はやりたがらない。元が戦魔だからなぁ。
だが今日は俺が編んだセーターを着てくれている。
青と言うより紺色にしてみたが、やっぱその方が似合うな。
「みなさん、朝ごはんですよー」
キッチンからフリウが出てくる。昼食は俺が作るので朝食はフリウにお任せだ。
夜?最近は俺がフリウを手伝う形で作る。朝のコーヒーの礼である。
悪魔は恩も恨みもやり返すものなのだ。
今日の朝ごはんは和食だった。
まず鮭。天使は釣りはできないので、熊の食い残しを回収し、天使は捧げものでないと動物は食えないので、市の魚屋にさばいて「もらった」ものだ。
味噌汁の具は豆腐とワカメ。サラダは山芋とオクラのねばねばサラダだ。
そして炊き立てのご飯と卵。ヴェルのお代わり回数が凄い。
美味しくいただきました。
食後の片付けもフリウに任せ(どうせ魔法を使うので手伝う必要はない)て、俺は編み物に戻る。おや、ミシェルのマフラーがとうとう完成した。
教えた礼として俺のを作ってくれていたので、色は赤だ。
「つけてみて!」
「うん、凄く手触りがいいし、強くもゆるくもない編み方ができてていい感じだな」
「本当!?なら次はセーターを編んでもいいかな?メリノ羊で!」
「じゃあ俺の分のセーターはお前に任せよう………冬の間に完成させろよ?」
「頑張るから教えて!」
「はいはい」
ちなみにこの間、ヴェルはDVD「すご腕獣医奮闘記」を見ていた。
なんでも天使になって、命の尊さを実感しているのだとか。
味覚は変わらなかったようだが。
だが、切り身はともかく動物そのものを見て食欲はわかなくなったと言っている。
俺には謎の感性だ。犬猫を見ても美味そうとは思わないのと一緒か?
さて、ミシェルに指導してたらいい時間になったから、昼飯の準備でもするか。
今日は何を作るかな………?
一番多く残っているのは豚肉だな、と冷蔵庫用亜空間収納を見て確認。
よし、ポークチャップでも作るか!
サラダはさらした千切りダイコンと千切り人参に、マヨネーズベースのドレッシングを添える。付け合わせはマッシュポテト。スープはパンプキンスープだ。
メイン以外は野菜。天使の食性に配慮した結果だ。
フリウと同じく、給仕まで俺が全部やる。片付けもだ。
その間にみんなは冒険者ギルドに行く準備をするので、俺の装備も頼んでおく。
30分後、全員が「サラマンダー」に乗り込んだ。
新しい装備での操縦なので、まずは俺が運転することにする。
走りやすい所―――線路わきの直線の道あたり―――で練習してもらうつもりだ。
結果、だいぶ賑やかな道行となったので、列車が来なくて本当に良かった。
♦♦♦
みんなで手分けして依頼を探す。
お?これなんかどうかな。住民は困ってそうだし。
「おーい、これとかどうかな?この季節に家がなくなるのは致命的だろ?」
3人が寄って来て、全員が依頼書を覗き込む。
内容は―――
周囲に遺跡(墳墓らしい)が沢山あるラクシアの村で、ゴーレムが暴走中。
すでに
ただ、けが人はいますが死人はおらず、人を狙う仕様ではないようです。
報酬は特産のラクシア水晶。
それとラクシア墳墓群から出た魔法の道具で。現地で支払います。
報酬の請求は村長(下の村在住)までお願いします。
「なるほど、困っていそうですね」
「だろ?結構南の村だが、コイントスと取引があるぐらいだ。冬は厳しいだろう」
「今の状態の「サラマンダー」で道を走れるの?雪積もってないんじゃ?」
「まあ、手間だが魔法で浮かせて進めばいいんじゃないか?ヘリだと目立つし」
「なら、これでいいんじゃないか?」
「そうですね、ヴェル。決定という事で」
というわけで、依頼受領受付にその張り紙を持って行く。
「ニャ。こんにちはニャー。この依頼かニャ?」
「ああ、受けるからよろしく」
「注意事項は特にないのニャ。あ、現地で報酬だから身分証はしっかりニャー?」
「了解です」
ハンコを貰った俺たちは、次にギルドの裏手の目立たない空き地に出向く。
何故か?もちろん、できるだけ目立たず「ごはん屋」を呼ぶためだ。
「ごはん屋、カムヒア!」
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~
食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
毎度のことだが、鼻歌と共に「ごはん屋」が降って来る。
今回はカラフルなパラシュートでの登場だった。
「参上致しましたぞぉー!」
「はいはい、ご苦労。今回は往復6日と滞在はまあ3日ぐらいか?」
「108食ですな!しばしお待ちあれー!」
後は袋をごそごそやって、巾着に弁当を詰めるだけだな。
だがこの巾着、中身を食い切ると勝手に消滅するんだが。
からの状態でどうやって持ち運ぶのか、気になるっちゃ気になるな。
巾着を受け取った俺は報酬を用意する。天使から嫌われ悪魔には好かれるものだ。
「ほい、今はもうない星から出土した呪いのブラックダイヤだ」
「おお、純粋に魔界で価値が高いですなぁ!ヨロレリヒ~♪」
「歌うな。目立つ」
「おお、失礼いたしました。それでは我が輩はこれでー」
「ごはん屋」はバレリーナのようにクルクル回りながら遠ざかっていった。
結局目立つんかい。
駐車場のサラマンダーにみんな戻り、負担分散の為に協力して浮遊魔法を唱える。
ふわり、と浮遊感がするがすぐにおさまった。慣れただけだが。
じゃんけんでナビゲート役を決定。フリウの負け。半日はフリウがナビである。
「雷鳴、ポップコーンをくれ」
「何か観るのか?みんな、何味にする?」
「普通」「キャラメルをお願いします」「コンソメ」
「了解。俺はフリウと同じくキャラメルで」
亜空間収納からポップコーンを取り出し、ミシェルに渡す。
「焦がすなよー」
「何を観る気だ?」
「また雷鳴のホームビデオを発見したんだ。それで」
「またか?と言うか中身を確認したのか?」
「うん、ハロウィンパーティーみたいだったね」
「ああ、あれか………」
照明が落とされ、フリウも運転席に『ウィザードアイ』を残してこっちに来る。
みんなポップコーンを抱え、ブランケットを肩から掛けて鑑賞体制だ。
俺は中身を知っているので、少し恥ずかしいのだが。
「魔界ってハロウィンに地獄の蓋が開くの?」
「そうだよ。天界は違うのか?」
「みんなすぐに輪廻に入れる魂だから地獄がないもん」
「あ………言われてみればそうか………」
「雷鳴、この野菜チョイスはどうかと思いますよ?」
「俺は別に乗り機だったわけじゃない。特にブロッコリーは」
「………この飛行機はちゃんと機能してたのか?」
「ご先祖様の囁きだとそうみたいだったな」
「茄子とキュウリって一人乗りなのかな?効率悪いね」
「多分な。姉ちゃんによると
「嫌な所に帰るのに渋滞って、本気で嫌になりそうだね」
「なってると思うぞ」
「このパーティーの食事、雷鳴が作ってるけど、身分的にいいの?」
「いや、おかしいよ。だから変人扱いされる」
「確かにあなたはおかしな悪魔ですね」
「フリウ、そこで真面目に言わないでくれ………」
「………俺も言われて気付いたが、食べた連中にしてみれば一生の思い出だろうな」
「カクテルもだよね」
「そっちはまだ道楽ですむって水玉様に言われた」
「………王子様でもそう思うんだね」
「飾りつけが子供達っていうのはいいよね、見ててホンワカする」
「うちの身分だとそれも変なんだが………まあ、子供に甘いって言われただけですんだけどな。下級生の面倒見る上級生は意外と多かったよ」
「というか部屋を組み替えたりしていますがこのDVDの光景、拠点なんですよね」
「そうだよ。元寮だって最初に言っただろ?」
「今この子達はどうしているんです?」
「こっちの男(ジーク)とこの男の子(モーリッツ)はうちの娘たちを嫁に貰って、分家を背負って頑張ってくれてるよ」
「忘れそうになりますが、あなた子供がいるんでしたね」
「でも雷鳴って子供っぽいとこあるよね」
「この時は6人だが、今は13人いるぞ、子供。別にいいじゃないか、若いパパでも」
「「「13人!?」」」
「そうだよ。水玉様も産むって張り切ってるしなぁ」
「ちょっと待ってください、王子とそういう仲なんですか!?」
「そうだよ。王位争奪戦から降りたから女性形になってもいいでしょうって言って」
「………二の句がつげませんよ」「俺もびっくりした」「呆れた奴だ」
「身分を考えればありなんだってば!」
「それでも驚きました」「驚いて当然だよ」「自覚しろ」
さんざん言われて俺がむくれた頃、ようやくDVDは終わった。
まあ、みんな変わらず接してくれるからいいけどさ。
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