第9話 真相

 妹がわたしの体を欲しがる理由は分かりません。だって私はとっくにのですから。妹が死んだあと、あの男に散々おもちゃにされたあと、結局、死んでしまったのですから。


 窓が開かなかったのも、玄関の扉が開かなかったのも、わたしがそう望んだからでした。わたしが死と向き合うのが嫌で、石ころみたいな体になっても死を認めたくなくて、外界を拒んだからでした。その念は妹の力を上回っていて、あのように彼女の侵入をはばんだのでした。


 妹の死体の行方については、本人から聞きました。首からから上は、あの男の別荘で長らく保管され──でもあの男がうちに腐ってしまい──最後には地面に埋められたそうです。首から下は細断され、下水道に流され、骨すらも残っていないそうです。


 妹がわたしの体を欲しがる理由は分かりません。わたしは死んでいますし、死体は白骨化しています。そんなものでも欲しいのでしょうか?


 欲しいのでしょうね。ドロドロの妹の体に比べれば、わたしのはまだ綺麗です。


 それにしてもわたしの人生はなんなのでしょう。監禁されて、陵辱りょうじょくされて、殺されて、殺されたあとも監禁されて(半分はわたしの意思ですが)、そして最後には妹に体を奪われる。


 こうやっての存在になって、現世を彷徨さまようことになるなんて。一体、わたしがなにをしたというのでしょうか。



***



 ある日、男は言いました。「嘘でもいい、愛してると言え」と。


 その日、妹は答えました。「たとえお姉ちゃんがどんな目におうとも、その言葉だけは言えない。だったあたしは、未来永劫みらいえいごう、宇宙で一番あなたのことが大嫌いだから」


 男は妹のことを殴り始めました。男は自らの手がどれだけ傷つこうとも、妹のことを殴るのをめませんでした。妹が動かなくなっても、殴るのをめませんでした。


 しかし途中で男はなにかを思いついたように手をめ、言いました。わたしに言いました。


「お前が凛奈を殺せ。そしてお前が凛奈の代わりになれ。そうなればお前も共犯者だ。ここから出してやってもいい」


 わたしはその言葉を聞いて、妹の顔を殴り始めました。動かなくなっているけれど、まだ生きている妹の顔を殴り始めました。


「あは、ごめんなさい、凛奈。あははは、わたし助かるんだって。あなたを殺せば助かるんだって。あなたの代わりにセックスさせてあげれば助かるんですって。わたし助かりたい。死にたくない。おうちに帰りたい。ねえ、だから死んで。あは、あははは、あはははははははは、こんなことになるなんてね。今だから言うけど、わたし本当はね、あなたのことがずっと嫌いだった! 強くて頭が良くて格好良カッコイいあなたのことが大嫌いだった! あはははははははははははははは! まさかわたしがその凛奈の代わりになるなんてね! あはははははははははは! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!」


 わたしは叫びながら、彼女を殴り続けました。杏奈は凛奈を殴り続けました。姉は妹を殴り続けました。死ぬまで、殴り続けました。


 妹の変形した顔は、無言の悲鳴のようでした。流れた涙は、絶望が氾濫はんらんしたかのようでした。




【終わり】

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監禁、少女、頭蓋骨。 猫とホウキ @tsu9neko

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