第7話 買い物とレニーの決断(雷鳴)
3月、吹雪かなくなったが、まだ雪は降る。
ご近所の除雪は、冒険に出てない時はいつもやっている―――その先の人からも依頼を受けた。報酬はケーキ―――ため、朝は買い出し組と同じ時間に起きることに。
あ、隣のおばちゃんは快く掃除を引き受けてくれた。
さて、俺はいつもは寝ない(深夜の知り合いが増えた)
顔と体を拭きには戻るが、それ以外は車庫にいる。
だが今日はフリウと4時に居間で待ち合わせだ。
いつもと組み合わせが違うんじゃないかって?
それはミシェルとヴェルがフリウに呆れられたからだな。
2人は「もっとフリウの手作り料理が食べたい」と結構しつこくねだった。
こないだパスタを作ってもらったので、他も作れると思ったらしい。
笑ってかわしていたフリウも、困り出した。
なにせフライパンと鍋以外(それもフリウが買って来たものだ)うちには設備が全然 整ってない。フライパンと菜箸、鍋があるだけだ。
作れないのは見ればわかるでしょう?
そんなに作って欲しければ道具と材料を買ってきなさーい!
と怒られたわけだ。
でも2人には何が必要か分からないわけだな。
それで、ヴァンパイアになる前は料理も作っていた俺が『定命回帰』して付き合う事にあいなったわけである、確かに大概のものは作れるけどさ。
ちなみに今の大テーブル(黒御影石)と椅子(御影石)は廃棄。
気分が落ち込むとフリウに嫌われていたので、この際交換する事になった。
フリウを待っている間に、マニー商会から人を呼びカタログを受け取る。
ついでなので、金のインゴットをまた3つ、交換しておく。
いや、依頼で稼いでいるので普通は減らないのだが、車で必要なのだ。
それはさておき、テーブルと椅子を引き取ってもらった。
フリウの言っていた机と椅子を、カタログから選びだす。
温かみのある木製の大テーブル(四角、分厚いヤツ)
料理に使う大きな折り畳みテーブル(四角、大きいもの)
柔らかそうな深く腰掛けられる椅子(木製でクッションが効いている)を。
客用は上等だが、物置に開ける物が4つ。
あと、作業に使う簡素な椅子がフリウの注文である。
俺は頑張ってデカくて木製(杉材・耳付。分厚くした)テーブルひとつを選び出す。
うちの居間はだだっ広いので、どんだけ大きくてもいい。限度はあるが。
折り畳みテーブルはパイン材、120㎝でいいだろうか?
俺達の椅子は、クリーム色のラタン製。
体をすっぽり包み込むような、深いデザインが優美だ。4人分。
客用は、ラタン製ではあるが、折りたたみ椅子で、フレームは黒茶だ。4つ。
作業中の椅子は、座面(ラタン)以外ない(足は木製)動きを阻害しない椅子である。
俺も経験があるが、ひじ掛けとかは作業の邪魔になるのだ。
最後にフリウに預かった「天使便」注文用紙を書く。
悪魔が代理で書いているとは、天界の住人もビックリであろう。
肉モドキ―――俺も食べたが、全然本物と見分けがつかず、味も上等の肉と区別がつかない―――の注文を「あなたの方が詳しいから」と任されたのである。
「1ヶ月分、継続配達願う」として、あらゆる肉を描きこんでおいた。
注文した紙は転写用紙なので「注文控え」をとる。
で、注文用紙をバルコニーで、聖印が書いてある金属トレイ(借りた)の上で燃す。
これで燃やし尽くせば注文完了だそうだ。お焚き上げのようである。
これで1日あれば、バルコニーに「魔法の袋」で配達されるらしい。すげえ便利。
お、扉の開く音がする。フリウだな。
もうマニー商会の人も帰ったし、丁度いいタイミングだ
「おはようございます。雷鳴」
「おはよう、どうだこれ」
「居間が素敵になっていますね。さすが大貴族。任せて正解でした」
「フリウの作業台と、椅子も見てくれ、これで良かったか?」
「ええ!ありがとうございます。美味しいものをたくさん作りますよ」
「俺にはみんなの血を貰えるんだろ?『血液増量』するからブラッドソーセージを作ってくれないか?レシピも買うんだろう?」
「ええ、この間のは玄人向けだったので、素人とは言わないまでも優しいレシピを」
♦♦♦
そんな事を喋りながら、市の入口に到着。今日は案内人は必須だ。
「レニー!居るかー?」
「雷鳴様!たとえ仕事中でも誰かと交代して馳せ参じますわ!」
レニーにはかなりの金(金になる物も含む)を渡している。
だから、忠誠心が半端ではない。
もしかしたらそのうち、契約精霊になってくれるかなー?
「ええと、まずは前にも頼んだが、
今回は台所で使う。明るい色の陶器の水がめが欲しい」
「ではお二人とも、こちらでございます!」
着いたのは素焼きのお店であった。
「ここで物を選んで、色を指定し、1時間ほどで焼き上げてくれるのです」
フリウは嬉しそうに、素焼きの壺を眺めている。正解なようだな。
「葡萄、青りんご、ももの木をモチーフにしたものにします!」
「天使には果物は人気があるもんな。色を指定して来なよ」
「白を指定しても、雷鳴は怒りませんか?」
「悪魔に人気のコスプレは天使だぞ、少なくとも俺は気にしないね」
「コスプレとかするのですね」
「今代(今は第6代)は美しければ何でも受け入れられる節があるからなぁ」
フリウと俺は色の焼き付けを見学して、3つの白地にカラフルな果物と茶色の木が彩色された物を手に入れた。フリウは亜空間収納に壺を収納する。
「レニー、次は台所用品の店を頼む。丈夫で使いやすい奴。お洒落ならもっといい」
「了解でございま~す」
何かごちゃごちゃした店に出たな………何でもありそうな感じがするぞ。
俺は買い物かごを取り、荷物持ちに徹する。
めん棒、各種ボウルとバット、まな板。おろし器、スライサー、包丁各種。
調味料入れ10個ぐらい、すり鉢すり棒、予備の菜箸、ターナー、おたま数種類。
お菓子の型に、油や卵などを塗る筆数種類、泡だて器(機械に非ず)
この時代の調味料は量り売りの為、そういうのを入れるための容器も多めに。
消耗品(キッチンペーパー、クッキングシート、ラップ)、野菜用の籠。
デカいのは食物保存用の、魔法の劣化防止箱だ。
フリウは1番でっかいのをチョイスした。
もしかして、フリウはこれからずっと夕飯を作ってくれるのか?
そんな『勘』がする。
朝は作るとしたら俺だな。どっちにしてもレシピがいる。
フリウはこれだけで支払いをすませた。オヤジはギョッとしていたな。
「レニー、次は食器とカトラリーだ」
「お任せください」
これはまたごちゃごちゃした場所だな………ん?樽が売られている。俺用に買おうかな?レニーに聞いてみる
「チップをはずむから、小さいゴブレット一杯分ほど血をくれないか?」
「チップをはずむ!そう聞いては断れません!」
俺は「金の精霊の血」を手に入れた。特殊な注射器で採取したのだ。
ちなみにこの注射器、全く痛くない。針の部分は俺の牙から作ったのである。
保管用に樽を買う。他にも血が手に入る可能性は大きいので、10個買った。
フリウに呼ばれた。カップの色は服の色と合わせるが、形を選んでくれという。
俺はスイカを途中でスライスした時の様な、丸っこい奴を選んだ。大き目だ。
え?もう一種類選べと?今度は筒形の小さめなのを選んだ。
フリウは満足して、かごにその商品の札―――持ち歩くと割れるので札を取るシステム―――を放り込み、客用のカップ、うちの皿やガラスのコップを見に行った。
ふむ、俺も血を飲む時専用に、マグカップを買うか?
学生時代の愛用品は置いて来てしまったが、ここならいいものがありそうだ。
俺とフリウの買い物はほぼ同時に終わった。
フリウは全員お揃いの茶色のランチョンマットと、白いティーカーテンを買った。
俺はミルキーカラーの半透明のガラスのコップで、ミルキーホワイトのカップだ。
ちなみに、赤い半透明のハートがデカデカとデザインされており、取っ手付きで、たるにとりつけたフックに引っ掛けておける。
「次は本屋だ!レシピ集を買う(ヴェルとミシェルの希望は聞いてある)」
「お任せあれぇ~」
何と、レシピ専門の店に来た。フリウは早速店主と欲しい本の相談を始めている。
俺は「美味しいお肉」「基本の麺類~そば、うどん~」「基本の麺類~パスタ~」
をさっさと買い、フリウの買い物袋に放りこんだ。
ヴェルが肉、麺類がミシェルの希望である。
フリウが店主に「また来ます」と愛想を振りまき、メロメロになった店主が値引きとお勧めの本をタダでくれた。沢山のレシピ集を手に入れてこの店は終了した。
「次は普段着にできる民族衣装の店があれば行きたい」
「はいです!民族衣装の体を取りつつ、ゆったりしたズボンや、シャツ扱いできる上衣。丈の長いワンピースにできる衣装とベルトなどがありますわ!」
「雷鳴、見立て合いましょう?」
「いいよ、フリウは色とりどりのワンピースを着て欲しいかな」
「雷鳴はストレートズボンに黒い上衣、肩にたすき状にかけるといいと思います」
2人で大いに盛り上がった。勿論ここに居ない奴のもである。
仕事で使う民族衣装の色の振り分けは、普段着では無視でいく。
服もだが、民族ショール・ストールをたくさん買った。
とにかく、汚れても構わない値段のやつを、大量購入だ。普段着にするんだし。
ここの生地―――インド綿に近い―――はとても着心地がいいのである。
あと、別の店(レニー案内)で、冬でもそれらを着れるよう、薄くて暖かい(火の精霊力を感じた。上物だ)下着類をたくさん買い込んだ。
ついで?に、フリウはフリフリのエプロン(俺が選んだ)を買った。
「さあ、最後だ!食材だぞ!」
「はい、総合店ですわね?」
塩と砂糖のつぼを筆頭に、フリウの持つ「基本の調味料」に乗っている調味料を、調味料入れのガラス瓶と一緒に買って行く。
次は素材。基本は「小麦粉」「強力粉」「かたくり粉」「パン粉」
ミシェルの希望とヴェルの希望を伝えたら、蕎麦を打つ気らしく、必要なものを買っていた。うどんとパスタもである。聞いたら、既に経験があるのだそうだ。
あと、夕食にすると言って(ヴェルがたくさん食べるので)サーロインをたくさん買っていた。まだ天界から届いてないからだそうだ。
店主の「どうぞ(捧げられた)」「チップと代金です(恩恵を施した)」という事になるので、食べる事は食べれるのだという。
今日は朝抜きな分、昼ご飯を作ってくれるそうだ。
「やー買った買った。4時から………もう9時だぞ。アイツら腹減って死んでるんじゃないか?まあ自業自得だけどな。そうそうレニー。血の代金も入れてこれ………」と俺は一つのコインをさし出した。ホワイトプラチナである。
「こ、これは!幻の!」
「へへーいいだろ?俺は「観賞用」「交換用」「譲渡用」で3枚持ってるが、もうほぼ出回ってないんだ。第六代魔帝の第一王子アスカ様の生誕記念のコインだぞ」
「有難うございます!一生ついて行きたいです!」
「お?俺の契約精霊になってくれる?」
「………釣れた魚に餌をやらない方ではないですよね?」
「当然」
「………女は度胸ですわ!お受けいたします!」
「じゃあ、フリウが食事を作る間、いい封印具を作ろう!」
という訳で、俺はもう一度市に行く。
「ところでレニーって、失礼を承知で聞くけど処女?」
「確かに失礼ですが、あなた様なら気にしません。処女ですわ。欲しいのですの?」
「いやいや、処女の方が血が上手いから、売ったりしないでよ」
「そうですの?今度案内人たちも含めて良さそうな血を見繕ってみますわ」
「ああ、そりゃ嬉しい。余分に樽を買ってよかった。あ!香草やスパイスを買わないと。レニーのやつは、金木犀にするけどさ」
「ありがとうございます」
ついでだったので、香草とスパイスの店にも案内してもらった。
その後、レニーを伴って俺の部屋に入る。飾り気のない部屋だ。
レニーの趣味に合わせてインテリアを変えようかな………?
それは置いといて。
俺はアクセサリーの土台(大き目)を取り出す。
腰につるすのでフックタイプのやつだ。レニーにどの土台がいいか選ばせた。
すると、オリハルコンか、巨大な琥珀を加工したものを指さす。
確かにどっちも金に色が近い。だが普通の金では嫌らしい。
ならばと俺は琥珀にすることにした。個性的に仕上げたい。
石を聞くと、俺の他のアクセサリを見ていたらしいく、遺髪アクセサリーがいいと言ってきた。なんと、遺髪アクセサリーとは。予想を覆されて楽しくなる。
誰のかと問えば、太古この星では「黄金都市」と呼ばれた国があったのだという。
彼女はおさげの端っこ(金)をさし出し、最盛期の王女の髪だと言った。
面白い、必ずいいデザインにすると約束して、作り始める。
土台は、金を引き立てるために、琥珀に魔法で液状化したブラックダイヤを流し込み、きっちり嵌める。カットも魔法で行った。
そこに王女の髪を使い―――ごく一部で十分―――美しい螺旋を描いていく。
最終的には菊の紋章のようになった。
余った王女の髪は、オリハルコンの筒に入れレニーに返す。
そして出来るだけ透明度の高い琥珀の粒を集め、粘土状にして髪を封じ込め―――装飾として小さなダイアモンドもちりばめてある―――固くしたらカットして完成!
「いい出来だと思うが、どうだ?」
レニーは俺に抱き着いた。喜んで自分の専用封印具に入る。
隣にある封印具の中「女の情念と死と血」の精霊カミラとも仲良くなったっぽい。
一仕事終えた俺は、昼食を知らせるフリウの声に答えた。
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