第6話
私たちは期末テストという大きな壁を乗り越えて夏休みを迎えようとしている。ちなみに私のテスト結果はというと前回と同じように中の中と言ったところで、落ち込むことも舞い上がることもできなかった。
テストからの開放感からか、夏休みまでほんの数日だからか、はたまた高校生活で一番の花ともいえる文化祭の準備が本格的に始まるからなのか、皆生き生きとしていた。
「文化祭の係リーダーは活動日を報告してくださーい!」
文化祭実行委員が半ば叫ぶようにして言う。そうでもしない限りこのにぎやかな教室には伝わらないのだ。そんな、皆が好き勝手話し込んでいる中、春は真剣な表情でスマホのカレンダーとにらめっこしていた。
「陽ちゃん、この日なんだけど」
実は、私たち衣装係のリーダーというのが春なのである。じゃんけんで決めた結果。うすうす予想はしていたけれど、まさかあんなに弱いとは思わなかった。
でも、思っていたよりも春はリーダーに向いていると思う。全体を見ているし、真面目だし、グループの子ともコミュニケーションが取れているし。私の心配はどうやら杞憂に終わったらしい。
話し合いの結果、私たちはお化けの衣装を一から作るというのはかなり現実的でないので、クラスの人たちから古着を集めてそれをリメイクすることにした。そうすれば費用も抑えられるので一石二鳥なのだ。
「け、結構集まったね。」
夏休みに入って、すぐに準備に取り掛かろうと二人で学校に来てみた。すると教室の後ろに設置した古着入れにはあふれんばかりの衣服が積み上げられていた。みんな、そんなにいらない服をため込んでいるのだろうか。
「まあ、多くて困ることはないからいいんじゃない?」
じゃあ、早速始めよっか、と春が言った。
「よ、順調?」
数時間経った頃、秋田大成が部活のスポーツバッグを肩にかけてやってきた。額には健康的な汗がきらきらと光っており、今の今まで部活に精を出していたことがうかがえた。
「順調だけど、どうしたの?」
「ん、いや。教室涼しそうだから休みにきた。」
バレー部ってそんなんでいいのかな、と少し思う。言わないけど。
「ちょうどいいや。確か、お化け役だったよね?これちょっと試着してくれない?」
なんといっても彼は背が高い。彼が着ることができれば基本的に誰でも着られる。
「春、ちょっと今、手離せないから調整お願いしていい?」
「う、うん。」
少し緊張した春の声音。そういえば春と秋田大成が話しているところをほとんど見たことがない。っていうか、男子と話しているところを見たことがない。もしかして、苦手だったりするのだろうか。
やっぱ変わろうか?というセリフを吐き出そうとして振り返り、はっとして口から出かけていた言葉を飲み込んだ。
春の頬が、真っ赤だ。ドクン、と大きく胸が揺れる。春の、そのキラキラした瞳に映るっているのは、彼だった。これはただのクラスメイトの男子を見る目ではない。同時に、私の胸がずきりと痛んだ。見たくない、と反射的に思った。
……うそ、まさか。そんなこと
気づいてしまった思いに、動揺が隠せなかった。頬がかあっと熱くなっていく。
「っごめん、トイレ!」
私はたまらず、逃げ出していた。トイレに駆け込んで、どんどん急上昇していく鼓動を、呼吸を、気持ちを抑えるように胸をぎゅっと抑えた。それでも、一度爆発したらとどまることを知らないこの思いはついに、口から漏れ出した。
「秋田大成が、好きだ———」
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