第62話 クロベエのアビリティ
「え? クロベエの兄さんのステータスっスか? でも、そもそも猫ってステータスが存在しているんスかね」
パウルは真っ当な発言をしていた。もしかしたら、今この中で一番の常識人は、この小人の精霊なのかもしれない。
「ふふふ……ボクって猫に見えるでしょ? でもね、実は猫じゃないんだ」
「え? どう見ても猫っスけど」
「実はね……ボクは妖怪なんだぞー! ガオーーーーッ!」
「……」
「……」
「……」
クロベエ渾身の自虐ネタにその場にいた全員が普通に引いた。てか、妖怪ってそんな吠え方するのか? 魔獣とかだろ、それは。
さすがのクロベエも盛大にすべったことに気づき、咳払いをしてから仕切り直した。
「コホン……いや、まぁ、でも、妖怪って言うのは本当みたいなんだ。実際こうやって喋れてるし、それにボクは探索魔法だって使えるんだよ」
「ほー、そうなんスね。なら、一応見てみるっスか」
そう言って、パウルはクロベエを背後から両手で持ち上げると、石板にそっと置いた。
「兄さん、じゃあそのまま動かないでくださいっス」
石板に両手(前足)をついたまま、じっと動かないクロベエ。その頭上に青い光の板が現れて、ステータスが記されていく。
―――――――――――――
氏名:クロベエ
生年月日:1009年4月1日
属性:??
レベル:2
【基本ステータス】
LP〈生命力〉:2
HP〈体力〉:5
MP〈精神力〉:12
物理攻撃力:7
物理守備力:4
属性魔法攻撃力:0
属性魔法守備力:0
力:7
知性:96
命中:105
会心:280
回避:16
素早さ:12
【固有アビリティ:所持数1】
①
【通常アビリティ:所持数3】
①魔法使用可能 探索魔法
②
③
【備考:存在そのものが消えるわけではないので、攻撃されればダメージは受ける】
―――――――――――――
アビリティを見るなり、ついさっきクロベエには絡まないと誓ったばかりのギルだが、(やっぱり無理!)とばかりに今までの蓄積された思いをクロベエに向かって吐き出した。
「おいこらー! 何だよ【
クロベエももちろん黙ってはいない。
「何をこのー! 自分だって呪いがモリモリじゃないかー!」
「ぐぬぬ……」
「むにに……」
二人の醜い争いはしばらく続いた。しびれを切らしたラヴィアンが仲介に入る。
「二人とも落ち着いてくださいー。確かに〈巻き込まれ体質〉は一見マイナスに思えるアビリティですが、モンスターを周囲に集めやすくなるので、上手く活用すれば経験値稼ぎがしやすくなるという利点も多少はあるのですよ。ほんとに多少ですけど」
ラヴィアンの説明にクロベエが思いっきり乗っかる。
「ほぅら見ろー。ラヴィはちゃんとわかってくれてるよねー。どっかの『呪いモリ男くん』とは違って」
「あ、いや、ほんとに多少なんですけ――」
「ぐぅ……言わせておけばこのクソ猫めー!」
ラヴィアンの発言を思いっきり無視してギルはクロベエに飛びかかる。ギルは荒ぶる度にどんどん口が悪くなっていくようである。
「二人ともいい加減にしなさーい! ギルは一旦落ち着いて! クロベエもあんまりギルを煽らないこと。いいですね?」
「はーい……」
二人にはこの時ラヴィアンが母のように見えたらしい。全員が落ち着いたのを確認してからラヴィアンが仕切り直す。
「残念ながらこの祠の石板では、【クラス】はわからないのですが、おそらくクロベエは〈妖怪?〉でしたっけ? クラスはそれであるのだと思います。それに関連してかはわかりませんが、1つだけ似たような存在さえ聞いたこともない、希有なアビリティを所持していますね」
「俺も思った。この〈
ギルとラヴィアンは顔を見合わせた。クロベエは言い合いを終えて一息ついたのか、我関せずと前足で顔を洗っている。
「でも、ここの最後のところ。〈
「そうですね。〈
「そうだね。あ、ラヴィ。念のため、クロベエのステータスも〈レコード〉で記録しておいてもらえるかな」
「ええ、わかりました」
ギルはクロベエのステータスを眺めながらサキソマとの戦闘を思い返していた。
(〈
そんなことを思いクロベエを見ると、パウルとふざけ合って遊んでいた。さっきラヴィアンに怒られたばかりだと言うのにこの猫は……。
一方のラヴィアンはクロベエのステータスをアビリティ〈冒険者サポート〉のスキル〈レコード〉で記録した。各自のステータス確認を終えて一息つく中で、過去の記憶がラヴィアンの胸中に去来する。
(それにしてもギルがその身に宿している呪いの数は凄いですね……。そっか、呪い……か。私には――)
1年前のことをふと思い出す。
ラヴィアンの胸の奥がズキンと痛んだ。
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