第20話 巨大ヒュドラ 後(フリューエル)

ごはん屋さんが去ってすぐ。

私たちは街道で「サラマンダー」を出してもらい、乗り込んでいました。

今回のじゃんけんの結果、運転はヴェル、ミシェル、雷鳴、私になりました。


 バスが動き出すと、早速ミシェルがDVDをごそごそしだす。

「なー雷鳴ー。これ、「××年××月××日~××日。ハロウィン」て書いてるけど、ホームビデオなの?」

「あー、そうだよ。それは当時婚約者だった娘が撮ったんだ」

「見ていい?」

「まあ待て、映画鑑賞の時の作法を教えてやる。まずはこれをやろう」


 そう言って雷鳴は、亜空間収納から何かを取り出します。

「小型の紙バケツと、何かが入っている鍋が4つづつ………?」

「そのままだなフリウ。この鍋はポップコーンを作るやつだ。バケツは入れ物」

「ポップコーンって知ってるぞ!どうすればいいんだ?」

「説明書通りにやってみろ。ちなみにいろんな味があるが俺の好みはキャラメルだ」


 説明書の記載通り、ミシェルは(慣れない手つきで)ポップコーンを火にかけ加熱しました。しばらくすると、みるみるうちに膨れてきます。

「雷鳴、どうするんだこれ!」

「膨らみきったら、もう食べれる。このバケツに入れろ」

 塩味、という味のポップコーンとやらが出来上がりました。

 ミシェルは続いて、キャラメル味、バター味、と作っていきます。

「これ、楽しい!」


「好きな味のポップコーンを持って、ベッドの下段に腰かけろ」

 私たちはそれぞれ(私はバター味)ポップコーンを抱えて席に着きました。

 雷鳴が照明を落とします。

「はい、これでホームシアターの出来上がり。ジュースもいるな」

「3人分持って来ましょう。はい。これで映画館ですか?」

「そうそう。ミシェル、再生していいよ」


 ハロウィンの記録(冒涜的な呼び声参照)ですね。

 お盆とハロウィンが一緒くたですか。魔界ではありえるのでしょうね。

 でも、野菜の選び方が自由過ぎます。

 飛行機に仕立て上げられたダイコンとトウモロコシ。中に入る仕様のカボチャ。

 極めつけは謎の乗り物となったブロッコリーでしょうか。


「ぜひブロッコリーに乗った亡者の感想が聞きたいものですね」

「あ、あれな。姉ちゃんが用事で地獄に行ったから聞いて来てくれたんだけど「世界一酔う乗り物」だって評されて語り草だとさ。飛行機の評判は上々だったけどな」

「………どんな乗り心地だったんです?」

「確か、超高速スピン&前進→急下降→急上昇→上下に回転しつつ前進。みたいな」

「お悔やみ申し上げます………」


 まあそれは置いといて、魔界にしては普通のパーティで、子供たちは見ていてほのぼのしますね。衣装は雷鳴の手作り………凄いレアアイテムになりそうです。

 それと終わった頃にはポップコーンは空になっていました。いつの間に。

「悪魔の日常生活、楽しかった!ポップコーンってこうやると美味しいんだな」

「だろう?これから見る時は、俺に言えばポップコーンの元をやるから」

「本当か?楽しみが増えた!しかし雷鳴は器用だな。ミシンに料理、バーテンまで」

「全部姉ちゃん(ある少女のモノガタリ参照)のおかげで覚えたんだよ」


♦♦♦


 目的の村が見えてきました。資料によるとハルケ村というそうです。

 名産は雪竹ゆきたけと雪タケノコ、林業と木彫りだそうですね。

 でも今は活気がありません。当たり前ですが、みんな引き籠っているようですね。

 それでも民家をノックして、村長さんの家を教えて貰えました。


 どんどん!「冒険者ギルドから来ました。チーム・サラマンダーです!」

 扉がぎいっと開き、初老の男性が「早く入りなさい」と。

 全員が入り、居間に通されました。竹製品や木彫りで一杯です。

 竹の器に入ったお茶が出てきました、変わった味です。


「ヒュドラを倒すために来てくれたんでしょうな?」

「勿論です」

「お願いします。赤いヒュドラと、黄色いヒュドラがおります。このままだと、村人から生贄を出す事になりそうで、戦々恐々としておったのです」

「まだ明るいので、今から行きます。地図はありますか?」

「狩人のところで書いてもらいましょう。付いて来てください」


 狩人さんは、驚きながらも

「教えるから、奴らを必ず仕留めてくれよ」

「分かっています。心配なさらなくても大丈夫ですよ」

「よし、じゃあ奴らの寝床はここだ」

「湖からの水をせき止めているような配置ですね」

「そうなんだ。井戸がないからそういう意味でも困ってるんだよ」


 では、全員翼(転生体なので鳥の獣人で一般的な翼)を出します。

 武装を確認したら飛んで出発。

 相手は大きいので、湖の近くまで来た時点で目に入りました。


「想ったより大きいですね」

「フリウ。あいつら死骸も村の迷惑になるし、カプセルに封印したらどうだろう?」

「ある程度弱らせるのですね」

「頭が半分亡くなったらやってみよう。撃つのはミシェルとヴェルだ」

 2人が頷きます。異論はないようですね。

 雷鳴が亜空間収納からカプセル銃を出してきました。予備のカプセルもです。


「毒も塗布しておくよ。得物を貸してくれ」

「「「どうぞ」」」

「では、赤を私とヴェルが。黄色いのは雷鳴とミシェルでお願いします」

「「「了解」」」


 戦いは結構長引きました。8つも頭があるので、死角が少ないのです。

 傷をつけても、切断しなければすぐに治ります。

 それと、エネルギー弾を口から打ち込んできたので、最初は防戦一方でした。

 流れが変わって来たのは、しばらくして毒が効いてきてからでした。


 相手がフラフラしだしたので、首を1本切断する事に成功しました。

 傷口は再生される前に、ヴェルの『特殊能力:炎操作』で焼かれます。

 あとは油断しないように気をつけながら、同じ方法で計4本の首を落とす事に成功しました。私達も結構エネルギー弾で負傷していたので、辛勝ですね。


 雷鳴たちの方は………ミシェルが倒れてしまっているので、雷鳴1人で戦っている状態になっていました。毒は効いてるようなのですが。

「加勢に行きますよ、ヴェル!」「応!」


 私が魔法で援護すると「助かる!」と雷鳴。

 すぐに首を切り落としにかかりました。

 今日の雷鳴はエクスキューショナーズソード(斬首用剣)装備です。

 切り落とした首の断面は、私が焼きました。

 ヴェルにはカプセル銃を撃ってもらわないといけないからです。

 初めてのカプセル交換で多少手間取りましたが、なんとかなりました。


 何とか4つの首を切断。カプセル銃が命中します。

 カプセルを回収して村長さんに見せて、書類にサインを貰わないとですからね。


 みんな、乾いたところに上がると、地面にへたり込みます。

 レベルアップの曲が流れています。これで60レベル。59は飛ばされています。

 組織の再生は終わっているようですが、腹に大穴が開いていたようです。

 本当に危なかったのですね。『生活魔法:リペア』で服を元に戻しています。


 起きないミシェルを含めて、全員に回復魔法。私の精神力もかなり削れています。

 雷鳴が外傷の亡くなったミシェルに『生活魔法:ウェイクアップ』をかけます。

 飛び起きたミシェルは混乱しましたが現状を理解した途端

 「俺一人だけ、役にたてなくてごめんなさい」と泣き始めました。

 困りましたが「今後精進しなさい」と慰めて抱きしめてやります。


 ミシェルが「頑張ります」と立ち直ったので、村に帰る事としましょう。

 

♦♦♦


 噂が町中に広がると、祭りが始まりました。

 人口は100人だったのが80人ほどになってしまったようですが………


 木彫りの達人だという男性が、好きな作品を持って行っていいと行って下さったので、雷鳴を筆頭に全員でご厚意に甘えることにしました。

 種々様々な木彫りです。とても繊細な作りで見とれてしまいました。

 私は、小鳥のつがいに決めました。足の細さとか、見事です。


 ヴェルはドラゴン(大)を選びます。

 天界の我が家の玄関で見張りをしてくれるでしょう。

 ミシェルは(中に鉛が入っている)重たいもの。デザインは眠り猫です。

 雷鳴は、選ぶのはそっちのけで達人と話していました。


 雷鳴は彫刻も趣味だそうで、作品を亜空間収納から出して見せています。

 最終的に相手がいたく気に入ったので、3つづつ交換する事にしたようです。

 雷鳴の作品は美しい魔女(魔除け)、少女のこけし、魔界猫です。

 選んだのは翼を広げたタカ、鮭を咥えた熊、豚の貯金箱です。


 達人がここらの竹は寒いほどよく育つ性質の竹だそうで「雪竹」というそうです。

 タケノコは雪タケノコ。

 雪タケノコのスープをご馳走になると、タケノコがとても美味しかったです。

「雪竹と雪タケノコに興味があったら村長に言ってみな」

 と、達人が言うので村長さん宅へ。


「村長さん、商品にしてる雪竹と雪タケノコはまだある?」

「はい、隊商の売れ残りで良ければ」

「復興支援の気持ちを込めて、倍額で引き取るよ?」

「なんと!すぐ集めます」


 そして、広場に色々な品物を持った隊商が揃いました。

 私が興味を持ったのは、竹の食器と、美容関係のものです。

 まず、竹のお茶碗を全員分。お皿を10枚ほど。

 小さめで、湯飲みに使える物もありましたので全員分買いました。


 美容関係は、竹で出来た細いコームに目が留まりました。シンプルで良いですね。

 それと、竹の歯ブラシ。毛の部分は豚毛です。全員分買いました。

 シャンプー、リンス、パックなどなど。ほとんど買い占めです。


 雷鳴は「何か作る」と竹そのものをわっさり購入しています。

 あとは炭そのものを2人で見ました。

 消臭、ごはんに入れる物、暖炉やバーベキューなどに使えるもの。

 などなど。結構散在しましたが復興支援のためなので色々買います。

 まな板までありました。各サイズお買い上げです。


 ミシェルが「染色できるそうですー!」と大きな竹のバッグを買ってきました。

 もちろん人数分で『ダイ』で簡単に染められるのだとか。いいですね。

「森へ素材を探しに行く時とか、いいですね」

「はい!ちょうど秋ですし。きのことか」


 タケノコの方ですが、雪タケノコは今ちょうど収穫時期なのだそうです。

 買い占めないように気を使いつつも、結構たくさん購入してますね、私。

 調理方法を村の女性たちに聞いておきました。


 こんなものでしょうかね。

 私たちは書類記入のため、村長さん宅に行き、1泊させて貰う事になりました。

 竹の枕が心地よかったので、後で買おうと思います。

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