スロースターター
第8話 ネフィリムとの因縁(フリューエル)
4月初めです、この辺りにもチェリーブロッサムがあり、「お花見」という習慣があると、お掃除のおばちゃんに教えて貰いました。
この町内でも「お花見会」という宴会があるそうで、参加するよう言われました。
何か一品、料理を持って出席しなければいけないそうで、日にちは明日です。
ふむふむ、ああ、あの公園にある木は全てチェリーブロッサムなのですね!
「穴場なんだよ」だそうです
おばちゃんには料理を教えて貰った恩もありますし、行かねば。
それに、進んで民族衣装を着る私たちは、評判がいいのだそうです。良かった。
そこでみんなに、持って行く料理のアンケートをとりました。
ヴェルからは「特性タレの漬け込み、骨付き焼き鳥」が。
ミシェルからは「ガーリックを利かせたキノコの唐揚げ」が。
雷鳴からは「アーリオオーリオペペロンチーノ」が出ました。
どれもさほど手間ではありませんねえ、全部作ってしまいましょう。
明日の朝早起きして作ります。
さて今日の朝ごはんは、手作りパンとたっぷりバター。自家製のジャムを添えて………と、5種の野菜のスムージー。1人分だけは血を混ぜます。
ヴァンパイアがスムージーを飲めるのかとビックリしましたが、血を同量以上混ぜれば大丈夫だというので、血はゼラチンででゼリー状にしてから混ぜてみました。
………飲めるらしいです。個体差が大きいとも言っていますが、美味しいので毎日欲しいから、それ用の血の樽をここに設置すると言います。
すでに私、ヴェル、ミシェル、レニーさんの血の樽が置いていますが?
はあ『教え:人工血液』というものがあり、コップの半分ぐらい出来上がります。
それを樽に流しいれ『教え・血液増量』をかけると、樽一杯になります。
そこに『無属性魔法:保存石』でできた「保存石」を樽に入れておけば、中身はいつまでも腐らないのだとか。
液体には何にでも使えるようだからと3つほどくれました。
せっかくですから、機会があれば使いましょう
そうですね、いつも沸かす、特製オリジナルブレンド茶(3Lのやかんに一杯出来上がる)が劣化しない様に、1個つかってみました。どうでしょうか?
朝と同じ味だと保証を貰いました。なるほど、役に立ちますね。
「固形物の側に置いといてもある程度作用するよ」
なるほど、野菜のバスケットに敷いておきましょう。使う時はここから取ります。
「というか雷鳴?そこだけ『教え』でなくて魔法なのですね?」
「弱い奴でも使いやすいようにだよ、他の2つも教えとしては低位だし………魔法にもできたりするんだよ、これが」
「教えて貰えませんか?料理に血を使ってみたいのです」
「変わった天使だよね、フリウは。まあいいけど」
教えて貰えました。これでブラッドソーセージとかができそうです。
次の日、料理を作り終えた私と「定命回帰」済みの雷鳴。
食べる気満々のヴェルと、ワクワクした顔のミシェルが出そろいました。
勿論みんな民族衣装を着ています、ラフな奴です。
宴会は楽しく(私はテレパシーのせいでうるさかったですが、料理が本当に好評なのがわかったのでいいです)花はとても綺麗でした。
この辺の花は、1輪が大きく、他の地方よりピンクみが強いのが特徴だそうです。
宴会は(私も含め)女性陣が追加の料理を作るため、夜まで続きました―――。
♦♦♦
次の日、ミシェルが2日酔いです。天使の癖に情けないですね。
後の面子はピンピンしていますよ。
さすがに今日の朝食はスムージーだけですけど。
ミシェルがまともになったのは昼です。
「早く顔を洗いなさい、ギルドに行きますよ」
「はい………」
「まあ、男性たちに絡まれていたので予想はしていましたが」
「もうだいじょうぶでふ………」
「どこがです」
きつい坂(通称ギルドの試練坂)を登ると、丘の上にギルドの門が見えてきます。
基本、ごはん屋さんを呼ぶのはここでやっています。
門番はいませんし門は開きっぱなしです。
入ると右側に「依頼受け付け」左側に「初心者受付」とあります。
真ん中は通路で右側に「依頼書張り出し掲示板」が、左に「総合受付」があります。
総合受付より奥に進むと左は「宿泊所」になります。
そして最奥は「酒場」です。
依頼に行っていない時は、みんなよくここで過ごします。私達も依頼がないとここでお酒を飲みますね。交流を深めるのにも重要なのです。
さて、依頼書を見ましょうか………
探していますが、これはというのはありませんね、他の人は………おや?
ミシェルが一枚の依頼を持って私に差し出してきます。
「ネフィリムと名乗る巨人が急に現れ、食べ物を要求して来ました。
ですが量が足りないと、食われてしまいます。
逃げても半数は喰われます。ギルドに来れた奴は運が良かったのです
このままでは周辺の村は全滅です!」
これは………見過ごす事は出来ません。
ネフィリムというのは、堕天使と人間の女がつがうとできる巨人です。
両親は放り捨ててしまうか、面倒を見る(この場合ネフィリムは暴れません)のですが、このネフィリムは多分放置されたのでしょうね。
もしくは両親がここに送り込んだのか
いきなり出てきたというのは普通ではありません。
事情が効けるものなら、聞けたら本人に聞くしかないですね!
どっちにしても、天使として絶対に放っておけません!
雷鳴、悪いけど付き合ってください!強敵だと思います!
「おうよ!」
「依頼受け付け」カウンターに持って行くと、すでに2チーム食われたそうです。
依頼を持って来た本人は依頼の内容を話し終わると昏睡してしまいました。
これ以上の事は聞けない状態だそうです。医者は衰弱だと。
「間違いなくネフィリムと言ったのですね?」
「その時の受付嬢はそう言っていたわ」
「分かりました………この依頼を受けます」
「あんた達なら大丈夫だと思うけど………命を大事にね」
「そんなに強いのか?」
「雷鳴、天使の軍勢がやられた記録があるよ」
「俺たち戦魔―――元だが―――にも強敵認定されていた」
「500mはある巨体だと伝わっていますよ」
「うーん、それじゃ殺し切るのは大変だし、尋問もしづらいよなあ」
「何が言いたいんだい、雷鳴?」
「これ(カプセル銃)そいつに使おうか」
「「「えっ?」」」
「ある程度は弱らせないといけないけど、ワームじゃなくても使えるはずだ」
「そうだったの!?」
「うん、俺が『血族毒』っていうものすごい毒を生み出す―――無色透明味もなし―――術を食べ物に使って弱らせて、武器にも塗れば………その巨体でもイケるはず。後は足と腕の腱を切るようにしよう『再生阻害』もつけるよ」
「他に策もない以上、それでいくしかないようですね」
「この銃、誰が撃ちます?」
「外しようがないのは俺だな」
「凄い反動だよ、気を付けてヴェル」
「大丈夫だ。天魔界の決まりで、昇天・堕天したものは、力が10倍になるんだぞ」
「あっ………」
「まあ、今回の任務では、段階的に戻っていますが。
それでも雷鳴以外に太刀打ちできるとは思えませんね。
悔しいですが私より上です。もっとも経験が足りないので部下ですけど」
「そうだな、対抗できるのは俺だけだろうな」
ヴェルが胸を張っていますが、何も言えません。
彼は私の為に、あんな辛い思いをして昇天してくれたのですから。
「愛していますよ、ヴェル」
「どうした急に………俺もだが………」
「ごほん、じゃあ「ごはん屋」を呼ぶぞ!」
私達は大慌てで明後日の方を向きました。手はしっかりとつなぎながら。
ネフィリムまでは2日程。往復で4日。滞在は2日見積りで、合計6日。
4人×6日=24個、24個×3食で72食。ですね。
「ごはん屋、カムヒア!」
「ごはん屋」はピンクのフリルの傘を持って、花びらと一緒に風に乗り飛んできた。
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」
すちゃ!と着地する「ごはん屋」いそいそと傘を畳んで〇食マークの袋に入れる。
あの袋は何でも入るのか?
「ずいぶん風流に出てきたな、「ごはん屋」」
「ええ、この季節のサービスでして、はい」
「どこがサービスだ。桜と舞うでっけえトカゲ」
「いやーははは」
何を言っても無駄そうなので、俺は「計算の紙」を「ごはん屋」の顔に張り付ける。
「「ごはん屋」さん、この前の花のお弁当は感激しました!また是非!」
「あっ僕も!それとパスタは最高でした」
「肉たっぷりで(代用肉なのはわかっているが)美味かった」
「俺もバリエーション豊かな血で飽きが来なかったな」
「なるほどなるほど、所で皆さま、野営はなさいますか?焚火は?」
「してる。ドライバーもいくら交代しても限界があるからな。今はミシェルとヴェルに運転を覚えさせてる所だ」
「では、焚火を用いて食べるお弁当も入れておきますぞ!」
「ほう?肉か?」
「ご期待ください、えへへへへ」
「ごはん屋」は弁当を準備し始めた。「ふんふんふーん」
「完成ですぞぉ!」
俺は赤い小袋―――〇食マークが黄色で書かれてる―――を俺にそっと手渡した。
俺は、亜空間収納に手を突っ込む。
そこからコインのコレクションの1枚を取り出し、「ごはん屋」に手渡す。
「こ………これは!月の雫!」
銀色を帯びたシルバーオーラクォーツのような模様のない真円のチップ。だが精霊力が違う。この世の限界まで蓄えられた「生命の精霊」が詰まっているのだ。
ユニコーンの角とすら、比べるのが間違っている代物だった。
「ごはん屋」はばばっと土下座して「犬とお呼びください!」と言った。
俺はそれを蹴り飛ばす。
「お前はトカゲだろ!それは食に対する報酬なんだから
恩は食で返せばいいんだよ!なんなら一筆書くから、
魔界の俺の家とも取引しとけ!金は今ので十分だろう!」
「十分でございますとも、すぐに行ってまいりますので一筆を!」
(さらさら)俺は「ごはん屋」に紹介状を書いた。
「それではまたご贔屓にぃ~」
「ごはん屋」はまた風に乗って消えていった。
そして俺たちは、ミニバン(そろそろ新しいのを考えようかな)に乗り込んだ。
最初の食事は桜尽くしだった。
俺のは幼女(当然処女)の血を桜で漬け込んだものだった。最高に上手かった。
個人差はあるだろうが、俺にとっては至福の食事だった。
他は、桜の塩漬けで握られたおにぎり(ヴェルのは6個もあった)が2つ。
惣菜にも菜の花などと合わせて、全てに桜が使われている。
フリウ曰く「香りが至福」だという事だ。
道々の食事は2日目の夜、俺は野性的なアマゾネス(処女)の血だった。
が、他の面々は違う。いわゆる漫画で見る様な「骨付き肉」だった。
味付けは塩コショウがついているだけ。
ヴェルは喜んだ(2周りは他の2人よりデカかった)が2人は微妙な顔。
だが焼きたてにかじりついた時、目の色が変わった「「美味しい!」」
追記:帰りは魚だった
♦♦♦
ネフィリムが見えてきた。
俺は荷台の樽3つに『教え:血族毒10:再生阻害』をかける。
滅多に使わない術だ。
全員の武器にも同じものを―――この場合武器に宿る―――かける。
全員が翼をだし、飛行準備。
樽はフリウの念動で、ネフィリムに一直線だ。
この『血族毒』は、他者を魅了する香りがする。さぞ美味そうだろう。
フリウ曰くネフィリムはそんなに賢くはないそうだし。
果たして、ネフィリムは樽を自分の口に放りこみ、ごくんごくんと飲んだ。
だが、次の瞬間吐血。
体のあちこちから出血を始めた。
―――血族毒には意思がある。自分で「回った」のだ。
その頃には、フリウの『超能力:テレポート』で、俺たちは間近に迫っている。
4人がそれぞれ、手足の腱に攻撃を仕掛ける。
それと同時に『血族毒』が入り込むのだ。たまったものではないだろう。
「汚い」やり方だが、俺の『第六感(以下『勘』)』では正面からこいつに当たると絶対に勝てない、といっている。奇妙な寒気がすると思ったら「蛇」もついていた!
「ヴェルは本体に銃を!俺は直後に出てくるだろう「蛇」をやる」
「「「!了解!」」」
バシュン!!ネフィリムの巨体が消えうせ、やはり巨大な「
バシュンっ!おれはそいつを撃った。デカくても「
ミシェルがカプセルを回収して回る。今回は封じただけなのでレベルアップは―――と思っていたら。ぴろり~とレベルアップの音楽が。55レベルになっている。
戦っただけでそれとは、どんだけ強かったんだコイツ。ゾッとするな。
とりあえず、壊れるのを防ぐため亜空間収納に、ミシェルから受け取ったカプセルを放り込む。ネフィリムも、毒が消えるまでは喋れないだろうしな。
『教え:増加:声』で、「巨人は封印したぞ!戻って来て大丈夫だ!」とまだ人がいそうな村々に叫んで回る。他の3人も「下級無属性魔法:拡声」で同じことをする。
次第に、麓の村に人が集まって来た。
泣く人、喜ぶ人、心に傷を抱えた人、様々だ。冒険者カードの数値が上下する。
ん?上下?まさか人を悲しませると下がるのか!
食べ物がもうないと嘆く村人に、大目に金貨を渡してやるとそれは少なくなった。
証明されたわけだ。まあ収支はとんとんだったからいいけど。
帰り道、それをみんなに言う。
すると、今回のあれはしょうがないという事で意見の一致を見た。
仕方ないよな、あれは………。
亜空間のネフィリムのカプセルは、まだ会話できそうにない。
俺達としては奴の親を警戒するべきだろう………
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