葉の向こう

高岩 沙由

おちていく

 小さな頃、私がその場所をじっと見ていると母親にいつも言われた。


「この大きな葉から先に行ってはいけないよ。帰ってこれなくなるからね」


 幼心に恐怖心を覚えこくこくと頷いた。


 あれから15年経った。

 私は大学入学のため一旦は離れたこの町に帰ってきた。


 昔のことなど忘れていた私は気分転換のため、実家の近くにある森の中へと入る。


 ここは昔から変わらず、見渡すかぎりの白樺で、とても清々しい気持ちになる。


 ただ、足元は土がぬかるんでいて歩きづらい。


 それでも、気にせずにこの森の中の奥にある泉を目指してゆっくりと歩いていく。


「あっ」


 向かう途中、私はひさしぶりに見た光景に足が止まる。


 小さな頃、母親から行ってはいけないと言われていた場所。


 人が傘がわりにできそうな程の大きな葉がついた植物がそこだけ2つ生えており、その間からは真っ白な風景しか見えない。


 何かに引き寄せられるように私はふらふらとその植物に近づいていく。


『近づいてはいけないよ』


 そんな声が聞こえた気がした。けど、私はふらふらと植物に近づいていく。


『帰れなくなるよ』


 そこで私ははっとする。


 でも遅かった。


 目の前で誰かが笑っていたような気がするけど、私は何かに包まれたような感覚を覚えたまま、冥い世界に同化していった。

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葉の向こう 高岩 沙由 @umitonya

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