第12話 ミニ・ダンジョンアタックー2(雷鳴)

 イビルピクシーを倒し、冒険者ギルドの依頼は達成したので、一度外に出ている。

 レベルアップはしていない、イビルピクシーは弱かった。

 勿論、盗賊ギルドの情報があるので撤退とかではない。


 フリウ曰く「ネフィリムは邪悪なので、見逃すわけにはいかない」とのこと。

「悪魔よりも邪悪なのか?」

「そうですね。「誓い」が効かないのと、堕天使に対しては法律で討伐命令が出ていますから、悪魔よりも邪悪認定でいいでしょう」


 ああ………今代の天帝は堕天使撲滅を掲げてるもんな。

 堕天使の扱いが、悪魔よりも下(出合ってすぐに殲滅可)になったのも今代からだ。

 専門の組織(セントクレスト)ができたのも今代。


 さて、で、俺達はなにをしているのか?

 休憩以外の何物でもない、ほぼ初めての洞窟で色々あったのです。

 俺は今、全員の靴にゴム(車の材料として持っていた)を張り付けている………と言えば分かるだろう。そう、洞窟で転んだり(ミシェル)滑ったり(全員)………。

 帰ったら専用の靴を買うべきだな、うん。


 いや、薄々思ってはいたんだがここまで滑るとは思わなかった。

 地下で川が流れているらしく(イビルピクシーも泉に出たしな)洞窟全体が湿っているのも要因だろう。常に浮遊するわけにもいかないし―――初動が遅れるからな。

 そういうわけで、臨時で靴に滑り止め加工しているわけだ。


 しかし梅雨は伊達ではない。今もしとしと降っている。鬱陶しい。

 天界にも魔界にも梅雨や雨季なんてものは無い………無くて良かった。

 だから全員「サラマンダー」の中。朝飯の弁当を食べている。

 俺は血だから。すぐに飲み終わったので、作業しているわけだ。 


 ちなみにモンスターを食べるという案もあったが、イビルピクシーはちょっと食べれない。俺は吸血蝙蝠をかじって(噛んで)みたが、病原菌を検知して吐き出した。

 そんな事も分かるんですね、とフリウに感心された。


 そんな朝食中な訳だが、俺以外の視線はテレビに向いている。

 洞窟を出たミシェルがしょぼくれた顔で

「癒し系の映像は無い?イビルピクシーに触られて憂鬱感が抜けない」

 と聞いてきた。俺も気分は何となくうっとおしかったが原因それだ。


 なので「可愛いランキング、部門別・総合1位決定戦~にゃんこ編」というもの引っ張り出してきた。学校にいた頃年少組に見せていたものだ。

 魔界のものだがダーク感は全然ない。バトルになっているのだけが魔界仕様か?

 

 というわけで、みんな画面に釘付け。ヴェルまで見ている。

 「お前も可愛いと思うの?」と聞いたら「猫は食えないからな」と納得していいのかどうか分からん理屈が帰って来た。

 「じゃあウサギなら?」「美味そうだろうな」なるほど?


 ちなみにヴェルは同族喰いではないので、悪魔で魔界の動物―――通称「魔界生物」のことを言っているはずだ。ウサギ型悪魔は含まない。

 よく部外者や堕天使たてのものは、この見分け方が分からずに苦労する。

 分からない時は店で見本を見せて貰って買うと良い。


 ドラマ(当時放映されていたものを録画したのだ)の猫画像に戻ろう。

 ミシェルに至っては食べるのを忘れているようだ。

 こぼれた花びら(今日は菊か)がヒラヒラ舞っている。

 味が知りたいので、今度ごはん屋から買う時サンプルを貰おう。


「雷鳴はよく作業に集中できますね?」

「可愛いとは思う。けど、猫は集団戦させたらムーンビースト倒すんだぞ。子猫はかわいいけど、それは子供がかわいいのと同じ理屈だなぁ」

 といっても猫事情を知らないフリウには分からないか。不思議顔だ。

 とりあえず癒し映像を見ながら朝飯を食べ終わりました。


 するとミシェルがもそもそと残りの花を食べ終わり、こっちに来た。

 俺の作業を面白そうに見ながら話しかけてくる。

「なあ雷鳴。人工血液って天使の疑似肉と同じようなものか?」

「ああ、人間の血液を完璧に模倣する『教え』だが、ちょっと違うのは血液型とかDNAが無茶苦茶だってところだ。姉ちゃんがそんなの知らない頃に作った『教え』だからな。だから逆に俺ら的にも「普通」としか表現できない味なんだよな」


「なら飲んでも堕天しないよな?」

「フリウのブラッドソーセージはこれで出来てるんだぞ。肉屋に血が売ってないからって、俺から教わっていった。でもそのまま飲むならこれをそのまま魔術化すると―――生臭く感じるだろうからこのへんをいじって―――ふむ」

「よく分からないけど、飲む用にできるまでの術をセットで教えてくれるなら、煉獄見学チケットをやる」


「なんつーもんを交換条件に………いやまあ欲しいけど」

「ヴェルへの面会の為に貰ってたチケットが余ってた。理由がないと貰えないぞ」

「わかった。これをこうして………うん、大丈夫だろう」

 俺は魔術化した『人工血液』『保存石』『血液増量(大・小)』を教えた。

 保存石は他の物を腐らせたくない時にも使えると教える。


「サービスで香草もいくつかつける。天使が好みそうなやつ………ローレル、セージ、ローズマリーで良いか?いいんだな。じゃあついでに瓶をやろう」

 俺は香草と末広がりのでかい瓶をミシェルに渡す。

「?何で瓶?血液増量(小)を使え?ああ、車内だからか」

「そうだよ。車内は瓶で試せ。すぐ飲みたいなら『生活魔法:熟成』を瓶に使え」


「分かった(と亜空間収納をごそごそして)これ、約束のチケット」

「へえ、ハードケースに入ってるのはいいな。2枚あるのか」

 それぞれ必要事項の左に大きなスタンプで、百合の紋章のものと六芒星のものがある。違いは―――あった。なるほど面会時間が違うのか。

「サンキュー!お、ヴェルの名前も入ってるんだな」

「はは、ヴェルには黒歴史だろうけどね。煉獄は入ってる奴が気の毒になるから」


「じゃあ早速………『人工血液』本当にちょっとしかできないんだな『血液増量(小)』瓶の3分の2ほどになったぞ『保存石』なんか軽石みたいだな」

 こういう作業をさせるとひとりごとが出るタイプか、お前。

「えーと、じゃあローレルをいっぱいになるまで入れて………」


「ちょっと待てミシェル、みっちり詰めるな!どうやって出す気だ!それに香りが強くなりすぎる。ローレルの香りはかなり強いんだぞ。あとこのネットやるから(とストッキングタイプのネットを小袋に入れて渡す)これに入れて入れろ」


「あっ、そうか………ありがとう雷鳴(と、今度はまともな量入れる)で、蓋を閉めて―――『熟成』!これで飲めるか、雷鳴?」

 俺は無言でミシェルのマグカップに『生活魔法:ウォッシュ』をかけて渡す。

 ミルキーグリーンにジャンガリアンハムスターのプリントがされた奴だ。

 ミシェルはそれを受け取って、瓶から血を注ぐ。


「あれ………生臭くも金臭くもない。ローレルのスポーツドリンク?」

「お前に教えたのはかなり術式をいじってるからな。生理食塩水に近いかな。だからそれでブラッドソーセージは作れないぞ。もし本来の術式が知りたければフリウに聞け。あと、単純な事なんだが。飲み終わったら鏡を見ろよ」

そう言って鏡をさし出す俺。?となりつつ残りを飲んでから覗き込むミシェル。


「ホラーだ………」

「真っ赤だろ?なりたてヴァンパイアあるあるでな。水でゆすぐか『キュア』しろ」

コクコク頷いて『キュア』と呟くミシェル。あっという間に綺麗になった。

「ありがとう雷鳴。色々フレーバーを変えて試してみる!」

 ミシェルは嬉しそうに瓶をキッチンに置きに行った。


♦♦♦


 さて、ダンジョンにセカンド・アタックである。

 すでに把握した1階層目は誰も転ばず普通に通過できた。

 最奥で下への道を探すと、なだらかな下り坂になっている。

 しかし岩がちでツルツルだ。誰か転ばないか心配である、俺もな。


 結果。フリウが転んで水たまりに落ちた。

「「「大丈夫か(珍しいな!?)!?」」」

「ううう………恥ずかしいので皆で言わないで下さい!」

 フリウは『生活魔法:ドライ』を唱えて服を乾かした。


 ざー!ざざー!!ざざざー!

 先行していた俺は凄い大河に道を遮られた。ただし川ははるか下。つまり崖だ。

 アマゾン並みに広い川幅。これが地下を走っているとは―――奇景である。

 ダンジョン内でなければ観光名所になっているに違いない。


 問題はいくつかある。ひとつは対岸に行くための橋がないこと。

 ふたつめは対岸の様子がよく見えないのだ

 最後に鍾乳石が恐ろしく長く尖っているため、飛んで行けないのである。


 みんなで出した対策はこうだ

 最初に俺が『教え:視覚変化:拡大』で対岸を確認。先に続きそうな場所を探す。

「………確認した。ダンジョンの反対側と思われる穴と落ちた橋の残骸が、前方左手、高さはここと同じぐらいにある。歩いていくなら鍾乳石は邪魔にならないが翼だと引っかかる配置だ。向こうはかなり大きな空洞で、中で飛べそうな感じだな」

 

 次に『浮遊』で川面まで降りる………全員問題なし。

 そのまま『ウォーター・ウォーキング』で水面に降り立つ。問題なし。

 ただし、水面は流れているため、転んだり流されたりって―――ミシェル!ヴェル!何やってんだぁ―――!!

 フリウと一緒に救助して回った。2人とも一緒に流されかけたのは秘密だ。


 なんだかんだあって―――足に食いついてくる獰猛な魚とか。それで靴に穴が開いた―――対岸の崖に到着。

 飛んで行くのには支障があったので、邪魔な鍾乳石を数個砕く。


 俺が斥候として先に行く事になり、最初に飛び立った。

 無事着地―――って、うわっ!

 ビックリした。多分相手もビックリした。

 バスサイズの胴体のコウモリがいたのである。

 俺はコウモリ語で≪円満に別れないか?≫と言ってみた。

 だってなんか気まずいし。

 ≪そうしましょう、自分水飲みに来ただけなんで≫

 という事で俺とコウモリはすれ違った。


「雷鳴ー!?何でコウモリが出てきたんだー!?」

「何でもないー!何もないからみんな来いー!」

 みんな詮索はしなかった。


そこからは早かった。だだっ広い通路だったので飛んで行けたからだ。

そして行き止まりと先への通路が見えてきた。

え?モンスター?それがさっきのコウモリが主だったみたいで………

蝙蝠の生活跡(フンの山とか、食べかけのネズミとか)があっただけだったのだ。

仕方ないからさっきの出来事をみんなに説明した。


沈黙の後。


見なかったことにして、俺達は対ネフィリム戦に備えて調査を済ませ、いったん帰るのであった。帰りはヴェルが転んだことだけ追記しておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る