第82話 式神
笑顔の晴明。神妙な面持ちの一行。
同じ場所にいるのに、こうも空気感って違うことがあるのだろうか。
それにこの緊張感のなさはもしかして?
そう思ったギルは楽し気に宙にふわふわと浮いている晴明に尋ねた。
「ちょっと待ってよ。さっきから他人事みたいに言ってるけど、晴明……キミは一緒に戦ってくれないの?」
「我? 今の我はダメなんだよね。〈
「……うわ出たよ、不殺の聖約。この時代にもあるのか」
「そうそう。我も助太刀したい気持ちは山々なんだけど今のままじゃ無理なんだ。だから、これからちょっと神と交渉してこないと」
そう言うと、晴明は宙に向かって扇で五芒星と呼ばれる星を描いた。すると、描いた星の中から、すぐに何かが飛び出してきた。しゅたっと着地を決めると、1つ「ふわぁ」とあくびをする。
そこにいたのは、ギルや晴明の髪色と同じ、銀色の毛並みが美しい狐。金色に輝く双眸とその周りにアイシャドウのように入ったピンクオレンジの隈取がまた妖艶さを増しているように見える。クロベエはその姿にただただ
「あのぉ、どうしたのこの狐は?」
「うん、この狐の姿をした者は次郎左衛門常吉。我は〈じろきち〉って呼んでるよ。ちなみに女の子だよ」
「じろきち……あ、名前はわかったけど……」
「そなたは意外と察しが悪いねぇ。この子は我の
ギルが晴明とじろきちを交互に見ていると、じろきちが声を出す。
「そういうことじゃ。面倒くさいが、晴明ちゃんの頼みならしょうがあるまい。皆の者、アチシの足は引っ張るでないぞ」
「これはまた、気の強そうな式神が来ちゃったもんだな……」
ギルがどうしたものかと思っていると、クロベエがギルの肩に飛び乗ってきたかと思ったらなぜかモジモジしている。
「あ、あの……ボクはクロベエ。よろしくね、じろきち」
「ふん、アチシはネコには興味がないのじゃ。気やすく話しかけないでくれぬかの」
(がーーーん!)
秒でノックアウトされるクロベエ。いい気味だけどちょっとだけ可哀想にも見える。
その様子を笑顔でしばらく見ていた晴明だが、何かを思いついた表情を浮かべると空中移動をしてムサネコの元へやってくる。
「んじゃムサシくん、あとは任せてもいいかな」
「ん? いや、ちゃんと説明してから行けって。お前が俺たちをここに呼び出したのって、結局何が目的だったんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 酒呑童子が〈人を鬼に変える秘術を完成させた〉らしいって。で、間もなくこの国は鬼に支配されるって話だよ。だからもう猶予はないから急ぐように伝えておこうって」
「〈人を鬼に変える秘術〉……だと?」
「そう。人がみんな鬼に変えられちゃうんだ。そうなる前に……酒呑童子を討たないとさすがに色々まずいでしょ」
晴明の顔にもどこか緊張感がうかがえた。
「それならかなり急がないとマズイじゃねぇか。俺たちは
「んにゃ、我の占術によると、このまま大江山に向かったらムサシくんたちは酒呑童子に皆殺しにされてお終いだね。だから、先に神仏の加護を得るために『
「お参りってお前……そんな悠長なことしているヒマがあんのか?」
「だってぇ、仕方ないじゃない。我の占い(
「……マシな結果ねぇ。わかった。この時代にはお前以上の占い師はいねぇからな。今はとにかくお前を信じるぜ」
「あぁ、頼んだよ。ムサシくん」
そう言うと、晴明は空高く舞い上がっていった。遠くで小さくなった姿から声がする。
「そなたら! 我もきっと後から駆け付ける! それまで死ぬな! 頑張れッ!」
ギルたちは空を見上げて「おぅ!」と声を出してそれに応えた。みんなの士気も高まっているようだ。
「あと、そこの精霊の小人は我が借りて行くよ。そやつの性根は叩き直す必要がありそうだからね」
そう言って扇をくいッと手前に動かすと、パウルの身体が宙に浮いて晴明の元へぐんぐんと引き寄せられていった。晴明の術で口もきけず動けないパウルはどうすることもできない。
「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!」
その姿を見て、誰もが思った。
パウル、今までありがとう、と。
晴明は大きく手を振って飛んでいった。小脇にパウルを抱えて。
「ねぇ、そう言えば、パウルってムサネコさんたちから離れちゃったらまずいんじゃなかったっけ?」
ギルが尋ねると、ムサネコは笑いながら言う。
「ガハハ、アレか? アレはあの小人があまりにもうるせぇから口から出まかせ言ってやったんだよ。だから別にどこへ行こうが問題ねぇ。気にすんな」
「あーあ、ひどい大人がいたもんだよ……」
ギルは少しだけパウルを気の毒に思った。
そうこうしている間にギル以外のメンバーもムサネコの元へと集う。
「じゃあ行くか、お前ら! まず目指すのは住吉明神だ」
ムサネコの声でまた気合いが入る。
ギルたちは次の目的地へと歩き出すのだった。
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