第61話 裏ステータス
石板の部屋は一層の緊張感に包まれていた。
裏ステータスって一体どんなものが書かれているのだろうか。
大きな不安と期待が入り混じる奇妙な気持ちの中にギルはいた。唾をゴクリと飲み込みパウルに言う。
「……じゃ、じゃあ、始めて」
「ラジャーっス。あいよっと」
緊張感のかけらもない様子でそう言うと、パウルは表ステータスが表示されている面の右下にある小さな丸をポチッと押した。
(何だよ、めちゃくちゃ簡単じゃん……。最初のあのバカみたいに長い詠唱とのギャップが凄すぎるんだけど……緊張して損したな)とギルは早速後悔した。
見ると、ステータスを映し出す青い光の板が、上からクリムゾンレッドの濃い赤へと次第に塗りつぶされていく。そこに浮かび上がる白字で書かれたステータスにギルの目は釘付けとなった。
―――――――――――――
【ステータス】
氏名:???
生年月日:???
属性:暗黒
レベル:??
【基本ステータス】
LP〈生命力〉:2
HP〈体力〉:22
MP〈精神力〉:55
物理攻撃力:101
物理守備力:6
属性攻撃力:254
属性守備力:2
力:101
知性:424
器用さ:28
命中:30
会心:161
回避:55
素早さ:62
【固有アビリティ:所持数3】
①
②
③
【通常アビリティ:所持数1】
①魔法使用可能 黒魔法(
【備考:
①条件成立時、魔人化可能。一定の使用回数を超えた場合、魔素が充填されるまで使用一切不可
②戦闘中、一定の発動量を超えると次回使用までチャージタイムが必要
③チャージタイムを無視して使用した場合、HP減少。HPが0になった場合は戦闘中と同じくLPマイナス1(LP1の時はHPが0になった時点で即死亡)
―――――――――――――
「うわぁ……」
誰からともなく声が漏れる。ギルの肩に乗り、ステータスを一通り見たクロベエが言う。
「これは……なんと言うか、【表】に比べてステータス全体から不気味さが漂ってない? 伏字になっているところも多いし」
ラヴィアンも続く。
「本当、随分と極端ですね。さっきの【表】が防御寄りで、こちらの【裏】が攻撃特化……みたいな。命中も他の項目と比べると低いですが0ではないですし。呪いのアビリティ【戦闘適性ゼロ】がこちらには付与されていないからでしょうか。あと気になるのはやっぱり――」
「……うん、備考欄だね」
ラヴィアンが言い終わる前にギルが口にした。それは、亡者の右腕の簡易版取扱説明書のように見える。何度もうなづくとギルは続けた。
「なるほど。前の戦闘で一定量を超えちゃってたから、チャージタイムが発動して暗黒属性に切り替わらなかったのか」
「備考欄と言えば、もう一つヤバそうなことが書いてあるね」
クロベエが前足で指していたのは最後の一文。ギルもうなづき、口にする。
「あぁ、普通に攻撃を喰らったのと同じ現象が身体に起こるってところだね。でも、これってだいぶざっくり書かれているよ。アバウトって言うか。【一定量】とか言われても、具体的にどれくらいか書いてもらわないとなぁ」
否定的な発言が多い二人にラヴィアンがため息交じりで告げる。
「二人して今ステータスに文句を言ったところでどうにもなりませんよ。それよりも、この【裏】にはもっと注目すべき点があるのです。ほら、ここを見てください。これも呪いのアビリティなのではないのでしょうか」
③
クロベエが堪えきれずに「ププッ」と吹いた。ダメだこの猫。人の呪いのアビリティを見て笑うなんて、神経腐ってんのかと疑いたくなってきた。
でも、クロベエは一旦さて置いても、これは実のところ相当厄介に見える。呪いのアビリティに対して耐性がついてきたのか、いちいち動じなくはなったけど、それでも武器が使えないと言うのは……非常に困る。一体どうすれば。
「にゃはははは!」
(……はぁ? とうとう笑い出したよこの猫。よし、いっぺん殴ろう。俺の亡者の右腕で)
ギルがそう思った時、クロベエはぴょんと石板に飛び移ると、振り返って言う。
「あー面白い。いや、これって同じじゃないかと思って」
「はぁ? 同じって何がさ?」
イラつくギルは言葉の端々が荒くなっていた。そんなギルの様子にはお構いなしでクロベエは返す。
「だからさ、バイケンと一緒じゃないか、鎌。ここには使えないって書いてないよ」
「か、カマぁ?」
確かに項目内に鎌の文字はどこにも書かれていない。
「よかったじゃないか。今度バイケンに会った時に使い方を教えてもらおうよ」
「ウソだろ……どこの世界に鎌を持った英雄がいるっていうんだ……」
がっくりとうなだれるギルを横目にクロベエがとどめを刺す。
「どう見ても悪者だよねぇ鎌使いなんて。ギルが目指しているのはひょっとして死神かな」
「……」
気分は完全敗北である。この時、しばらくクロベエには絡まないようにしようとギルはこっそりと心に誓った。
「ねぇ、ラヴィ。聞いた? クロベエがひどいこと言うんだよ」
ギルはラヴィアンに励ましの言葉を求めた。うつむいて何やら考え込んでいた様子のラヴィアンはギルの言葉に反応すると顔を上げ、ギルの目を見つめて言う。
「これは体術ですね」
「へ?」
「ギル、あなたはまず体術を覚えるのです。鎌だけじゃなく
ラヴィアンはさらに真剣な瞳でギルに訴えかける。さっきから黙っていたのはこのことを考えていたからだろう。しかし……だ。ギルは思ったことを素直に口にした。
「でもさ、拳鍔や爪なんて武器としてはマイナーだから記されていないだけかもしれないよ」
ギルとしては、別におかしなことは言っていないつもりであった。だが、ラヴィアンの反応は全く予期せぬもの。珍しく両目を三角にして語気を強める。
「もー! 体術で装備する武器はマイナーじゃありませんッ! 外に実際に使っている人がいますから!」
へ……外? 嫌な予感がする。
「あの、外の人って……一人しかいな――」
ギルの言葉を遮り、ラヴィアンは目を輝かせて声を上げる。
「よし、父さんに教えてもらいましょう! 体術を覚えたらギルの〈戦闘適性ゼロ〉だって解除できるかもしれませんし」
「う……!」
(ラヴィが気にかけてくれるのは素直にありがたい。でも、ヘイデンさんが俺に何かを教えてくれるなんてあり得ないだろ。だって、口を開けば『出て行け』としか言わない人だし……)
「ギルが羨ましいのです。私は体術の適正がないので父さんに稽古をつけてもらうことができませんから。これで進むべき道が定まりましたね」
ラヴィは博識で言葉も丁寧なのだが、こうと決めたら人の話を聞かない向こう見ずなところがあるんだよな、とギルは感じていた。ただ、それも良し悪しでもちろん
「これまでの俺への接し方を振り返れば、そう簡単に教えてくれるとは思えないんだけどなぁ」
ギルがしばらくぼやいていると、不意を突いて肩にクロベエが飛び乗ってきた。この猫、今度は何を言い出すのだろうと、身構えるギル。
「ねぇパウル、次はボクのステータスを見せてよ」
やっぱりとんでもないことを言い出した。
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