スケルトンライダー

狂フラフープ

episode 零



 戦化粧は闇夜に光る。

 削ぎ落した月灯精族ルナリスの耳冠を天日と月光に晒すこと十余日、目の違う臼で四度挽いて油脂で練り、薄く延ばして輪郭を縁取る。総身を巡る二対の疑回路ルーンに込められたクエリはただひとつ。見敵必殺サーチアンドデストロイ

 暗闇に自らの居場所を晒け出すも同義のその蛮行は、逆らう者は日が暮れぬうちに皆殺しにするという敵対者への宣言であり、闇夜に紛れて死線を越える同胞のための目眩ましでもある。

 全ての痕跡を入念に消しながら、四機よにん戦士メックウォリアーが四つの山を越えた。

 航法標識アストローギストの星占いが暴いた古い間道をいくつも乗り換え、道なき道、竜骨山脈タンカースパインの三の尾根を突っ切ると、山の下の大砦フォート・ムンドの裏手に抜ける。眼下に望む半獣人ワービークルどもの天幕オルド虫の巣ハイヴにも似た過密さでひしめき、軍勢の威容を視界の端まで滲ませていた。

 連中との間に些細ないさかいが生じたのは去る硫黄サルファの月の第四の週。明けて塩素クロロの抗争で、"戦士長フライングブル"・鞍斧ハンドラー半獣人ワービークルの首を二十と七つ挙げた。

 無論その敗北は七つの氏族を纏め上げ、広大な鉄野を統治する獣相のものどもトランスフォーマーの帝国にとって看過し得ざる屈辱であったに違いなく、塩素クロロの月第三週、"大侯テラサーン"・小蟹宮シャグニル率いる三千の遠征軍が一族の逗留地である笛啼ふえなきの峡谷に差し向けられた。

 つまるところ、数をたのみに服従を迫りに来たに過ぎない脅しの軍勢である。打ち破るは容易いが、たとえこれを追い返したところで、明くる月には十倍の軍勢が差し向けられる。

 故に殺す。

 酋長会マギはそう判断した。それが酋長会マギの下す唯一の判断である。

 狙う首はひとつ、音に聞こえし天歩荷大王キング・アショーカ

 成すべきは”四ツ脚装軌”族ワブルクロウラー・クラン大酋長ヘッドギア天歩荷アショーカ・”形状記憶シャプシフター”・半獣人ワービークルの暗殺であった。



 掩蔽壕あなぐら戦士メックウォリアーが戻った。

 偵察に出ていた夜糸紡ナイトスピナーは齢三百を数える老兵だが、足音はおろか板鳴りの音すら響かせはしない。羽のように地下に降りる老人に労いの視線を向けた鞍斧ハンドラーは続く報告に耳を傾ける。

「奴ばら、定刻通りに交代したぞ。歩哨みはり三機さんにん。見える範囲で他に敵影はない」

 肩を詰めても五機ごにん目が入らぬ大きさの地下壕の薄暗がりに、夜糸紡ナイトスピナーの紫黒の指が地図を描いた。

「出るぞ。手筈通りだ」

 鞍斧ハンドラーは短く答え、こちらに目を向ける。

 臓器に火を入れ、身じろぐと砂鉄すなが落ちた。

 無秩序に生成され張り巡る配管パイプの隙間、地下の仮宿ともこれでようやくおさらばだ。強化外骨格の戦士スケルトンメックウォリアー騒造者サウンドメイカー背掛金バックラッチに大鉈を担ぎ直して腰を上げた。

 難攻不落、天然の要害たる山の下の大砦フォート・ムンドの七重の守り、その半ばよりも奥深く、玉座に繋がる位置に明らかな警邏けいら上の瑕疵かしが存在するのは、この砦がかつて竜の巣穴であったことに起因する。念入りに塞がれたいくつかの巨大な抜け穴の中でも、この最も深く広い縦坑たてあなだけが、ここに竜が棲んでいた頃の姿を残していると伝えられる。

 砦の中枢部を晒す大穴を塞がぬのは、ひとえにその行為には意味がないと砦の誰もが思っているからであろう。

 竜骨山脈タンカースパインを抜けられる極少数の手勢で、遮るもののない山腹を駆け上がり地裂を飛び越して絶壁をじ登り、三つの見張り塔の三機さんにんの歩哨を一息に殺す。一連の全てを察知されることなく、歩哨が声を上げるより手早く静かにこなす。神ならざる身の上では到底成し得ない離れ業を、わざわざ警戒するほど連中も暇ではない。

 故に、やると決めれば障害はその神業ただひとつで済む。



 夜糸紡ナイトスピナーの先導で、見張り塔からの視界を遮る最後の起伏まで匍匐で進む。地形の際から頭を出すと限られた視界が開け、見渡す地裂の大きさがようやく実感できた。

 騒造者サウンドメイカーを除いた三機さんにんが、溶けるように深く息を吸う。

 崖っぷちまでがおおよそ二百歩。そこから向こう岸までは五十歩の距離。

 強化外骨格スケルトンの身体能力を以てすれば飛べぬ距離ではない。だが察知されずにとなれば話は別だ。

 それを成し遂げるのは、明確に機械ヒトならざる領域の異能。

 神代の力、失われた神との繋がりを呼び覚ます強化外骨格スケルトンのその秘奥を、神威サインと呼ぶ。

 戦士メックウォリアーが駆ける。

 音もなく跳ね飛ばされた偽装布が地に触れる前、戦士メックウォリアーは二百歩の距離を走り切り大穴に身を投げる。三柱の疾風が対岸に達し、そこで初めて音を発する。

 見張り塔の頂上の三機さんにんの歩哨が音に気付く。

 物は落ちるという自然の摂理を、戦士メックウォリアーはただ速度のみでねじ伏せて、足掛かりさえない絶壁を影すら置き去りに駆け登る。生中な高さでない塔を壁面の残痕だけ残して吹き抜け、音源を覗き込んだ三つの頸を三様に、頭が落ちぬ深さで斬り裂いた。

 その技前を美しいと思う。

 自らの嫉妬を醜いと感じる。

 後を追って見張り塔を登り、一仕事を終えた仲間と合流した。限界を超えた動きの反動でしばらく動きの鈍る皆の後詰が騒造者サウンドメイカーの仕事だ。反論も申立ての余地もなく、事前の取り決めでそう決まった。

 それが妥当な判断であることを騒造者サウンドメイカーが一番良く理解している。三機さんにんのやった同じことが、騒造者サウンドメイカーには出来はしない。

「また下らんことを考えとるな」

 息を整えている夜糸紡ナイトスピナーが、騒造者サウンドメイカーの胸中を見透かして言った。

神威サインの扱える他の誰でもなく、お前がこの一行に選ばれた。航法標識アストローギストサテラが選んだ。お前にしか出来ん仕事があるからだ」

「…………わかっている」

 夜糸紡ナイトスピナーの拳が伸びて、胸の装甲版を叩く。かん、と軽い音が胸の内に反響した。

「いずれお前にも、空隙を満たす何かが見つかる。その時にはお前はきっと過去のどの戦士メックウォリアーよりも強くなる。戦士メックウォリアーの中の戦士メックウォリアーに」

 強化外骨格スケルトンの胸や腹に、あるべきはずの中身はない。

 その空洞は、己の魂が宿る場所とされている。彼らは生まれつき魂の欠けた状態で産み落とされ、足りぬ魂を探して世界を渡り歩く。欠けた魂を何かに見出した時、初めて強化外骨格スケルトンは一人前の戦士メックウォリアーとなる。

 騒造者サウンドメイカー”半人前”ノーマンズ強化外骨格スケルトンの空洞は、一族でただ一機ひとり、未だ満たされないままだった。



 夜糸紡ナイトスピナー耄碌もうろく爺が懐に血酒オイルミードを隠し持っていたのがバレたのは丸一日前、よりにもよって敵陣があと一日に迫った竜骨山脈タンカースパインの山中でのことだった。

 悪戯いたずらを白状させられた悪童のごとく、夜糸紡ナイトスピナーが悪びれもせずその血酒オイルミードを飲み始めたのを見たとき、さしもの騒造者サウンドメイカーもその頭を叩き割ってやろうかと思った。

「阿呆かあんたは!?  死ぬ気か!!」

「あーうるさいのう。こちとら死ぬ気で来とるから飲むんじゃい。これが最後の一杯かもしれんのじゃぞ。好きに飲ませい」

 助け舟を求めて振り返った赤釘レッドレイジが、夜糸紡ナイトスピナーの言う通りだ、と言わんばかりに肩をすくめたのがまた腹立たしかった。

「そもそもこの山に入ってからというもの、ろくな楽しみもなく気の張り通しじゃぞ。過度な緊張は身体に毒、酒は薬だわい。ほれお主らも飲め」

 そんなもの飲んでる場合ではない。騒造者サウンドメイカーが断ったその盃を、当然鞍斧ハンドラーも拒否するものと思っていた。

「いや、ありがたく頂こう。珍しく夜糸紡ナイトスピナーの奢りだ」

 差し出された酒を、鞍斧ハンドラーはそう言って一気に飲み干した。

「……美味いな。どこの品だ?」

「さてな。前にどこぞの輸送脚ハーフフットから賭けで巻き上げた酒でな。やたら旨いもんでとっときにしたのだ」

 二杯目の酒が注がれ、鞍斧ハンドラーの眼がこちらを向く。

騒造者サウンドメイカー、お前も飲め」

 勧められて、仕方なく騒造者サウンドメイカーは盃を受け取った。

「ほれ、ぐいっといけ。男を見せろ。こういうのは勢いが肝心よ」

 言われるまま口元へ運び、意を決して騒造者サウンドメイカーは盃を傾ける。途端、焼けるような刺激が喉を襲った。口の中に広がる深い苦みと、その奥のやけに強い甘味。

「…………こんなもの、何が良いんだ」

「やれやれだ。この良さも分からん若僧が、戦場で死のうなど片腹痛いわ」

 呆れたように笑う夜糸紡ナイトスピナーに、赤釘レッドレイジまで笑っている。馬鹿馬鹿しさに座を抜けようとして、足がもつれて倒れ込みそうになる騒造者サウンドメイカー夜糸紡ナイトスピナーの腕が支えた。

 老人がからからと笑う。今日はもう休めと、まるで子供を寝かしつけるように、夜糸紡ナイトスピナーの手が天幕テントの隅に騒造者サウンドメイカーを寝かせ瞼を撫でる。

 年寄りの手だ。

 経年で元の色が残る場所もないほど変色し、けれど誰より軽やかに動く軽業師の指。

 幼い頃、何度この手を錆取りに磨かされたことだろう――そう考えて、違ったなと思い直す。昔話をせがみ、磨かせろとしつこく食い下がったのは自分の方だ。

 あの時と同じ手が、今も優しく頭を撫でている。

「たしかに我らは戦うために生み出された。だがな、それは戦い以外のために生きてはならんという意味ではない。なあ、お前にはまだ教えとらんことが山ほどあるぞ」

 昔、夜糸紡ナイトスピナーが手遊びに良く作ってくれた玩具の類を騒造者サウンドメイカーはすぐに失くした。

 酒のせいで妙なことを思い出す。

 嘘だ。本当はひとつも失くしてなどいない。すべて寝床の下の宝箱に仕舞い込んで、失くしてしまったと嘘を吐いた。何故って、嘘を吐くその度、新たな宝物を産み出してくれる魔法のような指こそ、騒造者サウンドメイカーは一番好きだったのだから。



 垂直に等しい勾配を下る。

 永遠に続くように思えた縦坑も、遠い穴底にとも篝灯かがりびが僅かずつ大きくなって、自分の機体からだから上に伸びる影が微かに見えるほどに近付いた。ここからは壁面の凹凸の影に身を隠しながら進む。

 頼りは杭と縄、夜糸紡ナイトスピナーの手際だけだ。硬い岩盤に杭を打ち込む。手早く、そして音もなく。羽のように飛び回りながら先導する老人の胸には真綿が詰まっている。

 だから夜糸紡ナイトスピナーの宿す魂は、真綿の形をしている。

 だから夜糸紡ナイトスピナーは、古い真綿のような男だ。

 優しい視線が一瞬だけこちらを向いて、再び繊細な手技へと向き直る。吊り下げられた四機よにんの男たちを支える頼りなく小さな杭に縄が重さを伝え小さく軋む。新たな杭を検めると、最後尾の鞍斧ハンドラーが一番上の杭を引き抜き、手渡しで夜糸紡ナイトスピナーまで繋いでゆく。鞍斧ハンドラーから騒造者サウンドメイカーへ、騒造者サウンドメイカーから赤釘レッドレイジへ。

 赤釘レッドレイジは口を開かず、最低限の動きで杭を受け取った。

 赤釘レッドレイジ鞍斧ハンドラーの義弟で、燃えるような赤錆をその腹に宿している。一族で最も深く短く、閃光のような神威サインつかう。寡黙で不撓、しかして戦場では誰よりも雄弁。そんな男をサテラが選んだのは至当な話だ。彼の牙は古王に届く。

 そして鞍斧ハンドラー。"戦士長フライングブル"・鞍斧ハンドラー

 もはや語るまでもないその勇名は無数の戦唄に語られて、連なる山脈を越え大河を遡り、海を越えて遥かに響く。 

 千の敵を屠り、万の軍を慄かせる真の練者ねれもの。その抱いた魂の形は羅針儀らしんぎ。指し示すは冥府。

 その男が今、針の指す先、地の底に向ける目がらんと輝き何かを睨んだ。

 どこかで扉でも開いたのか、山底の火に晒された温い空気がのそりとうごめいて、穴底に堆積した奇妙な何かを風が引き摺った。

「何かが来る。構えろ」

 遠吠えのような風鳴りに遅れて、塊のような上昇気流が何かを連れて登って来る。

 金属の薄片だ。手を伸ばして掴もうとすると、薄片はあっけなく崩れ落ち粉になる。ひどく軽く薄い。何かの役に立つようなものとは思えなかった。他の者も似たような感想らしく、もっとも長く生きた夜糸紡ナイトスピナーに視線が向くが、そちらも小さく肩を竦めた。 

「……分からんのう。星の声サテラは何と言っておる?」

「先程から返答がない。潜り過ぎたのだろう」

 星の光の届かない場所――例えば岩盤下の密室では航法標識アストローギストからの星の声サテラが聞こえないことがある。縦坑を随分降りた以上、この辺りが限界だったのかもしれない。

「何にせよ引き返す理由も、手段もない」

 赤釘レッドレイジの短い言葉が皆の総意だった。降下を再開し、縦坑を進む。風は止まず、やがてごうと渦巻き始めた。

 まるで穴の奥から誰かが呼んでいるようだ。そう思った瞬間、先頭の夜糸紡ナイトスピナーが手を振って合図した。

 穴底に誰かの影がある。まだ遠い。だが、その大きさは尋常ではない。

 天歩荷アショーカだろうか。

 その影が不意に動き、巨大な腕がこちらへ伸びる。

 鞍斧ハンドラーの合図で全員が杭と縄を捨て、岩壁を駆けた。落ちるより速く、蹴り足と重力の加速が相まってほんの数秒で強化外骨格スケルトンでさえ致命的な速度に達する。空中を舞う無数の薄片を掻き分け、拳大だった敵影はみるみる視界を埋める大きさになり、ついにその姿をはっきりと捉えた。

 二対四本の脚に支えられた、橋桁はしげたのような胴体。そこから生える多数の剛腕。

 多砲身質量投射機ヘカトンケイル

 巨人の瞳が騒造者サウンドメイカーたちを捉え、こちらを向いた砲口が雷光に光る。腕を伝い加速された岩塊は下から降る雨のように岩肌に突き刺さり破壊的な衝撃を生んだ。

 このままの速度での着地は確実な死を意味し、減速もまた死を意味していた。一撃必死の雨を搔い潜りながら、騒造者サウンドメイカーはただ前だけを見た。

 両側から避けられぬ死が迫るとき、強化外骨格の戦士スケルトンメックウォリアーの下す答えはいつもひとつ。

 死ぬのはお前だ。

 一秒先に己を殺す破局的な運動量は、敵対者の喉笛を喰い破る己の牙でもある。

 敵の死が己を生かす。それは唯一にして絶対の戦場の掟、数限りなく繰り返されて来た戦士メックウォリアーの営み。

 覚悟さえ決めれば、視界はぎらつき何もかもが見えた。

 岩塊は当たらない。何故なら敵は、騒造者サウンドメイカーがここから更に加速すると思っていないからだ。お前は怯え、震えて縮こまる命しか刈り取ることができない。死への恐れを勘定に入れるなら、俺はお前の殺意の遥か先に居る。

 迫る死に笑え。

 岩塊と頬擦りするように擦れ違い、馬鹿げた速度が彼我の距離を瞬く間に食い潰す。腕が次の岩塊を撃ち出そうと光る。もう遅い。巨人の腕のひとつに大鉈をぶつけた。砲身の派手な破砕と引き換えに跳ね返ってきた無茶苦茶な回転を、死の気配を、済んでのところで乗りこなす。速度が速すぎて視界などもう何の役にも立ちはしない。確信などない。得物を伝い来る感触だけを頼りに、戦士メックウォリアーの本能と戦場の勘が導き出す気配に全身全霊で喰らい付く。

 外せば死ぬ。当てて殺す。

 二本目の腕を二発目の斬打が叩き折り、それでも死なぬ落下速度が騒造者サウンドメイカーを亡き者にせんと地面と共に迫る。

 三本目。全身が軋み骨格フレームが悲鳴を上げる。大鉈が欠ける音がした。構わずそのまま力任せに巨人の胴体に最後の一撃を放つ。縦一筋に致命の亀裂を刻み終えた大鉈が抵抗を失い、騒造者サウンドメイカーは地面へ強かに叩き付けられた。

 一瞬意識が途切れ、跳ね起きた。身体は動く。死んではいない。生きている。

 見上げれば半身を裂かれた巨人は痙攣しながらよろめき、その瞳に赤釘レッドレイジの柱槍が突き立ち、鞍斧ハンドラーの両手斧が首を両断した。

 巨人が傾いで倒れ伏し、血飛沫オイルしぶきの遥か向こう、微かに星空が見えた。

 遅れてふわりと降り立った夜糸紡ナイトスピナーに助け起こされ、ようやく騒造者サウンドメイカーは立ち上がった。

 大穴の底、巨人の残骸が横たわるその奥に玉座へ続く古い回廊が口を開けている。



 航法標識アストロ―ギストが王殺しの一行に己の名を挙げたとき、騒造者サウンドメイカーの胸の内にはその言葉を当然と誇る自負と、信じられぬまま戸惑う心が相半ばにせめぎ合っていた。

 鞍斧ハンドラーが二十七機の半獣人ワービークルを屠った抗争の夜、鉄の灼ける臭いと共に風に乗って聞こえてきた戦歌は戦意高揚のためのそれではなく、戦に敗れた戦士メックウォリアーたちへの弔詞デフラグ。死者の霊を鎮めるためのものである。

 近隣から集まってきた戦坊主コーダーどもが遺骸で回路を井形に組んで思いきり電気を流し、赤熱する鉄骨で古いクエリを書きつけた護符を燃やす。技術屋シャーマンの年寄りが執り行う護摩行には魔を払い、死者を慰める効果があるという。だがその技術屋シャーマンたちも、数を減らし力を失くし、滅びの運命に呑まれつつある。かつて当たり前に交わされたというクエリを読み解ける者はもはや数える程にも居ない。いずれ死ぬ自分には、今葬られゆく彼らほどの慰めは得られることはないだろう。

 そう思っていたのだ。

 世界ははじめ完全で、穏やかに終わりへと向かっている。

 老人たちが羨ましかった。神の力を振るい、華々しい戦場で命を散らした者たちが、狂おしいほどに妬ましかった。神の時代は遠く過ぎ去り、鉄のものどもオートマキナはいまやかつての栄華を失いつつある。神遺物アーティファクトは失われ、滅んだ民は数知れず、氏族が新たに生まれることはない。強化外骨格スケルトンの振るう神の力もまた、弱まり続けているのだと思う。

 ここは神の去った黄昏の世界だ。

 かつてこの世界を創造した肉の神は、やがて倦怠と厭世の果てに自らに似せて作った鉄のものどもオートマキナに世界を委ね、いずこかへと去っていった。

 それから数千、あるいは万にも届こうかという歳月を経て、世界は今も剥がれ錆び朽ち果てていく。

 真の戦に散った真の戦士メックウォリアーには、去りし神の宴に座が与えられる。

 強化外骨格スケルトンの信じる教義では、彼らの魂は天上の楽土にて永遠の闘争を得るのだという。

 己にその機会が訪れることなどありはしないと半ば諦めていた。

 騒造者サウンドメイカーが産まれてこのかた数十年、戦歌に継がれるほどの大戦は一度も起きず、老いた戦士たちが語る言葉はどれもこれもが既に去り二度とは戻らぬ夢物語ばかり。

 それでも、もし、もしも。

 いつか、真なる戦の時が来たならば――。

 夢にまで請うたそのいつかは来た。

 古き王を殺す。紛うことなき真の戦だ。間違いなくそうだろう。

 ならば自分は真の戦士か?

 二度とは巡らぬ絶好の機を得て、胸の内には一抹の、いや、手指から溢れる程の不安がある。

 神威サインなしの立ち合いで騒造者サウンドメイカーに勝ち越せると断言できる者が鞍斧ハンドラーの他に何処にいる。居れば叩き伏せ誰が真の戦士かを思い知らせてやる。

 神威サインさえ無ければ。

 わかっている。全ての者が勝利のためにあらゆる手を尽くす戦場において、それが如何に虚しい遠吠えに過ぎぬか。戦場において神威サインを結び得るのはごく僅かな時間に過ぎず、それ以外の殆どにおいて、頼れるのは磨き上げた純粋な戦技のみである。その戦技において自分は鞍斧ハンドラーにも劣らない。そう息巻いたところで、塩素クロロの月の抗争で挙げた首級は鞍斧ハンドラーの半分にも満たない。

 王殺しの一行。指名の後のざわめきの意味。

 そのざわめきを塗り潰すように挙げた稽古の申し出に、いつものように鞍斧ハンドラーが真っ先に応じた。言葉はいらない。その迷いを消せと、鞍斧ハンドラーの手筋が語る。



 それは、王の間と呼ぶには余りにささやかな空間だった。

 篝灯かがりびの冷たい光は深い闇に遮られ、澱んだ空気に向かい壁が霞んでいた。何一つない無機質な地平を吹き溜まった灰と錆と土くれが微かに彩っている。

 しかし荒涼とした薄暗闇には、その玉座らしからぬ全てを差し置いて、玉座以外の呼び名はない。地下であることを疑うほどの、異常なまでに巨大な空間、その半ばをただ一機ひとりの王が満たしているが故に。

「……まるで棺桶じゃの」

 夜糸紡ナイトスピナーの呟きに、皆が黙って同意した。空と見紛う高屋根に、王はその身を縮こめ押し込んでいる。

 多砲身質量投射機ヘカトンケイルがまるで赤子に思えた。

 これほど大きな自動機械オートマキナが存在することを、騒造者サウンドメイカーは想像したことすらない。理外の巨体を支える十二の履帯。互いに釣り合う長い尾と首。地を喰らう回転顎。

 かつてこの山の下の大砦を築いた古の竜バケットホイールエクスカベーター

 神話を模したその巨体が身じろぎする。

「ほう。刃螺紋バラモンは死んだか」

 地の底から響くような重く低い大音声も、王にとっては囁き声だろう。前に出た鞍斧ハンドラーが、応じて声を張り上げる。

「我が名は"戦士長フライングブル"・鞍斧ハンドラー!! 天歩荷大王キング・アショーカ、貴公の首を貰い受けに来た!!」

わしの首を? その小枝でか? くははは! 面白いことを言う!」

 巨大な王のまなこが笑みに歪む。王が笑えば大地が揺れる。

「哀れな鼠共。航法標識アストローギスト小僧こむすめに何を吹き込まれて来た? 冥途の土産に教えてやろうか。星の声サテラが届かぬのは、儂が縦坑に撒いた呪物のせいよ。魔術経路を塞ぐあの薄片を欺瞞紙チャフと呼ぶ。小僧こむすめ飯事ままごととは違う真の退魔の業よ。安心するが良い。貴様等の縋る託宣は、貴様等の代わりに儂の耳が全て聞き届けてやったぞ」

 真偽は知る由もない。が、その嘲弄は伝わってくる。この古き王が呪術において並ぶ者のない航法標識アストローギストの更に上を行くとしたら――

 はったりだと断じる頭を、王の言葉は蚕食するように切り崩していく。我知らず後ろへとにじった自らの蹴り足に気付いて、騒造者サウンドメイカーは内心で己を叱咤する。怯えるな。気圧されるな。ここで退くことは、己のみならず仲間全員の死を意味する。

「歳を取ると独り言が増えていかんの。ああはなりとうないわい」

 言い聞かせるような夜糸紡ナイトスピナーの呟きに、騒造者サウンドメイカーは今度こそ恐怖を押し殺す。

「鏡を見て言え爺、十分鬱陶しいぞ」

「黙れ馬鹿者共。合図で仕掛ける」

 珍しく無駄口を叩く赤釘レッドレイジ夜糸紡ナイトスピナー共々鞍斧ハンドラーが釘を刺し、再び張り詰めた空気に迷いはなかった。

 鞍斧ハンドラーの号令一下、全員が一斉に動き出す。

 騒造者サウンドメイカー鞍斧ハンドラーが二手に分かれて先陣を切り、背後に控える赤釘レッドレイジが隙を窺う。そしてその更に後方、夜糸紡ナイトスピナーは視線を切り気配を殺して王の死角を目指す。

 天歩荷アショーカはその全てに一手一足で応えた。



 強化外骨格スケルトンの戦技の心髄は、その特異な重心制御にこそある。

 中空構造の強化外骨格スケルトンは見た目に比してはるかに軽く、それでいて打撃は重い。その要訣は重心を保ったまま偏った、中心は軽く末端は重い中空故の奇妙な重量配置にある。

 故に重心とは僅かな手足の動き、あるいは内臓コンポーネントの動きで腹の内を自由に動き回るものであり、足場のない空中での姿勢制御や軌道の捻じ曲げ、受け流しや打撃の虚実フェイントに至るまで、その全てを外から見えない秘匿された空洞内の重心移動でこなすことができる。自在かつ多彩に変化し幻惑する駆け引きの優位こそ強化外骨格スケルトンの無二の強みであり、その体現者である鞍斧ハンドラーの先駆けに天歩荷アショーカが応える。

 その運足は鈍重で稚拙。ただそのもたらす破壊の規模だけが想像を絶して余りある。範囲と質量という名の圧倒的な支配力が戦場を食い荒らし、攻防の可能性を根絶やしに攫って行く。

 児戯のように繰り出される致命の一撃。作戦を放り出し、戦型をかなぐり捨て、ただ生き残ることだけを相手に強いる先の先。

 まさしく王の一撃。その初動を見極め、騒造者サウンドメイカーは迷わず右へと跳んだ。選択肢は存在しない。

 そして逃げた先には、次の死が待ち構えている。

 天歩荷アショーカの尾が跳ねる。絶えることのない嵐のような蹂躙を薄氷を舞うように生き延び、万策を講じて反撃を紡ぐ非対称の戦。王が狙いを定める必要はない。裏を掻く必要はない。ただ真正面から叩き潰すだけで足りる。

 均衡が崩れる瞬間、強いて言えば運が悪かったという他ない。あるいは運に見放されるに至るまで手をこまねいたその未熟故か。

 崖っぷちで攻防を繰り返す限り、いずれ訪れるしわ寄せが夜糸紡ナイトスピナーに向かったとき、常に死角へと回り込もうとする夜糸紡ナイトスピナーの位置取りは、他の誰も尻を拭けない立ち位置だったというだけの話だ。

 利き腕が砕けて宙を舞う。

 騒造者サウンドメイカーの視線の先、変色した魔法の指が、ひしゃげ、千切れ、一本残らず失われる。中身の綿がこぼれ糸屑となって舞う。まるで粗雑に叩き付けられた玩具のように。

 退きはしない。夜糸紡ナイトスピナー戦士メックウォリアーだ。戦士メックウォリアーは退かない。

 騒造者サウンドメイカーも迷わない。信頼よりも反射で踏み込んだ。

 片腕になった老人が神威サインを結ぶ。右腕と共に吹き飛んだ得物の大段平おおだんびらを刹那で左腕に掴み直し、夜糸紡ナイトスピナーは鬼神のように王へ飛び掛かる。呼応するように鞍斧ハンドラー神威サインを放ち、ここまで常に一歩引いていた赤釘レッドレイジも前に出た。

 鞍斧ハンドラーが両手斧を切り返すたび、速過ぎる切先に裂けた空気が悲鳴のような音鳴りを上げて、蒸気の雲痕がのたくる蛇のように王の大腕を火花と共に食い散らかしながら加速する。

 夜糸紡ナイトスピナーが王の巨体の背を信じられない速度で切り刻み、けれどただひたすらにその大きさに阻まれて致命に届かない。

 否応なく引きずり込まれた終幕の裾、加速する乱戦の中で騒造者サウンドメイカーだけが後れを取っていた。もっと速くとどれだけ覚悟が踏み込んでも、動臓モーター電臓バッテリも喘ぐばかりに、血液オイルが熱を帯びて粘性を失う。滲み出た粘り気は代わりに時間へ纏わって見えた。

 ただ気持ちだけが急いて、明確な刻限が迫る中で王の一撃にまた自分だけが後退する。それを含めてなお、戦況はこちらに優勢だった。

 顎をかち上げた天歩荷アショーカの首元に一枚だけ、毛色の違う装甲ウロコがある。古傷の刻まれたそれは、かつて挑んだ誰かが斬り裂いたものなのだろう。

 赤釘レッドレイジが動いた。

 その魂は己が身を破滅させるほどの、強い強い憤怒の赤錆。一族で最も深い神威サインの使い手が駆ける。窺い続けた機の到来に、戦士メックウォリアーは一切の保身なく、その全霊で勝負を仕掛ける。

 

 そしてその瞬間、天歩荷アショーカは音もなく笑みを浮かべていた。

 もたげられた鎌首がクエリを紡ぐ。

『―――――――――』

 その言葉の意味を理解できるはずもない。

 その言葉のもたらす累の、理解を頭が拒んだ。

 王の首級に届くはずだった三機さんにんの刃が、その寸前、唐突に動きを止め、ただ蹂躙を待つ木偶のように身動きひとつなく硬直している。

 その光景に、騒造者サウンドメイカーは生まれて初めて戦場で足を止めた。脳髄が拒もうとする現実は、けれど冷徹に追い付いてくる。王の巨大な牙が襲い掛かってくる。

 言うまでもなく致命のその攻撃を、赤釘レッドレイジがまともに受けた。余波さえもが五体を刻み食い破ろうとする王の一撃に巻き込まれ、満身創痍の鞍斧ハンドラーと、倒れ伏して動かない夜糸紡ナイトスピナーを見た。


 叫ぶと同時に、騒造者サウンドメイカーは王の足下へと滑り込む。無謀と知りつつ、今にも息絶えそうな老人を見過ごしてでも王が次の標的を自分を選ぶ他、仲間が生き延びる道はなかった。

 渾身の打ち込みは僅かに王の骨肉を割く。騒造者サウンドメイカーは狂乱するように、あるいは縋るように王を斬り付ける。

 王を包む全身の装甲よろい板はもはや原型もないほど斬り刻まれ、その身は無数の刀傷と流血に彩られている。にも係わらず、戦士メックウォリアーの命運は燈火よりも容易く掻き消えようとしている。

 騒造者サウンドメイカーを弾き飛ばさんとする王の蹴り足を辛うじて避ける。身を翻しながら天歩荷アショーカを刻む。その刹那の間にも、王の追撃の手は容赦なく仲間たちの命を刈り取ろうとする。喰らい付き、必死に食い止める。もはやそれしかできずとも、騒造者サウンドメイカーが喰らい付く限り、戦士メックウォリアーは負けはしない。

 必ず戦士メックウォリアーたちは再び立ち上がる。立ち上がり、貴様の首を取る。

 盲信にも似た胸の内の狂奔が、唯一身体を突き動かしていた。

 斬り、躱し、また斬る。疲弊も恐怖も何もかも忘却し、死線を潜り抜けながら騒造者サウンドメイカーは王の喉笛に食らいつかんとした。その果てに、王の首筋の装甲よろいを牙が砕く。

 それが限界だった。

 力任せの連撃をより硬い部位に打ち込ませようとする天歩荷アショーカの誘導を見抜くだけの冷静さが騒造者サウンドメイカーにあるはずもなく、とうに限界を超えた大鉈が折れた。

 王の装甲よろいに噛み付いたまま真二つに折れた得物で、それでもなお殴りかかろうとする騒造者サウンドメイカーの無様な抵抗を、王の腕が呆気なく叩き伏せた。地面を跳ね、転がった先、死を覚悟した騒造者サウンドメイカーに留めの一撃は追ってこない。ようやく立て直した鞍斧ハンドラーが横合いから打ち掛かり、先ほどまでの騒造者サウンドメイカー同様に食い止めている。

 だがその動きは身体の傷では説明がつかぬほど精彩を欠いている。もはや鞍斧ハンドラーの身に何が起きたのかは明白だった。

 王はそのクエリを以て神威サインを喰らったのだ。

 強化外骨格スケルトンの秘奥が、夜糸紡ナイトスピナー赤釘レッドレイジ鞍斧ハンドラーが積み上げてきた研鑽の日々そのものが、たった一言で奪われた。

 それはこの世の理を根本から覆すような、まさしく神の所業。

 あまりに大きい。

 あまりにも強い。

 折れた剣の柄と一緒に闘志までも手放してしまった気さえする。

 一族最高の戦士メックウォリアーは僅か数合で襤褸切れのように喰い破られた。

 王がゆっくりと視線を巡らせる。

 その目がこちらを見ると同時、騒造者サウンドメイカーの背後から、回転しながら空中に弧を描き、煌めき、目の前に突き立つ一本の剣がある。夜糸紡ナイトスピナー大段平おおだんびらだ。

 その柄を掴んで引き抜いた。

 責務を果たせと刃が告げる。夜糸紡ナイトスピナーはまだ諦めていない。騒造者サウンドメイカーの牙が王に届くと、そう信じてくれている。

天歩荷大王キング・アショーカ! 騒造者サウンドメイカーの名をしかと魂に刻め!!」

 これが最後の一合だ。この後に活路はなく、死地もまたここで途絶える。

 避けられぬ死が迫るとき、強化外骨格の戦士スケルトンメックウォリアーの下す答えはいつもひとつ。

 ただ勝利のみがその先にある。

 そして騒造者サウンドメイカーは駆け出した。

 王の舌が再び大呪クエリを紡ぐ。


―――――――――ベリフィケイション


 その言葉の意味はやはり理解できない。

 けれどその響きは、呪いというよりも祝福に満ちたもののように聞こえた。

 とうに限界を超えたはずの身体が、まるで自分のものではないように動く。音は遠く、視界は昏く、四肢は熱を失っていく。それでも、身体の奥底から湧き上がる歓喜があった。

 大呪クエリと共に振るわれた王の腕が迫る。時間は幾重にも裂かれ、無限にも思える刹那、騒造者サウンドメイカーは己が悠々と王の懐に踏み込んでいることに気が付いた。手の内に刃。目の前に王の首。全てが静止し世界は色を取り戻す。

 その一瞬に、騒造者サウンドメイカーは確かに見た。

 王の首筋、斬り裂いた装甲ウロコの下に覗く、オイルの通わぬ何かを見た。マキナに非ざる、オイルとは似て非なる血潮に脈打つなにか。正体は知れず、だがそれこそが王の急所であると騒造者サウンドメイカーは直感する。刃は過つことなく、そのなにかを鎧う鉄骨ほねごとに斬り落とした。

 首を失くした巨体が轟然と崩れ落ちる。

 王の掠れた声が吼える。

 地に墜ち首だけになった王がなおも見下ろし触れるほどの距離で目が合った。

「――――おお、おお。そうか小僧こぞう。貴様は、貴様だけは伽藍洞か」

 その眼を染める驚愕と歓喜。異様なほどの喜悦。

 降り注ぎ辺りを染める生温い液体。オイルに非ざる赤い竜血に自身も染められながら、騒造者サウンドメイカーは戸惑いと放心で立ち尽くす。

 掠れた王の声が血に溺れせながら、それでも笑う。

「誰が仕組んだ。航法標識アストローギスト小僧こむすめではあるまい。去りし神々の因業、再臨の兆しか、あるいは滅びか。小僧こぞうよ、いや、戦士メックウォリアーよ。貴様か。貴様がそうか」


 もはや王の目からは光が失われつつあった。

 謎めいた言葉の連なりを読み解けずとも、その名で呼ばれ、騒造者サウンドメイカーが退くことはない。剣を強く握り、睨み返すように視線の前に身を晒した。

 王が笑む。

善哉よきかな運命さだめを望むならば、戦士メックウォリアーよ。全霊を以て貴様を呪おう。受け取るが良い、星霜を越えて継がれし三世さんぜ言祝ことほぎ、我が最期のまじないを」


 王が死ぬ。

 流れ出る命の残滓、赤き血潮を疑回路ルーンと成して、幾千年を生きた古き命がその終焉と引き換え、騒造者サウンドメイカーの伽藍の身の内に、まばゆい熱と光がクエリの焼印を刻む。



――旅路。

尽きせぬ艱難、

  果てなき闘争。天地あめつちはて

                     水の行く末より遠く、

                   其は

                                天の火の如き


                      無辺の誓願。

                我は汝、汝は我、  共に生き、共に死す者。

   転じ、変じ、

              尚も道行きは絶えることなく。


 征け。


     戦士メックウォリアーよ。



              呪われてあれ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スケルトンライダー 狂フラフープ @berserkhoop

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ