第78話 頼光四天王

「オイラはいつからお前の親衛隊になったんだぜぇ? お前はいつか倒すべき相手であって、そんなヤツから部下みたいな扱いを受けるのは納得いかないんだぜぇ」


 バイケンはムサネコに不満を漏らしていた。まぁ、SOSが来たから駆けつけたというのに、いきなり配下扱いされたら誰だってそう思うだろう。


「まぁそう言うな。別にお前らを部下だなんて思っちゃいねぇ。本来は本物の頼光四天王よりみつしてんのうと討伐に出る予定だったんだが、なぜか奴ら全員が鬼にさらわれちまってよ。で、さすがに困ったってことでお前にSOSを送ったんだわ。今度美味い飯でもおごるから頼まれてくれよ、な」


 憮然とした表情を浮かべながらバイケンはしぶしぶ了承した。ギルはバイケンが落ち着いたのを確認するとムサネコに尋ねる。


「あのさ、てことは、もう俺たちが頼光四天王に周りから見えているってことは、ここでの名前ってのも決まってるってこと?」


「お、なかなか鋭いじゃねぇか。もちろん決まってるぜ。じゃあ、まずはお前」


 ムサネコに指されたのはバイケン。


「オイラぁ?」


「あぁ、お前は〈碓井貞光うすいさだみつ〉だ。身の丈7尺(約2m)の大男。碓氷峠の大蛇を大鎌で退治したことでも有名な豪傑だ。心優しいヒューマンとしても知られている」


「ふ、ふ~ん。まぁ悪くはねぇじゃねぇかぁ」


 バイケンはまんざらでもなさそうだ。


「父上ー、ボクも四天王に入ってるの?」


「クロベエか。お前は〈坂田金時さかたのきんとき〉。金太郎って名前の方がこの世界じゃ有名だな」


「金太郎? その人は何をした人なの?」


「山育ちの怪力無双。山で熊と相撲を取ったりしてわんぱくな幼少期を過ごしてきたって話は有名だ。その実力を買われて、さっきの碓井貞光にスカウトされて四天王に入ったんだぜ」


「まぁ、ボクとはキャラが全然違うけど、実力がある人なんだね。それならまぁいいか」


 クロベエもまんざらでもなさそうだ。


「では、私は? 女の人は四天王にはいないですよね」


 ラヴィアンが少し不安げな顔で尋ねた。


「お嬢か。お前も四天王の1人だぜ。お前は〈卜部季武うらべのすえたけ〉。弓の名手で妖術を使ったとも言われる謎の多い人物だ。頭脳戦を得意としてることでも知られるからお嬢のイメージに割と近い人物だな。こいつは男だと思われているが、謎が多すぎて素性はほとんど知られてねぇから、実は女だったと言われても通じると思うぜ。たぶん、今のお嬢は他のヒューマンたちからは大人の女に見えているはずだ」


「へ、へぇ。特徴が弓使いとかハーフエルフの私とかぶるところもあるし、悪くないですね」


 ラヴィアンもまんざらでもなさそうだ。

 

「じゃあ俺は?」


 最後にギル。今までの流れからして、だいぶ期待しているようだ。


「ギル、お前は〈渡辺綱わたなべのつな〉。絶世のイケメンで、剣の達人だ。四天王のリーダー格と目される人物だな」


「えー、そんなイケメンだなんて――」


 ギルがまんざらでもない様子で口にしようとすると、クロベエがすかさず割り込んできた。


「プププ。なら、ギルとは全然特徴がかぶってないね。ギルなんてただのタレ目の小僧だし、剣なんて呪いのアビリティ〈武器制限ウエポンリミテーション〉がかかっていて、そもそも装備すらできないじゃないか」


「なんだとー! お前だって全然特徴がかぶってないじゃないか! 何だよ、怪力無双って。探索魔法しか使えないくせに。この最弱ステータスのヘタレ猫が!」


「なにをー! 呪いだらけのタレ目のくせにー!」


 ギルとクロベエのパンチが交錯する寸前で、もういちいち仲裁に入るのが面倒だと言わんばかりに二人はラヴィアンに頭をパシッと叩かれた。「……」と無言で大人しくなる。


「あのぅ親分。アッシはどうなんスか……?」


「ん? あぁ、小人か。お前まだいたんだ。お前は誰でもねぇな、完全に戦力外」


(がーーーん!)


「そ、そんな……いくらアッシがゴミカスでクソザコの役立たずだからって、それはあまりにもひどいっス! アッシにもなんかないんスか!? お願いっスよ、親分!」


「いや、そう言われてもな……。元々4人の予定だったから、お前は完全にあぶれてんだよ。たぶん誰からも見えてねぇんじゃねぇか?」


「勝手に連れてきて、それはあんまりっスよ!」


 それを聞いたバイケンは当然ブチ切れている。


「はぁ? 勝手についてきたのはテメェじゃねぇか! オイラはあの巨人族を――」


 バイケンはまだ根に持っているようだ。確かにヘイデンが来ていたら戦力的にはだいぶ上積みとなったことだろう。そんなパウルを見かねてか、クロベエが言う。


「まぁまぁ、そしたらパウルは例のアビリティを使ってまたモンスターでも映せばいいじゃない。できるでしょ?」


 クロベエが言っているのは、初めて会った時に祠でギルたちを追い払うために使ったパウルの所持アビリティ〈投影プロジェクション〉のことである。


「そりゃできなくはないっスけど……。でもモンスターは目立ちすぎるからやめておくっス。これならどうスか」


 そう言って、パウルはネズミをその場に投影した。


「なにこれ。美味そう……」


「食べちゃダメっスよ、クロベエの兄貴! これはハムスターっス。可愛いでしょ? とりあえず、周りから姿が見えないなら、このハムスターとしてアッシは皆さんについて行くっス」


(別に見えないならそれでいいんじゃ……。なんでわざわざ姿を見せたがるのかな。この精霊、意外と承認欲求が強いのか……)


 ギルは素直な感想を心の中で漏らしたが、本人がいいと言うのなら否定する必要もないかと、口に出すのはやめておいた。その時。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ! 鬼だァ! 鬼がお屋敷に現れたァァァァ!」


 突然、従者が叫びながら庭を逃げ回る姿が視界に飛び込んできた。

 

「クソ野郎が……どうしてこのタイミングで……」


 ムサネコが口にすると、屋敷の中から喰いちぎった従者の手足を持った鬼が一行の前に姿を現した。

 

「あれが……鬼……」


 身の丈は軽くギルの倍以上。3mほどはありそうだ。真っ青な素肌をさらした上半身に黒い袴姿。頭からは1本の角が生えているのが見えた。

 

「テメェ一人で来やがったのか。俺も随分とナメられたもんだぜ」


 そう言って、ムサネコは鬼の前に歩を進めて正対した。


「何やってんの! 俺たちも一緒に戦うって!」


 ギルが慌てて近寄るが、ムサネコは前足を広げてそれを制した。


「俺は今、猛烈に腹立ってんだ……。四天王がコイツら鬼にさらわれたってことは、この屋敷にいる武将は俺しかいないって知ってて鬼一人を送り込んできやがった。俺はナメられることが一番ムカつくんだよ」


「ムサネコさん……」


「それにギル。お前には俺がマジで戦ってる姿ってのを見せたことは無かったよな。なら、今からちょっとだけ俺の本気ってのを見せてやる。その目で見届けろ」


 その迫力に圧倒されて、他の誰も動けないでいた。

 

 ムサネコの言う通り、ここは見届けることしかできない。

 ギルはしっかりとうなづき目を開くのだった。

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