第40話 妖怪の子
ギル、ニンフ、キレネーが到着したリドマン地区のメルビナの街。
山へと続く雑木林の前に大きく広がる空き地では、バイケンと骸蛇メンバーが交戦中であった。
クロベエは、ギルの到着にはまだ気づいていない。〈
ギルの目には、身体の長い動物と剣を振り回すヒューマンの戦いが月明かりの下に薄っすらと映し出されていた。
「何これ? 一体どうなってるの?」
暗闇の中で金属のぶつかる音が耳に届く。まだ夜は少し肌寒く、ピンと張り詰めた緊張感が辺りを覆い尽くす。ギルは目の前の分厚い闇に向かって声を上げた。
「クロベエーーっ! 来たよーっ! どこにいるのーー?」
「あのバカ! 敵に自分の位置を知らせてどうする!」
キレネーが言葉を発すると同時に、どこからともなくやってきた毛皮がぐるんとギルを包み、そのままクロベエの待つ木の上まで宙を舞って駆け上がっていった。バイケンはギルを木の上方にある太い枝に降ろすと声を掛ける。
「おいおい、危ねえぞぉ小僧。って、お前がギルだなぁ?」
ギルは青ざめた顔で「はぁはぁ」と息を切らしながらうんうんと頷く。目の前の身体の長い動物に助けられたのはわかった。しかし、彼は何者なのか。言葉を探していると、肩に(とん)と何かが乗っかってきた感覚があり、そこから声がする。
「ギル、この人はバイケン。ボクらの味方だよ」
「え? クロベエ? どこにい――」
(ちゅっ)
ギルが慌てて声のほうを向くと、透明状態のクロベエとキスをしてしまう。焦り、そしてなぜかちょっとドキドキしたクロベエはステルスが解除されて姿を現した。口を前足でぬぐいながらクロベエが言う。
「げほげほ……やめろよー。いきなり何をするんだよー」
ばつが悪くなったギルが慌てて「ごめんごめん」と謝罪。ちなみに、遠くで見ていたニンフはどこからともなくハンカチを出して、それを引きちぎれんばかりに噛み締めていたと言うことはキレネー以外誰も知らない。
「ごめんごめん。悪かったよ。透明になっているなんて知らなかったから。それよりも、今の状況を教えてくれないか」
ギルに頼まれたクロベエは一呼吸置いてから、今の状況についてバイケンの紹介と合わせて端的にギルに説明する。ちなみに、バイケンのことは呼び捨てで構わないと本人にもその場で言われたのでそれも了承。
一通りの説明を聞いた後、ギルはクロベエに尋ねた。
「あのさ、こんな時に聞くことじゃないと思うけど、クロベエって
突然褒められたことでクロベエは鼻を高くした。横からバイケンが腕組みをしたまま言う。
「まぁ、チビスケが賢いってのはオイラも異論はねぇが、別にそれほどおかしい話でもねぇぜぇ。だってこいつ、妖怪だしよぉ」
バイケンの言葉にクロベエもギルも目を丸くする。突然の予想外の言葉に、さっきまでの高揚感がウソのように、一転して泣きそうな表情に変わったクロベエ。
「は? ……え? ボクって妖怪なの……?」
「もちろんそうだぜぇ。てかオメー、もしかして知らなかったのかぁ」
「知らないよ! だって誰がどう見たってボクの見た目ってただの可愛い子猫じゃん!」
荒ぶるクロベエ。それをまぁまぁとなだめるように手で制し、ギルはバイケンに尋ねる。
「ねぇバイケン。クロベエって一体なんて妖怪なの?」
「う~ん、そこなんだよなぁ。親父がゴリゴリの猫又だったから、妖力の一部を引き継いだこいつもそれ以上のランクは確定だと思うんだが、もしかしたらぁ」
「もしかしたら?」
「いや……何でもねぇ。とりあえず猫又ってことにしとこうぜぇ」
ギルは、ムサネコが猫又だと明かしてくれた後、図書館の本で妖怪についても念入りに調べていた。猫又と言うのは確か、年を取ったネコが化けた姿で、尾が二本あるとかないとか。しれっとクロベエの尻尾を見てみる。
「あ、ほんとだ。よく見たら尻尾の先っちょが二本に分かれてるし、子猫だけどきっと猫又だね」
(ガーーーン!)
クロベエはギルがあっさりと言い放った言葉にショックを隠せない。
(ぼ、ボクは妖怪なのか……。今の今まではただの可愛い黒ネコだと思っていたのに……と。でも、よく考えればおかしなことも多かった。ただのネコがアビリティを覚えたりとか、魔法を使えたりとか、人と話せたりとかするわけないし)
クロベエが何とか気持ちを落ち着かせようとブツブツ言っている横でギルもふと思う。
(あれ、ムサネコさんが実は妖怪猫又だってことを俺はクロベエに話したっけ? でも、バイケンが知ってるってことはどこかで話したってことだよね。でも、言った記憶がないんだよなぁ。う~ん……)
二人が頭を抱えている中、バイケンがそのもやもやを振り払う仕草を見せて言う。
「あー、おめえらぁ。今は考えてる場合じゃねーだろぉ。とりあえず、今は敵を倒すことに集中しやがれぇ!」
その言葉にクロベエはハッとして我に返るが、ギルはこのタイミングで大事なことを思い出していた。
ギルは精霊と魔女の姿を思い浮かべ、一人ほくそ笑んでいた。
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