第9話 ウォーター・リーパー 前(雷鳴)

 季節は5月、時間は夜中の11時。


 時間はヴァンパイア的に絶好調な時間、気温も丁度いい。

 みんな朝早いので、もう寝ていることだろう。

 特にフリウは、晩ごはんを作る関係で、朝ごはんの買い物に毎日出る様になった。

 4時に起きなければならない為、寝るのは早い。

 そして眠りが必要ない(能力で強引にそうしているだけ。普通のヴァンパイアは毎日朝から夜まで寝る)俺は、フリウの付き添いである。


 さて、今日は今まで作りたかった物の準備が整ったので、今夜完成させる予定だ。

 作りたかったのは、オフロード武装バスだ。

 車体の基本になるのはみんなで「サラマンダー」という名前をつけた「フォルクスワーゲン・コンビ(タイプ2)」というバスの、車体を普通のバス並みにしたものだ。

 ペイント(白(上部)と赤(下部)の車体に、赤の部分全体に炎のエアブラシアート)はもう済んでいる。


 内装も済んでおり、低部と側面、天井は念のためセラミック・プレートで補強。

 そこに計4つの2段ベッド(下段はソファとして機能)と、固定された木製の机。

 ミニキッチン、冷蔵庫代わりに冷蔵機能付魔法の袋、食器棚も魔法の袋で代用だ。

 エアコンを刷新し、わずか15分で室内を60℃から20℃まで冷やすことができるようになった。また、暖房システムと断熱材により、外気温がマイナス10℃であっても、20℃以上を維持できるようになっている。


 娯楽は大き目の(防弾ガラスの)窓と、本棚専用の魔法の袋。

 ちなみに一番大変だったのは映画観賞用の3Dテレビだ。

 床に埋め込んだ装置で車の最後部に映像が展開する。

 映画のディスクは、当然専用の魔法の袋の中である。


 この辺のソフトや本は、何でもコレクションしたがる俺の趣味で亜空間収納に入っていたものを提供している。魔界製が多いが、人界のタイトルもかなりある。

 フリウにぽろっと話したら、天界製の物をくれた。コレクションが増えて嬉しい。


 今日やる事は………

 まず、8気筒のディーゼルエンジンを搭載。

 さらに、ヘビーデューティーな4x4トランスミッションにより、65%の傾斜(およそ3分の1)を簡単に登ることができるようにする。

 エンジンルームとその他を完全防水、1時間ぐらいなら水底も大丈夫なように。

 あとは、シャシーとタイヤを鬼のように強化することで、極寒や極暑といった過酷な環境にも対応することができるようにする。

 最後に改造ではないが、もう完成(自分で作った)されているファイバーグラスのモーターボート(赤にファイアーパターン)を天井のラックに固定して完成。


 途中まではもうできている、残りは今夜の間の作業で完成するだろう。

 明日、仕事の前にお披露目するのが楽しみで仕方がない。


 ♦♦♦


 朝が来た。夜明けでそう知れる。トントントンという階段の音がする。

 着替えを済ませたフリウが2F(居住エリア)から下りてきたらしい。

 仕上げを済ませ(各所のチェック)た俺はそちらを振り返る。

 

 すると目の前にミルキーホワイトのカップが差し出された。

 中には凝固しない程度に暖められた血が入っている。香りからしてフリウのだな。

 ちなみに、赤い半透明のハートがデカデカとデザインされており、取っ手付きだ。

 俺の愛用カップである。


「「サラマンダー」は随分成長しましたね」

「ボディを継ぎ足したからな。シャシーから変更が必要で死ぬかと思った」

「「ライノ(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)」と同じですか?」

 フリウは懐かしそうに「ライノ」と口にした。ミシェルやヴェルもそうだろう。

「いや、あれは最初から兵員輸送車だったから、強度と武装は「ライノ」が上だろうな。今回は居住性重視とマルチな場所に行けるようにしてみた」


「窓際にそれぞれ銃が置いてあるのは?」

「一応「ライノ」を思い出して窓は開閉可能にしたからな。懐かしいリボルバー、弾はもちろんマグナム弾だ「BOX」に入れてきたから供給無限だよ」

「車から銃で射撃とは本当に懐かしい。「サラマンダー」にも愛着が湧きそうです」

「へへ、後の感想は乗ってから聞くよ」


♦♦♦


 フリウと一緒に早朝の市で朝食と夕食の買い物を済ませて帰る。

 昼ご飯は各自で取る………かフリウか(何故か)俺に作ってくれと頼みに来る。


 朝食はもはや定番のサラダバーのテイクアウト。ヴェルの為肉(もどき)アリ。

 スープはフリウが作ってくれるコーンスープもしくはパンプキンスープだ。

 夕食は今日はアクアパッツァだとか。合成ではない魚(メインは鯛)を使うそうだ。


♦♦♦


 朝食を食べたら、今日は1時間休んだ後全員がリビングに集まる。

 この間カプセルに捕らえた「ネフィリム」の尋問を行うためだ。

 尋問と言っても、封印状態のネフィリムは会話不能。

 魔法を使った調査もできないが………ここにはフリウがいる。

 町全体の思念を傍受できる(というか自動的に入ってくる)ほどのフリウのテレパシー能力なら通用すると、色々やった挙句にダメだった時、たまたま判明した。


 カプセルには外部の音声は入っていくので、外から尋問して、ネフィリムが頭の中に浮かべた答えをフリウが(かなり集中がいるそうだが)傍受するのだ。

 質問するのは主に俺。まあその手の経験もない事は無い。本当はどっちもフリウがやれたら経験的に丁度いいのだが、フリウは傍受に専念しなければならない。


「お前の父親は堕天使で、母親は人間、間違いないな?」

「………父親が人間、母親が堕天使だそうです」


「お前に兄弟はいるか?」

「………いるそうです。妹が2人と弟が1人。捕まった事を、兄として情けなく思っているようですね。かなり仲のいい兄弟のようです」


「お前に仲間はいるか?」

「………「叔母さん」が2人。後は家族だけだと。「叔母さん」は堕天使です」


「お前たちに目的はあるか?」

「………父親を人間の王にすることだそうです」


「お前の両親と叔母さんは何を考えてる?」

「………この星を手に入れること。自分は調査役だったと」


「わかった事はあるのか?報告はどうした」

「………ほとんどの人間は弱い事、報告した。強い人間もいること(俺達の事らしい)報告する前に封印された」


「自分を助けに、もしくは調査に誰か来ると思うか?」

「………思う。必ず来る。だが具体的に何が起こるかは分からない」


「リーダーは誰だ?何を考えてる?」

「………確実に母親だと。何を考えているのかは、全く考えが及ばないようです」


「本拠地は何処だ?」

「………ここには母親のテレポートできたので位置は不明ですが、地下の不毛な大地だそうです。太陽はここに来て初めて目にしたと。ここは「食料」が豊富だそうです。人間も家畜も一緒くたの扱いですね」

 珍しくフリウが青筋を浮かべている


「質問はこれくらいだな、どうする、泳がせてみるか?」

「いえ、こいつの頭は「食糧」のことで一杯ですよ。エサとして使えても、それまでにどれだけ人間が犠牲になるか」

「天使はそれがあるから厄介だな。現状、封印したネフィリムを持ってると盗賊ギルドからでも流してもらうとかしかないかな………一応聞くが「天使としては堕天使とネフィリムは絶対に見逃せない」でいいんだな?」

「「はい(フリウ&ミシェル)」」

「俺はよく分からんが………天界ではそういう事だ(ヴェル)」

「了解。盗賊ギルドに入会するなら俺か?」

「お願いしますよ、雷鳴。あなたたちもそれでいいですか?」

「あっはい………他は思いつきません」

「………他の奴はどれぐらい強い?」

「聞いてみましょう、雷鳴」


「お前の家族の能力は?」

「………ネフィリムの中では自分が一番強い。堕天使の中では母親が一番強いが、細かい事は分からない。父親が強いかどうかは知らないが、従わないと母親が怒る」


「ということです、他に聞きたいことはありませんか、ヴェル?」

「特にないな、これで終わりで良いだろう」

「あっ、名前!名前聞かなくていいんでしょうか?」

「ああ、ミシェルありがとう。忘れていました」


「お前の名前は?家族の名前は?」

「………俺の名前はアルファ兄弟は弟がベータ妹がイプシロンとオメガ。母親はエヴィル、叔母はベーゼとマル。父親はクラウンだそうです」

「女は皆「邪悪」の意味だな、ネフィリムは記号、クラウンも本名じゃないだろう」


「だがこれで、名前を警戒する意味もできた。えらいぞミシェル」

「やめてくれよ雷鳴、いつまでも新人じゃないんだぞ?」

「この中では一番かわいいのはお前だからなあ。弟分として愛されてろ」

 ミシェルはそういうが、俺としては出会った頃のミシェルのイメージが強いのだ。


 取り合えずこれで本当に終わりのようだったので、ネフィリムのカプセルを亜空間収納の金庫の中に慎重にしまう。基本核爆発でも割れないカプセルだがな。


♦♦♦


 俺は盗賊ギルドに行くので、今日は依頼を選ぶのは3人だ。

 俺はみんなと別れ、盗賊ギルドの場所―――この町を網羅するテレパシーからフリウが見つけ出し、教えてくれた―――に向かう。


 言われた通りに町の裏道を歩き、物乞い全員(プロの情報収集やでもある)に銀貨を1枚づつおごり、奥を目指す。銀貨を貰った物乞いが、もう一枚ねだって来た。

 何か情報があるのか?とりあえず、3枚の銀貨を皿に入れてやった。

 すると自分のとなりのドアをコツコツと指で叩き「ギルドだよ」という。

 俺はそいつの皿に金貨を一枚放りこんでから、ドアを開いた。


 内部は、パーテーションで部門がわけられた、バーカウンターになっている。

 俺は一つだけ離れているテーブル―――受付だとフリウが教えてくれた―――に声をかけ、入会したいと告げる。

 相手は肩までの黒髪を後ろで括り、黒い目をした右目が眼帯の、眼差しが鋭い男だった。かなりの手練れだと動作と雰囲気で知れる。


「50ゴールドだ」

 言われた量の金貨を、腰の魔法の袋から数えつつ取り出し、カウンターに置く。


「外してみろ」

 俺の前に南京錠がごとりと置かれる、かなりデカいので複雑だろう。

 亜空間収納からピッキングツールを取り出すと、意外と簡単に錠は開いた。

 まあ、初心者向けならちょっと難しいだけの錠で十分か。


「1回で覚えろよ」

 男はそう言うと各カウンターの場所ごとの役割を話してくれた。

 もちろん1回で覚えられる。念のために『特殊能力:写真記憶』を使う。

 集中した物事を、完璧に覚えておくための能力で、そう珍しくはない。


 俺は受付に礼を言うと「情報」の売買をするカウンターブースに向かった。

「情報を流して欲しいんだけど?」

「重要度によって値段は変わるぞ?」

「どうだろうな、こういう情報なんだが」

巨人ネフィリムを封印しただぁ?何の冗談だ?」

「本当の事だ。冒険者ギルドにはもう、確認してもらっている」

「マジか。流せるが、お前達にはデメリットの方がデカいと思うぞ、いいんだな?」

「いい「俺達がネフィリムを封印したアイテムを持っている」と情報を流してくれ」

「チーム名は?」


 そういえばまだチーム名が「仮称6号」のままだったな。

 全員に『念話』で相談すると、あの車を見たフリウの発案らしい「サラマンダー」という名称に決まる。当然俺に異論はない。冒険者ギルドに登録するように頼んだ。

「「サラマンダー」チームだ。それで頼む」


「………分かった、金貨10枚だ」

「20枚にはずむから、徹底的に流してくれないか?」

「いいだろう」


後編に続く

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