フィアメッタ合衆国編

第15話 新天地にて 1(雷鳴)

 新天地―――平原の名前は「ブランロジア(白い薔薇)」という。

 フィアメッタ合衆国のアイシクル州にある、山に囲まれた平原だ

「ウィングブル」に乗って、今いる所―――リッケルトから1日ぐらいの所―――から5日間ぐらい。もっと文明が発達していたら2日で着くのだが、しょうがない。


 食事は、自分たちで作れるまでに何日かかるか分からないので「ごはん屋」に1人90食ぐらい(全部で360食)をオーダーしておいた。

 運転は、天界で航空機の勉強をして来たということで、4人全員ができた。

「ウィングブル」は単純な操縦でいいので、1ペアにつき12時間でいける。

 しかも俺が自動操縦システム導入しておいた。実質離陸と着地ができればいい。

 なのでやるのは目視での確認と、計器の監視だけである。


 暇になるので、俺は「元・寮」に手を入れる事にした。

 この元・寮は元々亜空間内で使う物だった。

 なので、亜空間でいつでも人形の家のように模様替えできる。

 みんなの意見も参考に、操縦席で(自動操縦なので)みんなで亜空間に手を入れる。


 まず、だだっ広かった(パーティーができるように)リビングを縮小して、空いた場所にキッチンを作成する。フリウと俺のために大きめに。

 リビングの暖炉は逆に大きくした。今から向かうのは北国なのだ。

 2階の個人部屋には家具が残っていたので取り除く。

 魔界の木でできていたのでナチュラルに瘴気が発生している、天使には使えない。

 家自体はこの前、鉄筋コンクリートに変えたので瘴気は発生していないが。


 俺も普段は瘴気を(天使は聖気を)押し殺しているので、素材の移り香がつかないよう家具は変える。部屋全体は煙草の染みついた部屋をクリーニングする要領で掃除。

 部屋割りをし、各部屋にも暖炉を設置。薪などは現地で調達しないといけない。

 あと、元々あった図書室も、棚が魔界の木でできているので排除。後で要購入。


 本から瘴気を取り除いて(これは瘴気が発生する素材ではない。移り香だけなので大丈夫だ)床に積んでおく。本は怪奇小説がほとんどなので、俺の手持ちの中からコピーしてどっさり追加しておいた。


 何故かヴェル以外が使う、血の樽を置くスペースは、ヴァンパイアの多い寮だったので元からある。香草を保管しておく乾燥室と保湿室も元から完備だ。

 中身はこれから向かう、商業都市コイントスで買うしかないだろう。

 

 リッケルトが可愛く見えるほど大きな市が立つそうなので楽しみだ。

 なんでも町の3分の1が市で占められているらしい。

 案内人もいるそうで、レニー曰くいい人を見つけてあげますとの事。


 改造はこれぐらいだな。


 レニーによると、最初の大陸よりフィアメッタ合衆国の方が文明レベルが高いそうで、目立ちはするが「サラマンダー」は普通にバスだと理解してもらえるらしい。

 高価だがスノーモービルもあるそうなので、是非購入しておきたいアイテムだ。

 亜空間収納があるので買い物の多さは何とかなるだろう。


 レニーに「ウィングブル」を下ろす位置は「ブランロジア」の何処がいいか聞いてみると、万年溶けず、薄くもならない氷が分厚く張っている湖があるらしく、その上に着地し「ウィングブル」を収納するといいという。

あと、ヘリはその湖の上に置いて使う(普段はカバーをかけて)のがいいとか。

それと、湖に注ぎ込む、そのまま飲み水になる清流があるそうだ。

(ところどころ凍っているそうだが)なので、その近くを切り開けば水に困らない。

そういうわけで、清流沿いが家を建てるのに向いているそうな。


♦♦♦


 「ブランロジア」の近辺にきたので、高度を下げて分厚い雪雲の層をぬけた。

「うわぁ………」

 ミシェルが声を上げる。無理もない。

 一面が真っ白いうえ、7月だというのに雪が降っている

 視界が遮られるほどでは無いので、俺達は目的の湖と思わしき場所を探した。


『マスター、あれですあれ』

 レニーが半物質化して指をさしてくれる。あの平原、湖なのか………

 俺が操縦する事にして、いざ着陸!氷の上なのでやや滑ったが、無事着地。

 防寒着(冒険都市リッケルトで買ったあれ)を着込んで出陣である。

 ヴァンパイアの俺も、寒くはないが体が凍るのは困るので着込んでいる。


 「ウィングブル」は亜空間収納にしまう。

 代わりに「サラマンダー」を「ウィングブル」から出し、氷湖に駐車しておく。

 家ができるまでは、サラマンダーで寝泊まりする事になるからだ。

 無限収納庫にガソリンもバッテリーもあるので、エンジンは贅沢にかけっぱなし。

 理由はエンジンを切ると暖房が消えるからである。


「雷鳴、川沿いで地盤がしっかりしている所が分かりませんか?」

 フリウに言われて『教え:観測:縮小国家』を川沿いに向けて使う。

「木を取り除いても、地盤がしっかりしてる所を示せ」

 いくつか光っている。一番近いのは―――あれだな。

 湖からあまり離れていない所が見つかった、あそこを切り開くか。


 全員『物質創造』で斧を作り、木を切っていく。

 もちろん切った木は薪に有効利用する。

 俺の無限収納庫に入れておけば尽きる事がない資源として使えるからな。

 途中から木を切るペア―――ヴェルと俺。

 薪を作る役、フリウとミシェル―――にシフトした。


 1日で終わるわけもなく。それから俺達は2週間ほど木こりと化した。

 木の乾燥は『ウォーム』と『ドライ』重ねがけで何とかした。

 うん、十分な薪を得る事ができた。

 そんなに木が密性しているわけではなかったので、すべて取り除けた。


 いよいよ「元・寮」のお披露目である。

 全員で念動で「元・寮」―――以下は拠点と表記する―――を慎重にコントロールして、丈夫だと思われる辺りに基礎を差し込む。

 岩もあったがトンネル(一定時間で元に戻る)を駆使して設置した。


 ちなみにここに来る過程で、防寒設備はこれでもかと入れてある。

 家全体に断熱素材をいれてあるのだ。

 ガレージのわきに玄関があり、そこで靴を脱ぐ。土足は厳禁だ。

 なぜなら、奥の部屋にはクッションと座椅子、毛足の長いフワフワの絨毯の地帯があり、繕いで座れるようになっているのだ。スリッパがいるな。

 食事はキッチンで取る事になりそうだ。


 2階も見てもらう「貴族の寮にしてはシンプルなのですね」とフリウ。

 部屋割りは階段を上がって右手の部屋に、天使三名。

 俺は左側の部屋で、読書室のとなりになる。

 隣は客間(果たして使うのか?)である。

 一番奥は、右手に樽設置ラック。左手は香草保管庫だ。


 奥の部屋には暖炉があり、早速ミシェルとヴェル、フリウが稼働させていた。

 俺はレニーに、ここにもマニー商会があるのか聞く。

「マニー商会より大きな「ヘカトンケイレス商会」とういのがありますわ。

 まずそこで、金塊を換金してもらうのが先決だと」

 了解である。金塊は大きなのを4つ作った。40000マニーだ。

 一人10000マニーを持つ。


 両替所は町の入口にあるそうな。

 どころでヘリコプターも下がサラマンダーと同じカラーリングなので、これにも名前をつけようと持ち掛けた。フリウがこういうのを考えるのが上手いのだ。

「ボートが「テイル」なので、これはウイングでどうですか」

 フリウ、ナイス。これは「サラマンダー・ウイングだ」


 6人乗りの大型ヘリに乗って、1時間ほど飛ぶと、なるほど巨大な市が見えてきた。

 入口には商業地区が密集しており。そっちも………デカい。

 「ヘカトンケイレス商会」の広場に降り立つと、野次馬が寄って来た。

 どうやって切り抜けようと考えていると、フリウが

「「ヘカトンケイレス商会に」一任しますので、欲しい人はそちらにどうぞ」」

 と追い払ってしまった。強い。


 ヘカトンケイレス商会は、いかにも高級な感じだ

 だが快く金塊の両替を引き受けてくれた。

 その関連で、商会のトップ「エスメラルダさん」に会う。

「この近く「ブランロジア」に住み着いたのですね」

 はい、ヘリの設計図はお渡ししますので、お代になりますか?


「問題ないですよ。うちで買い物もしてくださるとか」

「はい、家具は、大きいものはここでそろえたいと思っています。

 後ハイパワーなスノーモービルを欲しいですね」

「「実体化するカタログ」を持って職員を2名派遣しましょう。」

「それは有難い、6人乗りのヘリコプターですので」

「あれはヘリコプターというのですね。サンプルをおいて行って、貰えますか?」

「そうぞ。どこに出します?」

「中庭にお願いします」

「了解した」

中庭に小型(2人乗り機)中型(4人乗り機)大型(6人乗り機)を展開する。


「技術省は喜ぶでしょう。皆さんには「マリル」と「ダン」」をお付けします。

現地まで連れて行って下さい。

「スノーモービルもカタログに?」

「はい。大きいものをメインにしたカタログを持たせますね」

マリカさんは20代後半のスーツのお姉さん。ダンはシャキッとしたビジネスマンだ


 とりあえず、乗って来たヘリの後部座席におさまってもらう。

「マリルさんって金魔?」瘴気が薄く香るのだ。

 綺麗な金髪に金の目の美少女である。

「はい!修行のためにここで働いています。ダンもそうです」

 ダンも金髪金目で、二人は姉弟なのだそうだ。

「どうやってこの星に入ったんだ?」

「召喚されて雇用契約を結んだのです」

 そういうやり方だとできたのか………


「市の案内はできるのかな?」

『任せて大丈夫だと思います』とレニー。

「あのね………俺シュトルム公爵家の当主なんだ」

「ええっ!なぜここへ?」


 というので、俺はここに来た経緯を包み隠さず話す。

「それで、今は拠点づくりの最中なんだよ。

 カタログで買えない案内を含めて、色々案内して欲しいんだ」

『シュトルム公爵様のお望みのままに!』


♦♦♦


 寝具は出来るだけ寝心地のいい最高級品だ。

 ヴェルの部屋だけダブルベッドなのは、もう何も言うまい。

 ただし、防音素材を全体に追加しておいた。


 ダンとマリカによると、車の作業場を設置する事も出来るそうで、彼らは「ドライアド(植物の精霊)」に場所を開けて貰って設置してくれた。有難い。


 棚とか、洗面所もそれぞれの好みで、ちょいちょいと設置。

 折り畳み式クローゼットも導入したので、後はワードローブを入れていくだけだ。

 図書室にも本棚が入ったので、怪奇小説、恋愛小説、ノンフィクション、ファンタジーなどなど。ないジャンルは無い。辞書の類も完備だ。


 あとは、なにかと役立ってくれそうなのでスノーモービルだ。

 汽車の通る線路迄行くのには、役立ってくれそうだ。

 2人乗りのを4台。メンテナンス方法も教わった。

 ガソリンでいいらしいので、俺の無限収納庫から取り出して使おう。

 専用の車庫も設置した。改造し甲斐がありそうである。


 ちなみに、伐採で出た木は『ウォーム』『ドライ』を駆使して、乾燥させて薪にしで、無限収納庫に。半分は炭にして燃料にする事に成功した、これも無限収納庫に。


「ダンとマリカは姉弟なのか?」「はい、ダンが兄で、私(マリカ)は妹です」

「頑張ってくれたらシュトルム公爵家で、仕入れなんかを任せるから頑張ってくれ」

「そう言われたら本気になりますよ?血の樽なんですかウィスキーの風味が染みついてい売るビンテージの樽はどうでしょう」

「いいな。ミシェルとフリウも要るか?」

「いいですね、夜の飲み物を作るのによさそうです」

「ウイスキー風味のミルクって感じですよね、いいですね」


「では………別のカタログに移りまして………これですね」

「ウィスキー風味が3つ、新しい樽が15個ぐらいでいいでしょうか」

「そうだな、香草は市で買おう」

「案内します!兄さまはここの警護を」

「分かった、マリカ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る