第14話 堕天使の襲撃(雷鳴)
まだ6月。
今は「エルゼ洞窟」からの帰り道である。
帰るのは2日かかるが、今日は1日目の深夜だった。今の運転はミシェル。
深夜だが、バスの中でネフィリムのカプセルから情報を引き出す事にした。
まあ、ほぼ1体目のネフィリムと一緒だろうけどな。
俺はまた質問役だ。さてカプセルを床に1つ(最初はオメガだ)置いて、と。
「フリウ、行けるか?」
「大丈夫です。ミシェルとヴェルも聞いていてくださいね?」
「「了解」」
「じゃあ始めるぞ」
「分かりました。集中します………」
「お前たちはアルファが捕まっていることを知っているか?」
「………知っています。解放させるためにここに来ようとしたのですが、叔母のマルにダンジョンで待つよう指示を受けたのだとか」
「叔母のマルは何を考えている?」
「………人間を操る事、だとしか聞いていません」
「マル以外の家族は何を考えている?」
「………人間の地位が高い美しい女を3人誘拐するよう、ベータが人間サイズにされて送り込まれている。多分もう終わっている」
「人間の地位は?どこの国だ」
「………よく知らない」
「どんな方法で攫う?」
「………封印の針、とやらを使うと言っていた気がする」
「ベータはどんな奴だ?」
「………とても頭がよいそうです。ネフィリム基準だそうですが。あと、人間サイズにすると美男子だと叔母たちと母が言っていたそうです」
「お前たちが封印されたら家族は助けに来ると思うか?」
「………必ず行く、とマルが言っていたそうです」
「こんなもんだな」
「そうですね、一応もう一つのイプシロンにも聞いてみましょう」
ちなみに反応は全く同じだったことを記しておく。
「………なあみんな。おかしくないか?」
「何がだ?」
「忘れてるのか、ヴェル?この惑星グロリアは外部の人間を受け付けないんだぞ」
「あっそうか………堕天使は元天使だから、この星に入れるわけは無いんだ」
「そういう事だ、ミシェル。ネフィリムに関しては、人間の父親がこの星出身なら何とかなるように思うが………どうだろう?」
「人間の父親が惑星グロリアの出身なのは、ほぼ決まりですね」
「堕天使達なんだが………さっきの尋問と俺達の転生で考えた事がある」
「なんですか、雷鳴?」
「堕天使は天界出身だけど………俺達だって魔界と天界から来たんだ。だから魂はこの世界の者じゃなくてもいけるような気がしないか?」
「肉体は………あ、まさかこの星の人間から器(魂のない体)を奪っている!?」
「うん、俺もそう思う。
身分の高い女性を誘拐して来いってのは、すり替わるつもりじゃないかな?」
「盗賊ギルドにどこか行方不明になったのに
すぐ戻って来た高貴な女性を探してもらいましょう」
「そうだな、そうしようか」
などと言っていたが、帰還するとそんなことは吹き飛んでしまった。
♦♦♦
町が燃えている。
市までの延焼は食い止められているものの、火事は俺達の住む家を中心に起こっているようだった。この文明では、火事はもう消し止められない状態になっている。
延焼を防ぐのに精一杯なようだ。
「アハハ!この家の住民を私の前に出してこなければ、どんどん炎を足すわよ!
恨むならそいつらを恨むのね………全部あいつらのせいよ!」
叫んでいる黒ローブの………声からして女がいる。顔は見えない。
誰かに突き出されるまでもない。
俺は「サラマンダー」を拠点に向け全力疾走させた。
炎の海の中に突っ込む事になった。
俺は『教え:血の魔術:鎮火10』を唱える。火傷は厄介だからだ。
全力でかけたので、鎮火の及ぶ範囲は軽く半径1キロに及ぶ。
体内の血が底をついた。だが、まだ燃えている場所が残っている。
この女を何とかして消しに行かないといけないだろう。
とりあえず、樽1つ分にもなる血を回復させる「血の麦」を1粒口に放りこむ。
「来てやったぞ!目的は何だ!」
「封印したウチの子供達を帰すのよ!」
「条件があります、交渉する気ならまず火事を消しなさい」
「いいでしょう」
女が言うと同時に、残った火事は鎮火した。
フリウがテレパシーで
『とりあえずこの場を治めます。情報を与えそうなことは口にしないでください』
と言ってきた。確かに人間を助けるならそれが早道だろう。
『俺は情報を引き出すつもりだったが、フリウがそう言うなら仕方ない』
『では私に任せて下さい』
「ネフィリムを返すには条件が2つあります」
「お嬢ちゃん、優位に立っているのは私なのよ?」
「私はともかく、仲間の悪魔が封印具を持っていますので納得しません」
「悪魔もいるっていうの?………仕方ない、言ってみなさいよ」
「もうネフィリムをこの星に投入しない事、私達を釣るために人間を利用しない事。貴方だけでなく仲間全部への条件です!飲まないなら、この場で戦闘します!」
女の顔が怒りで歪む。ここで戦闘するなら、かなりの被害が予想されるが………。
「仕方ないね、条件を呑んであげるから早く子供達を帰しな!」
「誓ってからです」
「チッ。誓ってやるわよ」
『雷鳴、封印器具は封印が解けないんですよね?』
『姉ちゃんがやっても無駄だったらしいから、こいつらには無理だろうね』
『ではカプセルを出して、あの女に返してください』
「こいつだ、受け取れ!」
そう言って俺は封印カプセルを女に向かって投げつけた。
「封印を解くのよ!」
「俺達も知らない、そっちで何とかするんだな。ごねるようなら本当に戦闘するぞ?仲間はともかく、俺は犠牲は気にしない。死ぬのはお前だと思うがね」
「………分かったわよ!悪魔の小僧!忘れないわよ!」
女は黒い翼を出し、南へ飛び去って行った
だが気は晴れない。周囲の人たちが向けてくる視線のせいだ。
『………あの堕天使は、これが私たちのせいだと、盛大に宣伝したようですね』
『フリウ、ミシェル、ヴェル。俺はこの国を出て、やり直すのがいいと思う』
『でも―――』
ミシェルがテレパシーで何か言いかけた時だった。一人の男性が
「………出て行け、この国から出て行け!」
そう言って石を投げてきた。周りが次々とそれにならう。
「「「「「「「「「「出て行け!」」」」」」」」」」
降り注ぐ石の雨、フリウの頭に当たって血が流れた。
フリウをかばう何かに耐えるようなヴェル。泣き出したミシェル。
俺は平気だ。ただちょっと寂しいだけ。
「………みんな「サラマンダー」に乗ってくれ」
ヴェルはフリウをかばいながら、ミシェルは俺に手を引かれるままに「サラマンダー」に乗ってゆく。俺は運転席に乗って、振り返ることなく町を出た。
♦♦♦
3日たった。ようやく全員の気持ちが落ち着いた感じだ。
フリウはさすがに食事を作る気にならなかったようだ。
なので、食事は余っていた「ごはん屋」の弁当だった。
「どこに行きましょうか………」
困ったように少し微笑むフリウに、俺は地図を渡してやる。
みんなが興味津々に覗き込んで来る。ミシェルもめそめそするのは止めたようだ。
「えーとな、この際(日本とブラジルぐらい離れた)フィアメッタ帝国とかどうだ?」
3人が顔を見合わせる
「どんな国でしたっけ?」「俺は知らないです」「俺も知らん」
「ええとな、デカいから色んな気温の場所があるんだが。
俺が考えてるのは何処までも遠くに行くって事で、この最北端。
アイシクル州の、人がほとんど住んでない山の中を考えてる。」
「冒険者ギルドは近くにあるんですよね?」
「ここに来る前に入手しといた資料によると、一番近い都市は商業都市コイントス。
このへんの地域ではNo.1の冒険者ギルドがあるらしい。
カードはどうなるのかよく分からないから、現地で聞くしかないな」
「山中からはどうやって移動を?何時間ぐらいかかるのですか?」
「ちゃんと谷を機関車が走ってるんだ。
山間部はゆっくり走行で、沿線で待ってれば回収してもらえるんだと。
この機関車「ホワイトイーグル」で、4時間で着く。
もしくは、買ったものは全部亜空間収納へ入れるなら、ヘリで1時間」
「ヘリコプター!雷鳴そんなもの持ってたんだ?」
「それだけじゃなないぞ、出番があるかと思って「ウィングブル」も持って来た!」
「「「ウィングブル!」」」
「大陸を渡る可能性があるかも?必要かなあ?って感じでな。
しかも速度は倍になってるぞ!それでもジェット機に比べると遅いんだが。
あと人に見つかると大変だから、色は白と水色の迷彩色にしておいた」
「………なるほど、雷鳴はすごいですね。そんなことまで考えているなんて」
「さすがに町から追い出されるとは思わなかったけど、結果オーライだ!」
「そうだね雷鳴!何だかワクワクしてきた!」
「………お前は大したやつだな、雷鳴。俺も少し楽しい」
「ヘリを使うなら開けた場所が必要ですね。木を伐採しますか?ああ、家も立てないといけませんね。大変です」
「それが家なんだけど………」
「「「まさか………」」」
「いやいやまさか。これは、いくらなんでも予想してたわけじゃないぞ。
今使ってる亜空間収納は、学生時代から使っててさ。
学生をやってた、一生の記念にと思って入れてたものなんだ」
「はあ………何だか落ち込んでいたのがバカバカしくなってきましたね」
「えーと、この家は亜空間では可変になる特性があるから、みんなの意見を聞いて組み替えるよ。これが図面」
みんながどれどれと覗き込んで来る。
「雷鳴、何で屋根がまっ平らなの?」
「亜空間の家だったから、あるように見えれば良かったんだ。雪国仕様にするか」
俺は「元寮」に魔力を送る。それに従って図面の見た目も変わる。
俺は屋根をガルバリウム鋼板製の、角度のきつい物に変えた。
「おい………山中でこの面積は置き辛くないか?変えられるなら2階建てがいい」
「了解、居住エリアを2階に、リビングと台所、ガレージを1階にする」
「基礎はどうするんですか?斜面ですよね、滑っていきませんか?」
「素材をいじって………鉄筋コンクリートに変えた。
金属部分が底面から沢山出てるだろう?
これを地面に『トンネル』と『念動』で埋め込む。
そんで『物質創造』でコンクリート作って固めたらいいと思う」
「とりあえずはこんなもんでいいかな?」
「うむ、俺からは特にもうない」「俺もー」「私も特にありません」
俺は頷いて、目の前の平原に「ウィングブル」を出現させる。
「じゃあ「サラマンダー」に乗ってくれ。積み込んで出発だ!新天地へ!」
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