第5話 赤鬼の占拠した村(雷鳴)
12月になり、すっかり冬だ。雪が舞っている………いや、吹雪いている。
この辺は豪雪地帯だという。
言われてみれば今俺たちの住んでいる家も、北国仕様だった。
屋根は平だが、平といっても上から見ると中央部分に設置されたダクトに向かって緩い勾配がついている。
太陽光などで自然にとけた雪が、ダクトから室内を通って外に排出される構造だ。
雪下ろしをせずに済むらしい。何か拍子抜けである。
窓は、基本トリプルガラスらしい。この家には行った時不思議に思っていたのだが、防寒仕様だったんだな。
今日の買い出しは、俺とミシェルである。
今日はミシェルの買い物もあって(フリウと同じく、桶と水がめ、水差しが金属なのが嫌らしい)早く出る(4時半)のである。
本人の癖に目覚まし時計を無視して寝ていたので、布団を引っぺがし、ゆり起す。
「うーん、むにゃむにゃ………もう少し………」
「誰が待つか、起きろ」
俺は魔法で小さな氷を作り出し、ミシェルのパジャマの中に放りこむ
「〇×△□!!!」
ミシェルは飛び起きた。
「酷いよ雷鳴………」
ぶつくさ言いながら着替えるミシェルを鼻で笑う。
「雷鳴は軽装なんだな?」
「ヴァンパイアは外気温に鈍感なんだよ。死体だからな」
「ああ、なるほど………」
市は吹雪の中でも健在だった。何か暖かくなる活気がある。
「レニー!」
俺は着いて早々に案内人を呼んだ。市をゆっくり見るのは他の日だ。
精霊のレニーには、名前を呼んだら聞こえているはずだが………
「うふふ、後ろですわよ、雷鳴様」
「うわビックリした!そんなことで霊力を使わないでくれ、レニー!」
レニーはコロコロと笑い、用件を聞いてきた。
「ミシェル」
「あっ、はい。えーと、顔を洗う桶と、水がめと、水差しなんだけど………木製のものが欲しいんだ。温かみを感じる様な奴が欲しい。あと、雷鳴と相談したんだけど腰や肩にかけられる、この辺の伝統の織物が欲しい」
「了解ですわ!まず水回り品から参りましょう」
そこは木製で何でも作ってしまえるのではないかと思う店だった。
俺はミシェルを放置して、朱塗りの上品な手鏡を見ていた。
奥さんたちへの土産にしよう、7つだな。柄のパターンも多いしいいだろう。
ミシェルも決めたようだった。俺はこっそり後ろを取って
「可愛いものが好きなのか?コロコロした感じのものが多いな」
ミシェルがギョッとした顔で振り返る。
「びっくりしたあ。止せよ雷鳴ー。べたべたのキャラクターものは無理だけど、こういう「かわいい」は好きだよ!」
まったく、と言ってから、勘定を済ませるミシェル。
「次は伝統の織物の店ですわね。民族アクセサリーはどうですか?」
「どうする?まだ時間はあるから見に行かないか?」
「俺は構わないよ。見るのは楽しいしね」
「では、こちらでございます!」
レニーはまず織物の店に連れて行ってくれた。
ショールのコーナーで、自分たちに似合いそうな物を探す。
俺は黒地に2~3色の灰色で刺繍が施された物を。
ミシェルは薄い緑の地に、やはり2~3色の青で刺繍された物を選んだ。
勘定を済ませて、そのまま腰に巻いて行く。
「こちらは民族アクセサリーの店になります」
俺は早速、奥さんたちのアクセサリーを選ぶことにした。
正妻―――オーロのは、特別感のある物でないとな………。
如月ちゃん(冒涜的な呼び声、参照)はシンプルなものが良さそうだ。
あとは………色々考えて、ようやく全員分のものが決まった。
それを亜空間収納にしまうと、レニーに、朝飯に良さそうなものを聞く。
「フィッシュアンドチップスは如何でしょう。そこのチップスはクロイモという芋からできていて、味が濃厚ですよ。タルタルソースも美味しいですし」
「俺は食べられないから、ミシェル次第だな」
「魚かあ………調理したものを「いただく」ので食べられますが………物は試し、ですね。そこに連れて行って下さい。あとサラダが欲しいです」
「了解ですわ」
フィッシュアンドチップスは予想より美味しそうだったが、驚いたのはその後だ。
サラダの他に、丸々とした粒のブドウがあったのである。
「この「シャーベットグレープ」はこの辺りの特産品ですの。種なしの上に、澄んだクリアな味が評判ですのよ。もう少ししたら出回る葡萄酒にも使われております」
「ミシェル、これなら「定命回帰」で俺も食べる。買って行こう」
「雷鳴の好きなだけ買うといいよ」
こうして、朝ごはんもゲットした。
レニーに礼を言って、10枚の特別な金貨を渡す。破格のチップだ。
レニーは心底嬉しそうに、またお待ちしております、と礼をして見送ってくれた。
帰って来て、ミシェルは居間に。俺は『定命回帰』した。
俺はフライパンをお玉で叩きながら「朝だぞー!メシだぞー!!」と言って回る。
フリウ達の部屋から「すぐ行きます~」と返事があったので、メシが冷める前には出てくるだろう。多分。
俺はキッチンで、ブドウを洗い、大きなガラスのボウルに盛っておいた
俺とミシェルは先にチップスをかじりつつ―――俺のも買いに戻った―――フリウ達を待った。フリウとヴェルはすぐに出てきた。まだガウンだが。
フィッシュアンドチップスは好評だった。
特にヴェルは久々に食べる、と嬉しそうだったな。
ブドウはみんな(俺も)無言で食べた。若干シャリシャリした食感がたまらない。
「今日から朝飯は『定命回帰』で付き合う事にする。また買って来てくれ」
フリウが頷いて「このブドウは癖になりますものね」と言ってくれた。
「さて、そろそろギルドへ行こう。みんな用意だ」
俺たちは部屋に引き上げ、フル装備で再集合した。
フリウの『超能力:テレポート』でギルドまで運んでもらう。
着いたら、依頼書を手分けして読んでいく。ん?これは―――
俺はみんなを呼んだ。1枚の依頼書を見せる。そこには―――
「鬼(おそらくオーガ)の群れが、突然山から出てきました。
村人の半分以上が、オーガに食われてしまいました。
どうか、オーガを殲滅(仇なので)してください。
よろしくお願いいたします」
………という依頼書だった。
天使三人は、顔を歪めている。いや、ヴェルだけは平静さを止めているか。
依頼のオーガは、俺たちにとって難しい相手ではないが、群れというのは厄介だ。
「こういうケースは、親玉に「蛇」が憑いている可能性が高い。行くか?」
「当然です。雷鳴も経験値、欲しいでしょう?」
笑顔だが、目が笑っていないフリウ。
「「俺も当然行く」」
これで全員「行く」だな。
「どれどれ………往復で6日+滞在2日で8日×4人分×3食=96食だな」
みんなを見る、異議はないようだ。ではギルドの外に出て―――
「ごはん屋、カムヒア!」
すると、ギルドに続く坂道の下から
「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」と鼻歌が。
坂を上がって来たのは、もちろん「ごはん屋」である。
俺は手短に要件を告げる。ついでに―――
「なあごはん屋。天使達から疑問なんだが、この間の血はどうやって手に入れた?」
「やましいことはしておりませんぞぉ!辺境の、貧しい地帯に行くと、血が金で買えるのです。そういった顧客をこの星内外から買い入れておるのです」
胸を張る「ごはん屋」しかも飲用だとちゃんと告げているという。
俺も下手な血は飲めないので、了承済みの血液なら安心というものだった。
「血の質を上げるために、食事を恵んだりしてもおりますぞぉ!」
なるほど。
「さあさあ、完成いたしましたぞ!ごはんは特製お弁当袋の中に!」
「ああ、助かった」
俺はそう言って、「ごはん屋」に「1枚の銀貨」を渡す。
「ごはん屋」は手をフルフルさせて、いいのですかぁ!と聞いてきた。
何故ならその銀貨は、世界のどこかに沈没している海賊船にのみあるという、幻の銀貨だったからだ。「ごはん屋」は頬ずりして喜んでいる。
そりゃ、魔界で売ればひと財産になる代物だからな。
「これからもよろしくな、ごはん屋」
「勿論ですぞ!またの呼び出しをお待ちしております、でへへー」
そこからの行動は早かった………と言ってもミニバンに乗り込んだだけだが。
シフトは前回と一緒だ。
ちなみに今回の血は、鍛えられて健康な男の血だった。
うん、これはこれで………健康なのが好ポイントだな。
着く前に、全員にカプセル銃を配っておく。念のため、予備のカプセルも渡した。
「本体ではなく「蛇」を狙えばいいのですね?」
「そういうこと、あと、反動が凄いから肩を痛めるかもしれない」
まさか自分達の肩は大丈夫だと思っていそうな3人に「マジだぞ」と言い含めた。
今回は真面目に受け取ってくれたようだ。
被害のあった村のとなり村に着いた。
村の中央まで行くと、テント村ができていた。この季節だ、さぞ寒かろう。
車を降りて代表者を探す。中年で品のある男性(死んだ村長の息子)が手を挙げた。
話は依頼書の通りだった。
前触れもなく、
その後も村に居座っており、自分たちとしても仇討は勿論冬を過ごす前に―――テントでは凍死する―――家を取り戻したいそうだ。
今から討伐に向かう、と告げたら、生き残りの村人が土下座で
「どうかお願いします!」と言ってきた。よしてくれ。
最後に、オーガは何匹かと聞くと20ほどだと思う、と返事があった
ここから占拠された村までは3時間ほどだ。
♦♦♦
その村は、異様な光景だった。
血の飛び散った家の壁、座っていてもなお家々から頭が出ているオーガ。
………オーガ?
「なぁ、あれってオーガじゃなくて
「………そのようですね」
まあ、やる事は変わらない。
1人5体。ボスが混ざっていたら合図(ライトの呪文)を上げる事。
「いくぞ!」
俺の担当区画では、肉弾戦になった。
「教え:剛力10」「教え:頑健10」「教え:瞬足10」のゴールデンセットだ。
それで、1対1になるように誘導し、殴り殺していく。
拳は傷んだし、苦戦もしたが、ミッションコンプリートだ。
他の区画へ目をやると、ミシェルが向かった方向から『ライト』が出ている。
俺は慌てて、屋根を跳んでそちらに向かった。
到着すると、ひときわ大きな
「ミシェル!他の巨人は俺がやる!」
「ありがとう!」
すぐにフリウ達も駆けつけてきた。
フリウが俺の、ヴェルがミシェルのサポートに入った。
こちらが片付くのと相前後して、ボスも倒したようだ。
巨体が地面に倒れるズシンとした音、カプセル銃の発射音。
俺が振り向くと、両肩を押さえて座り込んだミシェルと、こと切れたボス・ジャイアントが見えた。近寄る俺とフリウ。
その時、各人の懐で、冒険者カードが不思議なメロディを奏でだした。
それぞれカードを取り出すと、レベルが「53Lv」になっていた。
全員で―――ミシェルは肩をかばいつつ―――ハイタッチ。
その後天使たちは、鎮魂歌を歌った。
♦♦♦
隣村のテント村に帰 り首尾を告げると、お祭り騒ぎとなった。
この村の人々も怯えていたらしく、家から出て来て、本格的に祭りに。
みんなでカードを見ると、やはり
それと、処分に困るだろう大きな死体は、処分(ギルドに提出するボスの頭以外は)してきたと告げると、経験値はさらに加速して上がったのだった。
「しかし雷鳴、本当に凄いね、あの銃の反動」
「ああ、そのせいで渡す相手によっては役立たずなんだ」
「それなら、自分で撃つのは覚悟が要りそうですね」
「俺はイケると思うが………」
「まあヴェルなら大丈夫かもな」
その後、俺達は本格的に祭りに引っ張り出され、楽しい時間を過ごしたのだった。
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