出版社、出帆者
バブみ道日丿宮組
お題:オレだよオレ、小説新人賞 制限時間:15分
ばーんという衝撃音と共に、社内に入ってきたのは小さな男の子。
「そろそろ本できた?」
皆が視線を送るが、理解してそうな顔をしてる人はいなかった。
迷子かなにかかと思い席をたち、男の子へと近づく。
身長差は90cmあるんじゃないかというくらい幼かった。親戚の子どもが小学1年生でこのくらいであるから、この男の子もそれぐらいなのだろうと思った。
「えっと、君迷子かなにかな? ここは大人の仕事場だよ?」
しゃがみ込み、目線を合わせる。
「知ってる。で、オレが頼んだ本できてる?」
どうやら、ここが出版社であるということは理解できてるようだ。
学校もいかないでどうしてここに? というか、警備員はどうしてこの子どもを通したのか。
「あの、ね。ここは出版社だけど、君みたいな子どもの本を作ったりはしてないよ」
他は知らないし、過去にあったかどうかもわからない。
けれど、子どもが私の会社で本を作るという話は聞いてない。
「あれ、おかしいな」
子どもは親指を口につけると、しばらく黙った。
どうしようかなと社内に目を向けるが、なんとかしてという視線がくるだけで援護はなさそうだった。
「姉ちゃんが大賞を取ったって聞いたんだけど」
「えっ?」
胸を触らえた。
「なんだ、男じゃないのか」
心の奥底で何かが焼けた気がした。
「あのね。君そろそろ出ていってくれるかな。邪魔なんだけど」
言葉が鋭くなってく。
迷子なのはいい。だが、私を男と間違うのは許せない。平らだけど、確かに女なのだ。
「そんな態度してていいの? 姉ちゃんが文句言っちゃうよ?」
いったい誰の弟だというのか。
「あー、そういえば、これ見せろっていってたか」
子どもはゴソゴソとポケットに手を突っ込むと、一枚の紙切れと、日頃から目にする入場許可証を取り出し見せつけてくる。
「これが姉ちゃんと、つうこうしょう? っていってたかな」
紙切れは写真で、そこには最近賞をとって、ミリオンセラーをしてる女性が写ってた。
「え……〇〇先生?」
「そうだよ」
社内がざわつく。
「姉ちゃんが本作るのについでに送っておいてくれるって言ってたんだけど? 今日が本できる日っていってたよ」
なる……ほどな。
わかってきた気がする。
○○先生の原稿に意味不明な似顔絵が差し込まれてたというのは、つまりは弟さんの絵が入ってたということなのか。
なんていう……身内騒動。
それを知らずとして、すでに本にしてしまった私たち。
冷や汗がでてきた。
「で、本はあるの?」
「あ、あります! そ、それで○○先生は?」
「姉ちゃんなら、会議室で待ってるよ」
入れた理由も、子どもがきた理由も、意味不明な絵もわかった。
まずはーー先生に会おう。
そこできちんと説明してもらう。
「じゃ、じゃぁいこっか」
「う、うん? いけば本あるの?」
かもねぇと苦笑いするしかなかった。
出版社、出帆者 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
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