第19話 巨大ヒュドラ 前(雷鳴)
メリノ村から、一旦コイントスまで帰って来た。
メリノ村では結構滞在したので、もう10月初めである。
村で何をしてたか?メリノ羊の毛刈りを手伝い、高価格で買いしめてきたのだ。
毛の洗浄過程は、見ていて面白かった。
毛糸にするのは、教えて貰ってみんなで体験してみた。楽しかったな。
おかげで、今年の冬厳しくならずにすむと、村長には泣いて喜ばれた。
ちなみに羊肉も美味しかったので、2~3等分の肉をオマケにつけて貰った。
肉にした羊の、皮つきムートンも貰った。リビングにぴったりだな。
天使としても「いただいた」ものは食べられるので、異論はなさそうである。
メリノカブも結構な数ある。料理を出して貰い、とても美味しかったからだ。
これにはフリウが喜び、村の女性たちに調理法を聞きに行っていた。
さて、コイントスに寄ったのは、依頼完了受付に寄るのが一番大きな理由だ。
前の所と違って、詳細を紙に書いて提出しなければならないのである。
ちゃんと書いて、村長さんにハンコも貰っている。
依頼完了受付は、キタキツネ獣人のルールーさんが受付。綺麗な女性だ。
長い金髪は冬には白になるらしい。金色の目とキツネ耳尻尾がかわいい。
「何の依頼の報告書?ああ、あそこ。大変だったわね」
「戦闘より、道のりの方が過酷でした」
うん、戦闘?って感じだったもんな、あれは。
報告を済ませた俺たちは、まず食材を入手。
パンと米はどっさりと買い込んでおく。
あと各種野菜(見た事ないのは市で調理法を聞いた)と種々様々な肉である。
店のおっちゃんに「どうぞ」と言ってと頼んで、それを聞いてから代金を払った。
天使が肉を食べるには必要な行程なのだ。
あとミシェル用の編み棒と、アクリル毛糸を全ての色30玉づつを手入する。
種類が豊富で迷ったこと迷ったこと。マーブルやグラデーションまであった。
俺は、カシミアの布をどっさりゲット。みんなに冬用のシーツを作ろうと思う。
「雷鳴、ミシェル。編み物の練習をするのなら、まずはコースターを編んで下さい。机に溜まった水滴が染みになって困ってるんです。あと、鍋敷きもお願いしますね」
「そうだな、初心者だからその辺でいいだろう。俺は大きな物も作れるけど?」
「それなら、セーターを期待します。メリノ羊で」
「ラジャー。まずはフリウのから作るな」
ちなみにこの会話は帰りのヘリでの会話である。
拠点に戻って来たが、メリノ村よりかなり寒い。雪もちらほら舞っていた。
みんな慌てて家に入る。
やっと落ち着いた。部屋着に着替え、ふわふわのラグの上。
これまたフカフカのクッションを抱きしめ、ごろりと寝ころび幸せモードである。
この後昼食を作らなければいけないが今は忘れる。
ちなみに朝食はメリノ村で頂いてきた。
「雷鳴」
「何、フリウ?」
「いつもごはん屋さんに報酬を渡して貰ってるお礼をすると言っていたでしょう?」
「そういえば、珍しいものをくれるって言ってたか」
俺は寝転ぶのをやめて、座椅子に座り直す。
「そう言えばそうだったね」「ああ、確かここに(亜空間収納を探っている)」
どうやら他の2人からもお礼がもらえるらしい。
「まず私から。雷鳴、魔界にも悪魔でなく動物枠の「魔界生物」がいるでしょう?」
「うん、自力で瘴気を出せるのが悪魔、魔界外に出たら時々里帰りして瘴気の取り込みが必須なのが魔界生物だな。動物扱いだから食えるよ」
「天界生物が寿命以外で死ぬと「今生分」の魂の余りが結晶化するのですが、それを採取、加工して作られている特殊な宝石です。所有権は見つけた人にあります」
フリウが差し出してくるのは、大粒のエメラルド………のようなもの。
『分析』をかけると「魂のかけら」と出る。しかし綺麗にカットされているな。
「魔界じゃ一生手にする事も無い代物だな。嬉しいね、大切にするよ」
「もうひとつ。生産中止になったものなのですが「生命の粉」といいます」
フリウはソルトミルに入ったコショウのようなものを俺に渡す。
「ふりかけると、どんなものでも意識を持ち、魂を備えて喋り出すのです。ただし命令には従うとは限りませんのでご注意を」
「失敗作?」
「ですかねぇ。でも貴方なら使えるかと思いまして」
「わかった。コレクションに加えるよ。ありがとう」
「じゃ、次俺ね」
「珍しい物なんて持ってたんだな」
「うん、これ。バッジと腕章。訓練生の身分書代わりのものだよ」
「いいのか?記念品だろうに」
「うーん、他の悪魔は絶対嫌だけど、雷鳴が持っててくれるなら構わないや」
「そ、そうか?じゃあ、大事にするからな」
「えーと、もう一個あるんだ。天界ではフルーツや野菜が至る所にあって、自由に食べれるのは知ってるよね」
「聞いた事はある」
「だからこれは、珍しい嗜好品なんだ。天界のドライフルーツ2袋だよ」
「………聖なる果実?」
「雷鳴ならいけるでしょ?」
「大丈夫だけど………特別な時に食べるな。ありがとう」
「俺からはこれだ。多分珍しい」
「何?」
「煉獄だけに咲く花だ。枯れない」
差し出されたのは赤黒い色の、うなだれたチューリップみたいな花だった。
………血の匂いがするぞ?
「何でこんな色と匂いなんだ?」
「昼は浄化中の悪魔なんかの瘴気を吸う。夜になると白くなって聖気を放出する」
「なるほど、確かに珍しい。ありがとな。帰ったら自分の部屋に生けてみようか」
「もう一つだ。これは、別に故意に持って来たんじゃないんだが」
「?」
ヴェルが亜空間収納から赤さびた、巨大な鳥かごを出してくる。
「ヴェル!?なんてもの持って来たんですか!」
「片付けろと言われたから片付けたら、いつまで立っても出せと言われなかったんだ。不用品だと思ったから入れっぱなしにしてた。雷鳴、これは煉獄の檻だ」
「え。貰っていいわけ?」
「ダメだという法律は―――考えつかなかっただけでしょうが―――ありませんね」
「じゃあ貰うよ。激レアだな」
「おう」
♦♦♦
昼食の時間である。今日は何を作るかな………?
よし、メンチカツにしよう。肉気マシマシな奴を。
スープはメリノカブのポタージュ。
付け合わせは………マッシュポテトとベビーキャロットで。
今日は冒険者ギルドに行かないので、みんなのんびりしたものだ。
昼飯を食い終わったら、各自趣味の時間だ。
俺はミシェルに編み方を教えつつ、自分はセーターを編む。
「筋がいいぞ。初めてにしては上出来だな」
「本当?緑だから自分のコースターにしようっと」
夜までに、ミシェルは4枚のコースターを完成させた。
「早速使いましょう」とフリウ。
今日の晩ごはんは、ビーフストロガノフとサラトゥ「オリヴィエ」
それとアイシクルスープ(素材の味だけを生かしたスープだ)である。
全部この辺の郷土料理だそうですよ。
キャベツがふんだんに使われるのがミソですね。
♦♦♦
朝。眠らない俺にとっては、早朝にフリウが差し入れてくれる暖かい飲み物(ずっと定命回帰しているので、今は血以外も飲めるのだ)が朝の始まりの合図だ。
ちなみに今日は、車のメンテナンスではなく、リビングでセーターを編んでいた。
毛糸は『便利魔法:ダイ(染色)』で、淡い黄色に染めている。要はフリウのだ。
もうすぐ完成する。
フリウが朝ごはんを作り上げた頃、ヴェルとミシェルが顔を洗って起きてくる。
朝ごはんはサンドイッチ。厚切りハムと、厚焼き玉子が美味しい。
ちょっとマスタードが刺激的で、これまたおいしい。
スープはコーンスープがでてきた。うまうま。
朝食が終わると、ミシェルに頼まれ鍋敷き作成を指導。色はベージュと茶色だ。
俺はセーターに戻る。ハイネックのフワフワ質感になりそうだ………
しばらくの作業の後、鍋敷きはまだだがセーターは出来上がった。
「フリウ、試着してみてくれ」
「余裕のある感じとフワフワ感がいいですね。今回の件が終わったら冬まで大事に取っておきましょう。タンスにゴンが必要でしょうね」
よし、じゃあ次はヴェルのを作るか。
で、昼は俺。メニューは手羽中のスペアリブ(山盛り)と、みそ汁とごはん、切り干しメリノカブだ。これも好評、と。
食べ終わって食休みしたら、冒険者ギルドに行くためヘリに乗り込む。
ちなみに「ウィング」ことヘリだが、ベースは
ベル407という機種だ。改造を施してはあるが。
♦♦♦
冒険者ギルドのヘリポートに着地し、ヘリは亜空間収納へ。
またみんなで手分けして依頼を探す事にした。
結構依頼が入れ替わっているな。当たり前かもしれないが。
そう言えば、この町に盗賊ギルドはないのかね。
「うわぁ」ミシェルの声がする。なんだなんだ。
みんなが寄って来て、ミシェルの手の中にある依頼書を見る。
なるほど、たしかに「うわぁ」である。
かなりの高位であるモンスター、ヒュドラが2匹も出現したというのである。
奴らは孤立している人(木こりとか)を狙ったり、夜中に屋根をはいで、中にいる人を食べるのだそうだ。白アリを食べるアリクイじゃあるまいし………。
今は何とか、家畜を捧げる事で大人しくさせている。
だが、もう家畜も底を尽き、人を差し出さないといけない所まで来ているそうだ。
「至急!」とスタンプが押されている依頼書だった。
「………レベルも上がりそうだし、行こうか」
「それ以外の選択肢はありませんね。幸い私達は巨大なものと戦う経験が豊富です」
「ですね!行きましょう」「………うむ、そうだな」
依頼受領受付に行くとミーミーさんが出迎えてくれた。
「ニャー。帰って来たとこなのに、もう新しい依頼ニャア?」
「これを見たら放っておけなかったのです」
「分かったニャア。チーム・サラマンダーが受領っと………」
ミーミーさんは書類に何か書きつけてから、1枚のカードを取り出し、尖筆で何やら書いている。尖筆もカードも特殊なもののようだが………?
「お待たせニャー。チーム・サラマンダーの身分証明書だニャア。前回は時間がなくて渡せなかったニャー。すぐ行っちゃうんだもんニャア」
「それはすみませんでした。ありがとうございます」
「あ、ところでミーミーさん、ヒュドラの頭は何本?」
「8つだニャア。本気で死なないように頑張るニャア!」
俺たちはギルドの裏手に移動する。
「8本だってよ、きついな」
「セオリー通り、首を切り落としてから再生しないように焼くしかないでしょうね」
「だな。現地までは「サラマンダー」で行けそうだ」
「2組に分かれて、切り落とし役と傷口を焼く役に分かれた方が良いですね」
「ミシェル、お前炎の扱いは得意か?」
「ファイアボールぐらいなら撃てますけど」
「十分だ。こっちは頭の切り落としは俺が、焼くのはミシェル担当で」
「ではこちらは(ヴェルは打撃系で切り落としに向かないので)必然的に私が切り落とし役ですね。ヴェルは炎を操れましたよね?」
「それに関しては任せてくれて大丈夫だ」
「工程は………「サラマンダー」で2日ってとこか。行き帰りで48食。滞在期間は3日とみなして36食だな。合計86食。じゃあ、ごはん屋、カムヒア!」
巨大なモグラでも居るかのように、地面が盛り上がり始めた。鼻歌も聞こえる。
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~
食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
もこもこもこ、とそれは俺たちの前まで来て。
「ごはん屋でございますぞぉ―!」と目の前に飛び出してきた。
「トカゲをやめて、モグラになったのか?」
「はっはっは」
答えになってない。
「まあいい、今回は86食だ」
「かしこまりですぞ!」
あとはいつもの光景だった。ごはん屋から袋を受け取る。
「じゃあ、今回の報酬はこれな」と大きな平たい包みを亜空間収納から出す。
布を張らりとめくったごはん屋は
「おおお、これはゴッホの「ひまわり!」よ、宜しいのですかな?」
「俺はもう堪能したからいい、持って行け」
「有難うございますぅー。これからも頑張りますのでご贔屓にぃ―!」
と、スキップで去っていった。
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