第6話 美女のドラゴン(フリューエル)

 2月です、凄い雪の量ですねこれ。


 私は「女は部屋にいろbyヴェル」と言われたので2階から見守っているだけです。

 市で買ってきた「七味中華スープ(きくらげ入り)」が体を暖めてくれます。

 男性陣の分も準備しているんですが―――。


「オラオラオラオラッ!!」

「どっこいしょー!!」

「えーい!」


 そこまでやらなくても通れますよ、みなさん?

 あ、ヴェルが隣の人に呼び止められた

「頼まれてくれたら、甘くておいしい葛湯をあげよう」

「それは女にも受けるか?そうか、任しとけ!」

 そう言って隣人の家の前の除雪を始めるヴェル。


「君、君、美味しいパンを山盛りあげるから、ここどうかな」

「パンにはバター付き?」

「無論だとも」

「じゃあ、やるよ。特別ね」

 雷鳴、本当に悪魔ですか?

 ちゃっかりしてはいますが、やってる事はヴェルと一緒ですね。


「あんた、うちのもやってくれたら、おうちに掃除に行ってあげるわよ」

「ホントですかぁ。そろそろじゃんけんの頃合いだったんですよ」

「じゃあ、うちのも大通りにつなげてくれるかしらね?」

「いいですよー」

 ミシェルも捕まりましたか、あ、でもあのおばちゃんは「お掃除」と言っていましたね?念話でミシェルに「お給金高めに払いますので、継続で来て貰えないか交渉」してくるように、申し渡しました(返事:了解です!)


 わたしは(まだ6時ですし)朝ごはんの買い物に行きます。

 例によって朝ごはんだけではありませんが、一緒に行くはずのヴェルがあの有様では………。(念話:買って帰って来るまでには少し時間がかかりますよー?)

 聞こえているかどうか不明ですが、それだけ言い捨てて、出発。


 なんでも、ヴェルと雷鳴、洗面器と水がめと水差しは、金属で良かったらしいのですが、水と反応して緑青が出てくるのが困りものらしく。

 2人共何とかしてくれ!と叫びました。しょうがないですね。

 金属系がいいらしいので、ホーローでいいでしょう

 亜空間収納を使えば私にも持って帰れるでしょうし。


 そしてわたしは、ここの民族衣装が気にいったので(柄はインド、着方はギリシャと言った感じでしょうか)フルバージョンを買いに行きます。

 無断で全員分買ってくるつもりです。雪かきに夢中になっているからですよーだ。


 最後に朝食を買います。パンと葛湯が確保できているので、この前のサラダバーでいいでしょうか。それとも聞いてみましょうか?

 わたしは「リーガイくーん!」と呼んでみます。馴染みになりつつある「案内屋」さんなのですが、今日はいないんでしょうか?


「お姉さん、リーガイは仕事中さ。あたいでどう?」

 彼女は黒髪をシニョンにまとめ、大きな黒い目をした可愛い子でした。

「あたいはアリサ、ここでは最年少だけど、知識はちょいとしたもんだよ」

「私は気にしませんよ、お願いします、アリサさん」

「さん、だって!仲間に自慢してやれるね!お姉さんはいい人だよ!」

 そうですか?と私はおっとりと頷きます。


「まず、これは2人分なのですが、洗面器と水がめと水差しを「ホーロー」にしてくれるように頼まれています。色違いで」

「ホーローだね、いいブランドの品があるよ」

「ブランドですか」

「高い分、選択肢は豊富さ。長持ちするしね」

「承知しました」


 そこは、台所用品をメインで扱っているお店でした。水回り品もあります。

 上等なお鍋もありました。パスタでも作りましょうか………?

 6種類のお鍋と、フライパンも3種類があったので、それも買う事にします。

 ついでに置かれていた料理の本も2,3冊お買い上げです。

 ミートソース等は天界から疑似肉(本物と変わりません)を送ってもらいましょう。

 ああ、それと後でパスタも買いましょう。


 で、本来の目的ですが、洗面器のカラーバリエーションは凄いですね。

 ヴェルには明るいオレンジ、雷鳴には明るいブルーをチョイス。

 希望を聞く前に雪かきに行ってしまいましたからね。私のチョイスです。

 水差しと水がめも同じ色にしましょう、統一感があって良いです。

 しかしホーローというのは高価なのですね。気にしませんけども。

 雷鳴がいくらでも黄金を生成しますし車の売り上げもみんなに分配してくるので。


 次は民族衣装。冒険者でも着れるものをお願いします。

「ならまずはここだね」

「ホッカホカ亭?」マネキンは暖かげな毛皮の服の上から民族衣装を纏っています。

 なるほど、この辺りは夏が暑い分、カラフルな民族衣装ですが、冬はこうなっていたのですね。サイズは分かるので全員分買いましょう。動きやすい上質なやつを。


次は「美と鋼亭」というお店。

民族衣装にプレートやチェインをうまく隠して装備できるようにしているお店です。

これ、全員揃ったらかっこいいでしょうね!

わたしが黄~橙、ヴェルが青、雷鳴が赤、ミシェルが緑で。全員分お願いしました。本人たちがいないと………と言われたので、各自終わり次第集合をかけます。


 全員が揃いました。みんな興味津々ですね。

「あ、フリウ、パンは保温をかけてテーブルに置いといたから」

 雷鳴はさらっと「できる」男を出しています。ナイスですよ、保温は大事です。

 ともあれ私のカラーの割り振りには不満も出なかったので、そのまま採寸です。

 

 全員の採寸が終わりました。出来上がりにはしばらくかかるとの事です。

「アリサさん、パンにはさんで食べれるお惣菜を売っている店はあります?」

「あいよ、まかしといてくんな」

 種々様々なお惣菜を売っている店に案内してもらいました。

 運動した男性の食欲はすごいですよね、みんな目の色を変えて選んでいます。

 十分ここで時間が潰れるでしょう。


 防具を受け取って、みんなで職人さんにお礼を言い、アリサさんにもお礼(とチップをはずんで)を言って、ようやく帰りつきました。

「ミシェル、おばさんは掃除に来てくれそうですか?」

「高めのお給料を提示で2つ返事だった。あと車を借りたいって。雷鳴、良いか?」

「免許があるなら、改造中の奴じゃなけりゃあいいよ。マニー商会との商談は順調で、フォードAタイプの奴は量産体制ができて来つつあるし」

「それ、経験値になるのか?」

「買った人の感情次第ではなると思う」


 全員、食べながらの会話です。労働のあとですからねえ。と、葛湯を啜りつつ私。

「改造中のを間違って乗ろうとしたら、どうなるんです」

「安心してくれ、改造中のはエンジン動かなくしてあるから」

「それなら安心ですね」


 そして、全員のお腹が満足しました。それはもうモリモリと。

 ところで、葛湯って美味しいですね。

 え、味付きのやつもあるんですか、今度市で買いましょう。

「今日はギルドに行きます?もう2時ですが」

「あー現在の存在意義は「冒険者」だし一応行った方がいいんじゃないか?フリウ」

「そうですね、まったりしすぎてどうかしていました。行きましょう」

 自分に活を入れてシャキッとします。


♦♦♦


「何かありますかー?」

 声をかけ合いながら、掲示板を探していきます。

 やがて、1枚の依頼書が目に止まります。

 ドラゴン襲来!村を破壊しています!村に戻れません!

 注:ファイアドラゴンのようです


 情報が少ないですが気になります、受付の男性に聞きましょう。

 「受付さん」「パトリックですお姉さん」秒で反応された。

「これ………もっと情報は?」

「ああ、その辺固有のドラゴンらしいですよ?暴れ出すのは初めてで………どうも現状目が見えていないんだろうということですが」

「は?目が見えていない?」

「はい、そのドラゴンは目を外して顔を洗うんだそうです。そこを誰かが目を盗んだんじゃないかと、地元の住民は言ってますね。だから、よそ者は今、ドラゴンが暴れて危険な村から出る事はできません。犯人はよそ者だと思われているようです」

「ドラゴンは目を盗まれて怒っている?戻ればおさまりますか?」

「いえ、一回頭を冷やさないと無理だろうとの事です」

「なるほど………」


『みなさん、集まって下さい』念話で呼びかけます。

それぞれが集まったところで説明します。付け加えて、

「元々は危険ではないようですが、今は危険なようです。

殺さずとも倒すなら経験値は結構あるんじゃないかと思うんですがどうでしょう?

ああ、あと犯人探しもしないといけませんですね」

「「「いいんじゃないかな」」」

「では今回はこれで。パトリックさん!受理をお願いします」

「はいはい喜んで!」

(あいつこの間凄い態度悪かったぞ?)

(俺にもだな)

(女好きなんですね………)


私達は外に出て、日数と食事の計算を始めます。

その村までは3日程。往復で6日。滞在は2日見積りで、合計8日。

4人×8日=32個、32個×3食で96食。ですね。

では雷鳴、お願いします。


「おう、ごはん屋!、カムヒア!」

ごはん屋さんは、そりに乗り、雪を滑りながらやって来ました。歌付きです。

「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」

ざしゅっと、華麗な停止。「お見事です」

「ご用命ですかな!?」


「おう、ごはん屋。毎回違う登場だな」

「いえいえ、普段は普通ですぞ?ただこちらからの呼び出しが、季節をかんじさせるものでしたので、ですなぁ」

「まあいいや、このメモの内訳で頼む」

「承りました!」


「ごはん屋」さんはいつもの様に、袋から食料を出しては、小袋に収納します。

(雷鳴、あの中身、一体どうなっているんですかね?小袋は中身を全部食べ終わると、ゴミと一緒に消滅しますし………)

(俺もよく知らない。姉ちゃんは「突っ込まなくていい。少なくとも私には忠実だから、関係者には誠実よ」って言ってた)

(はあ………誠実ならまあいいんですけどね………美味しいのは確かですし)


「出来上がりましたぞぉー!ささ、どうぞどうぞ」

「今回は「万年氷の銀貨」で」

「ありがとうございます!今回のは前回の永久貨幣で、色を付けまくっておりますれば、必ずやご満足いただけるかと!」

「期待しとく」

「それでは、わたくしはこれでぇ~」

「ごはん屋」さんは、またそりで―――歌いながら―――去っていきました。

 まあ、多分どこかでテレポートでもしているのでしょう


 またミニバンで向かう旅です。今回は雪上タイヤ仕様だそうですが。

 食事は、大っっっ変美味しかったです!食材が花とは!ドレッシングは最低限、色々な花の味を組み合わせてありました。そしてその中にフルーツが!

 私とミシェルは顔を見合わせ、頷き合ってから食事に専念しました。


 ヴェルと雷鳴も顔を見合わせていました。

「雷鳴、この肉はもしかして………」

「多分俺は魔界、お前は人界の竜の肉だな………すげえ」

 それだけ言い合うと、2人は食事に没頭していきました。竜って(呆)


♦♦♦


 現地に到着です。ちなみに私たちは民族衣装の戦闘服です。

 現地では大変歓迎されました。村の4分の1の家屋が破壊されているそうです。

 ですが相手の目が見えていないと思われるのは、いまだに死者0だからだとか。

 なので最初に要求されたのは、目を盗んだものを割り出す事でした。


「皆さん、よそ者を連れてきてください。神聖魔法で判別します」

 ほどなく、よそ者が集められてきました。

「よそ者だからってなんで、こんな扱いを受けなきゃならないんだ」

「そうだそうだ!」

「今日のコレで、無罪放免なのですよ?ここでごねるなら問答無用ですが。どうしたいのですか?無実を勝ち取るか、不当に疑われたままでいるか?」

 

 大半は、大人しく私の列に並びました。これは『神聖魔法:センスライ』です。

 並ばなかった人は、男性陣が捕縛して『中級無属性魔法:マインドリーディング』にかけられます。結果は―――。

 強硬に逃げようとしており、捕縛からも抜けだしたりして、結局捕まっていた男が、目を盗んだ後、宿屋に隠していました。


 後は、ドラゴンを落ち着かせるだけですね。

 村人に聞くと、1回気絶させた後、目を嵌め込めば起きた時に冷静になるだろうとの事。では物理的に、手加減して殴りましょうかね。


 ドラゴンは、全員でかかっのに1時間もの格闘の末、ようやく気絶しました。

 目が見えないにしては驚異的な強さでしたね。

 ブレスの方向が正確なら、誰か脱落していたかもしれません。

 最前線のヴェルは、かなりの手傷を負いました。


 ですが54Lvになったので、とても美味しい仕事だったと言えるでしょう。

 目を持った村人が安全圏から出て来て―――これは村人の仕事だと言って譲らなかったので。なぜか男のやじ馬が多いですが―――目にはめ込みます。

 すると、ドラゴンは下半身は竜、上半身は美女という姿に変わりました。


 10分ほどすると、意識を取り戻すドラゴン。

 わたしがやんわりと、ドラゴンに経緯を説明します。

「男の精を取りに来たというのに、我は暴れておったのか。申し訳ない事をした」

 ドラゴンが村人―――結局ほぼ全員が来た―――に謝る。

「男の精なら俺が、ドラゴン様!」

「お前なんか相手になるか!俺が俺が!」

 主張する村人、止める村人で大騒ぎです。だからついて来たがった訳ですか………


 しかしドラゴンはあっさり村人の主張を退けました。

「我を慕ってくれておるとはいえ、お前たちでは相手にならぬわ。我を倒した男がふさわしい!一人はダメなようじゃの(ヴェルは私がガードしたのです)ではそこの者(雷鳴)相手をせい!構わんな?」

 雷鳴君の返事の前に吹き荒れる悲鳴とブーイング。

「我はそなたらのものではない。現在のそなたらには強者がおらんのは見ればわかる。鍛錬を怠ったそなたらが悪い」

 それに合わせて女性陣の怒号や泣き声が。男共はすっかり小さくなりました。

 なんでも、大抵は村人に強者がいるのに、今回はいないのだとか。


「あー。恨まないでくれるなら俺は良いけど?」

 やっと発言出来ましたね、雷鳴。

「うらみつらみ、ねたみは我が許さん。そんな女々しい者は食い殺してくれよう」

「じゃあいいんだな?村の皆さん?」

 ジトっとする男性陣、それをはったおす女性陣がしぶしぶ(男性だけ)頷いた。

「行ってきます」苦笑気味ですね、当然ですが。

 私なら嫌ですが、雷鳴は女性に甘いですからねえ。


 時間は1週間ほどかかり、村の人々の心もその間に頑張ってほぐしました。

 雷鳴の人柄も語っておいたので、帰って来ても大丈夫でしょう。

 冒険者カードの経験値も、少しづつ加算されるようになりましたし。

 戦闘は結構大変でしたが、良かった良かった。


 ちなみに、サバサバしたいい女だった、そうです。

 そして雷鳴曰く悪魔の因子は残さないようにから大丈夫だそうです。


 守護竜が復帰するのを見届けて、私達は村を去ったのでした。

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