浄化完了

 送琉が行き着いた先は洞穴であった。

 その最奥、大きく開けた場所に壊れた社のような物が見える。

 その前に立っていたのは狐のような耳と尻尾を持った女性。

 送琉に気付いたその女性は、妖艶な笑みを浮かべながらゆっくりと送るの方へと振り向く。


「くっくっく、愚か者がここまでたどり着きおった……ぐぇっ!?」


 送琉の拳が女性の頭頂部を正確に捉えた。

 変形してしまいそうなほどに大きくへこんだ女性の頭から、重たい音が洞穴に響き渡る。

 送琉は容赦しない。

 そのまま女性の頭を握り締め、片手で宙へと持ち上げる。


「貴様が元凶だな、安心しろ、さっさとあの世へ送ってやる」


 女性の抵抗を意にも介さず、送琉は社の方へと女性を投げ飛ばす。

 そして瞑想を始めた。


「わ、わらわは神であるぞ!?あの世へ送られたところですぐに舞い戻って……」


 女性の最期の言葉は、送琉の放った光の奔流に掻き消されて誰にも届かなかった。

 後にインタビューを受けた女性はこう語る。


「はい、確かにわらわはあの光であの世へ送られました、その時はまだ反抗するつもりはあったのですが……あの世には送琉さんに成仏させられた者専用の待機列があったんです」


 そう、送琉は仕事をしすぎなのだ。

 パンクしそうなほどに怨霊を送られたあの世は、送琉専用の待機列を設けて対策をしていた。

 神を名乗る女性もそこへ送られ、そこで衝撃的な出会いをしたのだという。


「先輩が、神としての先輩が死んだような顔で列に並んでいました……そこで折れたんですよね、心が」


 目から光が失われ頬のこけた女性が自嘲する。

 女性があの世へと送られた瞬間、辺りに漂っていた怨念は一切残らずに晴れ、太陽の光が校舎へと差し込んだ。

 地上へと戻った送琉は眩しさに目を細める。


「まだ、やるべきことがあるな……」


 気絶していた市の職員を背負いながら、送琉は歩き出す。

 これで終わりではない。

 荒廃してしまった場所は怨霊を引き寄せてしまう。

 被害をこれ以上出さないためには、復興することが大事なのだ。

 送琉のお祓いはここからが本番といっても過言ではないだろう。


「ようやく軌道に乗った、と言うべきか」

 

 あれから数ヶ月、送琉は復興事業に尽力していた。

 廃校の校舎は取り壊され、厳かな縁結び神社へと生まれ変わっていた。

 神として祭られているのは目から光が失われた狐耳の女性だ。

 宣伝を行っていないにも関わらずご利益があると噂が広まり、県内外から観光客が数多く訪れている。

 そして参道にはこれまた新進気鋭の老舗たちが軒を連ねて観光客を呼び込んでいた。

 その盛況ぶりたるや、さながら正月の成田山のような人だかりだ。

 もはやこの地を心霊スポットなどと思うものは居ないだろう。

 送琉は満足そうに頷いて、その場を去った。

 この世に怨霊がのさばる限り、送琉に安寧は訪れない。

 終わりの見えない戦いに送琉はまた身を投じるのだった。

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祓い屋、廃校へ行く アイアンたらばがに @gentauboa

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