第60話 表ステータス
洞窟の中がひんやりして気持ちがいい。
さっきまでの蒸し風呂のような暑さからギルたちは解放されていた。ギルが内壁に放った氷結魔法アイスプリズム(ラヴィアンが風魔法で壁にぶつけた)がクーラーの役目を果たしていたためだ。これでベタつく肌を気にすることなく、ステータス確認に集中できる。
それにしても、またステータスを確認するまでに1時間くらいかかるのか。ギルが少し憂鬱な表情を浮かべると、それに気づいたパウルが声を掛けてくる。
「ダンナ、何をぼーっとしているんスか? 早く石板に手をかざすっス」
ちなみに、パウルの言う【ダンナ】はギルのことらしい。ラヴィアンはアネさん。クロベエは兄さんと呼ばれている。謎。
「え? でも、さっきはだいぶ時間がかかってたじゃない。もう見れるの?」
「そりゃあ見れますとも。一度詠唱で石板を開放してしまえば、数日間はすぐに見れる状態のままっスよ」
そうなのか。まぁ、それならありがたいけど、凄いのか凄くないのかよくわかんないな。
「わかった。じゃあ始めるね」
そう言って、ギルは石板に両手をかざす。いつものように青い光が浮かび上がり、上から順に白い文字でステータスが刻まれていく。
―――――――――――――
【ステータス】
氏名:ギルガメス・オルティア
生年月日:王国暦1003年11月30日生まれ
属性:聖 暗黒
レベル:5
【基本ステータス】
LP〈生命力〉:1
HP〈体力〉:22
MP〈精神力〉:55
物理攻撃力:33
物理守備力:38
属性攻撃力:54
属性守備力:102
力:33
知性:562
器用さ:31
命中:0
会心:0
回避:14
素早さ:25
【固有アビリティ:所持数3】
①戦闘適性ゼロ:物理攻撃、魔法攻撃、攻撃に関与する魔法攻撃(補助魔法、状態異常攻撃魔法・状態異常回復魔法)の命中0%
②
③
【通常アビリティ】
①魔法使用可能 黒魔法:火雷風 白魔法:回復
②ノーマルアジリティ:ごく一般的な身体能力で行動が可能
③スライムキラー:スライムにめちゃくちゃ嫌われており、スライムとの戦闘時、スライムが高確率で逃走する。スライムとの戦闘時、命中率3倍アップ。
【備考:運動発達障害疾患の改善傾向あり】
―――――――――――――
パウルを含めた4人でステータスをまじまじと見つめる。
「へぇ、これがギルのステータスですか。他の人のステータスなんて父さん以外は見る機会がないのでとても興味深いです」
ラヴィアンはレコードのアビリティでギルのステータスを記録すると、食い入るようにステータスを見つめる。その横でクロベエがあくびをしながら言う。
「ふわぁ、なんかラヴィのステータスに比べると地味だよね。固有アビリティも呪いばっかりだしさ」
「……」
(ほんと、この猫どうしよう。こんなに人の気持ちとか空気が読めないと、友達とかできないんじゃ……)
クロベエの心配をするギルの側で、ラヴィアンはぼそぼそと何かを口にしながら、何度もステータスを繰り返し見つめている。ふぅとため息を一つ吐くと、ギルに問いかけてきた。
「ねぇギル。あなたの攻撃がモンスターに当たらないのって、この〈命中0〉が原因なんですよね?」
「あ、うん。そうだけど」
「それは、この【戦闘適性ゼロ】と言うアビリティのせいですか?」
「そうだね。それがだいぶ厄介で、だから魔法で木を切り倒したり、岩を削ったり、水に雷を落として感電させたりっていう間接的なやり方じゃないと敵を倒せないんだよ」
ラヴィアンは納得の表情を浮かべる。ギルが旅の道中で、モンスター相手に互角以上に戦えるステータスを持ちながら大苦戦……と言うかほとんど何もできなかったことも腑に落ちるからだ。
「これ……何とかできないのでしょうか? アビリティをどうにかして解除できれば十分にモンスターとだって戦えそうなのに」
「それなら確か、『アビリティの解除なんて意外と簡単だよー。大体はアビリティの持つ性質と逆の行動を取り続ければ外れるよー』って言われたけど」
ギルはニンフに言われた言葉を思い出してラヴィアンに伝えた。ラヴィアンは(誰が言っていた言葉?)と一瞬思ったものの、そこは話の本筋ではないと思い直して言葉を飲み込んだ。
「……そうなのですか。しかし、具体的な方法が分からない以上、今のままではモンスターも満足に倒せませんし、呪いのアビリティの解除は難しそうな気がします。何か他に攻撃手段があれば解除条件をクリアする確率も上がるとは思うのですが」
それはギルも同感だった。暗黒属性に切り替えれば攻撃が当たることはわかっているものの、その原理もわからなければ、ここまでの旅の道中でも属性が切り替えられなかったりなど、とにかく不明な点が多すぎる。
いざ実戦となった時に発動ができるかわからないのでは、それは使えるとは言えない。どんな状況でも攻撃手段を持つことができれば、それは〈戦闘適性ゼロの解除〉への近道になると思えた。
ギルが思案に暮れていると、それまで黙って話を聞いていたパウルが声を掛けてきた。
「ねぇ、ギルのダンナ」
「え? あぁ、どうしたのパウル」
「あのー。ダンナのこれ、表みたいなんスけど」
「ん? おもて?」
「へい。ほとんどの個体は表ステータスだけなんスけど、ごく稀に裏がある個体も存在するんスよ。で、アッシ思ったんスけど、さっきのおっかない右腕。たぶん、あれが裏なんじゃないかと」
なるほど、【裏】か。もしそうだとすれば、そこには今まで知ることができなかった内容が記されているかもしれない。でも、裏なんてそんな簡単に見れるのだろうか。ここで頼りになるのはパウルだけだし、また変に刺激しないよう控え目に聞いてみるか。
「あのぉ、パウルさん。裏ステータスってここで見れたりしますかね……?」
「見れるっスよ。出すっスか?」
(スゲー簡単に言うじゃん!)とギルは思ったが、パウルが落ち着いている今がチャンスとばかりにパンッと両手を合わせて「じゃあお願い!」と伝える。
パウルはしっかりうなずくと、「よござんスか?」と言ってギルたちを見回した。
キンキンに冷えた石板の部屋で、ギルだけが額にじっとりと汗を浮かべていた。
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