配属先
翌日の朝、自室研究室にて、庄内と長良は向き合っていた。長良が両手で拳を作って肩を怒らせる様子を庄内が眺める。
「配属先を変えて欲しい?」
「はい。」
長良のいったことをおうむ返しに庄内が問い返すと、長良は大きくうなずいた。
「…なんで?」
「それは!」
「あーちょっと待ってね…はい、配属先変更の理由を簡潔に最低三つどうぞ。」
引き出しからなにかを取り出し、ペンをくるりと回してから構える。
それをみて、一旦勢いが削がれた長良が気を取り直し息を吸い込んだ。
「まず第一に何度俺が声をかけても、論文を読めとしか言わないじゃないですか。俺の同期はもうずっと先まで学んでるんですよ?二ヶ月間もこの配属じゃ置いてかれていくと思いました。」
「はい、次」
「第二に時に頼み事をされて研究室から離れても、それから庄内さんどっかいっちゃって、その日中はどこを探し歩いても会えませんでした。」
「最後に?」
庄内のテンポ良い声にムッときたのか、一段と長良は声を張り上げた。
「最後に、俺は庄内さんが憧れだったんです、」
「は、ちょっと待て長良」
「待ちません、こんな人だとは思わず絶望しました。何かというとロボットになりたいって言いまくってるじゃないですか、この施設の文句も言って、そんな人から学ぶことはないと思いました。」
大声で捲し立てた後、長良の怒らせていた肩が下がっていた。
「それが理由です。」
今度は消え入るように、ボソと呟いた。何なんだ、こいつ、と心の中でつぶやいてしまう。
「私が憧れ?人違いだろ。」
我ながら間抜けな声が出た。長良が力なく、しかしはっきりと首を振る。
「…そうか。」
すらすらと横に滑っていたペンを握り直し、数の間用紙を黙視した後また、続きを書いた。三文目はお陰で一行しかない。
「まあ、そんなものはどうでもいい。これを所長のところに持っていけ。あとはこっちが配属先に渡しておくから。あ、署名忘れるなよ。」
と、庄内が差し出したのは「配属先変更の場合」とかかれた一枚の紙だった。印鑑を探すのは面倒で、三つの理由欄と同じくペンで署名がされている。
「っわかりました。」
それを受け取るや否や長良は待ってましたと言わんばかりに庄内に背を向け、研究室から出て行った。
「配属先で頑張れよー」という庄内の気まぐれな一言はドアに阻まれる。
「やりすぎか?」
と何故か天井を見上げた庄内に君影の「何がです?」という音声を発する。
「理由を知りたいか?」
「いいえ。」
瞬き一つしないで返す君影の声は残酷にも長良の耳に届いていた。長良はやっぱり俺、嫌われてたんだなと唇を噛み締める。そんなこととは全く気づかずに庄内は続けた。
「あ、君影、ちょっとおつかい頼まれてくれない?」
声のトーンが僅かに変わったことを感じて、長良は所長室へとようやく歩き出した。
ロボットになりたい 捩花 @hana1013
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