まずはこれから

第4話 エリュマントスの猪(フリューエル)

 10月も末。人界では紅葉というものが綺麗ですね。

 冒険者の依頼の途中、綺麗な所を見たら、写真に撮ろうと思っています。

 調査用の写真機ですが、別に 『コピー』して、手元に置いててもいいですよね。

 だって天界では、木々は万年青々としてますから………。


「しかし朝だというのに、夜や昼間よりは薄いですが、人が多いですね」

 人が多い所は苦手です。私は超強力な超能力者ですが、得意不得意があります。

 一番強い能力はテレパシーですが代償が。強すぎるのです。

 出来る限りシャットダウンしていても、この町中の心の声が私には聞こえます。


 さっきから横にいるヴェルの思考に寄り添って、守ってもらうように自分の心をヴェルの中に埋もれさせてもらいます。ヴェルの思考?それは惚れた相手ですから。

 ヴェルは自分の心を丸ごと読まれて大丈夫なのか?

 大丈夫。ちゃんと了承してくれています。ああ、シンプルな心に癒されます。

 悪口?1本芯が通っているのはいい事ですよ?


 まあそれはこの際置いといて。

 恋人か夫婦にしか見えない(腕を組んでいるうえ密着している)恰好で私たちは市を進みます。目的は2つ。まず朝ご飯を買う事。

 もう一つは私の部屋の洗面桶と、水がめ、水差しが金属なのです。

 全員のがそうなのですが、難色を示したのは私とミシェルでした。


 みんなの話し合いで、朝ごはんを調達するの者は6時に起きて買い出しに行く事になりました。皆7時には起きるので7時半には必要です。

 組は私とヴェル、雷鳴とミシェルです。今日は私たちの番ですね。

 ただ、自分の買い物をするので、4時に部屋を出てきました。


 まず、洗面器などを買うのにいい店………うん、見当がつきません。

 案内屋さんを頼みましょうか!

 入口で呼んでみると、13~14歳の少年が手を挙げながら出てきました。

 明るいオレンジの髪で、青い目の男の子です。

 長袖のシャツとジーンズ。ですが腰にオレンジの飾り布があり、綺麗です。


「俺、リーガイ。お姉さんたち最近来たんだろ?新婚さん?」

「ええ、最近冒険者として来ました。確かに最近結婚しましたよ、ねえ?」

「ああ、最近だな、フリウ」「ヴェル………いえ、あなた………」

「ごほんっ!仲が良いのと名前は分かったから」

「す、すみません」「悪い」


「何が欲しいんだい?」

「陶器か焼き物の洗面器と大きい水がめと水差しです。他に、地元の服―――あなたの飾り布と、それが似合う服も欲しいですね」

「フリウ?増えてないか?」

「普段天界では買い物なんてしませんからつい」

「女は買い物が好きだと聞いた事がある。お前もか」


 リーガイは、陶器、焼き物の店が集まっている一画に、案内してくれました。

 要望の物はこの辺りにしかない焼物で揃う、とリーガイは言います。

 明るいオレンジに、明るい青の釉薬。うん、珍しくていいですね

 そこで洗面器・水差し、水がめをすべて揃える事にしました。

 持って歩くと、ここから先が大変そうですね。

 自分の部屋の真ん中に『超能力:空間歪曲:テレポート』させておきましょう。


 リーガイは今度は、民族衣装の店に連れて行ってくれました。

 染め粉などが、他の地方にはない物なのだそうです。

 柄は地球テラのインドのものに、よく似た意匠ですね。


「ヴェル、お揃いの肩掛けにしませんか?

 動きやすいように肩から下げて、腰で固定する物がいいと思うんですが」

「………構わないが、選ぶのはやってくれ。俺は買い物は苦手だ」

 私は、色違いで同柄を選びました。私が青、ヴェルは赤。

 身につけてみたら意外と、ヴェルに似合いました。


 私は似合いますか?どヴェルに聞いたら「良いんじゃないか」の一言。

 男性って、みんなこうなのでしょうか?

 まあ確かに、冒険ではバトルスーツなのですからいいでしょう。


 さて最後に、リーガイに朝食をテイクアウトできる店を教えて貰います。

「野菜メインだと嬉しいのですが」

 そういうと、サラダバーを紹介されました。

「お肉(ローストビーフ)もあるし、ここで良いですか、ヴェル?」

「肉があるなら構わない」


そういうことなので、ヴェルと雷鳴には肉多めの野菜サラダ。私とミシェルには大盛りの野菜サラダ―――わかめとかもアリ―――にします。

リーガイ君に「また頼みます」と言い置いて、拠点に帰りました。


♦♦♦


朝ごはん―――好評―――を食べ終わったら、早速冒険者ギルドへ。

掲示板に所狭しと貼られた依頼書の中から、気になる物を選び出しました。


「エリュマントの猪」

 鉱山に出没している、巨大でブレスも吐くという猪だそうです。

 魔王がモンスターに向けて放った力が、宿っているものだろうと思われます。

 自分たちではどうにもならなかったそうで、鉱山に出現するので仕事―――生活が危ない。そういう理由でギルドに依頼を出したそうです。

 切実そう(感謝ポイントに期待)なので、これはどうでしょうか?


 みんなが回し読みをします。全員からOKが出ました。雷鳴からは

「全員に「蛇」対策の武器を渡すよ………とその前に。

 ヴェルは後衛は無理だから、前衛。

 もう1人の前衛は、強化がフリウより大きい俺が。

 フリウの武器は大きいから、中衛を任せたい。

 ミシェルは後衛だが接近戦もできるので、前衛が負傷した時の交代要員だな。

 それぞれのポジションはこれでいいだろうか?」

「ポジションは了解、で、対「蛇」の武器ってどんな武器ですか?」


「みんな一律一緒で、このカプセル銃だよ。

 まずは母体を弱らせて、たまらず「蛇」が出てきたところを

 この銃で撃つ事によって、カプセルに閉じ込められる。

 あ、カプセルは替えが複数あるから、遠慮なく撃って」

「要は、普段は馴染んだ武器で、弱らせて具現化してきたら銃か?」

「そういうことだね」


全員が納得したので、この時の為に手を入れていたミニバン(全員が乗れて、荷物を多く積む事が可能)に、古い年代に見えるよう外見に手を入れていたもを「箱」から出してくる。どうしたって注目はされるが………

「みんな、どうせ早く行ってあげたいと思ってるんだろ?居住性はバスの方がいいけど、オフロードを走るならこっちの方が上なんだ」


「気遣いすみません。その通りです。………そういえば保存食ってどうしますか。

 普段は気にしないもので、失念していました」

「大丈夫だ、姉ちゃんの異空間病院に食材を納入してる奴が頼みになる。

 おちゃめな食魔だけど、頼りになるよ」

「ではお願いします」


了承が得られたので、俺は亜空間収納から手のひらサイズの黒い石を取り出した。

石には黄色で食を〇で囲んだものが描いてある。

呼び出しの呪文は、石を握りしめて「カムヒア!」である。

もちろんこれはギルドの外に出てからやっている。どんな出て来方か知らなからな。


 果たしては、メリーポピンズのように、傘にぶら下がって舞い降り―――いや、舞い落ちか―――てきた。

 だぶだぶの真っ赤なローブを着ているが、手足は鱗に覆われている。

 鼻づらしか見えないので多分だが、リザードマンだろう。でかい尻尾もあるし。


「ふんふんふ~ん。私のごはんはよいごはん~愛と勇気と美味しさの~食べれば元気は100万倍~わたしのごはんはよいごはん~」

鼻歌と共に「ごはん屋」が降って来る。

「新規のお客様!このごはん屋、嬉しくてたまりませんぞぉ!」

そして揉み手をしながら「どのような注文ですかな?」と聞いてくる。


目的地は多分、車なら2日で着くだろうから、往復で4日+滞在期間も一応1日で考えると、5×4で20食分か。朝昼晩食べるので60食になるな。

「腐らない事前提に、60人分行けるか?」

「ごはん屋特製の、魔法の袋に入れてお渡ししますので、ご飯は常にホカホカ!

 腐ることはあり得ませぬ!お任せください、ですぞ!」


 ごはん屋は、背負っている黒い大袋―――黄色で食を〇で囲んだものが描いてある―――をごそごそとかき回して、中ぐらいの巾着に入れていく。

「ご要望のものは何かありますかな?」

「俺は血がいい」

「他のメンバーはサラダ多めで。肉が嫌いなわけではありません」

 ふむふむと言いながら巾着の中身を入れ替えたりする「ごはん屋」


「完成しましたぞ!」

 その声に、俺は魔界の「永久貨幣」というものを1枚、ごはん屋に渡す。

「おおお!これは永久貨幣!「ごはん屋」喜びの舞!」

 尻尾をフリフリ、お茶目な舞を披露する「ごはん屋」。やめてくれ。

 とりあえず、紅い袋をひったくって貰っておく。

「それでは!またの呼び出しをお待ちしております、てへへ」

 そう言って「ごはん屋」は帰って行った。


 ポカーンとしていた仲間に、弁当の用意はこれでいいなと聞いてみる。

「個性的な方ですね………まぁすぐにお弁当を用意できるのは凄いと思いますが」

「そ、そうですね。お弁当を楽しみに出発しましょう!」

「運転はどうする?俺は出来んぞ」

「俺もです」

「俺とフリウで、6時間交代でいいだろ。なんか、前の冒険を思い出すな………」


俺たちは、住民の好奇の視線を受けながら出発した。

結論、メシは非常にうまかった。

俺は勿論血だが、若い健康な処女の血だったので、実に美味だ。

フリウ達は、1日目とラベルが張られた弁当を渡すと、恐る恐る開けていた。

弁当は、野菜たっぷりのビーフン炒めで、食べた瞬間「美味しい!」と大好評。

メシの時間が楽しみになった瞬間だな。


♦♦♦


 目的の村に着いた。鉱山があるからか、結構住民が多い。300人ぐらいか?

 村長の家には、人に聞いたらすぐに分かった(車は村の外に置いて、装備は着込んである)ので、そちらに向かう。


 村長に話を聞いたが、依頼書以上の情報はほとんどない。

 唯一の情報は、魔王の呪いを受けた獣は例外なく巨大化・凶暴化するということぐらいだ。今回の「エリュマントスの猪(勝手に村ではそう呼ばれている)」もそう。

 あと、依頼書の確認をすると、ブレスは炎と氷の2種類で、背にある触手も攻撃してくるらしい。これは新事実である。


とりあえず、戦った人は居なかった事が分かった。

だが逃げるのが遅れた人は、無残に殺されてしまったという。

天使3人が黙祷を捧げていた。


 訳の分からない恐怖にかかり(多分、特殊能力の恐怖フィア―だな)皆逃げ出してしまったらしい。だが道案内は必要だ

できるだけ自衛できそうな人に頼み込んで鉱山に付いて来てもらった。


雨だったが、1日も早くという住民の雰囲気で、討伐は決行された。

鉱山に行くと「圧」を感じた。「蛇」の気配もする。

「いるぞ………」

「鉱夫さん、下がっておいてくださいね………」


果たして異貌の猪は現れた。

突撃を受けて、陣形が崩れてしまった。


 だがこれだけ大きければ、全員が前衛でも構わないだろう。

 ブレスは防御魔法(ガーディアンだからな)が得意なミシェルに任せる。

 触手は全員に届くので断ち切ると、新しいのがまた生えてくる。

「『中級無属性魔法:ウィークポイント』弱点は頭だ!」


 俺とフリウは左右で気を引き(当然ダメージも与えるが)ヴェルのサポートに入る。

 頭をかち割るならヴェルが1番適任だ。

 ミシェルはヴェルをブレスから守る構えである。


 だが思っていたよりこいつはタフな上、攻撃力もあった。

 手数のある触手(切り攻撃も仕掛けてくる)での攻撃で、全員が大小の傷を負った。

 正直依然戦った蜘蛛型ゾンビ(白と黒が聖女の周りで踊る旅、参照)並みに強い。

 俺たちは気を引き締め直した。


 自己回復能力がないのだけが救いだな。

 俺とフリウは足を狙って攻撃し続けていたが、ようやく猪が膝をついたのだ。

 これでヴェルが攻撃できるようになった。

 ブレスの回数も増えたが、それはミシェルが何とかしてくれているようだ。


 そして、ようやく。

 猪が弱り、ずるりと「蛇」が顕現する。頭無ヘッドレスしだ。

 ぶよぶよした白い芋虫が引き延ばされたような姿。

 多分、俺の他のみんなは(いや、俺もか)生理的に吐き気をもよおしているだろう。


 今回は、俺がカプセル銃の使い方見本を。みんなに見せるために使う。

 ドシュン!鈍い発射音と、とんでもない反動。腕が痛い。

 だが、カプセルは「蛇」を吸引して、封印した。

「下級一匹に勿体ないけど仕方ない」

 俺はそう言い、亜空間収納の一画―――それ専用に開けてある―――に封印した。


「鉱夫さん、確認できたか?倒したぞ」

「勿論です!ありがとうございました!」


 街に戻り、鉱夫が大声で触れ回る。みんな笑顔になり、町はお祭り騒ぎとなった。

 俺はみんなに、冒険者プレートを見るように言う。

 経験値が、猪の分としてついていた数値からさらに上がっていっているのだ。

 それは人々の喜びの声と共に加算されていっていた。


 こういう見返りがあるなら、俺としても「感謝される冒険」に付き合わされてもいいかもしれないな。

 

 宴会にもつれ込んだ騒ぎ―――村長さんの所で捕まった―――に巻き込まれながら、こっそりそう思ったのであった。

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