第3話 冒険の準備(雷鳴)
10月の朝(5時)だが、それにしても大分涼しい。
冒険都市リッケルトは北部の都市だが、今年の冬は寒いのだろうか?
実は俺は部屋に入ったものの、寝ていない。
すぐに起き出して、車を(錬金魔法の応用で)作っていた。
寝る時間は学園に入って大分矯正されたと思っていたのだが………
どう頑張っても、ヴァンパイアは夜の生き物なのである。
『教え:疑似人間:フルタイム』で、昼も活動可能にはしてあるけど。
仲間たちと活動時間が違うと冒険に行けないからな。
車の事だが、マニー商会が1本化してくれて良かった。
調子に乗って煩雑なルートを管理する羽目になり、仲間に迷惑がかかる可能性もあったんだ。喜ばれたからって調子に乗って考えなかった俺はダメだ。
まあ、結果オーライだ。
俺は出来上がった車―――ワーゲンバス、トラック、家庭向けの車を作っていた。
この星の技術でも見れば理解できるレベルのものだ。
これを未塗装のまま「箱」に放りこむ。後々売り込むためだ。
ワーゲンバスは、あの時約束した分は多分マニー商会が管理しているはず。
そうでなければ言ってくるだろう。ここは目立つし。
それと、冒険者カードには「次のレベルまでの経験点」と「累積経験点」があるのだが―――数値が変化したのだ。みんなのはどうか、まだ分からないが。
0のはずなのに、3点ほど増加していた。これはなんなんだろう?
俺は、商売の精霊:レニーを呼び出してみることにした。
今夜中の3時だが、精霊にはあまり関係ない。
レニーはどうも俺を気に入っているらしい、精霊の感情は何となくわかる。
そのためか、すぐ来てくれた。それとも暇だったのか?
「こんばんは!何かお困りですか?」
「うん、カードに少量、経験点が入ってて。何もしてないはずなんだけど………」
「ああ!それは誰かを喜ばせたんでしょう」
「へ?車の事でちょっと騒ぎがあったのと、懐中時計を記念に買ったりしたぐらいなんだけど、喜びの要素あるか?」
「私が見るに、懐中時計の細工師が喜んだのだと思います。これが正しければ全員が3ポイント持っている事になりますわ。見てきて差し上げます」
そう言うとレニーは、天井をすり抜けていく………
すぐに戻って来たレニーは「やはりそうでしたわ」
「はぁ。人が喜ぶと経験点が入るのか?」
「強い喜びで、大人数だったりすると結構バカになりませんのよ。
ですから冒険者は必然、礼儀正しくなったり親切になったりするんですわ」
仕事も人助けができる物とかが好まれるのです、とレニーは言う。
うへえ、それは昇天しないようにきっちり血を飲んでおかないとダメだな。
「助かったよ、何か気持ち悪くって」
「いつでもお呼びくださいな。ただ………たってのお願いがあります」
「うん?何?」
「あなた様は故郷では大富豪ではありませんか?」
「ああ………魔帝陛下を覗くと、魔界で1,2を争うと思うよ」
「ついて行かせてください!宝物庫番でもなんでもやりますから!」
「君がいいなら、連れて行くけど、いいんだね?魔界だよ」
「あなたの気配から推察はしておりましたが………それでもついて行きます」
「分かった!帰る時は一緒だ」
彼女はとても幸福そうな表情になった。ついてくるなら面倒は見よう。
それからちょっと自分の趣味の車を出し、作成にいそしむ。遠慮なしのテクノロジーを投入した車だ。レニーは見学している。
しばらくして懐中時計を見る。まだ5時だが………
「レニー、朝市は何時からだ?」
「眠らない市ですから、今も普通にやってますわよ?」
「マジで。『定命回帰』して朝飯を買っといてやろうと思うんだけど、お勧めは?」
「ご案内しますわ!」
連れて行かれたのは、大きな揚げパンの中に、具材をたっぷり詰め込んだもの。
ヴェルとかには良さそうだが、フリウが朝から食べられるか疑問だ。
「もうちょっと大人しいものは無い?」
「のびない物ですと、1番大人しいのは揚げ物を乗せたサラダになりますけど?」
「ああ、じゃあ、揚げパンとサラダ3つづつ。余っても誰か食べるだろ」
「定命回帰」中の俺は、結構食うしな。
帰ったら丁度?6時だった。みんなの起きだす気配がする。
「今日は拠点づくりと必需品の買い物だぞー」
そう言って、一人一人起こしていく。
寝起きはいい奴らなので、6時半には全員の応接間に揃っていた。
揚げ物を乗せたサラダはともかく、大きな揚げパンの中に、具材をたっぷり詰め込んだものは、肉が入っているので躊躇しているようだ。ヴェルは普通にかぶりついて「美味い」と言っているが。
「「人間が調理して捧げてきたものにお返しを渡して貰ってきた」もんだから問題ないだろ?法律上問題ないはずだぞ?肉は嫌いか?」
「いえ、それなら問題ありませんよ、構えてはしまいますがね」
フリウは、具材入り揚げパンを、ヴェルと半分こして食べている。
サラダはミシェルに好評だった「いい野菜使ってる」だそうだ。
両方とも好評で嬉しい限り。買い物に出て良かった。
「雷鳴君、あなた徹夜したんですか?」
というフリウの言葉に、ヴァンパイアの仕組みをあらためて話す。
『教え:疑似人間:フルタイム』を使っているし、時々血さえ補給出来たら俺は24時間動きっぱなしだと説明しておく。
それと、全員に、思いもよらなかった経験値の溜まり方を教える。
みんな歓迎なようだった、まあみんな天使だもんな。
「今日は家の改装と、家具選び、だな。重要なのは武器選びだ。故郷から持って来ることができなかったからな。後、遠出する時の弁当だが、時間停止の袋に弁当詰めて渡してくれるやつを知ってるから、後で紹介する」
「家の改装はマニー商会にまかせるって言うのでいいんだな、レニー?」
「はい、半刻もあれば到着するかと。車の要望書も抱えてきますね」
「まあ、そっちには分身を出すよ。だからみんな、こんな部屋がいいっていうのがあったらどんどん言って。物置になってる部屋はまだまだ余ってるんだしさ。
「おはようございます!マニー商会にございます!」
「待ってたよ、誰からいく?」
「壁を抜いて、2人部屋にできませんか?夫婦の寝室にしたいので。後防音もおねがいできます?壁と床、天井は、アンティーク調で、明る過ぎないように」
「お任せを」
専任と思しき魔法使いが、家の構造を変えていく。見事なものだ。
ちなみに、出る埃や家具、ゴミはお掃除ゴーレムにお任せだ。
次は俺。部屋が狭いので、少し大きくして貰う以外は、壁紙を黒くしたことぐらいだ。念のため、窓は塞ぎ、太陽の入らない部屋にしておいた。
最後はミシェルだ。彼は壁紙を天界の風景に近いのデザインにしてもらい、窓大きくして貰った以外何も要求しなかった。
後は、余ったスペースを使用人部屋にして、家に住み着くブラウニーたちに、いない間の掃除なんかをまかせることにした。この星のシステム上、事情を知ってる人が呼べないのだ。まあ、1階の車庫に分体もいるし、何とかなるだろ。
それでもスペースが余ったので、リビング―――落ち着ける居間に全部投入した。
さて、内装なんだが、レニーが呼んでくれたらしく、程なく現れた。
手には分厚いカタログ付きで。これは重そうだ。
俺はテーブルを複数用意し、飲み物なんかも出しておく。
フリウは基本的にヴェルの好みに合わせているらしく、意外と早く済んだ。
アンティークで重厚感のある部屋だ。
小さめサイズの冷蔵庫を注文していたが、あれはなんのためだろう?
決めたら即カタログから家具が飛び出してきて配置についたのは驚いた。
ちなみに俺は、寝心地とか気にせずに、必要品は全部黒に統一した。
後はミシェルだ。基本木製のものが好きなようだ。ラタンとか喜んでいた。
ミシェルも男なので、必要なものはさほど多くなかった。
ちなみにいらなくなった品は、低価格で引き取ってくれた。
こっちが払ってもいいぐらいなので助かる。
最後に居間を相談して決める。
暖炉を囲んで、思い思いに寛げる部屋にした。ロッキングチェアが人気だ。
真面目な作戦会議の時と夏は、とても上質なソファ(ベージュ。人をダメにする沈みっぷり)と大きなテーブル(ガラス)を出してくるという事で決まりだ
え?車の事はいいのか?
自立思考型の分身を置いてあるので気にしなくてもいいが………。
まず、各国メーカーに、基準となる汎用型を渡す。
これが作れるようになったらステップアップ。
車でのラリーやレースを視野に入れていく。
それに俺が花形として乗り込む。
集められる喜びの数値は相当なもんじゃないかな、っと。
うん、さすが俺の分体、これは時間をかけてもいいから実現したい。
よし、じゃあ、武器と防具を元笑めて市に出発だ!レニー、任せたぞ。
「なんか、レニーさんが雷鳴の部下っぽくなってない?」
「その通りですわ………………ということがあり彼の(お金の)虜になったんですの」
「雷鳴ってもしかして精霊に受けのいい体質?」
ミシェルがこっそり問いかけてくるのに、生命の精霊以外はなと返しておく。
死の精霊?当然相性ぶち上げだよ。
「皆様の武器と防具は何ですの?それによって案内するところも変わるかと」
「俺は何でも使える。刀とバックラー。予備にも1刀欲しいね」
「俺はカイザーナックルだ。両手ともな」
「私は無理ならいいのですが、中華包丁を剣のサイズにまで大きく、柄も長くしたようなものを。後ブレストプレートなどの軽い鎧があると良いですね」
「後は俺ですね、ロングソードにラージシールドです」
「了解です!それぞれを振り分けますね!」
それぞれ、行った先で色々あったようだが、ここでは割愛する。
武装は、完成したのだ。
何にせよ、準備は整った。
明日からは依頼を受けていくことにしよう!
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