第13話 ミニ・ダンジョンアタックー3(フリューエル)

 帰ってきた後、ネフィリム戦に向けて用意を整えます。

 矢に雷鳴の「血液毒」の「猛毒」のレベルを思い切り上げたものを塗りつけます。

 ミシェルは「超怪力」を持っているため、鉄でできた強弓を使います。

 それほどではなくてもヴェルのも雷鳴のも凄いごつい仕様のものですが。

 私が一番普通でしょうね。それでも店で一番強い力が必要なものでした。


 今回も、ネフィリムは封印する方向で行きます。

 天使が群れでかからない限り、まず倒す事の出来ない敵ですからね。

 カプセル銃を撃つのは、ヴェルとミシェルです。

 私と雷鳴も撃てることは撃てるので、準備はしておきますが。


 剣にも毒は勿論塗り付けておきます。

 弱ってくれないと封印できませんからね。

 それにしても、この毒は凄い臭気ですね………


 他に考えるべきこととしては、山ほどもある(こないだのは500m)ネフィリムが洞窟を崩さないかどうかです。有り得る事です。

 偵察に行った時調べた限りでは、かなり広い空間があるようでしたが………

 もしそう言う事態が起きたら、私が結界を丸い形に張り、雷鳴が結界を動かして防御し、外に出る事に決まりました。


 弓を撃つときはひと固まりになり、結界に入りやすいように。

 剣で切りつける時は、各自で何とか結界を張る(被害はあるでしょうが)事に。

 間に合えば私の所まで退避をしてくるように、と言いました。


 そこまで決めると、夜になっていた(ダンジョンからは夕方に出た)ので、就寝。

 車の中でしたが、ベッドはとても柔らかくて快適です。

 「サラマンダー」と雷鳴に感謝ですね、野営せずにすむのですから。


♦♦♦


 朝4時。みんな持っている懐中時計(私は蘭の意匠)で、時間を確認します。

 習慣でそのまま起き出しました。おや?雷鳴も起きているようですね。

 私は雷鳴のマグカップに血を淹れて、外に出ました。

 「サラマンダー」の下に潜り込んでいる雷鳴に

「おはようございます」

 と声をかけます。雷鳴はすぐに下から出てきました。


「おはよう、なんか家にいるみたいだな」

 そう言う雷鳴にマグカップをさし出して

「これがあるとますますそんな感じですね」

 微笑みかけると雷鳴は嬉しそうです、いつもながらまるで悪魔に見えません。

「雨続きだから足回りのチェックをしてたんだ」


「で、さ。ダンジョンに入るのは昼過ぎだろう?」

「そうですね、朝の洞窟は冷えますし。水ポチャを警戒して昼過ぎでしょう」

「昼飯、景気づけに俺が作るよ」

「おや、それならわたしも何か作りましょうか?お弁当は美味しいですが人が作ってくれたものが一番ですしね」

「そうか?じゃあ協力して準備しよう」


 わたしは持って来た材料で、何が作れるか考えます。

 亜空間収納にあるのは鶏肉(疑似)と、にんにく、空芯菜、調味料etc

 うん、鶏肉のニンニク炒めと、空芯菜の味噌炒めにしましょう。


「雷鳴は『定命回帰』するのですか?」

「昼ごはんまでの間は、そうするつもり」

「では雷鳴のものも作りましょうか」

「サンキュー、フリウ」


 『定命回帰』し、フリウを手伝っていると、匂いにつられ他の2人も起きてきた。

「弁当じゃないんだな」

「今日は気合を入れないといけませんからね………

 しかし、以前の旅を考えると考えられない快適さです。

 人間5世代ぐらい経過するまで大丈夫と言われている気楽さでしょうか」

「だが魔王の波動を受けた者どもが、各地にいる。

 このネフィリムどもと堕天使の因縁もできた。警戒だけはしておくべきだな」


「その通りですね………っと、出来上がりましたよ」

「おう、こっちも空芯菜の炒め物完成」

「ヴェル、野菜も食べて下さいね」

「どっちも美味しそうです」


 屋台の味の再現だったのですが、とても美味しかったです。


「雷鳴、今回の敵―――ネフィリムはただの捨て駒だと思うのは私だけですか?」

「いや、俺もそう思うけど、捨てる駒にも意味があるのが普通だな。

 俺は正直、できるものならネフィリムを倒してしまいたい。

 だが、倒すにはレベルが足りない。100Lvで元の能力だからな。

 封印してあるネフィリムを持っていることは、あまりよくない気がする」

「しかし今は他の方法がないですよね………」

「封印するしかないな。振出しに戻るけど」

「今はそれしかないですね………。封印できたらまた尋問してみましょう」


「なあ雷鳴、あの封印カプセルって壊すとどうなるんだ?」

 ミシェルが雷鳴に問いかけます。

 私も興味がありますが、そもそも壊れるのでしょうか?

「姉ちゃんにも壊せない上、封印の解除方法も姉ちゃんしか知らないんだ。

 細かい事は分からないけど、作る事はできても、壊す事はできないらしい。」

「中身を殺す事も出来ない?」

「うん、本来、対「破壊の蛇」用だからな。

 あれ死なないし。殺せる仕様にする必要が無かったんだと聞いてる」

「そうかあ………」


「さ、頭の痛い問題は置いといて、昼飯を作るぞー」

「手伝いますよ、雷鳴」

「朝がチキンだったんだよな。でもヴェルのリクエストは肉だから………よし、キーマカレーだ。合い挽き肉で作るぞ。ん~カレーのルウは、と」


 ひき肉だけに見せかけて、みじん切りにした玉ねぎとエリンギも入っていますね。

「天使って基本草食だから、野菜喰わないと体調を崩すと思うんだけど、どう?」

「全くその通りですね。普通は果物だけでもいいんですけど。ああ、でも最近は筋肉をつけたい天使はプロテインを飲んでいますよ。大豆由来のやつです」

「天使のイメージ、めっちゃ壊れるな」


 雑談しながら2人で作り上げました。うん、いい出来ですね。

 というか雷鳴が多才すぎるのでしょうか?そんな気がします。

 ちなみに私の要望で、付け合わせのサラダは山盛りです。

 みんなしばし食事に集中して―――

 午後を迎える事になりました。


♦♦♦


「おーい、みんな、滑るなよー」

 雷鳴が声をかけながら進んで行きます。私としてももう尻もちは嫌です。

 さすがに慣れた一層目、誰も転びませんでした。

 ………転びかけたのは内緒です。


 2層目。昨日と同じ要領で崖と急流から逃れる事に成功。

 巨大コウモリは………いたのですが雷鳴と気まずい雰囲気でしたね。

「キーキーキー(肉の塊やるから通してくれない?)」

「キッキキー(今更戦うのもどうかとおもうからそれでいいよ)」

 雷鳴は一体何語まで知っているのでしょう、謎な人(悪魔)です。


「雷鳴、話せない言葉はあるんですか?」

「あんまりないけど、魚語は難しいかな。マーメイドとかなら平気だけどさ。ああ、でも学ぶ気になれなかったのは虫語かなぁ。片言でしか喋れない」

「………片言でも十分だと思いますけど。一番使った言語は?」


「猫語。学生時代、学園のあちこちにいたし、家でも飼ってるから」

「あれ?雷鳴は特に動物好きじゃないっていってませんでした?」

「ベールゼブブ領民対策だよ」

「爬虫類と昆虫ですか?」

「ネズミ、ミスターGゴキ、ハエの撃退用」

「ネズミもベールゼブブ領民なんです?」

「うん、病魔と食魔両方に居る。もち戦魔領にもいるけどね」


 その辺りまで話したところで3階層に到着しました。

 頭上からごうごうと激流の音が聞こえ、天井からぽたぽたと水がしたたります。

「これ、ちょっと暴れたら、川の底がぬけるのでは?」

「俺もそう思う………」


 だだっ広いドームの様な洞窟内です。

 それでもネフィリムには小さかったのでしょう。

 身をかがめた巨人がこちらにのしりのしりと歩いてきます。

「エサが来たよイプシロン姉さん」

「そうね、オメガ。よ」

「「全力で潰してやるっ!!」」


 彼女らは赤い肌と黄色い肌をしています。髪はもつれた金髪で、白めのない金の瞳でした。身の丈は兄と同じぐらい(500m)で、そんなのが立ち上がったら―――。


 バキッガラガラ………!!

 ドザァァァァァ―――。

 天井がぬけ、大量の水が流れ込んできます!

 戦い以前に溺れないように飛び上がらなければ!


 全員が何とか水から逃れました、みんなずぶぬれですけどね。

 アルファ(赤肌)が『ウォーター・ウォーキング』と言いました。

 イプシロン(黄肌)もそれに続きます。


 こちらもそうした方が良さそうですね。

 もはや3階層は完全に水没。かなりの高さがある2階層で対峙している状況です。

 蝙蝠さんのすみかとはだいぶはなれているようでよかったですが………

 全員に『ウォーター・ウォーキング』をかけます。


「フリウ、赤い方はこっちで!黄色い方を任せた!」

「了解しました!」


 ヴェルは「踏ん張る所が欲しいから、水面から足を責める」と降下していきます。

 随時毒を追加しながら、カイザーナックルで殴る気みたいです。

 となると私は、上半身ですね。ヴェルから気を逸らさなければ。

 魔法も何を使ってくるか分かりません。

 まずは、毒の矢で―――ヴェルのものも私がもらいました―――ちまちま削りましょう!攻撃開始です!


 矢が当たれば、そこは変色してどす黒くなりますし、悲鳴も上げるので効いているのですが『ウィンドシールド』を展開されるので、その度『ディスペルマジック』が必要です。うっとおしいですね。

 顔に向かって特大の『ウィンドカッター(10倍)』狙い通り目が潰れました。

 無意味にどたんどたんと足踏みしています。


『回復!』『邪眼:魔封じ!』

 イプシロンの回復が途中で封じられました。雷鳴が援護してくれたのです。

「それで、もう魔法は使えないから!」

「ありがとうございます、雷鳴。ヴェル、畳みかけましょう!」

「応!」


 ヴェルが飛びあがり、腕の筋力だけで心臓の上を殴りつけます。

「がっは!!」

 吐血するイプシロン。私も胸を狙って矢を飛ばします。

「ヴェル、そろそろカプセル銃を頼みます!」

「準備する!」


 私は残った矢を全て、宙に浮かせて『超能力:念動力:念動』で、一斉に射撃。

「ぎゃああ!!」

 イプシロンは手を振り回し、足へのダメージもあったのでしょう。転倒しました。

 ばしゅうう!!

 カプセルはイプシロンに向かって飛んでいき―――無事に封印が成功しました。


 もう一方の雷鳴とミシェルを見ると、ミシェルがVサインしています。

 もちろんカプセルを持って、です。

 私は雷鳴にカプセルを預けました。アルファのを持っているのも、専用のBOXを持っているのも雷鳴ですから、自然な事でしょう。

 

 ミシェルも雷鳴にオメガのカプセルを渡しました。

 頭を撫でてあげます「よく命中させましたね、ヴェルもお疲れ様」

「本当に反動の激しい銃だな」ヴェルは手を痛そうに振っています。

「これで帰還できるな………うん?」


 冒険者カードが鳴っています。Lvが58になりました!

「これって依頼じゃなくてもモンスターを倒したら加算されるのか」

「良かったと思いますよ。これから堕天使絡みの事件が増えるでしょうし」

「そうだぞ雷鳴、堕天使ってしつこいらしいし」

「まあそうですね、おおむねそういう個体が多いです」

「マジで」


雷鳴は嫌そうにしながら、帰りの洞窟の方に飛んで行きました。

それを追いかける私たち天使。

傍から見たら奇妙な光景でしょうね―――

私はそんな事を考えながら、親愛なる悪魔の後を追ったのでした。

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