第59話 ハーフエルフのステータス

 相変わらず蒸し暑い祠の中で石板を見つめるギルたち。

 話し合いの結果、まずはギルからステータスを確認することになった。


 ギルが石板に両手をかざす。ここからパッと石板の上に青い光の板が現れて、そこにステータスが白い文字で……ってあれ? 全然出てこない?


 石板の横ではパウルが汗をかきながら、必死に何やら詠唱を唱えていた。

 

「ねぇパウル。何やってるの? 早くステータス出してよ」


 ギルが言うと、パウルはしばらく無視して頑張って詠唱を続けていたものの、途中で詠唱を間違えてしまったらしく、「あ”ー!」と声を上げてやめてしまう。

 

「ちょっと、何なんスかアンタ! 何で詠唱の邪魔をするんスかぁ!?」


「え? だって、これってステッキを一振りすればステータスが表示されるんじゃないの?」


「はぁ? されるわけないでしょーが! 石板を目覚めさせるための詠唱を省略して表示させるなんて、それこそ四大精霊レベルにならないとできないっスよ」


「へー、そうなんだね。でもニンフは普通にやってたけどなぁ」


 ギルがぼそっと口にした一言で、パウルは固まり凍り付いた。


「ににににににににに……」


「? 突然どうしたのパウル? とうとうぶっ壊れた?」


「あ、アンタ……ににに……ニンフって、まさか……うう……ウンディーネ様のことっスか……」


「ウンディーネ? あぁ、確かキレネーさんがそんなこと言ってたような」


 ギルの言葉を聞くと、パウルは仰向けに派手に倒れると、口から泡を吹いて白目を剥いていた。なんだ、一体どうしたんだろ? 何かあるのかと思って周りを見渡すと今度はラヴィアンがブルブルと震えていた。


「きききききききき……」


 ん? 一体今度は何だ。


「……きききキレネーさんってもしかして、キルケー様のことですか?」


「キルケー? いや、そんな名前じゃなかったような……」


「なぁんだ、そうですか。変に緊張して損しました」


 何なんだろう一体。

 それから、しばらくしてパウルが目を覚ますと、そそくさと奥から水を持ってきて一気に飲み干し、ギルたちに言う。


「……さっきはちょっと驚いたっスけど、もう騙されないっスよ。ただのヒューマンにウンディーネ様のような精霊の頂点におられる方のお姿が見えるわけないんスからね」


(う~ん、何言ってるか全然わかんないな。まぁとにかく俺が邪魔したのが悪かったみたいだし、ここは大人しくして早くステータスを見せてもらおう)


 ギルは一言、「そうだね」と適当に相槌を打って、パウルに詠唱を再開するように促した。パウルは落ち着きを取り戻した様子で、目を閉じ詠唱を始める。


 それから、どれくらい時間が経っただろう。1時間以上は経過したはず。ギル、ラヴィアン、クロベエの全員はとっくに眠りに落ちて、いびきをかいて夢の中。何だか可哀そうなパウル。長い詠唱を終えると、パウルは寝ていた3人に声を掛けた。


「ふぅ。よっし、オッケーっス! さぁ、両手を石板に掲げてくだせぇっス」

 

 ラヴィアンはその言葉で「ん~」と言いながら目を覚ました。横を見るとギルはまだ眠っている。それなら先に見てしまおうと目をこすり、一度大きく伸びをしたあと両手を石板に掲げた。すぐに青い光が浮かび上がり、上から順に白い文字でステータスが刻まれていく。


 1分ほどですべてのステータスが刻まれると、ラヴィアンのあとで目が覚めたギル、クロベエも「ふわぁ……どれどれ?」と言いながらステータスを覗き込むように見入る。



―――――――――――――

【ステータス】

氏名:ラヴィアン・レイクス

生年月日:王国暦904年4月9日生まれ『次回から表示しない 〈YES〉 NO』

属性:風

レベル:7


【基本ステータス】

 LP〈生命力〉:2

 HP〈体力〉:19

 MP〈精神力〉:86

 物理攻撃力:22

 物理守備力:17

 属性攻撃力:65

 属性守備力:51

 力:8

 知性:491

 器用さ:230

 命中:81

 会心:34

 回避:149

 素早さ:93


【固有アビリティ:所持数2】

風の申し子リトルゼファー:風の精霊の加護を受け、風魔法の効果アップ。習得効率アップ

風の見習い薬士キュアゼファー:薬学系統のアビリティ取得確率アップ


【通常アビリティ:所持数10】

①魔法使用可能 黒魔法:火風水 白魔法:回復(治癒、状態異常、防御) 弱体化魔法:各ステータスダウン、状態異常ランダム付与

②遠距離攻撃適正有り:弓装備時攻撃力アップ

③近接攻撃適正無し

④見切り

⑤初級薬学:植物や薬品を合成して薬を生成することが可能

⑥エルフの飲み薬:薬効果大アップ

⑦アイテム効果アップ

自動浄化オートキュア

⑨女子力:家事全般が得意。特に裁縫の技術は特筆モノ

⑩冒険者サポート


【備考:】なし

―――――――――――――


 ギルが、ステータスを見て、まず思ったことを口にする。

 

「これは……年齢詐称だ……。ラヴィ……ほんとは100歳超えてるじゃないかー!」


 ギルが叫ぶと、ラヴィアンはギルの頭を後ろからぺチンと叩いた。

 

「こらー! 女の子に向かって『100歳超えてる』とか言わないでくださいー! エルフは100歳までは幼児期でほとんど成長しないからノーカウントなのです! 学校に通い出すのも100歳を過ぎてからなのです! もっと決定的なことを言えば、エルフの中でさえ、100歳までは省略していちいち数えないことになっているのです! だから私は誰が何と言おうと6歳なのです! はぁはぁはぁ……」


 冷静なラヴィアンがここまで取り乱すのは正直驚きだ。しかも、言っている内容がめちゃくちゃ強引だし。まぁ確かに、エルフの世界のことはよくわからないし、少なくとも見た目だけで言えば6歳と言われても納得の容姿をしているので、この場はこれ以上掘り下げない方が良さそうだと、ギルは無理やり自分を納得させた。


「へー。ラヴィって通常アビリティをたくさん所持してるんだね。個体によってアビリティの付き方ってこんなに違うんだ」


(お、たまにはいいタイミングで発言するじゃないかクロベエ。普段はロクなことを言わないけど)


ギルはクロベエの発言に乗っかることにする。


「本当だ。10も持ってる。これは全部条件クリアで入手したの?」


「そうですよ。でも、割とエルフ族ではどれも割と達成しやすい、スタンダードなステータスですね。〈女子力〉は旅をしていたらいつの間にか付いていました。他に特筆すべき点はないかもです……ね」


 ラヴィアンはそう言って、少し寂しそうな横顔を見せた。ギルはそんなラヴィアンが気になって、プラス面の項目をピックアップして元気づけようと思い、さらに質問を続けた。


「ラヴィってレベル7なんだね。あ、LP(生命力)が2じゃないか。これは最初から? それともレベルアップとかで2になったの?」


 ラヴィアンはかなり微妙な表情を浮かべて、とても言いづらそうに答えた。

 

「それは……エルフ族は年齢が……その……100を超えるごとに……LPが1増えるので……」


(やってしまった。やぶへびだーっ)とギルは己の質問を後悔した。完全に地雷を踏んでしまったようだ。なんとかその場を取り繕うと頑張ってみる。


「いや、ふぅん。そういうことなのか。いやー、勉強になるなぁ」


 めちゃくちゃ棒読み。逆に怪しい。ギルが狼狽ろうばいしているとクロベエがここでも口を挟んでくる。


「知性、器用さ、命中、回避、素早さが他と比べて随分高いんだねー。これもエルフの特徴?」


(クロベエ、お前今日どうした!? 発言のタイミングも内容も神がかってるじゃないか!)


「おそらくそうですね。ただ、器用さはエルフと言うよりも私独自の特徴のようですが」



 その後もクロベエの要所を抑えた発言もあって、ラヴィアンのステータス確認はひとまず無事に終了。ラヴィアンは浮かび上がるステータスに向けて左手をかざし、「レコード」と言い放つ。すると、ステータスが宙で小さくなっていったと思ったら、スッとラヴィアンの左手に吸い込まれていった。もちろんギルはすかさず質問。


「え? なに今の?」


「あぁ、これはアビリティ〈冒険者サポート〉の中のスキルです。いちいち全部記憶しなくても、こうやって取り込んでおけばいつでも引き出して見れますからね。とても便利なのです」


「へぇ、色んなアビリティがあるんだね。それ便利そうだし、どうやって取得したか今度教えてよ」


「もちろんいいですよ。ところで次はギルの番ですね。使えそうなアビリティがあれば私も教えてもらいますからね。楽しみです」


 ギルは、「任せて」と言って、親指をぐっと立てた。

 

(俺はどれくらい成長しているのだろう?)


 ステータスの確認前はいつだって緊張する。



☆☆☆

【アビリティとスキルについて】

今さらですが、このお話ではアビリティは各個体が所有する特殊能力のことで、例えば「黒魔法」などもアビリティになります。


一方スキルは、アビリティに含まれる技術や能力を指します。

例えば、「ファイア」と言う魔法は、黒魔法の中のスキルです。


この先、アビリティやスキルが出てきたら、「アビリティに含まれるのがスキル」とご認識いただけたらと思います。

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